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豪、年金支給開始年齢、2035年までに70歳へ

豪、年金支給開始年齢、2035年までに70歳へ

■定年制は?

昨日このブログで、オーストラリアで「現地のヒトに尋ねると、定年制は廃止されているといっていました」と書きました。2002年ごろにそのことを教えてくれたのは、ブリスベンに居住する2児の母で、30代後半の一般女性でした。そのときはなるほどと思って聞いていたのですが、昨日、ブログを書いた後、ちょっと気になったので、調べてみました。その結果、正確に言うと、その女性が言ったのは、「定年制の廃止」ではなく、オーストラリアには「定年」(法的に定められた年齢)で退職するという制度がないということだったようです。

ネット上に、「オーストラリアの労働市場に定年制はあるか?」という質問から始まるクイズ形式のスライドがありました。わかりやすくオーストラリアの退職後の経済生活が表現されています。それによると、「オーストラリアには法的に拘束力を持つ退職年齢(定年)というものはない」ということでした。さらに、退職後の生活のために積立預金できる期間は55~70歳の期間だとされています。つまり、55~70歳までの間に預金をして退職後の生活資金を確保できれば、いつでも好きな時に退職できるということなのです。

詳細はこちら。http://wiki.answers.com/Q/What_is_the_workplace_compulsory_retirement_age_Australia?#slide=1

■年齢差別禁止法

『みずほリサーチ』(2007年June号)によると、オーストラリアでは1990年に南オーストラリア州で初めて年齢差別禁止法制が立法化され、以後、すべての州で年齢差別が禁止されているそうです。欧米諸国では雇用における年齢差別の禁止が一般的ですから、オーストラリアもそれに倣っているのかと思っていたら、違いました。みずほ主任研究員の大嶋寧子氏によると、最も早く年齢差別禁止法を成立させたのはアメリカで1967年でした。次いで、カナダが70年代にすべての州で禁止、オーストラリアはなんと3番目だったのです。

欧州では90年代以降、、高齢化による年金財が悪化への懸念から、雇用における年齢差別への取り組みが重要な政策課題になっているようです。大嶋氏は記事の終わりで、年齢差別禁止を行う場合、雇用慣行との調和をどこまで図るべきか、現実的な議論を行うことが必要だと結んでいます。日本に限らず先進諸国はどこも、高齢人口の増加で深刻な財政に追い込まれつつあるといえます。

■豪、年金開始年齢引き上げへ

2014年5月2日、豪政府は年金支給開始年齢を2035年までに70歳に引き上げる方針を示しました。高齢問題に対応するための措置ですが、世界の先進国の中ではこれが最高齢になります。もちろん、この報道を聞いてオーストラリアの人々は驚いたでしょうが、ホッキー財務相はすでに年金を受給している人には影響しないと言っています(AFP, 2014/5/4)。なぜこのような政策をこの時期に発表したかといえば、オーストラリアの会計年度が7月から翌6月にかけてだからでしょう。いずれにしても、年金支給開始年齢は人口動態とともに国家予算に大きく影響します。

オーストラリアには法律で規定された定年はありませんが、1908年に年金制度が導入されて以来、男性は65歳、女性は60歳で年金受給資格を取るようです。ですから、この時期、ホッキー財務相が「現行の受給資格年齢は終了する」と述べた(AFP, 2014/5/4)のは、この案に基づき、予算を立てる必要があったからでしょう。

詳細はこちら。http://www.smh.com.au/federal-politics/political-news/retirement-age-rise-to-70-by-2035-joe-hockey-announces-20140502-zr318.html

オーストラリアの年金制度には、税を財源とする社会保障制度の老齢年金(Age Pension)と保険料を財源とした退職年金(Superannuation)があります。老齢年金は生活保護的な色彩の強いもので、対象になるのは、オーストラリアに10年以上住む居住者(市民権または永住権保持者)です。一方、退職年金は雇用主が被雇用者のためにスーパー運用基金に支払い、積み立てたものです。ですから、オーストラリア滞在中にこの制度に加入していた有資格者はオーストラリア国税局に換金請求ができるといいます。

詳細はこちら。http://www.australia.or.jp/aib/pension.php

■高齢人口の増加

オーストラリアの65歳以上の高齢者は今後30年間で約350万人から約700万人へと2倍に増加し、全人口の約22%を占めるようになると予測されています。そのうち、85歳以上の高齢者は50万人弱から140万人へと約3倍に増加し、医療保険制度を圧迫することが予想されています。オーストラリアの人口は約2340万人で、平均寿命は男性が79歳、女性が84歳ですから、高齢化に対する措置はいまから取っておいた方がいいでしょう。いずれにしても今後、多くの国で高齢人口の増加が年金、医療等を含む社会システムを大きく変容させていくことは明らかです。いち早く急激な高齢化の波をかぶっている日本が適切な対策を取っていけば、高齢社会をリードしていく存在になりうると思います。(2014/5/8 香取淳子)

 

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