■グーグル、「クロームキャスト」の発売
5月28日、米グーグル日本法人が家庭のテレビでインターネット動画などを視聴するための機器を発売しました。既存のテレビに取り付けるだけで、ユーチューブの動画や有料動画コンテンツをテレビの大画面で楽しめるようになるというデバイスです。家庭内の無線LAN経由でネットから動画を取り込み、テレビで再生するという仕組みのようです。私はこういうデバイスが欲しかったので、とても楽しみです。
■ニュース媒体として魅力のなくなった地上テレビ
いつごろからか、テレビをあまり見なくなってしまいました。たぶん、東日本大震災のころからでしょう。当時、テレビは人々を安心させるための情報だけを流していました。はたしてそうなのか、という不信感から、ユーチューブなどを見始めました。そこでは放射性物質に関する海外の情報、専門家の情報、現場からのナマ情報などが溢れていました。それこそ、求める情報でした。
テレビでは被災地の野菜を食べようキャンペーンをはっていましたが、ユーチューブなどでは専門家が放射性物質は消えてなくなることがないので、どのエリアの食品は危険だから、できるだけ食べないようにといっていました。
その後、当時のテレビが混乱を避けるために放射性物質の恐さを十分に伝えていなかったことがわかってきました。テレビのメインフレームは、地域や国や東電などを守るために人々に正確な情報を伝えていなかったのです。ですから、その時から、テレビはもはや「環境監視」の役割を果たしていないのではないかと思い始めたのです。
そういう目で改めてテレビ番組を見ると、ニュースなどの情報番組がワイドショー的な構成になってしまっています。キャスターが自分の意見をいいすぎますし、海外のニュースはよほど大きなニュースでなければ報道しません。これでは世の中の情勢が伝わらないのではないかと思ってしまいます。
■代替メディア
幸い、スマホに各国のニュースサイトをインストールすると、ニュースを見ることができます。言葉を理解できないことも多いのですが、映像はわかりますから、とりあえず映像でざっくりと理解し、詳細はインターネットでキーワード検索してテキストベースで理解するという方法を採るようになりました。
多様な情報を入手することができ、いつでもどこでも見られるという点で、スマホはとてもいいのですが、画面が小さいのが難点でした。ところが、今回、グーグルが発売した「クロームキャスト」を使うと、スマホの画面をテレビで見ることができるようになるというのです。そうなったら、テレビはどうなってしまうのでしょう。
■選択肢が少なく、多様性に乏しい地上テレビ
そもそも日本の地上テレビは選択肢が少なすぎます。NHK以外の民放が5チャンネルとMX、しかも、どの局も同じ時間帯では同じような番組を流しています。チャンネルが少ない上に、番組の多様性も乏しいのです。これではいくらテレビが好きな高齢者でも逃げてしまうでしょう。
母はもともとテレビが大好きだったのですが、最近は見るものがないと嘆いています。NHKの番組しか見なくなってしまいました。なぜNHKかというと、安心して見ることができるからというのです。それも限られた番組だけです。
■40代・50代もテレビ離れ
中高年世代のテレビ離れが始まっているようです。総務省情報通信政策研究所が4月15日に発表した速報によると、40代と50代の視聴時間の減少が顕著だったそうです。それぞれ前年に比べ40分も減少しているというのです。若者の間で起きていた現象がいよいよ40代・50代まで拡大してきたのでしょう。
詳細はこちら。http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140417_644844.html
この世代が高齢世代になるころにはテレビよりもインターネット、スマホが基幹メディアとして機能するようになっているのかもしれません。
■テレビを軸としたビジネスモデルの終焉か?
先日角川と提携して話題を呼んだdwangoの川上氏が2013年、アニメ制作会社のカラーの取締役に就任しました。その際、「今のテレビを軸としたアニメのビジネスモデルは崩壊しかかっていて、このままだと日本のアニメ業界は終わる」と嘆いていたといいます(井上理、『NIKKEI BUSINESS』 2014/5/26 )。テレビを視聴するヒトが少なくなれば、そういうことが派生的に起こってくるのです。
これまでは10代、20代でテレビ離れが顕著だといわれてきましたが、最近は中高年層まで離れつつあるといいます。そうすると、アニメに限らず、テレビを軸としたビジネスモデルも変容せざるをえなくなってくるでしょう。
■テレビ広告費
果たして、テレビの媒体価値は実際に減少しているのでしょうか。そこで、電通が2014年2月20日に発表したニュースリリースを見ると、2013年のテレビ広告費は前年比100.9%増で、マスコミ4媒体のうち、唯一増加しているようです。
テレビ離れが進んでいるといわれながら、まだ、広告費は増えているようです。つまり、テレビを見ているヒトはまだ圧倒的に多いということなのでしょう。一部でテレビ離れが進んでいるのかもしれませんが、すべての国民ということでいえば、テレビは依然として基幹メディアなのです。テレビという媒体自体、きわめて魅力があるからでしょう。
■いまこそ、媒体の素晴らしさに見合うコンテンツを
広告費の推移を見る限り、テレビは依然としてヒトを捉え続けているようです。ただ、番組内容がお粗末であったり、視聴者のニーズにそぐわなかったりするので、テレビ離れを招いているだけなのかもしれません。とすれば、まだヒトがテレビを見限っていないいまのうちに、番組内容の改善を図っていく必要があるのではないでしょうか。
いまこそ、テレビという媒体の素晴らしさに見合うだけのコンテンツの改善、そして充実を、と願わざるをえません。(2014/5/29 香取淳子)