ヒト、メディア、社会を考える

01日

ビル管理システムにサイバー攻撃の可能性?

■ビル管理システムへの不審な通信

読売新聞(2014/5/1朝刊)は、「無防備ビルが狙われる」という見出しの記事を掲載しています。編集委員の若江雅子氏によって書かれた記事で、リード部分は以下の通りです。

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ビル管理システムの「穴」を探すようなインターネット上の不審な通信が3月以降、警視庁で検知されている。何者かがサイバー攻撃の「下見」をしている可能性があるという。ビルへの攻撃は社会を混乱に陥れるテロにもなりうるが、業界の対応は遅れている。

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この記事に限らず、最近、ネットのセキュリティに関するニュースが相次いでいますが、いったい、何があったのでしょうか。今回はそのことを考えていきたいと思います。

そもそも警視庁では不正アクセスの傾向を調べるため、全国の警察施設のインターネット接続点にセンサーを設置しています。ところが、そのセンサーが3月中旬から4月にかけて不審な通信をキャッチしたというのです。ビル管理で使われているシステムにターゲットを絞って通信を試みるような動きだったのだそうです。

そのため、警視庁は4月4日、ホームページ上で注意喚起を行っています。

詳細はこちら。https://www.npa.go.jp/cyberpolice/detect/pdf/20140404.pdf

警視庁の定点観測システムでは、宛先ポート 47808/UDP に対するアクセスを検知したといいます。しかも、この47808/UDP は、ビル管理システムで使用される通信プロトコル用標準規格「BACnet」で定義されているポートなのだそうです。ですから、このアクセスは、BACnet に基づいて
構成されたシステム(BACnet システム)を探索している可能性があるというのです。

さらに、この文書によりますと、適切な対策を施さずにビル管理システムをインターネットに接続していると、攻撃者に進入され、システムを任意に操作される恐れがあるといいます。大変な事態を引き起こしかねないのです。ですから、警視庁は4月4日、ビルの管理者に注意喚起を促し、以下のような対策を実施することを推奨したのです。

(1) 使用製品の最新セキュリティ情報の確認

(2) インターネットへの不要な公開の停止

(3) ネットワークセキュリティの確認

■マンションでの経験

昨年12月、火の気もないのに突然、マンションの火災報知器が鳴りだし、止めようとしても止まらず鳴り続けたので、困ったことがあります。報知器が誤作動を起こしたのですが、これまでに一度もこのような経験をしたことがなく、茫然としてしまいました。セキュリティ会社から警備員が飛んできましたが、その警備員もなすすべもなく、結局は強制的に電源を落とすことによって、ようやく警報音を消し止めることができました。その後、火災報知器のメーカーの技術者が来て検査しましたが、機器に異常は認められず、原因はわからないままです。

このような経験をして初めて、私の住んでいるマンションがセキュリティ会社によって遠隔管理されていることを知りました。火災報知器が鳴ると自動的にセキュリティ会社に連絡が行くようになっており、対応するというシステムです。

■多摩地区で起こった停電

そういえば、4月27日夜8時ごろ、東京都八王子市、多摩市、町田市、日野市で停電が発生しました。約31万軒が停電の被害に遭いました。交差点では信号が消え、電車は停まりました。発電所でトラブルが発生した可能性があるといい、東京電力が原因を調べているといいますが、発電所へのサイバー攻撃だった可能性はないのでしょうか。とても気になります。

事件の詳細はこちら。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140427/dst14042721210012-n1.htm

■経産省がCSSCの演習を実施

経済産業省は2014年1月17日、電力・ガス・ビル・化学分野のサイバーセキュリティ演習を順次実施することを発表しました。CSSCとはControl System Security Centerの略で、「技術研究組合制御システムセキュリティセンター」のことを指しています。

以上の写真はCSSC本部

経産省は1月21から計5回、CSSC本部で演習を実施すると発表しました。なぜ、このような演習をするのかといえば、近年、重要なインフラや工場プラントの制御システムを狙ったサイバー攻撃が、世界的に多数出現しているからでした。

CSSC本部

CSSCについて詳細はこちら。http://www.rbbtoday.com/article/2014/01/17/115937.html

■ビル管理システム等が危険に晒される可能性

読売新聞編集委員の若江雅子氏は5月1日の紙面で、「ビル、電気、ガス、工場などの制御システムはかつては外部のネットワークから隔離して運営されることが多く、サイバー攻撃は想定されてこなかった。その後、保守や生産管理を効率的に行うために外部とつなぐケースは増えたが、関係者の意識は変化になかなか追いつかないのが現状だ」と書いています。

インフラの保守、管理業務はこれまでネットワークにつながずに行われてきました。ところが、効率的に業務を遂行するため、近年はネットワークにつなぐケースが増えているといいます。そうすると管理システムそのものがサイバー攻撃される可能性が出てくるのです。ところが、若江氏によると、実際に業務に関わる人々にはその危険性に対する認識が低いようなのです。

経産省が2014年初から数回にわたって実施したCSSCの演習はまさに、そのような実態への警告の意味があったのかもしれません。

若江編集委員はさらに記事の中で、「そもそもビル管理システムを導入しているビルが国内にどのぐらいあり、どのような管理がされているのか、国内のいずれの機関でも把握はされていない」と書いています。経産省が先導して作ったCSSCもその現状を把握できていないようです。

米国のセキュリティ会社が日本のビルシステムへの接続を試みたところ、わずか数時間の作業で40件以上ものビルシステムに接続できたといいます。その最高責任者は、「接続できれば、照明でも温度でも何でも好きなように操れる。いつ攻撃者に狙われてもおかしくない」と指摘したといいます。日本のビル管理システムがあまりにも無防備であることが明らかになったのです。

■生活インフラのセキュリテイは?

このような事態に際し、CSSCは早々にビル管理業界にも保守点検などで外部に接続する際のルール作りを求めるといっているそうです。ルール作りも当然ですが、セキュリティ部門の強化を図り、さまざまな観点からサイバー攻撃からの防御を図る必要があるのではないかと私は思います。とくに生活インフラに関しては最新のセキュリティを施してもらいたいと思います。

たとえば、日本各地でスマートシティの実現に向けた取り組みが行われています。オバマ大統領がグリーン・ニューディル政策を打ち上げて以来、日本でも積極的にプロジェクトが推進されはじめています。資源を有効活用し、環境に配慮した街づくりの理念は素晴らしいと思います。次世代に向けたプロジェクトとして大変有意義なのですが、これがITによるコントロール下に置かれているのです。

スマートシティの概念図は以下のようなものです。

スマートシティ概念図

出所:http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/service/newsletter/i_02_71_1.html

図に示されたように、スマートシティの概念は、電力や交通などをはじめ、都市の生活インフラの最適化をITで制御するというものです。この考え自体は環境に優しい画期的なものですが、生活の中にITによる制御システムが入り込むことになります。ですから、いつ外部からの侵略を受け、インフラが誤作動を起こさないとも限りません。その安全性を確実なものにしていくための対策を講じる必要があります。

ITを活用し、さまざまな生活サービスが事業として展開されています。その最たるものが、生活インフラの効率化に関わるものだといえます。精巧に組み立てられたシステムはいざ誤作動を起こすと、大変なことになります。仕組みがわからず、対処の仕方も知らされていないので、そこで生活しているヒトは何もできないのです。

そのような事態が外部の何者かに故意に引き起こされたのものだとしたら・・・・?私のささやかな経験からしても、ビル管理システムへのサイバー攻撃は、ヒトを限りなく不安に陥れることは確かだと思います。ですから、外部の何者かが日本社会を攪乱させようとする場合、もっとも低コストで効果的な方法がビル管理システムへの攻撃だということがわかります。早急に全国規模で安全対策を講じる必要があります。(2014/5/1 香取淳子)

 

スマートシニアが消費市場を変える?

■スマートシニアが急増している?

4月30日夕刊の日経新聞で、スマートシニアが急増しているという興味深い記事を読みました。シニア層のインターネット利用率が急増しているというのです。

東北大学特任教授の村田裕之氏はネット時代の高齢者像として15年前からスマートシニアという概念を提唱していたそうです。スマートシニアとは、ネットを通して多様な情報に接し、スマートな(賢い)シニアのことを指すのだそうですが、それが近年、急増しているというのです。

■総務省の通信利用動向調査

総務省の通信利用動向調査によると、シニア層のネット利用率は2001年から2012年までの11年間で、60~64歳が19.2%から71.8%、65~69歳が12.3%から62.7%、70~79歳が5.8%から48.7%に急上昇しています。とくに増加率の大きいのが60歳代で、70歳代になるとやや落ちています。

シニアのネット利用率

 

出所:日経新聞(2014/4/30夕刊)

さらに、いまネットを活用している60歳以下の世代がこれからどんどん高齢者になっていきますから、この傾向は今後ますます強まるでしょう。つまり、これからの高齢者はネットを自在に活用するスマートシニアが中心になっていくことを想定しておく必要があるのです。

■消費行動の変化

村田氏は、「私の研究の基づく予測では、2025年には83歳で要介護者とそうでない人が半々で、ネット利用率は45%に達する。10年後には後期高齢者でも日常的にネットを利用することが当たり前になると思われる」とし、「今後、高齢者の消費パワーへの注目が高まるにつれ、流通業にとってスマートシニアへの対応は重要性を増すだろう」と結んでいます。

若い世代と同様、高齢者も価格に敏感になり、ネットで商品を比較しながら購買行動を取るようになるでしょう。ネット通販を利用することも増えるに違いありません。

少子高齢化の進行にともない、今後、高齢者の単身世帯の増加、限界集落の増加が必至と予測されています。日常の買い物にも不自由するようになれば、高齢者もネット通販での購入が不可避になるでしょう。

■テレビ通販からネット通販へ

14年ほど前に私は吉田秀雄記念事業財団の助成を得て、高齢者の消費行動について調査をしたことがありました。調査の結果、高齢者はテレビで視聴したことを信じやすく、テレビを通してモノを購入することが多いことが判明しました。興味深かったのは、通常のTVCMは高齢者にはあまり効果がみられなかったことでした。15秒や30秒では短かすぎてよく認識できていなかったのでしょう。高齢者が好んでいたのは、商品を手に取って説明する、効能を詳しく説明する、タレントや権威ある人が勧める、といったような方法で商品情報を提供するスタイルのCMでした。イメージ情報ではなくしっかりと商品情報を伝える形式のCMが高齢者に訴求力を持っていました。

■スマートシニアの消費行動

調査の結果、わかったことは、高齢者は全般に商品について実用的な情報を欲していたということです。このような志向性を考えると、高齢者がネットを利用できるようになると、すぐに消費行動にネットを活かすようになるでしょう。ネットでは詳細な商品情報を入手できますし、価格を比較し、商品の評判を知ることもできます。ほとんどの高齢者が限られた収入しかない年金生活者です。合理的な消費行動によって節約も可能になることがわかれば、ネットを利用した消費行動は今後ますます増大するでしょう。

■スマートシニアが消費市場を変える?

今後、ボリュームゾーンになっていくのが、高齢者層です。スマートシニアといわれる高齢者が増えれば、市場も大きく様変わりするに違いありません。メーカーにとっては商品の質的向上、合理的な価格設定が必至となりそうです。(2014/5/1 香取淳子)