ヒト、メディア、社会を考える

15日

KADOKAWAとドワンゴの統合、日本コンテンツのプラットフォームになりうるか?

■コンテンツ企業とネット配信企業の統合

2014年5月14日、KADOKAWA とドワンゴが記者会見を開催し、今年10月に経営統合すると正式に発表しました。コンテンツ企業とネット配信企業が新たな持ち株会社「KADOKAWA/DOWANGO」を10月1日に設立し、両社はその傘下に入るというのです。記者会見の席上、KADOKAWAの佐藤相談役は、「両社の強みを持ち寄り、世界に類を見ないコンテンツのプラットフォーマーにしていく」と語りました(2014/5/15 日経新聞)。

一方、DOWANGOの川上会長は「(ソフトや顧客を)囲い込むのではなく、基本的にオープンな統合を目指す」と述べています(2014/5/15 毎日新聞)。統合することで両社ともパワーアップできると勢い込んでいる様子が伝わってきますが、はたしてどうなのでしょうか。

詳細はこちら。http://info.dwango.co.jp/pdf/news/service/2014/140514.pdf

■海外での日本の存在感のなさ

海外に行ってホテルでテレビを見るたびに思っていたことがあります。何十チャンネルもの放送局から数多くの番組が放送されているのに、日本の番組はといえば、NHKぐらいです。それもたいていの場合、テンポが遅く、画面が暗く、他のチャンネルに比べて見劣りがしました。なんとか見る気になったのはニュースですが、これもテンポが遅く、キャスターが自分の意見をいい過ぎなので、思わずチャンネルを変えてしまうことが多いのです。日本で見ているときはそれほど気にならなかったのですが、海外で見ていると、キャスターのコメントのつけ過ぎ、キャスター同士の卑近な会話が気になってしまうのです。無意識のうちに他の国のニュース報道のスタイルと比較して見ているからでしょう。

一方、タイ、ベトナム、中国などアジアの国々に行ってホテルのテレビを見ると、必ず韓国ドラマのチャンネルがあります。歴史ドラマ、都会風の恋愛ドラマがテンポよく、カラフルに表現されています。おもわずチャンネルを止めて見てしまいます。そして、ホテルを一歩出ると、今度は韓国ドラマで見た女優や男優があでやかに笑って商品を宣伝しているポスターや広告板をあちこちで見かけるといった具合です。ホテルでテレビを見ていると、あまりにも日本の存在感がなく、街に出ると、宣伝力のある日本人(女優、男優、タレント、歌手)の姿をポスターや広告板などで見かけることがないのでがっかりしてしまったことを思い出します。

■多言語対応

ドワンゴはニコニコ動画を英語や中国語に翻訳することで海外対応を急いでいるといいます。ようやくスタートしたのかと思いました。ネットで動画を配信すれば、世界に流通できますが、コンテンツが流通するだけでは意味がありません。そのコンテンツが理解できるよう多くの人々が理解できる言語に翻訳する必要があるのです。とりあえず、英語と中国語に対応しようとしているのは世界でこの二か国語を使用する人口が圧倒的に多いからでしょう。

NHKの国際放送は英語に対応しているだけです。いまや世界が英語と現地語を基本に、多言語対応をしようとしているというのに、日本のテレビは英語に対応しているだけなのです。ラジオの国際放送は18か国語に対応しているといいますが、基幹メディアであるテレビが多言語対応をしていかなければならないのではないでしょうか。すくなくとも英語の字幕を付与すべきではないかと思います。

■ネットとリアルが融合して生み出す、新たな流れ

ネットとリアルが融合して生み出す新しい流れとはどういうものなのでしょうか。日経新聞の説明によると、以下のようになります。

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たとえば、KADOKAWAのアニメ制作者とドワンゴの技術者が共同で映像作品をつくることで、新しいサービスが生まれる可能性があり。従来は既存の作品を動画サイトで流すだけだったが、視聴者の反応でストーリーが変化したり、登場人物と会話できたりする作品が考えられる。

ドワンゴの動画サービスに投稿された作品をもとに、KADOKAWAが出版物や音楽作品を販売することも検討する。「ニコニコ動画」では一般の利用者が自作の楽曲やキャラクターを発表している。こうした作品をKADOKAWAの編集者が商業製品に加工する考えだ。アニメや漫画などの「クールジャパン」のコンテンツを世界に発信する基盤づくりも狙う。

*******    日経新聞(2014/5/15)より

意欲的な取り組みが考えられているようです。ただ、せっかく新しい形式のコンテンツを考えたとしてもネットで配信する限り、すぐに複製されてしまう可能性が考えられます。あるいは、仕組みは整備されたとしても、コンテンツに魅力がなく、この種の取り組み自体が消滅してしまう可能性もあります。グローバルな競争の中でどのように活路を開いていくか、注意深く戦略を練る必要があるのではないでしょうか。

■ネット時代の競争力

ネットでコンテンツを配信するサービスではすでに、アマゾンが成功を収めています。また、豊富なコンテンツを抱えるディズニーはネット配信のアップルと関係があります。仕組みの面だけ見ても、強力な競合相手がすでにいくつも存在しているのです。実際、米AOLとタイムワーナーの統合は失敗しました。今回の旗揚げは日本にとって非常に意義深いのですが、どうすれば成功するかというモデルもないなか、進んでいかなければなりません。

ネット時代の競争力としては、豊富なコンテンツ、ネット配信の安全で精緻な仕組み、そして、地球規模の利用者に理解してもらうための翻訳が前提条件となるでしょう。その上で、どれだけ魅力的なコンテンツを安価でユーザーフレンドリーに配信できるかということが競争力の要点となるのではないでしょうか。

KADOKAWAの角川社長は「日本のプラットフォームができる」とアピールしているようです。その意気込みは素晴らしいと思いますが、ネット時代の競争力として必要な要件を踏まえ、取り組む必要があるでしょう。KADOKAWAとDWANGOの統合によって、ようやく日本はネット娯楽の発信者としてのスタートラインに立てたという気がします。(2014/5/15 香取淳子)

 

アリババの選択:パソコンからスマホ時代到来の象徴か?

■中国アリババ、米株式市場への上場を申請

中国アリババが米株式市場への上場を申請しました。5月6日のことです。よほどのビッグニュースだったのでしょう。海外メディアが一斉に取り上げていました。CNN等の報道によると、アリババの上場は米史上最大級の新規株式公開(IPO)になると専門家からは見られているようです。アリババの実際の株式公開は今夏以降だとされていますが、2012年にIPOで資金調達したフェイスブックをしのぐとさえいわれています。

中国のネット企業としては4月にもウェイボがナスダックに上場して2億8600万ドルの資金を調達したばかりです。相次いで中国ネット企業が米株式市場に上場していますが、なにか理由があるのでしょうか。最近、中国経済失速のニュースが絶えません。しかも各地で不穏な動きもあります。信州大学教授の真壁昭夫氏は、中国や香港など中国市場で株式公開を行うと、中国の規制によって現経営陣の支配力が低下することを懸念したからだと推察しています。

■ウォール街の興奮

ウォールストリートジャーナルは、「アリババの新規株式公開(IPO)によって米国はテクノロジー企業の上場先としての支配的な地位を占めるだろう」とアナリストが非公式に語ったことを伝えています。(THE WALL STREET JOURNAL, 2014/3/25) アリババの業績が堅調で、ビジネスモデルも確立した大企業だからです。この記事を書いたFrancesco Guerreraは、アリババやウェイボが米株式市場に上場を申請したことの理由を以下のように分析しています。

1.専門的投資亜やアナリストに加え、競合企業の大半がいる米市場には魅力がある、2.米国の技術は魅力的で、新規上場によって費やしたコスト以上の結果が得られる、等々です。中国のネット企業にとって米市場はその種の魅力があるのでしょうし、米市場にとって中国ネット企業の参入は規模の面で、興奮せざるを得ないほどの魅力があるのでしょう。

ちなみにロイターは以下のように、ネット関連企業の対比をグラフにしています。

ネット企業比較

 

出所:2014/5/5、ロイター作成

上記のグラフを見ると、アリババは売上高成長率、株価売上高倍率できわめて高い比率を示しています。このグラフを見る限り、アリババは今後ますます大きく成長していくことが予測されます。

■米ヤフーとの決別か?

日経産業新聞(2014/5/8付)は、この件について興味深い記事を載せています。上海の菅原透記者によるもので、彼は「待望の米上場に踏み切った裏には、発展期を支えた大株主の米ヤフーとの関係を事実上、断ち切る狙いがある」と分析しているのです。実際、アリババ関係者は「過去との決別」と語っているようです。アリババは2005年にヤフーから10億ドルの出資を得て、大きく成長しました。ところが、2011年ごろから両者の関係がまずくなったといいます。

アリババの創業者のジャック・マー氏、ヤフーの共同総合者のジェリー・ヤン氏、ソフトバンクの孫正義氏は創業以来、親交深く、ともに支えあいながら成長してきた起業家たちです。この三者はお互いに支えあってきましたが、ヤン氏が2009年にヤフーを退任した時点で、アリババと米ヤフーとの関係は終わっていたと関係者は語っているようです。アリババの米上場の報道に際し、孫正義氏が、「アリババは戦略的パートナー」といい「株式の売却は考えない」と語った(ロイター、2014/5/7)のも実はそのあたりの事情を配慮したからなのでしょう。

菅原記者は、アリババが米ヤフーと決別を狙っている理由として、アリババグループが2004年に設立したオンライン決済会社のアリペイの存在を挙げています。アリペイがマー氏が所有する中国企業に売却され、マー氏の所有になっていたことを米ヤフーが怒りました。アリババのマー氏はヤフーに間接的に収益の一部が渡るようにして折り合いをつけましたが、ヤン氏の退任を機に決別を企図したというのです。

■ネット時代の変化の兆しか?

米ヤフーは業績悪化に苦しんできました。たとえば、今年1月28日に発表された決算を見ると、4四半期連続の減収でした。オンラインディスプレイ広告と検索広告の料金が下がったからだといいます(ロイター、2014/1/28)。ところが、4月16日発表された決算をみると、アリババの好業績の影響を受けて、収益を向上させているようです。

詳細はこちら。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N43A0P6KLVS101.html

とはいえ、中核事業は依然として停滞しているようです。

詳細はこちら。http://japan.cnet.com/news/business/35046618/

検索大手として一時代を築いたヤフーに変化の兆しが見られるようになりました。ネットへの入り口がパソコンではなく、スマホに代表されるモバイル端末に移りつつあるからでしょう。ですから、アリババにとって、ソフトバンクはこれからも提携価値がありますが、検索だけの米ヤフーはその役割を終えつつあるとみなしたのかもしれません。

一方、アリババは4月28日、中国の動画配信サイト最大手の優酷土豆に出資すると発表しました。これでアリババの出資比率は16.5%になります(日経新聞、2014/4/29)。これによってアリババは自社のネット通販利用者の囲い込みを行い、娯楽事業を強化することになります。

アリババの最近の動きを見ると、ネットの主戦場がモバイル端末であり、ネット通販であり、動画サイトを通した娯楽だということになります。今後、アリババの動きも見逃すことができなくなりそうです。(2014/5/15 香取淳子)