ヒト、メディア、社会を考える

03月

記事のバラ売りサービスで進む雑誌の電子化

記事のバラ売りサービスで進む雑誌の電子化

■記事のバラ売りサービス

今朝(28日)、凸版印刷が26日、雑誌記事のバラ売りサービスを開始したという記事を読みました。凸版印刷によりますと、Androidスマートフォン向けに「中吊りアプリ」を開発し、26日からそのサービスを開始したそうです。利用者はアプリ内の中吊り広告をめくりながら、興味のある雑誌記事があると、それを記事単位で購入できるというサービスです。

そういえば、私は電車の中で中吊りをよく見ています。面白そうだと思っても手元にないので、読むことができません。電車から降りると忘れてしまい、帰りの電車で再び中吊りを目にして読みたかったのに残念・・・、ということをよく経験します。「中吊りアプリ」はそのような需要にマッチしたサービスといえます。

■中吊りアプリ

ただ、現在、このアプリはAndroid4.1以降の機種にしか対応しておらず、i-phoneには対応していないのだそうです。とはいえ、Google playから無料でダウンロードすることができ、ダウンロードした記事は内容によって異なりますが、一件50円~だといいます。いつでも気になる記事を読めるサービスとして画期的なものになるでしょう。

主な掲載コンテンツは以下の通りです。

光文社「FLASH」、主婦と生活社「週刊女性」、扶桑社「週刊SPA!」、東洋経済新報社「週刊東洋経済」、毎日新聞社「サンデー毎日」「週刊エコノミスト」、日本スポーツ企画出版社「週刊サッカーダイジェスト」、ハースト婦人画報社「MEN’S CLUB」
など12社14誌(2014年3月現在)

詳細はこちら。http://www.toppan.co.jp/news/2014/03/newsrelease140326_1.html

凸版印刷は以下のような写真を提供して、このアプリの仕組みを説明しています。

『中吊りアプリ』の画面イメージ

 

■大型i-phone発売予想

一方、日経新聞電子版は今日(3月28日)、アップルが9月、現行機種より大きいサイズの4.7インチと5.5インチの新i-phoneを発売すると報じています。液晶パネルはシャープやLGなどが供給するそうですが、スクリーンの大型化に伴い、解像度もあげるようです。

詳細はこちら。http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ270IO_X20C14A3MM8000/?dg=1

 

雑誌記事のバラ売りアプリのニュース、そして、i-phoneの大型化というニュース、これらの情報に接すると、いよいよ雑誌の電子化が進み始めたという気がしてしまいます。それを証明するようなニュースもあります。

■いつでも、どこでも「読める」サービス

たとえば、日経新聞(3月26日付)は、文教堂ではファッション雑誌『DRESS』が昨年12月以降、売上を急増させていると伝えています。記事はその理由を文教堂が開発したアプリにあると分析しています。文教堂が店で雑誌を買うと同じ内容の電子書籍が無料で読めるというサービスを提供したところ、飛躍的に売り上げが伸びたというのです。家では紙媒体、外出先ではスマホで読むという新たな読書のスタイルを読者に提供したからでしょう。いつでも、どこでも「読める」サービスが人々の潜在需要を掘り起こしたといえます。

インプレスビジネスメディアは、今後、電子書籍・雑誌の販売額は急激に伸びると予測しています。読書という行為までもネットと関連づけられるようになりつつあるのが現状といえましょう。どうやら私たちは「いつでも、どこでも」ネットにつながれることになりそうです。(2014/3/29 香取淳子)

 

 

 

「レイルウェイ 運命の旅路」:戦争による心の傷を癒すことはできるか?

「レイルウェイ 運命の旅路」:戦争による心の傷を癒すことはできるか?

■レイルウェイ 運命の旅路

3月27日(金)、「レイルウェイ 運命の旅路」の試写を有楽町の角川シネマ有楽町で見ました。日本軍の捕虜になった英国人元兵士の実話に基づく映画だと知って、思わず身構える気持ちになってしまいました。日本軍を扱った典型的な戦争映画のように、捕虜や現地人に残忍な行為を行う日本兵の拷問シーンなど繰り返し見せつけられるのではないかと思ったからです。

ですが、この作品はちょっと違っていました。たしかに、捕虜に対する過酷な扱いや残虐な拷問シーンもたびたび登場するのですが、戦争で負った心の傷はどうすれば治癒できるのかといった点に焦点を当てて物語が構成されています。ですから、残虐なシーンを見ると、今回もまた、いたたまれない気持ちになってしまったのですが、映画を見終えると、なんだかほっとして救われた思いがしたのです。それはおそらく、戦争で心の傷を負ったのは残虐行為の被害者(英国人元通信兵)だけではなく、加害者(日本人元憲兵・通訳)もそうなのだという視点で作品が展開されていたからでしょう。

■泰緬鉄道建設

第2次大戦時、日本軍の捕虜になった英国軍通信兵エリック・ローマクスは泰緬鉄道の建設に駆り出され、残虐非道な扱いを受けた結果、心に大きな傷を負います。その傷はいつまでも癒えず、結婚して幸せを掴んだのも束の間、しばらくすると再び、そのPTSDに苦しみ続けます。一方、加害者であった日本人元憲兵・通訳の永瀬隆もまた自分の犯した罪に苦しみ、戦後、泰緬鉄道のあるタイへの巡礼を続けています。このように戦争は加害者にも被害者にも苦しみしか与えないことをこの作品は原作(実話)に基づいて描き出します。

圧巻だったのは、長年、復讐を望みながらも、主人公(被害者)が実際に加害者に対面すると、復讐では解決にならないこと、心が癒されるわけではないことを悟るシーンでしょう。この作品は戦争によるPTSDを扱っているだけに、全般に重苦しい雰囲気が漂っています。ときには息苦しくなってしまうほどですが、主人公の妻パトリシアを演じたニコール・キッドマンの美しさが画面に華やぎを添えてくれます。二人の出会いのシーンはまるで恋愛映画の始まりのようで、わくわくします。ちょっと紹介しておきましょう。

■出会い

主人公エリック・ローマクスはある日、列車の中で美しい女性パトリシアと相席になります。二人はふとしたことで会話を交わすようになりますが、そこで、エリックは鉄道に絡む博学ぶりを発揮してしまいます。彼が根っからの鉄道愛好家なのだということがこのシーンでさりげなく示されています。子どものように無邪気に勢い込んで話すエリックを見つめるパトリシアの表情が優しく、とても慈悲的でした。これも彼女が元看護婦で夫の心の傷の回復に精魂傾けていく後段の展開を暗示しています。他愛もない会話のシーンですが、エリックやパトリシアの人物像、心の交流が見事に表現されています。やがて二人は結婚に至ります。そして、物語は現在と過去を行き来しながら展開されます。

レイルウェイ 運命の旅路

この映画は4月19日に全国で公開されますので、内容の紹介はこのぐらいにしておきましょう。

■上映後のティーチ・イン

映画の上映後、原作者の妻であるパトリシア・ローマスクさん、監督のジョナサン・テプリツキー氏、プロデューサー・脚本担当のアンディ・パターン氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏の4人が司会者を交え、映画について語り合いました。印象深かったのは、パトリシアさんが、長年復讐心を抱いていた夫が実際に加害者のナガセにあったとき、夫の目に映ったナガセが自分と同じように老いさらばえた老人だったと語ったことでした。時がヒトの見かけを変え、ヒトの心に大きく作用することがわかります。

また、この映画の製作動機を聞かれたテプリツキー監督が、原作がもつ人間性に惹かれたからだと答えたことも印象的でした。実際、この作品は見事なまでに人間性に焦点を当てて製作されています。

■戦時における人間性

主人公(被害者)は戦争時の残虐非道な扱いによって心に傷を負い、長い年月をかけてもその傷は癒されませんでした。主人公はついに過去を直視し、向き合うことを決意します。そして、被害の現場で加害者と対面し、当時の苦しみを再体験をすることになります。ところが、被害者は逆の立場になっても当時の加害者と同じ行動をとることはできません。復讐心に満ち溢れていたはずなのに、行為としての復讐を実行できなかったのです。それこそ「人間性」が、被害者が復讐的行為をすることを止めたのでしょう。それを見た当時の加害者は深く反省します。そこにも「人間性」が介在します。

そして、後段で、原作に登場する駒井光男大尉の息子・駒井修氏が登場し、再会時のエピソードを披露しました。パトリシアさんは、彼があまりにもその父親に似ているので夫はショックを受けていたと語ります。

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戦後すでに68年を経ていますが、日本軍がアジア各地で行った蛮行、残虐行為がアジア各地に博物館、記念館として残されております。その種の博物館や記念館を訪れるたびに、いたたまれない気持ちになってしまっていました。この映画を見て、改めて戦争には勝利者はいないのだということを感じさせられます。戦争は被害者はもちろん、加害者にも多大な心の傷を負わせてしまうのです。

■なぜ豪英合作なのか?

映画を視聴し、その後のティーチ・インにも参加したのですが、どうしてもわからなかったことがあります。それは、英国人元通信兵の物語がなぜ、オーストラリア人監督によって製作されたのか、ということでした。コリン・ファース(エリック・ローマクス役)は英国人ですが、ニコール・キッドマン(パトリシア役)はオーストラリア人です。タイトルバックにも Screen Queensland や Screen Australia の文字が入っており、オーストラリアが力を入れていることがわかります。

そこで、調べてみました。その結果、劣悪な環境下で泰緬鉄道の建設に従事させられ、死亡したのは、連合軍捕虜である英国人6648人やオーストラリア人2710人、そして具体的な数は把握されていないのですが、数多くのアジア人だったそうです。約8万人がこの鉄道建設で命を落としたといわれています。

調べてみてようやくわかりました。なぜ、この映画がオーストラリア人監督によって起案されたのか、なぜ豪英合作なのか、なぜ主人公が英国人、サブ主人公がオーストラリア人なのか。ちなみにこの映画の一般公開は、オーストラリアが2013年12月26日、イギリスが2014年1月10日、そして、日本が2014年4月19日です。人間性に焦点を当てて戦争を取り上げたこの作品が、関係国だけではなく、他の多くの国の人々によって鑑賞され、戦争について議論され、語り継がれることを期待します。(2014/03/27 香取淳子)

 

 

 

すでに、クラウドコンピューティングの時代?

すでに、クラウドコンピューティングの時代?

■XPを使い続ける企業

今朝(3月26日)、興味深いニュースを見つけました。大阪信用金庫が3月上旬、大阪や兵庫の取引のある会社1277社に対して調査を行ったところ、いまだにXP を使用している会社が46%、そのうち、このままXPを使い続けるとした会社が53.5%にも及んでいることが判明したというのです。おそらくそれらの企業では新しく設備投資をするだけの財政的な余裕がないのでしょう。すでにWindows8になっているというのに、まだXPを使い続けざるをえないというのです。

詳細はこちら。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140325-00000094-zdn_n-sci

■クラウドコンピューティングの恩恵をうける豪中小企業

一方、オーストラリアのACMA(The Australian Communications and Media Authority) は3月25日の短報で、オーストラリアでは中小企業がクラウドコンピューティングの恩恵を受けていることを明らかにしています。2013年6月期に実施したクラウドコンピューティング市場に関する調査結果に基づいた報告です。

私もよくわからないまま、パソコン、i-phone、i-padにクラウドをインストールしています。そして、写真だけはどのメディアでも共有できるようにしていますが、実は使い方もよく知りません。いったい、クラウドコンピューティングとは何でしょうか。Wikipediaを見ると、クラウドコンピューティングについて次のように説明しています。

*「クラウド」は「雲」の意味でコンピューターネットワークを表す。従来より「コンピュータシステムのイメージ図」ではネットワークを雲 の図で表す場合が多く、それが由来となっている。

Wikipediaではこのように説明し、クラウドコンピューティングのイメージ図として下記の図をあげています。

■クラウドコンピューティングのサービス内容

これをみると、クラウドコンピューティングで提供されるサービスは大きく分けて3種類あることがわかります。上から順にApplication、Platform、Infrastructure です。図をみると、クラウドコンピューティングがこれらのサービスを「雲」の外にあるパソコン、スマートフォン、タブレットなどを使って利用することができる仕組みであることがよくわかります。

ACMAは、2014年3月25日の報告で、オーストラリアではクラウドコンピューティングが実際に軌道に乗り始め、デジタル経済の中で重要な役割を果たしつつあると述べています。2013年6月期の調査によって、オーストラリアでは18歳以上の1400万人(全人口の80%に相当)が積極的にクラウドコンピューティングを活用していることが明らかになったというのです。これは年初比11%増に当たるといいます。また、44%の中小企業(90万社)がこの一年間、積極的にクラウドコンピューティングを活用していたと報告しています。

一般にもっとも多く利用されているのが、webメールで、前年比16%増の70%でした(下図)。そして、このwebメールこそが中小企業でもっとも多く利用されているサービスだというのです。それ以外に多く利用されているのは、ソーシャルネットワーク(62%)、オンライン上の写真保存(47%)、オンラインで文書を作成したり、共有する(40%)、オンラインでビデオを保存(12%)、オンラインでデータのバックアップ(9%)、オンライン上にファイルを格納(8%)、等々でした。

 

 

詳細はこちら。http://www.acma.gov.au/theACMA/engage-blogs/engage-blogs/researchacma/Cloud-computing-whats-all-the-fluff-about

利用者のもっとも大きな懸念はセキュリティ(52%)だそうです。中小企業が積極的にクラウドコンピューティングを活用することのメリットは、サービスに簡単に便利にアクセスできるという点で、これは36%を占めます。

一方、デメリットとしては、彼らの仕事内容に適していないというもので、これは48%を占めていました。ただ、人材、財政基盤とも大企業に比べて脆弱な中小企業にとって、クラウドが役立つ日も近いのではないかという気がします。

■中小企業にとっての利用価値

たとえば、ブランドデザイン委員会副委員長 上島 茂明氏はすでにクラウドは中小企業にとって利用価値があると指摘しています。そのメリットとして、①導入コストが安い、②導入スピードが速い、③モバイルコンピューティングとの親和性が高い、④企業の継続性対策として有効、等々をあげています。(http://www.itc-chubu.jp/directors/2012/07/post-8.html

もちろん、クラウドを活用するには、メリットだけではなくさまざまなリスクがあり、デメリットもあることに留意しなければならないでしょう。それでも、ITによって業務形態が大幅に変化している現状を見れば、導入しないことのデメリットの方が大きいのではないかと思ったりします。意思決定にスピードが要求され、次々と新しいITツールが開発されている時代です。クラウドでITインフラを安価に構築できるのなら、それに越したことはないでしょう。

それにしても、今日は興味深い一日でした。XPを使い続けざるをえない企業がまだ多数あることを知った反面、オーストラリアではクラウドコンピューティングをデジタル経済の中心的な役割を担いつつあるということも知りました。ITによる社会変革がまだまだ継続しているのです。となれば、いつでも、どこでも使えるという機能、データ保存、共有といった機能をもつクラウドは今後、さらに進展していくような気がします。安全性が確保されていけば、それこそ中小企業や個人事業者にとってきわめて有用なメディアになっていくでしょう(2014/03/26 香取淳子)

 

 

 

東京アニメフェスティバル2014が開催された、COREDO室町

■東京アニメフェスティバル2014が開催された、COREDO室町

3月22日(21:30~22:30)、山村浩二作品集上映会に参加しました。会場は3月20日にオープンしたばかりのTOHOシネマズ日本橋です。TOHOシネマズ日本橋はCOREDO室町2の3Fにあります。土曜日だったせいか、3Fのシネマに行く途中の飲食店はカップルや家族連れ、女性のグループであふれかえっていました。

新しい施設とリニューアルされた店舗は「日本を賑わす日本橋」というコンセプトで設計されたのだそうです。そういわれてみれば、夜も9時近いというのに、その界隈だけは賑わっていました。飲んで食べ、おしゃべりをし、映画を見るという娯楽のための界隈です。まだオープンしたばかりなので、この勢いがどこまで続くかわかりませんが、賑わいの中心にあるのは、9つの最新スクリーンを備えたこのTOHOシネマズ日本橋なのかもしれません。

■ 江戸時代の日本橋界隈
大暖簾
上の写真は江戸時代、賑わいを見せていた日本橋界隈です。モノの交流に伴って、ヒトが交流を深めていたことが示唆されています。
かつての界隈は地上で横空間の中で広がっていましたが、今、界隈はビルの中で縦空間の広がりの中で創り出されています。横移動ではなく、上下移動の中でモノ、ヒト、情報と出会っていくのです。
■現在の日本橋界隈
コレド室町2
上の写真は新装オープンしたCOREDE室町2です。TOHOシネマズ日本橋は、このCOREDE室町2のF3にあります。このビルはBF1、F1、F2とも、物販、飲食店で占められています。飲食、買い物を楽しんでから、情報コンテンツに向かっていく流れが創り出されています。それぞれのフロアがヒトで込み合い、賑わいを見せていました。飲食、情報コンテンツを媒介にヒトが交流を深める時代になっていることがわかります。
■ヒトを集める食

さて、ヒトは誰か他のヒトと心を通い合わせたくて、共に飲み、食事をし、会話をします。それでも、なかなか心が満たされることはありません。それだけではせいぜい他のヒトと快いひとときを共に過ごせたにすぎないからです。そこで、ヒトは感動を求めて映画館に足を運びます。映画であれば、ヒトは少なくとも、ジャンル別に分類された「感動」ぐらいは即席に受け取ることができるからです。このような現代人の欲求に合わせ、セット化されて「賑わい」は作り出されます。そして、COREDO室町界隈はそのような一角でした。

やがて、飲食、音楽、「感動的」な大衆向け映画だけでは心が満たされなくなるヒトが出てくるはずです。そうなったとき、山村浩二作品にみられるような短編アニメーションのもつ異化作用の力が必要とされるようになるでしょう。「感動」や「同化」に頼らずに作品世界に引き込む力を持っているからです。

COREDO室町はグルメ情報や映画上映情報を発信してヒトを集め、楽しませています。そこで楽しみ、感動したヒトが生の情報を生み出し、そこから発信しているという点ではCOREDO室町界隈もまたメディアなのだといえます。(2014/03/24 香取淳子)

山村浩二作品についてのブログは こちら