ヒト、メディア、社会を考える

11月

2017入間航空祭:広報メディアとしてのブルーインパルス

■ブルーインパルス
 2017年11月3日、航空自衛隊入間基地で、入間航空祭が開催されました。航空祭についてはまったく知らなかったのですが、阪急交通社がバスツアーを企画していることを知って、参加することにしました。ツアーの内容は、ブルーインパルスによるアクロバット飛行、基地内でのさまざまな展示などを楽しむというものでした。

 ブルーインパルスとは、アクロバット飛行を披露する専門チームの名称です。実は、この言葉を聞いて、私は熊本で見た光景を思い出し、突然、参加してみたくなったのです。

 今春、熊本市内のバス停でたまたま、ブルーインパルスを見ました。長崎行の高速バスを待っているとき、青空に繰り広げられるブルーインパルスの妙技をみたのです。

 当時、私は熊本大震災で被災した友だちを見舞うために、熊本を訪れていました。震源地や城壁の落ちた熊本城などを見てまわり、ホテルに一泊してから、長崎に向かおうとしていました。

 渋滞のため、バスは大幅に遅れていました。スマホをチェックしながら、いつ来るとも知れないバスを待っていると、急に、周囲の人々が騒ぎ始めたので、見上げると、青空に見事な円がいくつも描かれています。慌てて、スマホで撮影したのが下の写真です。

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 青空一面に、白い円がいくつも鮮明に、飛行機雲で描かれています。見るとたちまち、不鮮明になって、形が崩れていきましたが、このとき、円が5つ重なって創り出されていることがわかりました。まるで五輪マークのようです。

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 2017年4月23日、11時21分のことでした。この時はじめて、私は「ブルーインパルス」という言葉を知りました。これが、今回のバスツアーに参加しようと思ったきっかけになったのです。

■入間航空祭
 2017年11月3日、ガイドの説明によると、今年は特に参加者が多かったそうで、阪急交通社だけで38台もの大型バスを用意したそうです。

下は、午前9時17分時点で撮影した写真です。すでに基地内には大勢の人々が集まってきていました。いっせいに同じ方向に向かっていますが、向かう先は航空機展示場です。機体が展示され、アクロバット飛行の発着場所になります。航空祭メインの会場です。

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 航空機展示場に着くと、大勢の人々が地面に座って、展示機体を眺めていました。人混みをかきわけて最前列に出て撮影したのが、下の写真です。機体がいくつか展示されていましたが、いかにも戦闘機らしいと思い、撮影したのが、この機体でした。

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 「風の谷のナウシカ」で見た、ナウシカが乗っていた機体にとてもよく似ています。名前がよくわからなかったので、ネットで調べてみると、どうやら、F-2A戦闘機といわれるもののようでした。F-2はF-1の後継機として製造された戦闘機です。この機体はF-2Aですから、操縦者一人、操縦席一つの単座型の戦闘機です。

 見渡す限り青空が広がり、絶好の飛行日和です。飛行場には次々とヒトが集まってきます。すでに到着した人々は、まるでピクニックに来てでもいるかのように、地面に座ってバッグを広げ、ソフトドリンクを飲んだり、お菓子をつまんだりしています。基地内の飛行場でありながら、和気あいあいとした光景が広がっていました。

 調べてみると、入間航空祭は1962年11月18日に第一回が開催されていました。航空自衛隊が発足したのが、1954年7月、入間基地が発足したのが1958年8月、そして、入間基地日米共同使用協定が成立したのが1961年6月でした。ですから、その翌年にこの航空祭は開催されたことになります。

こちら →http://www.mod.go.jp/asdf/iruma/about/history/index.html

 以後、毎年11月に開催されており、多くの来場者が押し寄せているようです。昨年は13万人が訪れたそうですが、ガイドによると、今年はそれ以上だということでした。

 気になって、航空祭の翌日、新聞を見ると、今年は21万人もが参加したそうです。

こちら →http://www.sankei.com/life/news/171104/lif1711040026-n1.html

 たしかに、広い基地内はもちろんのこと、隣接する彩の森公園なども、来場者で埋め尽くされていました。

■ブルーインパルス
 航空祭メインの出し物は、ブルーインパルスのアクロバット飛行です。プログラムによると、その実演時間は13時5分から14時10分まででした。帰りのバス集合時刻は14時50分と指定されていましたから、移動可能時間は40分です。十分に時間はあるとはいっても、この混み具合です。最後まで飛行展示場で見ていたら、集合時刻に間に合うかどうかわかりません。

 そこで、早めに会場を出て、集合場所に近い彩の森公園に行き、そこで、ブルーインパルスを見ることにしました。後になって思えば、そう決めて、正解でした。集合時刻に間に合っただけではなく、なにより、木陰でブルーインパルスのアクロバット飛行を見ることができたのが幸いでした。

■ブルーインパルスのアクロバット飛行
 すでに大勢の人々が木陰にシートを敷き、青空を見上げていました。カメラを空に向けているヒトもいれば、まるでピクニックさながら、お菓子を食べておしゃべりをし、待ち時間を楽しんでいるヒトもいました。これまでに何度も航空祭に来たことのある人々なのでしょうか、今思えば、そこは絶好の鑑賞場所でした。

 突然、青空に轟音が響き渡りました。慌てて、空を見上げましたが、飛行機の姿はありません。白い飛行機雲が残っているだけです。いよいよ、ブルーインパルスの登場です。

 轟音がするのに機体が見えません。気づいたときには飛行機雲だけが残されていました。あまりにも早く駆け抜けてしまうので、何度も撮影に失敗しましたが、ようやくまともに捉えられたのが、ハート形を描いたアクロバット飛行です。

 私がスマホで撮影した映像を順に、ご紹介していきましょう。

 木の向こう側に2機の機体が見えます。上空に向かう途上で、2機は左右、二手に分かれます。

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 あれっと、思っているうちに、今度は、2機とも弧を描くように、下降していきました。

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 残ったのが、ハート形の飛行機雲です。

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 見事な飛行です。あちこちで歓声があがっていました。

 同じようなパターンの飛行をご紹介しましょう。今度は5機で演じられた飛行です。どこまでも広がる青空の下、5機が突然、大木の上に姿を現し、そのまま微妙な角度で、5方向に分かれ、上空に向かっていきます。

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 5機はそのまま弧を描くように下降し、5方向に散っていっていきました。後は、ご覧のように、木の枝のような飛行機雲が残り、青空に興を添えていました。

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 いっせいに同じ方向に飛行することによって、力強い飛行機雲が生み出されます。この飛行には、複雑な技巧は感じさせられませんでしたが、味わい深いものがありました。左方向に急下降していく5機がそれぞれ、青空に鮮やかな白の弧を残していきます。

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 そうかと思えば、6機がいっせいに左方向から上空に向けて急上昇していく飛行もありました。こちらも単純ですが、力強く、迫力がありました。

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 さらに複雑な図形が、青空に描かれたこともありました。アクロバット飛行も回を重ね、人々が飽き始めたと思われるころ、登場した出し物です。

 ヒトデ型の飛行機雲が残っている間に、別機が飛び立ち、三角形を重ねて、星形を創り出します。このように複雑な図形を創り出すアクロバット飛行には相当、技術力とチームワークが必要になるのでしょう。澄み渡った空にこの複雑な図形が創り出されると、あちこちで大きな歓声があがっていました。

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 ネットで調べてみると、このアクロバット飛行は「スタークロス」といわれるもので、とても人気が高いそうです。

 入間航空祭で見た飛行ショーで使われたのは、T-4といわれる機体でした。ブルーインパルスの三代目の機種なのだそうです。

こちら →http://www.mod.go.jp/asdf/equipment/renshuuki/T-4/index.html

 このT-4という機体は、優秀なパイロットを育成するための機種で、基本操縦課程のすべてを担える練習機なのだそうです。海外の練習機の場合、戦争になれば、武装もできるようになっているそうですが、T-4はそれができないとも書かれていました。
(http://ja.uncyclopedia.info/wiki/T-4_(%E7%B7%B4%E7%BF%92%E6%A9%9F))

 さて、私は彩の森公園でブルーインパルスを撮影したので、残念ながら、発進状況などは写せませんでした。ところが、ネットで検索してみると、当日、飛行展示場でブルーインパルスを撮影した映像を見つけることができました。ご紹介しましょう。

こちら →https://www.youtube.com/watch?v=vCFyUnY1QeY

 これを見ると、アクロバット飛行の全容がよくわかります。

■パネル展示から見た、日本の防空
 入間航空祭では、飛行展示をはじめ、警備犬訓練展示、美術展、演奏会などさまざまな企画が催されていました。なかでも中部航空音楽隊による演奏は素晴らしく、思わず引き込まれ、聞き入ってしまいました。周囲を見回すと、観客は思い思いに手をたたいてリズムを取って、音楽隊と一体化し、盛り上がっていました。

 その音楽会場の壁面には、航空自衛隊の活動を紹介するパネルが多数、展示されていました。順に見ていくうちに、普段は考えたことのない国防について考えさせられるようになりました。日本の安全は?と思ったとき、連想してしまったのが、北朝鮮によるミサイル発射でした。日本はいま大変な状況に置かれていることに気づかされます。

 国際社会からなんといわれようと、北朝鮮は核とミサイルの開発を止めませんし、中国は国際法を無視し、海洋進出を進めています。いずれも、国際ルールに従うこともなく、武力を増強しているのです。うっかりしているうちに、日本の安全保障環境が大きく脅かされる事態に陥っていました。

 気になって、帰宅してからネットで調べました。すると、中国の軍用機が近年、日本の領空を頻繁に侵犯しており、航空自衛隊機の緊急発進回数が急増していることがわかりました。

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 2017年版防衛白書では、「平成28年度は南西航空混成団による緊急発進が803回にものぼり最多となった」と書かれています。実際、緊急発進回数の推移をみると、昨今の領空侵犯の多さは異様です。

 防衛白書は、」緊急発進数の急増について、「南西方面での安全保障環境が厳しさを増している」からだと指摘し、その原因を、中国軍用機が「東シナ海から徐々に東南方向に活動範囲を拡大してきている」と説明しています。その結果、南西航空混成団の緊急発進が「全国の6割にも」及ぶようになったと記しています。
(http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2017/html/nc023000.htmlより)

 昨今の中国軍用機の活動範囲を示したのが、下図です。

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 これを見ると、かなりの頻度で中国軍用機が日本の領空を侵犯していることがわかります。私は日本に危機が押し寄せてきていることなど、なにも意識しないで暮らしていたのですが、実は、日本の安全を脅かす不穏な状況がいまなお、続いているのです。

 それでは、このような事態に対し、航空自衛隊はどのように対処しようとしているのでしょうか。防衛白書には下記のような防空作戦が対策の一例として提示されています。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2010/2010/html/m3131000.htmlより。)

 上図に示されているように、防空のための作戦としては、4つの段階が想定されています。①領空、領海を侵犯する機体等を発見したら、即、②敵か味方かを識別し、その結果、的であれば、③早期警戒管制機から要撃指令を出し、即、④撃破するという流れです。

 このような対策で重要なのは、操縦技術の高度化、熟練化、そして、機体の高度化、高性能化です。ですから、性能の高い機体を装備するのはもちろんのこと、航空祭で見たようなアクロバット的な高度に訓練された飛行技術も、防空活動に欠くことのできないものだということがわかってきます。

■広報メディアとしてのブルーインパルス
 そもそも、私がこの航空祭に参加したのは、ブルーインパルスを見るためでした。おそらく、ほとんどの参加者がそうだったでしょう。ところが、たまたま入った音楽演奏会の会場で、壁に展示されたパネルを見たのがきっかけで、日本の防空に思いを巡らすようになりました。

 知らないことが多く、ネットでいろいろ調べていくうちに、日々、何気なく聞き流しているニュースも、注意深く読むだけで、日本の安全保障についての大切な情報源になることに気づきました。

 直近のニュースを整理すると、政府関係者がそれぞれ、安全保障の観点から見解を表明し、対応を進めていることがわかります。不穏な東アジア情勢に対し早急に、適切な対応が求められているのです。

こちら →http://www.ssri-j.com/MediaReport/JPN/japan_2017.html

 ここでピックアップされた情報だけでも、日本の未来を大きく左右する事態が進行しることがわかります。これを見ると、先ごろ、安部首相が「国難突破解散」をし、第48回衆院選を決行した理由も理解できるような気がします。日本はいま、今後どういう事態に発展するかわからない状況下に置かれているのです。だからこそ、安部政権に対する国民の信を問うておく必要があると判断されたのでしょう。

 戦後70年が過ぎ、戦争の悲惨さを知っている人はごくわずかになってしまいました。多少の不満はあっても、日本国内では、一見平和で穏やかな時間が流れています。ちょっとした兆候から戦争を想起する人もほとんどいませんし、防衛に関心を持つ人もそう多くはないでしょう。

 ところが、いつの間にか、日本を取り巻く環境はきわめて厳しいものになっていました。有事のための備えは大丈夫なのか、日本の防衛体制はどうなっているのか、等々。次々と、不安な思いが脳裏を過っていきます。

 さて、今回、入間航空基地内で、ブルーインパルスを楽しむ人々を多数、目にしました。

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 青空の下、老若男女、誰もがピクニック気分で楽しめる航空ショーとして、ブルーインパルスは抜群の魅力がありました。大空のどこからともなく轟音が聞こえてくると、人々は歓声をあげ、いっせいに青空を見上げて音がした方向を探り、スマホあるいはカメラを向けます。

 機体はあっという間に姿を消し、見えなくなってしまいますが、飛行後は、華麗な飛行機雲が残されます。青空を舞台に描かれたアートといっていいでしょう。操縦士たちはまるでアーティストのように、卓越した操縦技能でさまざまな飛行機雲を創り出し、観客を楽しませてくれたのです。

 澄み渡った青空の下で人々が、ショーアップされた飛行を楽しんでいたことを、私は改めて、思い出します。熟練のパイロットが操縦するのですから、他では見ることができない貴重なショーでした。だからこそ、ブルーインパルスのアクロバット飛行には、大勢の人々を引き付ける大きなパワーがあることも再認識できました。

 航空自衛隊にとって、ブルーインパルスがどれほど大きな広報効果を持っているのか、はかり知れません。当然のことながら、これを宣伝に使うことは可能でしょう。航空自衛隊の存在をできるだけ多くの人々に知ってもらい、日本の防空体制の現状を知ってもらう契機になることは確かです。

 そうして、人々の防衛意識が高まってくれば、民意に沿う防衛体制を構築していくこともできるのではないかと思います。のほほんと暮らす人々の防衛意識を喚起するために、ブルーインパルスをもっと効果的に活用できるのではないでしょうか。ハート形の飛行機雲を思い起こしながら、私はふと、そんなことを思ってしまいました。(2017/11/10 香取淳子)