■2026年版防衛白書の公開
防衛省は8月4日、2026年版の防衛白書を公開しました。これは防衛省が毎年発刊しているもので、日本の防衛政策や世界の軍事情勢への公式見解を示しています。
こちら → https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2026/pdf/R08zenpen.pdf
白書は610頁にも及ぶ大部なものですが、画像や図を多用し、わかりやすく説明され、全般に読みやすいものになっています。とはいえ、あまりにも膨大な情報量なので、報道各社は独自に2026年度の白書の要点を抽出しています。
たとえば、時事通信は2026年版防衛白書について、まず、無人機やAIを活用した「新しい戦い方」への対応を急ぐ必要性を強調し、安価な無人装備と従来のミサイルを組み合わせた「大規模な複合攻撃」が展開されたことに着目しています。
それらを踏まえ、長期戦への備えも課題になってきたとの認識を示したうえで、「平素からの備蓄や持続的な対応能力を確保することの重要性が浮き彫りとなっている」と指摘しています。
中国の軍事動向については、太平洋側に進出する中国軍の動きに警戒感を表明し、「総合的な国力」で対処すべきだと訴えています(※ 時事ドットコム、2026年08月04日15時26分配信)。
一方、日経新聞は2026年版の防衛白書のポイントを5項目に集約し、中でも、軍事の「中ロ協力」に着目しています。両国軍が「戦略的な連携を強めている」と指摘し、日本周辺の空海域で爆撃機や艦艇を使って共同で活動している事例を紹介しています。

(※ 日経新聞、2026年8月4日)
中ロは2019年以降、爆撃機の共同飛行を続けてきました。2025年12月には、中国の「H6」爆撃機とロシアの「Tu95」爆撃機が、東シナ海から太平洋方面に飛び、初めて四国沖まで進出しました。2026年6月にも、両国は同海域まで爆撃機を飛ばし、日本の危機感を煽っています。
爆撃機ばかりではありません。
両国は艦艇の共同航行も繰り返しています。白書は、共同航行の「活動海域が拡大する傾向にある」と説明し、2025年8月には日本海からオホーツク海、西太平洋方面と東シナ海に出る航路を同時に航行したと記しています。訓練内容も高度になり、潜水艦も参加するようになったと指摘しています。
白書で特に懸念されているのが、中国の軍事動向です。日本に対する「最大の戦略的な挑戦」だと記述し、中国は国防費を増大させているうえに、核やミサイル、艦艇や航空機などの戦力を急速に向上させているとし、危機感を募らせています。
実際、中国は日本に対し、さまざまな工作を仕掛けてきています。直近で問題になったのが、陸自のウイルス感染USB問題です。
■中国系ウイルスに感染した陸自のUSB
2025年2月5日午後3時30分ごろ、陸上自衛隊システム通信団のサイバー攻撃監視部隊でアラートが鳴り、ウイルスを検知しました。
ウイルスが潜んでいたのは、中部方面総監部(兵庫県伊丹市)にあったパソコンです。パソコンを操作していた総監部所属の男性隊員は、パソコンに接続されたLANケーブルを引き抜き、パソコン内部のウイルスチェックを行いました。完了までに6時間近くもかかりましたが、幸い感染は広がっていなかったといわれています。
隊員は当時、インターネットと接続する「オープン系」のパソコンにUSBを挿した状態でログインし、別の部隊から届いたメールの添付ファイルをダウンロードし、USBにコピーしていました。極秘情報を扱う「クローズ系」のネットワークに接続されたパソコンにデータを移すためでした。
USBにデータをコピーしている時、その隊員はパソコンの動作がいつもよりも遅く感じたそうです。念のため、パソコンに導入されているセキュリティソフトで、USBに保存されているファイルをチェックしたところ、ウイルスを検知したというのです。
データ転送に普段の10倍以上もの時間がかかったので、この隊員はウイルス感染に気付くことができました。結果として、自衛隊をサイバー攻撃の脅威から守ったことになりましたが、問題のUSBは正規品ではなく、中国系ウイルスに感染したものだったのです(※ 日経新聞、2026年7月1日)。
日経新聞は、ウイルスに感染したUSBがどのようにして陸自に渡り、使用されてきたか、その経緯を時系列でまとめています。
まず、自衛隊は、製造側で初期設定されたUSBを、2024年3月末に受け取っていますが、その経路は不明です。ウイルスに感染していることに気づかないまま、2024年4月から5月にかけて、USBの使用登録がなされています。
そして、ウイルスに感染していることに気づいたのが、2025年2月5日でした。ウイルスに感染していることに気づかないまま、約10ヶ月間、問題のUSBが使われていたのです。2月6日から下旬にかけて初期調査が行われましたが、システムにウイルスが侵入したことは確認されていません。
そして、この件に関する報告書が2025年5月にまとめられましたが、どういうわけか、公表されませんでした。
自衛隊のサイバー攻撃につながりかねない事案であったにもかかわらず、内々で処理され、調査結果が公表されなかったのです。
■日経新聞による報道
日本経済新聞は、2026年6月26日付の朝刊で、このUSB感染事案を報じました。なぜこの時期だったのかといえば、それは、同社が独自に「自衛隊の内部文書」を入手し、裏付け取材を行い、それが完了したタイミングだったからです。
この事案は、調査報道シリーズ「テック社会の罠」の第1弾として、報道されました。自衛隊の複数あるチェック体制が機能していなかったこと、同様のUSBが個人や企業に流通しており、類似の被害が広がるおそれがあること、等々を危惧し、民間や自治体へ警鐘を鳴らす目的で行われました。
日経新聞は、ウイルス感染USBの使用経緯を次のように図式化し、説明しています。

(※ 日経新聞、2026年6月26日)
この図を見ると、改めて、多重チェックできるシステムを構築していながら、それが機能していなかったことがわかります。
内部調査で同じウイルスに感染したUSBが計6本見つかりました。しかも、同総監部のパソコン約480台を調査すると、それらが50台以上に接続されていたことが分かったのです。このうち半数近くは、部隊の指揮命令など極秘情報を扱う「クローズ系」システムに接続されたものでした。
陸自のシステムは、「クローズ系」と外部と接続できる「オープン系」の2つに分かれ、システム同士は遮断されています。業務上、システムをまたぐデータのやりとりが頻繁に発生するため、日常的にUSBを使用してデータを移行しているのです。
さらに、自衛隊をサイバー攻撃から守る陸自サイバー防護隊が、回収したUSBを分析したところ中国製の偽装品だと分かりました。記憶媒体として安価なマイクロSDカードが使われており、そこにウイルスが仕込まれていたのです。容量もパソコンでは1テラバイトと認識されますが、実際は4分の1の240ギガバイトしかありませんでした(※ 日経新聞、2026年6月26日)
詳しい情報を知れば知るほど、なぜ、自衛隊でこのようなことが起こったのか。なぜ、長期にわたってウイルス感染に気づかないまま、USBを使用し続けたのか。チェック体制の甘さ、管理体制の甘さに憤りを感じざるをえません。
■防衛大臣の記者会見
日経新聞の報道を受けて、小泉防衛大臣は6月26日、閣議後に記者会見を行いました。
こちら → https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2026/0626a.html
この記者会見は閣議後、6月26日の8:50から9:09まで行われました。この件について、日経新聞の記者は、①こういった事案があったことを公表した方が良かったのではないか、②サプライチェーンの安全保障を実践する上で、今回、判明したチェック体制の不備についてどのように改善していくか、などの2点を質問しました。
これについて小泉大臣は、次のように答えています。
公表については、「お尋ねの公表につきましては、本件のUSBメモリの同型製品に同様にマルウェアが含まれているかといった点について、防衛省・自衛隊として判断し、公表することは困難であると考えておりますが、今後、国家サイバー統括室(NCO)への情報共有を適切に行うなど、我が国全体のサイバーセキュリティの強化に貢献していく考えです」
日経新聞の記者としては、2025年5月に出された報告書の公表を質問したのでしょうが、小泉大臣は、公表は困難だとしています。自衛隊が使用したUSBにマルウェア感染が見つかったことの詳細についての公表難しいとの判断でした。外交上の問題に発展する可能性を懸念したのかもしれません。
そして、改善策については、「本件においては、USBメモリの使用に際し、例外なくウイルスチェックを実施し、安全性を確認するという規則が遵守されていなかったことは問題だったと考えています。こうしたことが起きないよう、現在、ウイルスチェックの実施を徹底しているところです」
こちらは、チェック体制および取り扱い規則の遵守に努めるということでした。
一方、陸上幕僚監部は6月26日、陸上自衛隊中部方面総監部のUSBメモリがウイルスに感染していたことを公表しました。同総監部で2025年2月、USBにマルウエア(悪意のあるソフトウェア)が含まれると検知したが、経緯については改めて調査するとしています。陸幕は、「マルウェアによる情報の漏洩はなかった」、「USBを接続した陸自のシステム内へのマルウェアの拡散もない」と発表しています(※ 日経新聞、2026年6月27日)。
こちらも、小泉大臣と同様、感染したUSBの製造元や本数、詳細な使用期間、接続したシステムの規模については明かしていません。陸幕は27日、日本経済新聞の取材に「改めて調査している」と回答し、調査結果は判明し次第、公表する方針だと述べました。(※ https://www.mod.go.jp/gsdf/news/press-conference/2026/0630/)
この事案の問題は、ルール化されていたはずの安全確認のプロセスが、現場では完全に形骸化・機能不全に陥っていたことにあります。しかも、自衛隊は調査をしておきながら、この件についての報告書を公開しませんでした。情報を公開して、同じようなリスクを回避することをしなかったのです。改めて、自衛隊の危機管理の脆弱さと隠ぺい体質に危機感を覚えます。
■自衛隊のUSB管理体制
自衛隊では日常的にUSBが使われていますが、私物の使用は一切認めていません。部署ごとにあらかじめ登録したUSBしか使えない「ホワイトリスト方式」を採用し、厳重に管理しているとされています。
USBのデータは全て暗号化され、紛失や不正な持ち出しによる情報流出を防ぐ仕組みができており、厳重なチェック体制が敷かれているのです。
ところが、今回の件で、自衛隊で粗悪なUSBが登録され、使われていたことがわかりました。見つかったウイルスは、自衛隊の暗号化処理がなされておらず、新品の段階で、すでにウイルスがUSBの中に潜んでいた可能性が明らかになったのです。
一連の経緯をみて、不思議に思うのは、自衛隊には納品時の検品でウイルス感染がないことを確認する手続きがあるのに、なぜ、その段階でウイルスを排除できなかったのでしょうか。
また、今回、隊員が手動でチェックしなければ、ウイルスが見つかることはありませんでした。本来、パソコンに導入されているはずのセキュリティソフトで、なぜ自動的にウイルスを検出できなかったのでしょうか。理解に苦しみます。USBだけセキュリティソフトの検査対象から外れされていた可能性も考えられます。
興味深いことに、セキュリティソフトの設定は外部の業者に任せていたそうです。ひょっとしたら、この段階で、USBだけセキュリティソフトの検査対象から外れされたのでしょうか。だとすれば、それは自衛隊側の指示によるものだったのか、それとも、外部業者の判断だったのか、調べる必要があると思います。
さらに、USBの調達経路にも謎が残ります。
■マルウェア入りUSBメモリの入手経緯
自衛隊の内部文書には「陸自から要望を出し石川県が支払う形で調達した」という記述があります。ところが、石川県は「調達した事実や購入費を支払った記録は確認できなかった」としており、関与を認めていません(※ 日経新聞、2026年7月1日)。
日本経済新聞が入手した自衛隊の内部文書によると、問題のUSBは、陸自の中部方面総監部(兵庫県伊丹市)が24年3月に、石川県から受け取ったものでした。受け取った8本の中国製USBのうち、6本にウイルス感染が確認されています。
石川県側は「当該USBを調達した事実や、購入費を支払った記録は確認できなかった」としており、調達自体を否定しています。ウイルス感染USBを誰がどこで調達したのか確認できず、実態が把握できていない状況なのです(※ 日経新聞、2026年6月26日)。
これはウイルスの来歴を知る上で、きわめて重要な情報です。それにもかかわらず、調達経路についての記録が残っておらず、しかも、提供された自衛隊と提供した石川県との間で、主張が食い違ったままなのです。
そもそも自衛隊には、災害派遣で訪れた地域の自治体から、物品提供を受ける慣行があるといいます。2024年1月に発生した能登半島地震でも、さまざまな物品提供があり、問題のUSBはその時、提供されたものだと考えられています。ところが、石川県は、そのUSBの調達経緯を把握していないのです。
これまでみてきたように、ウイルス感染USBの入手経緯に関する問題点としては、二点、考えられます。すなわち、①災害派遣(能登半島地震)での受領、②ECサイトから入手した偽装品、などです。①についてはすでに報道されていますので、②の可能性についてみていくことにしましょう。
陸自のサイバー防護隊が、回収したUSBを詳細に分析したところ、これらはアマゾンや楽天市場などのインターネット通販で広く出回っている「中国製の偽装品(詐欺商品)」であることが判明しました。本体には「中国に所在する企業の名称」が記載されていたといいます。
ECサイトで相場の半値近い価格で売られているUSBの大半は中国製です。口コミ投稿を見ると、購入者から多くの偽装被害が報告されています。組み立て工程で偽装加工が可能な状況にあるとみられ、そこでウイルスが仕込まれた可能性が考えられます(※ 日経新聞、2026年6月25日)。
さて、この件で調査すべきことの一つが、マルウェア感染した中国製の偽装USBメモリの調達経緯でした。一連の経緯をみてくると、問題のUSBはどうやらECサイトで調達したものである可能性が高まってきました。
■USB依存のリスク
陸上自衛隊のシステムは、インターネットに接続する「オープン系」と、秘匿性の高い情報を扱う「クローズ系」に分けて運用されています。このようなネットワーク分離は、外部からの攻撃や情報漏洩を防ぐための重要な対策です。
一方、自衛隊では業務上、システム間でデータをやり取りする必要があり、その手段としてUSBメモリが日常的に使われていました。
今回、ウイルス感染のUSBメモリは、中国製の偽装品で、本来のメモリチップではなく、安価なマイクロSDカードが組み込まれていたものでした。それが複数の端末に接続され、一部はクローズ系システムにも使われていたのです。
自衛隊のシステムを図示すると次のようになります。

(※ 日経新聞、2026年6月25日)
USBメモリは手軽で便利な道具です。ところが、その手軽さの背後に、USBメモリの製造・調達・流通過程に起因するリスク、さらには、マルウェア感染のリスクや管理の不徹底によるウイルス拡散リスクがあるのです。
今回の一件からは、ネットワークから切り離された環境下で、データをどう安全に移動させるのかという問題が浮き彫りにされました。デジタル技術の活用という点では、AIやクラウド、データ分析といったテーマに注目が集まりがちですが、現場で生まれたデータを安全に移動することができなければ、データの有効な利活用にはつながらないことが認識されました。
改めて、ネットワーク分離環境下におけるデータ転送の課題を考えていく必要があるでしょう。
実は中国人によるサイバー攻撃は、今回の事件に始まったことではないのです。
■中国系スパイ集団「Tick」
警視庁は21年12月、偽名を使ってソフトを購入しようとした容疑で、中国人留学生の逮捕状を取ったことがあります。サイバー攻撃で使われた日本国内のサーバーを偽名で契約していたのも、この留学生でした。
そのサーバーは大規模サイバー攻撃の「踏み台」として悪用されており、2016年から17年にかけて、三菱電機や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など約200の企業や研究機関が被害を受けていました(※ 日経新聞、2026年6月29日)。
警視庁の聴取に応じた留学生は、中国国内にいる人物から「国に貢献するため」と迫られ、スマホのチャットアプリを通じ、様々な指示を受けており、サーバーの偽名契約もその一つでした。
また、この留学生は、「日本製のUSBメモリを大量に送れ」と指示されて、アマゾンでUSBを購入し、中国青島の住所に送っていました。留学生に指示を出したとみられる人物の人脈を警視庁がたどると、人民解放軍とのつながりが浮かび上がってきたといいます。
この人物の家族に、中国人民解放軍のサイバー攻撃部隊「第61419部隊」の関係者がいたのです。「第61419部隊」は青島を拠点に、サイバー攻撃を仕掛ける役割を担っており、中国系のサイバースパイ集団を指揮しているとされています。
このスパイ集団は日本を標的に攻撃を繰り返しており、日本や欧米の捜査機関から「Tick」と呼ばれ、警戒されています。日本に特化したサイバー攻撃を仕掛けた痕跡もあります。その一つがUSBにウイルスを仕込んだ新手の攻撃でした。
警察庁は、見つかったウイルスや通信記録などから、「Tick」の仕業だと断定したのです。このサイバー攻撃では、留学生が青島に送ったUSBが攻撃の手口を研究する材料となった可能性がありました。「Tick」は、USB以外に、日本国内だけで流通するセキュリティソフトも標的にしており、留学生にそれらを購入するよう指示していました。
スパイ工作のため、身近な情報窃取の手段としてUSBに目をつけたのは、なにも中国軍だけではありません。ロシアでもサイバー犯罪集団によるUSBを使った攻撃が確認されているといいます。
警察幹部は、USBが孕む危険性について、「USBはセキュリティ対策として最も警戒すべきIT機器だが、身近すぎて意識されていない。社会の死角が狙われている」と訴えています(※ 日経新聞、2026年6月28日)。
実際、サイバー攻撃の手段として、USBメモリが繰り返し使われるようになっているといわれます。あまりに身近すぎて盲点になっているのでしょう。残念なことに、USBメモリをサイバー攻撃の手段の一つと見なければならなくなっているようです。
■中国系スパイ集団「Tick」
警視庁は21年12月、偽名を使ってソフトを購入しようとした容疑で、中国人留学生の逮捕状を取ったことがあります。サイバー攻撃で使われた日本国内のサーバーを偽名で契約していたのも、この留学生でした。
そのサーバーは大規模サイバー攻撃の「踏み台」として悪用されており、2016年から17年にかけて、三菱電機や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など約200の企業や研究機関が被害を受けていました(※ 日経新聞、2026年6月29日)。
警視庁の聴取に応じた留学生は、中国国内にいる人物から「国に貢献するため」と迫られ、スマホのチャットアプリを通じ、様々な指示を受けており、サーバーの偽名契約もその一つでした。
また、この留学生は、「日本製のUSBメモリを大量に送れ」と指示されて、アマゾンでUSBを購入し、中国青島の住所に送っていました。留学生に指示を出したとみられる人物の人脈を警視庁がたどると、人民解放軍とのつながりが浮かび上がってきたといいます(※ 前掲)。
この人物の家族に、中国人民解放軍のサイバー攻撃部隊「第61419部隊」の関係者がいたのです。「第61419部隊」は青島を拠点に、サイバー攻撃を仕掛ける役割を担っており、中国系のサイバースパイ集団を指揮しているとされています(※ 前掲)。
このスパイ集団は日本を標的に攻撃を繰り返しており、日本や欧米の捜査機関から「Tick」と呼ばれ、警戒されています。日本に特化したサイバー攻撃を仕掛けた痕跡もあります。その一つがUSBにウイルスを仕込んだ新手の攻撃でした。
警察庁は、見つかったウイルスや通信記録などから、「Tick」の仕業だと断定したのです。このサイバー攻撃では、留学生が青島に送ったUSBが攻撃の手口を研究する材料となった可能性がありました。「Tick」は、USB以外に、日本国内だけで流通するセキュリティソフトも標的にしており、留学生にそれらを購入するよう指示していました (※ 前掲) 。
スパイ工作のため、身近な情報窃取の手段としてUSBに目をつけたのは、なにも中国軍だけではありません。ロシアでもサイバー犯罪集団によるUSBを使った攻撃が確認されているといいます。
警察幹部は、USBが孕む危険性について、「USBはセキュリティ対策として最も警戒すべきIT機器だが、身近すぎて意識されていない。社会の死角が狙われている」と訴えています(※ 日経新聞、2026年6月28日)。
実際、サイバー攻撃の手段として、USBメモリが繰り返し使われるようになっているといわれます。あまりに身近すぎて盲点になっているのでしょう。残念なことに、USBメモリをサイバー攻撃の手段の一つと見なければならなくなっているようです。
■防衛省の新サイバー対策
防衛省は、陸自で使用していたUSBメモリのマルウェア感染問題を教訓に、26年度末にも新たな戦略を策定し、機密情報の漏洩を防ぐ態勢を整える予定です。そして、2027年には、防衛装備品や省内システムへの全てのアクセスに、不審な点がないかを検証する仕組みを導入するとしています。
外部からのサイバー攻撃だけでなく、装備品と部隊を結ぶネットワークなど内部のアクセスも常に確認する体制に改める必要があるからです。
新たに採用するのは、内部アクセスを安全だと決めつけず、ネットワーク内外の全てのアクセスを検証する「ゼロトラスト」の考え方に基づいたシステムです。従来の対策は外部からの攻撃を防ぐのが中心でしたが、サイバー攻撃の手口は巧妙になっており、外部との接続点だけでなく、内部システム全ての動きに網を広げるというのです。
ゼロトラストとは、社内と社外の境界をなくし、「何も信頼しない」を前提に、すべてのアクセスを検証するセキュリティの考え方を指します。いってみれば、「性悪説」に基づいて、ネットワーク内外の全てのアクセスを検証するのです。
サイバー攻撃の手口が巧妙化する中、外部からの攻撃だけでなく、内部システムへのアクセスも含めた全ての検証を行う必要がでてきたのです。
陸自のウイルス感染USB問題は、誰にとっても身近なデバイスが、サイバー攻撃の手段になりかねないことを知らせてくれました。うっかりしていると、気づかないまま、情報が漏洩していたり、加工されていたりする可能性があるのです。
被害の拡大を防ぐために、日本でも「性悪説」に基づくシステムを導入せざるをえなくなっているのが現状です。これまで「性善説」で組み立てられ、機能してきた日本社会にも何かしら変容がもたらされるのでしょうか。(2026/8/6 香取淳子)




