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エイジレス社会

年金受け取り開始、75歳選択制へ

■年金受け取り開始年齢の引き上げ

2014年5月12日付の日経新聞によると、厚生労働相が公的年金の受け取り開始年齢について、個人の判断で75歳まで延ばせるよう検討する方針を明らかにしたといいます。いよいよ日本もそうなったのかという思いです。ただ、オーストラリアのように一律に年金開始年齢を75歳にするというのではありません。年金の受け取り開始を75歳まで引き延ばせるというだけです。

実は、現在も70歳まで年金の受け取りを延ばすことができます。たいていのヒトは65歳で受け取りますが、生活資金に余裕のあるヒトは70歳まで延ばすのです。というのも、支給の開始を遅らせると、その分、割り増し金をもらえるからです。これを「繰り下げ受給」というのですが、65歳で支給される年金を1か月遅らせると、0.7%増しとなります。70歳まで年金の受給を遅らせると、42%の増額になるといいます。これは国民年金、厚生年金とも同じです。

詳細はこちら。http://www.office-onoduka.com/nenkin2/koku_zougaku3.html

生活資金に余裕のあるヒトは支給年齢を延ばすことによって、最大42%もの増額となるのです。日経新聞は記事の中で、「富裕層の年金受け取りを遅らせることで、社会保障費の膨張を抑える狙いだ」と書いていますが、逆に支給額がこれだけ増額されるのであれば、社会保障費の膨張を増進させることになりはしないかと懸念されます。

78歳以上生きるのであれば、支給年齢を65歳以上にした方がいいと聞いたことがあります。日本人は男性、女性とも平均年齢は78歳を超えていますから、余裕があれば、繰り下げ受給した方が得だというのです。ですから、年金受け取り開始年齢を75歳まで引き上げるという政策は、割増率の見直し、一律開始等を併せて議論しなければ、意味がないのではないでしょうか。

■同じ日の日経新聞(5月12日付)の記事には、総務省の家計調査に基づき、高齢者の消費の伸びは人口の伸びよりも大きいと書かれています。高齢者が消費市場に大きな比重を占めつつあるのです。高齢人口が増加している社会では、若い世代に依存する存在として高齢者を捉えることはできなくなるでしょう。実際、高齢になっても健康で自身で仕事を生み出していくことのできるヒトも増えています。

■今後ますます健康で活動的な高齢者が増えていくでしょう。超高齢社会への対応策としては、年金受け取り年齢の引き上げよりむしろ、年齢ではなく能力によってヒトを判断し、それなりの働く場を用意する政策が必要なのではないでしょうか。高齢者が増大しつづける社会にはエイジレス社会の仕組みを導入していかなければ成り立たなくなっていくと思います。

■同じ日の日経新聞(5月12日付)で興味深いインタビュー記事を見つけました。セコム社長の前田修司氏は、日本が超高齢社会になっていることを踏まえ、世界で最も高齢化が進む国のサービスは今後、海外でも役立つと述べているのです。高齢者が増え、在宅医療、介護への需要が高まれば、そこに商機が生まれると彼が考えるていることがわかります。それは、超高齢化が日本だけのものではないからです。日本の次には先進諸国が超高齢社会になり、その後は、いまは発達途上国が高齢化への対応を迫られるようになるでしょう。

■科学技術が発達し、社会が豊かになれば、ヒトは滅多なことで死ななくなります。一方で、ヒトは自分の興味関心にかまけ、あまり子どもを産もうとは思わなくなるでしょう。子育てにはお金と時間がかかります。しかも、お金と時間をかけた割には子どもから報われることが少ないのが日本社会の現実です。

つい最近も先進国の中で日本がもっとも「母親にやさしくない国」だという調査結果が出たばかりです。国際組織セーブ・ザチルドレンが調査をした結果で、上位はフィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国で、日本は32位でした。先進諸国の中で最下位だったそうです。

詳細はこちら。http://www.excite.co.jp/News/column_g/20140510/Economic_34729.html

この調査が示すのが日本の実態だとするなら、子育てにかかるコストを避け、自分の好きなことを求めていこうとする若者が増えるのも無理はありません。つまり、少子高齢化の社会構造を変えるのは容易ではないと思われるのです。興味深いことに、この調査で上位を占めているのはいずれも福祉国家として名をはせている国です。高齢者を大切にする国、福祉の行き届いた国は、「母親にやさいい国」でもあるのです。そのことに注目すべきではないでしょうか。

■エイジレス時代への適切な対応を

超高齢社会のいま、生きること、老いること、そして、死んでいくことについて、誰もが考えなければならなくなりつつあります。高齢者に対して適切な対応をしていくことは一方で、子どもを生み、育てることの大切さを思い知ることになっていくことでしょう。エイジレスという観点から社会システムを構築していけば、子どもを生み、育てることにも適した社会システムになっていくのではないでしょうか。日本がいま経験していることはやがて世界のすべての国が考えなければならない課題になっていくのです。(2014/5/12 香取淳子)