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アリババ

アリババの選択:パソコンからスマホ時代到来の象徴か?

■中国アリババ、米株式市場への上場を申請

中国アリババが米株式市場への上場を申請しました。5月6日のことです。よほどのビッグニュースだったのでしょう。海外メディアが一斉に取り上げていました。CNN等の報道によると、アリババの上場は米史上最大級の新規株式公開(IPO)になると専門家からは見られているようです。アリババの実際の株式公開は今夏以降だとされていますが、2012年にIPOで資金調達したフェイスブックをしのぐとさえいわれています。

中国のネット企業としては4月にもウェイボがナスダックに上場して2億8600万ドルの資金を調達したばかりです。相次いで中国ネット企業が米株式市場に上場していますが、なにか理由があるのでしょうか。最近、中国経済失速のニュースが絶えません。しかも各地で不穏な動きもあります。信州大学教授の真壁昭夫氏は、中国や香港など中国市場で株式公開を行うと、中国の規制によって現経営陣の支配力が低下することを懸念したからだと推察しています。

■ウォール街の興奮

ウォールストリートジャーナルは、「アリババの新規株式公開(IPO)によって米国はテクノロジー企業の上場先としての支配的な地位を占めるだろう」とアナリストが非公式に語ったことを伝えています。(THE WALL STREET JOURNAL, 2014/3/25) アリババの業績が堅調で、ビジネスモデルも確立した大企業だからです。この記事を書いたFrancesco Guerreraは、アリババやウェイボが米株式市場に上場を申請したことの理由を以下のように分析しています。

1.専門的投資亜やアナリストに加え、競合企業の大半がいる米市場には魅力がある、2.米国の技術は魅力的で、新規上場によって費やしたコスト以上の結果が得られる、等々です。中国のネット企業にとって米市場はその種の魅力があるのでしょうし、米市場にとって中国ネット企業の参入は規模の面で、興奮せざるを得ないほどの魅力があるのでしょう。

ちなみにロイターは以下のように、ネット関連企業の対比をグラフにしています。

ネット企業比較

 

出所:2014/5/5、ロイター作成

上記のグラフを見ると、アリババは売上高成長率、株価売上高倍率できわめて高い比率を示しています。このグラフを見る限り、アリババは今後ますます大きく成長していくことが予測されます。

■米ヤフーとの決別か?

日経産業新聞(2014/5/8付)は、この件について興味深い記事を載せています。上海の菅原透記者によるもので、彼は「待望の米上場に踏み切った裏には、発展期を支えた大株主の米ヤフーとの関係を事実上、断ち切る狙いがある」と分析しているのです。実際、アリババ関係者は「過去との決別」と語っているようです。アリババは2005年にヤフーから10億ドルの出資を得て、大きく成長しました。ところが、2011年ごろから両者の関係がまずくなったといいます。

アリババの創業者のジャック・マー氏、ヤフーの共同総合者のジェリー・ヤン氏、ソフトバンクの孫正義氏は創業以来、親交深く、ともに支えあいながら成長してきた起業家たちです。この三者はお互いに支えあってきましたが、ヤン氏が2009年にヤフーを退任した時点で、アリババと米ヤフーとの関係は終わっていたと関係者は語っているようです。アリババの米上場の報道に際し、孫正義氏が、「アリババは戦略的パートナー」といい「株式の売却は考えない」と語った(ロイター、2014/5/7)のも実はそのあたりの事情を配慮したからなのでしょう。

菅原記者は、アリババが米ヤフーと決別を狙っている理由として、アリババグループが2004年に設立したオンライン決済会社のアリペイの存在を挙げています。アリペイがマー氏が所有する中国企業に売却され、マー氏の所有になっていたことを米ヤフーが怒りました。アリババのマー氏はヤフーに間接的に収益の一部が渡るようにして折り合いをつけましたが、ヤン氏の退任を機に決別を企図したというのです。

■ネット時代の変化の兆しか?

米ヤフーは業績悪化に苦しんできました。たとえば、今年1月28日に発表された決算を見ると、4四半期連続の減収でした。オンラインディスプレイ広告と検索広告の料金が下がったからだといいます(ロイター、2014/1/28)。ところが、4月16日発表された決算をみると、アリババの好業績の影響を受けて、収益を向上させているようです。

詳細はこちら。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N43A0P6KLVS101.html

とはいえ、中核事業は依然として停滞しているようです。

詳細はこちら。http://japan.cnet.com/news/business/35046618/

検索大手として一時代を築いたヤフーに変化の兆しが見られるようになりました。ネットへの入り口がパソコンではなく、スマホに代表されるモバイル端末に移りつつあるからでしょう。ですから、アリババにとって、ソフトバンクはこれからも提携価値がありますが、検索だけの米ヤフーはその役割を終えつつあるとみなしたのかもしれません。

一方、アリババは4月28日、中国の動画配信サイト最大手の優酷土豆に出資すると発表しました。これでアリババの出資比率は16.5%になります(日経新聞、2014/4/29)。これによってアリババは自社のネット通販利用者の囲い込みを行い、娯楽事業を強化することになります。

アリババの最近の動きを見ると、ネットの主戦場がモバイル端末であり、ネット通販であり、動画サイトを通した娯楽だということになります。今後、アリババの動きも見逃すことができなくなりそうです。(2014/5/15 香取淳子)