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アニメーターの育成支援

アニメーターの育成支援

■日本動画協会、応募案件の採択

2014年4月25日、日本動画協会は文化庁の平成26年度の若手アニメーター等人材育成事業に応募し、採択されたそうです。日本動画協会のホームページにも掲載されていますが、アニメ!アニメ!」の方が詳しいのでそちらのURLを下記に記します。

詳細はこちら。http://animeanime.jp/article/2014/04/26/18445.html

この記事によると、第1回から4回まで毎年採択されていた日本アニメーター・演出家協会の応募案件が不採択になり、日本動画協会の案件が採択されるという異変があったようです。どうして受託者が今回から変更になったのか、わかりませんが、部外者からみれば、どちらが採択されても構いません。アニメーター育成支援事業が継続されさえすればいいのです。

といいながら、思い直しました。ひょっとしたら、日本動画協会がアニメーションに関する諸事全般を手掛けるシステムにした方がいいのかもしれません。アニメーションについて知りたい、調べたいと思っても、どこが窓口なのかわからないのです。日本アニメを世界に流通させようとしているのであれば、アニメーションに関するすべてを統括できる組織が必要になってくると思います。そういう点で、とりあえず、今年度から日本動画協会が若手アニメーターの人材育成事業を受託されたのはいいことだと思います。

事業受託者が変更になっても、予算規模や事業内容はこれまでとほぼ同じだそうです。アニメーション制作4団体を選定し、年間を通してオリジナルアニメーションを制作し、その中でOJTを行ってきたのと同様の内容でこの事業が行われることになります。これまでにこの事業で過去4年間にアニメーター105人を育成、14の制作会社が参加し、20分余のオリジナルアニメーションを16本制作したそうです。着実に若手アニメーターを育成することができているのです。

■慢性的に不足している若手アニメーター

日本は世界に冠たるアニメ大国といわれながら、実はその制作を支えるアニメーターの人材は枯渇し、高齢化が進んでおり、深刻な問題になっていました。アニメ好きな若者は多く、制作したくてアニメ業界に入っていくのですが、長時間労働、低賃金に耐えきれず、結局はやめてしまうといった事態が続いていたのです。その若者の人口そのものが今後、大幅に減少していることを考えれば、なんとか手を打たないと、日本のアニメ産業そのものが成り立たなくなってしまいかねない状態なのです。

先日、大泉学園で開催された「アニメプロジェクトin 大泉」に行ってきたのですが、予想外に若者の姿は少なかったのに驚きました。「松本零士・ちばてつやトークショー」も参加者は家族連れか、アニメーターかアニメ関連の仕事をしていると思われる中高年の人々でした。少子高齢化の一端を見る思いがしていましたが、おそらく、今後はこの傾向はさらに進んでいくのでしょう。

日本のコンテンツで唯一、国際競争力を持っているといわれるアニメ産業ですが、その実態をみると、危機的状態なのだということがわかります。

■おおいに稼ぐアニメキャラクター

アニメ番組の企画・制作とキャラクターの権利事業を展開する「創通」という会社の事業が好調です。日経新聞(2012/3/7付)によると、2014年8月期の連結純利益は、3期連続で過去最高を更新する見通しだといいます。

創通業績推移

出所:創通

確かにグラフを見ると、年々、売上を伸ばしているのがわかります。その稼ぎ頭が「機動戦士ガンダム」をはじめとするアニメキャラクターなのだそうです。アニメ関連グッズが売れると、版権利用時に支払われるライセンス収入が増えるという仕組みです。

■「機動戦士ガンダム」

創通の版権事業の売上高は2014年8月期に52億円(前期比6%増)になるといいます。そのうち41億円がガンダム関連で、こちらは2年前に比べ22%増だそうです。1979年に誕生したガンダムが35年も経ったというのにまだ人々を引き付けているのです。

トヨタがシャア・アズナブル(ガンダムの登場人物)の専用車という設定で昨年、発売した小型車「オーリス」は、一部で熱狂的な人気を集めたといいます。

詳細はこちら。http://netz.jp/char-auris/

また、相模屋食料が2012年から発売する「ザクとうふ」(ガンダムの敵役ロボットの頭部を再現したパッケージ)は、これまで豆腐には関心のなかった30代、40代の男性をひきつけ、大ヒット商品になりました。

詳細はこちら。https://sagamiya-kk.co.jp/company/tho_zaku.html

ガンダムは、かつてファンであった30代、40代の男性に向けた商品市場を大きく拡大しているのです。トヨタの「オーリス」にしても相模屋の「ザクとうふ」にしても、仕掛け人は創通だったといいます。ガンダムという付加価値をつけただけで、大きく市場を広げているのです。

とはいえ、日本の中だけでは市場は限られています。創通はガンダムを使って、アジア戦略を強化しようとしています。ガンダムが独特の世界観をもち、大人も引き付けるストーリー性があるからです。

アニメをこのようなビジネスという観点からみると、どのような世界を描くか、どのようなストーリー展開でその世界を表現していくのかが、きわめて重要なものになってきます。まさに、アニメ作品を構想し、それを表現していく力のある人材が必要になってくるのです。

若手アニメーターだけではなく、アニメ作品を構想し、それを実現していく力量のある人材もまた必要なのです。アニメ産業が次世代産業であり、稼げる産業だとするなら、優秀な人材がこの業界に積極的に入っていけるような仕組みを作っていくことが重要なのではないでしょうか。(2014/5/27 香取淳子)

 

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