■iphone6sを購入したiPad組み込み装置
9月25日、iphone6s、iphone6s plusが売り出されました。なんと三日間で1300万台も売れたそうです。過去最高の販売数だと各種メディアが伝えていますが、どれも似たような記事でした。そんな中、私が興味深く思ったのが、AFP=時事通信の記事で、シドニーでは女性がiPadを組み込んだ装置を行列に並ばせ、最新のiphone6sを買わせたという内容のものです。
なぜ、そんなことができたのでしょうか。
記事によると、iPhone 6s、iPhone 6s Plus発売の27時間前に、オーストラリア・シドニーのルーシー・ケリーさんは、iPadを電動立ち乗り二輪車のような機材に取り付け、アップルの店舗前に置いたそうです。下にその写真を載せました。これを見ると、ipadはカメラを取りつける三脚の上に装着されているように見えますが、実際に取り付けられていたのは二輪車です。だから、ヒトと同じように移動できるのでしょう。そのiPadの画面にはルーシーさんの顔が映し出され、そこからルーシーさんの声も聞こえてきたそうです。
こちら →
http://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/500×400/img_efc0ba799e975ba979031ac9cda7ec2c193757.jpg
AFP=時事通信の記事より。
この装置はルーシーさんの代わりに他の客たちと一緒に行列に並び、現地時間25日午前8時の開店時刻になると、一番乗りの一団に加わってエレベーターで上の階に移動したといいます。そして、自分の番になると、iPadの画面上のケリーさんがあらかじめ装置に挟んでおいたクレジットカードを使うようアップルの店員に伝え、購入手続きを取ったのだそうです。
iPadと二輪車を組み合わせた装置が、職場にいるルーシーさんの代わりに行列に並び、購入手続きを取りました。まるでロボットのような働きをしたのです。ユーザーがモバイル端末iPadの機能を活用し、人工知能の役割を担わせたケースです。
すでにスマートフォンは急速に普及しています。
今回発売のiPhone 6sやiPhone 6s PlusにはA9チップが採用されており、処理速度は以前のものに比べ70%もアップしたそうです。さらに、縦横に加え、奥行による操作が可能になっただけではなく、通信速度、カメラ機能も大幅にアップしたといいます。このような高性能のスマートフォンが販売記録を更新しているのです。個人使用だけではなくビジネス使用も大幅に増えていくでしょう。となれば、今後、社会は大きく変化せざるをえません。ICTの高度化により、大きな社会変革が起ころうとしているのです。
■消えてなくなるヒトの仕事
オックスフォード大学のCarl Benedikt Frey 氏と Michael A. Osborne氏は2013年9月、“THE FUTURE OF EMPLOYMENT : HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?”というタイトルの論文を発表しました。ICTの高度化によって将来、どういう職業が消滅する可能性があるかを調査に基づき割り出したのです。
こちら →
http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
702の職種を対象に、今後どれだけICTにより自動化されうるかについての確率を算出することによって、ICTの高度化が雇用に与える影響を研究したのです。その結果、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いことが明らかになりました。つまり、現在の半数近くが消滅する可能性の高い職種だというのです。もちろん、この論文は世界の産業界に大きな衝撃を与えました。
これを受けて総務省は2015年1月23日、「インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会」を立ち上げました。情報通信、ビッグデータ、 人工知能、脳科学、認知心理学等の分野の専門家がメンバーとなり、(1)ICTインテリジェント化のもたらす可能性 (2)具体的分野における可能性 (3)社会へのインパクト (4)ビジネス展開、国際競争における展望 (5)政策課題、等々について検討が行われました。
総務省の第一回研究会でもオックスフォード大学のこの論文の骨子は検討材料として使われています。
こちら →
総務省研究会資料。クリックすると図が拡大されます。
この研究会は5回行われた後、2015年6月、報告書が作成されました。
こちら →http://www.soumu.go.jp/main_content/000363712.pdf
報告書では経済や雇用への影響については、ICTの高度化は今後長く継続し、世界経済と雇用に大きく影響するという認識がしめされています。そして、雇用の代替が進む一方で、新規雇用も創出されるとされています。
現時点ではこの程度のことしかいえないのかもしれませんが、社会の不安を最小限後に抑えるには、新規雇用できる領域を早期に開拓していかなければなりません。それにはどのような仕事内容が自動化されにくいのか、産業としてある程度の市場規模を確保できるのかというようなことを考える必要があるでしょう。
■Wearable Tech Expo2015の開催
2015年9月7日と8日、東京ファッションタウンビル TFTホールで、Wearable Tech Expo2015が開催されました。プログラムは以下の通りです。
こちら →https://www.wearabletechjapan.com/ja/program/
興味興味深かったのが、8日に行われた「AIとロボットのある社会、人の存在はこうなる」というタイトルのトークセッションです。登壇者はロボット開発者の林要氏、SNS会社の堀江貴文氏、脳科学者の中野信子氏で、モデレーターは湯川鶴章氏です。人工知能とロボットは人間の代替をどこまで可能にするのか、既存の産業にどのように影響するのか、等々について話し合われました。
このトークセッションについては以下のようにまとめられていますので、ご紹介しましょう。
こちら →http://japan.cnet.com/sp/wearabletech2015/35070753/?tag=nl
興味深いのは、ロボットが人間の労働力に置き換わった場合に生き残る産業は何かについての三者の見解です。
堀江氏は「僕が今投資先として注目しているのは、エンターテイメント産業」といい、林氏も「“感動させることができる”っていう意味でもエンターテイメントなんだと思う。人々の無意識下に働きかけるものは何か?と考えると、五感だったりするわけで。ロボットが浸透した最後に残る人間の仕事が、エンターテイメントとかホスピタリティになるのではないか」といいます。一方、中野氏は「労働力が機械に代替されても、自己実現的な欲求を満たすことが人間には必要だ」といい、「この欲求は機械にはなかなか代替できない。もしかすると、そこを埋めるのがエンターテイメントかもしれない」といいます。
立場や見識の異なる三者が異口同音に、今後、生き残る産業としてエンターテイメントをあげたのです。もちろん、それぞれニュアンスは異なります。
■インテリジェントICT化を阻むもの
これまでロボットはルーティン化した作業しかできないとされてきました。ところが、ICTの高度化により、人間の知能、知性に近づいた作業ができるようになっているといわれています。インテリジェントICT化を阻むものの領域がどんどん狭くなってきているのです。その結果、さきほど紹介したように多くの職業が今後、自動化され人手を必要としなくなっていくと予想されています。
Carl Benedikt Frey氏らは自動化が困難だとする要因として9項目を想定しました。すなわち、知覚と操作にかかわるものとして、①指の器用さ、②手先の器用さ、③狭小空間・変則的な姿勢、創造的知性として、④オリジナリティ、⑤芸術性、社会的知性として、⑥社会洞察力、⑦交渉、⑧説得、⑨他者への気遣い、等々です。これらを指標として702の職種の自動化に対する脆弱性の確率を算出したのです。
これらの項目はルーティン化、規則性に馴染まず、臨機応変の対応力、共感性、独自性、内省化、意識下の衝動、身体的感受性の高さ、等々が見受けられます。非合理の源泉であり、感動を生み出す要素でもあります。
こうしてみると、堀江氏ら三人がロボット時代に生き残る産業の一つとしてエンターテイメントをあげたのもなんとなく理解できます。なによりもまず、エンターテイメントはヒトの心の充足に深く作用します。ですから、表現技法としてICTを取り入れることはあっても、その内容をICTによって自動的に生み出すことはありえません。
もちろん、作品のアイデアをネットから得ることがあるでしょうし、SNSでアイデアを洗練させていくこともあるでしょう。でも、究極的にはヒトの知性や知能、経験や認識の独自性などの複合的な作用によって作品は生み出されます。だからこそ、ヒトの心に深く訴えかけることができ、インテリジェントICT化社会になっても独自の価値を維持し続けられるのだと思います。(2015/9/30 香取淳子)