ヒト、メディア、社会を考える

近未来

第2回AI・人工知能EXPO: AI・人工知能時代の事業価値とは?

■第2回AI・人工知能EXPOの開催
 2018年4月4日から6日まで東京ビッグサイト東展示棟で、「第2回AI・人工知能EXPO」が開催されました。私が訪れたのは4月5日の午後でしたが、国際展示場正門駅を下車すると、人々が続々とビッグサイトに向かっているのが見えました。

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 展示会場に向かって進むにつれ、ますますヒトの混み具合が激しくなってきました。AI・人工知能への関心がよほど高まっているのでしょう。思い返せば、その予兆はありました。私は、「AIが変えるビジネス」というセミナーに参加したかったのですが、申し込もうとした時点ですでに満席でした。

 代わりに、「注目の海外ベンチャー企業」というタイトルのセミナーに申し込みましたが、それでも、開催日までに二度ほど「キャンセルの場合、早めにご連絡ください」というメールがきました。そういうことはこれまでに経験したことがありませんでした。なんといっても東京ビッグサイトは巨大な催事場です。キャンセル待ちが出るとは思いもしませんでした。ところが、担当者によると、このセミナーにはなんと3000名もの申し込みがあったそうです。

 もちろん、セミナーばかりではありません、展示会場もヒトで溢れかえっていました。主催者が撮影した初日の会場風景を見るだけでも、AI・人工知能に対する人々の関心の高さがわかります。

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 改めて周囲を見渡してみると、全国各地からさまざまな領域の人々がビッグサイトに馳せ参じていました。AIこそがこれからの社会の大きな変革要因になると多くのヒトに認識されていることがわかります。

 それでは、4月5日、15:00から始まったセミナーの一端をご紹介していくことにしましょう。

■注目の海外ベンチャー企業
 このセミナーでは、ViSenzeの共同創始者兼CEOのOliver Tan氏と、データサイエンティストでありDataRobotのCEOであるJeremy Achin氏が登壇し、講演されました。とくに私が興味を抱いたのが、Oliver Tan氏の講演内容でした。

 Oliver Tan氏の講演をかいつまんでご紹介しましょう。

 Tan氏は2012年にViSenzeを設立して以来、デジタルコンテンツ、eコマースなどの事業に取り組んできました。その間、①小売りにおける人工知能の活用、②ビジュアル・コンテンツの増進、③映像認識におけるイノベーション、等々の変化が起きているといいます。

 その背景として、Tan氏は3つの要因を挙げます。すなわち、非構造化データが大幅に増えた結果、ネット上はいま、データの洪水状態になっているということ、ハードウエアが高性能化し、演算当りの単価が安価になっているということ、利用可能なアルゴリズムがあるということ、等々です。

 非構造化データがどれほど増えたかといえば、現在、ネット上には30億以上の映像・画像が投稿されていることに示されています。なんと、ネット上の80%以上が映像や画像などのビジュアル・コンテンツだというのです。つまり、膨大な非構造化データがネットには溢れかえっているのです。ところが、タグが付いていないので、これらを利用することができません。せっかくのデータを活用できないのです。これが大きな問題となっているとTan氏はいいます。

 今、急成長しているのがビジュアル・サーチのAIなのだそうです。映像・画像などの非構造化データを利用するためのAIが注目されていますが、ネット上の情報の80%以上が映像・画像情報だということを考えれば、それも当然の成り行きでしょう。AI市場は今後、2022年までに50億規模の市場になるといわれていますが、中でも注目されているのが、非構造化データの処理に関わるAIだといえます。

 Tan氏は、ビジュアル・コンテンツの非構造化データを小売り事業に活用している先進事例の一つとして、アリババのマジックミラーを挙げました。簡単に触れられただけだったので、具体的にどういうものなのか知りたくて、帰宅してから調べてみました。

 内外のいくつかの記事から、このマジックミラーは、アリババの新たな小売り戦略とも関連する実験だったことがわかりました。

■アリババの実験
 アリババは2009年以来、毎年11月11日を独身の日とし、セールを行ってきました。売上は年々増加し、2017年11月11日は1682億元を達成しました。なんとたった一日で、日本円に換算すれば2兆87億円も売り上げたのです。

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(図をクリックすると、拡大します。https://toyokeizai.net/より)

 「独身の日」は中国語で「光棍节」といい、ショッピングイベントとして大きな経済効果を上げています。独身者同士が集まってパーティを開いたり、プレゼントをしたりするための消費が促進されているのです。毎年決まった日にイベントセールを実施することで、独身者の潜在需要を掘り当てたのです。

 実際、この日の売上高を開始期から時系列でみていくと、年々大幅に増加していることがわかります。

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(図をクリックすると、拡大します。Alibabaより)

 Yuyu Chen氏は「DIGIDAY」日本語版(2017年11月17日)で、これに関連し、興味深い指摘をしています。つまり、アリババにとって、独身の日はたった1日で数百億ドルの売り上げをもたらすショッピングの祭典というだけではなく、小売業界のイノベーションを誘導するさまざまな実験を行う機会でもある、というのです。

■オンラインとオフライン
 アリババについて調べているうちに、興味深い調査結果を見つけました。E-コマースで多大な実績を上げるアマゾンとアリババについて調査をした結果、人々の消費行動全体でみると、いずれも伝統的な店頭販売にははるかに劣ることが判明したのです。

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(図をクリックすると、拡大します。https://www.cbinsights.com/より)

 アマゾンにしてもアリババにしても現在のところ、E-コマースを圧倒していますが、アメリカでは90%以上、中国も80%以上が店頭販売でモノが購入されていることがわかったのです。ですから、両社にとって、次の大きな成長機会は実店舗での販売をどのように取り込めるかということになります。

 アリババはすでにオフラインとオンラインの統合の利点を了解しており、2017年の「独身の日」で実店舗を中国国内にいくつか設置し、さまざまな実験を行いました。そのうちの一つが、先ほど言いましたマジックミラーです。

■マジックミラー
 これまでアリババはオンライン上にポップアップストア(期間限定ストア)を開設してきましたが、今回の「独身の日」セールで初めて、実店舗のポップアップストアを設置しました。

 中国国内12都市、52か所のショッピングモールでオープンし、10月31日から11月11日まで営業しました。新展開の目玉の一つがマジックミラーでした。

 「マジックミラー」と名付けられた画面では、買い物客はサングラスや化粧品、衣料品などの商品をバーチャルに試着することができます。試着してみて商品が気に入ったら、スクリーン上のQRコードをスキャンして、アリババのモバイル決済サービスAlipay(アリペイ)で購入することができるという仕組みです。

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(図をクリックすると、拡大します。Alibabaより)

 実際に手に取ってみることのできない商品でも、この装置があれば、気軽にさまざまな商品を試してみることができます。消費者にしてみれば、これまでよりもはるかに容易に、納得した上で、意思決定をすることができるようになります。実店舗ならではの実験です。

 アリババはこのように、新しいテクノロジーを駆使して、さまざまな実験を行い、購入を決意する消費者側のデータを収集しているのです。新しい事業モデルを構築するには不可欠のデータを掘り起こしているともいっていいかもしれません。大量の消費者が集う「独身の日」はまさに、アリババにとって貴重なマーケティングの日だといえるでしょう。

 たとえば、今回、導入したマジックミラーの場合、小売における新しいアイデアが今後、投資に値するものなのか、それとも、修正が必要なものなのかを判断するための根拠として、アリババは消費者の反応と売上の結果を重視します。データ化された情報を駆使し、できるだけ精密に消費行動を把握し、事業モデルを組み立てていきます。

 大量の消費者が動く「独身の日」はアリババにとって、単に大量に商品が売れる場ではなく、大量の消費行動データが得られる場でもあります。つまり、次のステップを踏むための基盤にもなる重要なイベントなのです。

■アリババの「新小売り戦略」
 さて、今回、実店舗を設置した中国の各所で実験されたのが、マジックミラーであり、AR(拡張)ディスプレイエリアでした。いずれも、単なるオンラインイベントを超えた試みでした。Yuyu Chen氏は、これらの実験はアリババの新小売り戦略に沿ったものだと記しています。

 そこで、関連記事をネットで検索してみました。すると、下記のような記事がみつかりました。タイトルは「Jack Ma outlines new strategy to develop ‘Alibaba economy’」(ジャック・マー、「アリババ経済」を開発する新しい戦略を概説する)です。2017年10月17日付の記事ですから、「独身の日」の約1か月前の取材情報です。

こちら →
http://www.thedrum.com/news/2017/10/17/jack-ma-outlines-new-strategy-develop-alibaba-economy

 これを読むと、アリババのCEOジャック・マー氏は、「E-コマースは急速にビジネスモデルを進化させ、「ニューリテール」(新小売り)」の段階に入っているという認識を示しています。やがてはオンラインとオフラインの境界が消滅していくと彼は考えており、その対策として、各消費者の個人的なニーズに焦点を当てたサービスを展開しなければならないとしています。

 さらに彼は、中国ではアリババのニューリテール・イニシアチブ(新小売り戦略)は、5つの新しい戦略の出発点として形を成しつつあるといいます。この5つの新しい戦略とは、「ニューリテール」、ニューファイナンス」、「ニューマニュファクチュアリング」「ニューテクノロジー」「ニューエナジー」を指します。

 このような構想の下、1億の雇用を生み出し、20億の消費者にモノやサービスを提供し、1000億の収益性の高い中小企業を支援するプラットフォームになるよう計画しているとジャック・マーは宣言しています。さらに2036年までには、アリババのインフラがトランザクション価値を結びつける商業活動を支援し、世界ビッグファイブの経済としてランクされるようになるだろうとも予測しています。

 興味深いのは、ジャック・マー氏が、一般株主は我々に利益をあげることを期待しているが、我々の存在価値はお金を稼ぐことだけにあるのではないと強調していることでした。どうやら彼はアリババの事業を通して、商業活動以上の社会的活動を企図しているようです。

 ジャック・マー氏はこんなことも書いています。

「もしアリババが農村部や中国全土の貧困地域を手助けし、テクノロジーによって生活状況を改善することができるとすれば、世界のその他の地域にも大きな影響を与える機会を持てるようになる。テクノロジーは世界の富の格差を広げることの原因になるべきではない」と。

 このような考え方を知ると、アリババの存在価値がお金を稼ぐことだけにあるのではないとジャック・マー氏が強調していたことの背景がわかってきます。

 テクノロジーの力を活用して農村部や貧困地域を豊かにする一方で、この新小売り戦略は、グローバルなサプライチェーンの再構築をもたらし、グローバル化の形勢を大企業から中小企業へと変化させるだろうとジャック・マー氏はいいます。このことから、経済の合理化を進めるだけではなく、社会的公平性をも実現しようとしていることがうかがい知れます。

 三菱総合研究所の劉潇潇氏も、アリババ・グループのCEOジャック・マーク氏が2016年10月に発表した小売り戦略に注目しています。この戦略は、オンラインとオフラインをうまく使い分けることによって、より精密なターゲティングを行い、顧客により深い感動を与えることを目指す戦略だと指摘しています。(https://toyokeizai.net/)

 たしかに、この戦略は消費者の心を捉え、消費者とつながることを目指したものだと思います。とはいえ、2017年10月に取材された記事から、ジャック・マー氏の考え方を推察すると、私には、単なる顧客獲得を超えた大きな世界観に支えられた市場戦略のようにも思えてきます。

■事業が追及する価値とは?
 4月18日、日経新聞を読んでいて、興味深い記事に出会いました。価値創造リーダー育成塾で嶋口充輝氏(慶應義塾大学名誉教授)が行ったキーノート・スピーチを原稿に起こしたものでした。

「事業が追及する価値は、合理性・効率性を追求する「真」の競争から社会的責任や社会貢献を意識した「善」の競争、そして、品位や尊厳、思いやりなどの「美」を追求する競争へと移ってきました」と、まず、事業に対する現状認識を示しています。その上で、嶋口は、今後の展開として、以下のように続けます。

「これからの時代の企業は、その事業姿勢や行動を「美しさ」から発想し、「社会的有益性」を踏まえ、結果的に収益性や効率性に結び付ける「美善真」というスタイルが求められると思います」といい、「美しさ」主導の事業姿勢を「あるべき姿」と打ち出しています。

 一見、理想主義的な意見に思えたのですが、再び読み込むと、実はきわめて長期的展望に立った見解だという気がしてきました。そして、そういえば、ジャック・マー氏も似たようなことを言っていたなと、先ほどご紹介したアリババの新小売り戦略を思い出しました。思い返しているうちに、振り返って、第2回AI・人工知能EXPOの記事を書こうと思い立ったのでした。

■AI・人工知能時代の事業価値とは?
 AI・人工知能が中心になって社会を動かしていく時代に、求められる事業価値とはいったい、何なのでしょうか。今回、第2回AI・人工知能EXPOに参加してみて改めて、そのことを考えさせられました。

 もはやヒトはモノやサービスを、効率性、経済性、有益性だけで購入するわけではなくなってきています。そんな時代に事業活動を継続的に行っていくには、モノやサービスに消費者の心を動かす何かが付随していなければならないでしょう。心のつながりが生まれて初めて、事業活動が消費者から強く支えられ、継続していくことができるようになるのでしょうから・・・。

 そして、心のつながりの動機づけになるのは、なによりも、対象にたいする信頼感であり、尊敬の念であり、憧れであり、崇拝の念でしょう。

 そう考えてくると、AI・人工知能の時代には、美しさや品格といった数値化しがたい要素が価値を持ってくるような気がしてきます。

 今回、「注目の海外ベンチャー企業」というセミナーに参加し、Oliver Tan氏の講演内容から、私は、先進事例として紹介された、アリババの「独身の日」の実験に興味を抱きました。Tan氏はビジュアル・サーチAIの一例としてマジックミラーを紹介されたのですが、私はむしろ、「独身の日」に、実店舗で行われたこの実験の方に興味を覚えてしまったのです。

 種々、調べることになりましたが、その結果、いろんなことがわかってきました。セミナーが一種の触媒の役割を果たし、AI・人工知能時代の事業の意味を考えることになったのです。改めて、ヒトは選択的に話を聞くものなのだということを思い知らされました。(2018/4/20 香取淳子)

年金受け取り開始、75歳選択制へ

■年金受け取り開始年齢の引き上げ

2014年5月12日付の日経新聞によると、厚生労働相が公的年金の受け取り開始年齢について、個人の判断で75歳まで延ばせるよう検討する方針を明らかにしたといいます。いよいよ日本もそうなったのかという思いです。ただ、オーストラリアのように一律に年金開始年齢を75歳にするというのではありません。年金の受け取り開始を75歳まで引き延ばせるというだけです。

実は、現在も70歳まで年金の受け取りを延ばすことができます。たいていのヒトは65歳で受け取りますが、生活資金に余裕のあるヒトは70歳まで延ばすのです。というのも、支給の開始を遅らせると、その分、割り増し金をもらえるからです。これを「繰り下げ受給」というのですが、65歳で支給される年金を1か月遅らせると、0.7%増しとなります。70歳まで年金の受給を遅らせると、42%の増額になるといいます。これは国民年金、厚生年金とも同じです。

詳細はこちら。http://www.office-onoduka.com/nenkin2/koku_zougaku3.html

生活資金に余裕のあるヒトは支給年齢を延ばすことによって、最大42%もの増額となるのです。日経新聞は記事の中で、「富裕層の年金受け取りを遅らせることで、社会保障費の膨張を抑える狙いだ」と書いていますが、逆に支給額がこれだけ増額されるのであれば、社会保障費の膨張を増進させることになりはしないかと懸念されます。

78歳以上生きるのであれば、支給年齢を65歳以上にした方がいいと聞いたことがあります。日本人は男性、女性とも平均年齢は78歳を超えていますから、余裕があれば、繰り下げ受給した方が得だというのです。ですから、年金受け取り開始年齢を75歳まで引き上げるという政策は、割増率の見直し、一律開始等を併せて議論しなければ、意味がないのではないでしょうか。

■同じ日の日経新聞(5月12日付)の記事には、総務省の家計調査に基づき、高齢者の消費の伸びは人口の伸びよりも大きいと書かれています。高齢者が消費市場に大きな比重を占めつつあるのです。高齢人口が増加している社会では、若い世代に依存する存在として高齢者を捉えることはできなくなるでしょう。実際、高齢になっても健康で自身で仕事を生み出していくことのできるヒトも増えています。

■今後ますます健康で活動的な高齢者が増えていくでしょう。超高齢社会への対応策としては、年金受け取り年齢の引き上げよりむしろ、年齢ではなく能力によってヒトを判断し、それなりの働く場を用意する政策が必要なのではないでしょうか。高齢者が増大しつづける社会にはエイジレス社会の仕組みを導入していかなければ成り立たなくなっていくと思います。

■同じ日の日経新聞(5月12日付)で興味深いインタビュー記事を見つけました。セコム社長の前田修司氏は、日本が超高齢社会になっていることを踏まえ、世界で最も高齢化が進む国のサービスは今後、海外でも役立つと述べているのです。高齢者が増え、在宅医療、介護への需要が高まれば、そこに商機が生まれると彼が考えるていることがわかります。それは、超高齢化が日本だけのものではないからです。日本の次には先進諸国が超高齢社会になり、その後は、いまは発達途上国が高齢化への対応を迫られるようになるでしょう。

■科学技術が発達し、社会が豊かになれば、ヒトは滅多なことで死ななくなります。一方で、ヒトは自分の興味関心にかまけ、あまり子どもを産もうとは思わなくなるでしょう。子育てにはお金と時間がかかります。しかも、お金と時間をかけた割には子どもから報われることが少ないのが日本社会の現実です。

つい最近も先進国の中で日本がもっとも「母親にやさしくない国」だという調査結果が出たばかりです。国際組織セーブ・ザチルドレンが調査をした結果で、上位はフィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国で、日本は32位でした。先進諸国の中で最下位だったそうです。

詳細はこちら。http://www.excite.co.jp/News/column_g/20140510/Economic_34729.html

この調査が示すのが日本の実態だとするなら、子育てにかかるコストを避け、自分の好きなことを求めていこうとする若者が増えるのも無理はありません。つまり、少子高齢化の社会構造を変えるのは容易ではないと思われるのです。興味深いことに、この調査で上位を占めているのはいずれも福祉国家として名をはせている国です。高齢者を大切にする国、福祉の行き届いた国は、「母親にやさいい国」でもあるのです。そのことに注目すべきではないでしょうか。

■エイジレス時代への適切な対応を

超高齢社会のいま、生きること、老いること、そして、死んでいくことについて、誰もが考えなければならなくなりつつあります。高齢者に対して適切な対応をしていくことは一方で、子どもを生み、育てることの大切さを思い知ることになっていくことでしょう。エイジレスという観点から社会システムを構築していけば、子どもを生み、育てることにも適した社会システムになっていくのではないでしょうか。日本がいま経験していることはやがて世界のすべての国が考えなければならない課題になっていくのです。(2014/5/12 香取淳子)

 

豪、年金支給開始年齢、2035年までに70歳へ

■定年制は?

昨日このブログで、オーストラリアで「現地のヒトに尋ねると、定年制は廃止されているといっていました」と書きました。2002年ごろにそのことを教えてくれたのは、ブリスベンに居住する2児の母で、30代後半の一般女性でした。そのときはなるほどと思って聞いていたのですが、昨日、ブログを書いた後、ちょっと気になったので、調べてみました。その結果、正確に言うと、その女性が言ったのは、「定年制の廃止」ではなく、オーストラリアには「定年」(法的に定められた年齢)で退職するという制度がないということだったようです。

ネット上に、「オーストラリアの労働市場に定年制はあるか?」という質問から始まるクイズ形式のスライドがありました。わかりやすくオーストラリアの退職後の経済生活が表現されています。それによると、「オーストラリアには法的に拘束力を持つ退職年齢(定年)というものはない」ということでした。さらに、退職後の生活のために積立預金できる期間は55~70歳の期間だとされています。つまり、55~70歳までの間に預金をして退職後の生活資金を確保できれば、いつでも好きな時に退職できるということなのです。

詳細はこちら。http://wiki.answers.com/Q/What_is_the_workplace_compulsory_retirement_age_Australia?#slide=1

■年齢差別禁止法

『みずほリサーチ』(2007年June号)によると、オーストラリアでは1990年に南オーストラリア州で初めて年齢差別禁止法制が立法化され、以後、すべての州で年齢差別が禁止されているそうです。欧米諸国では雇用における年齢差別の禁止が一般的ですから、オーストラリアもそれに倣っているのかと思っていたら、違いました。みずほ主任研究員の大嶋寧子氏によると、最も早く年齢差別禁止法を成立させたのはアメリカで1967年でした。次いで、カナダが70年代にすべての州で禁止、オーストラリアはなんと3番目だったのです。

欧州では90年代以降、、高齢化による年金財が悪化への懸念から、雇用における年齢差別への取り組みが重要な政策課題になっているようです。大嶋氏は記事の終わりで、年齢差別禁止を行う場合、雇用慣行との調和をどこまで図るべきか、現実的な議論を行うことが必要だと結んでいます。日本に限らず先進諸国はどこも、高齢人口の増加で深刻な財政に追い込まれつつあるといえます。

■豪、年金開始年齢引き上げへ

2014年5月2日、豪政府は年金支給開始年齢を2035年までに70歳に引き上げる方針を示しました。高齢問題に対応するための措置ですが、世界の先進国の中ではこれが最高齢になります。もちろん、この報道を聞いてオーストラリアの人々は驚いたでしょうが、ホッキー財務相はすでに年金を受給している人には影響しないと言っています(AFP, 2014/5/4)。なぜこのような政策をこの時期に発表したかといえば、オーストラリアの会計年度が7月から翌6月にかけてだからでしょう。いずれにしても、年金支給開始年齢は人口動態とともに国家予算に大きく影響します。

オーストラリアには法律で規定された定年はありませんが、1908年に年金制度が導入されて以来、男性は65歳、女性は60歳で年金受給資格を取るようです。ですから、この時期、ホッキー財務相が「現行の受給資格年齢は終了する」と述べた(AFP, 2014/5/4)のは、この案に基づき、予算を立てる必要があったからでしょう。

詳細はこちら。http://www.smh.com.au/federal-politics/political-news/retirement-age-rise-to-70-by-2035-joe-hockey-announces-20140502-zr318.html

オーストラリアの年金制度には、税を財源とする社会保障制度の老齢年金(Age Pension)と保険料を財源とした退職年金(Superannuation)があります。老齢年金は生活保護的な色彩の強いもので、対象になるのは、オーストラリアに10年以上住む居住者(市民権または永住権保持者)です。一方、退職年金は雇用主が被雇用者のためにスーパー運用基金に支払い、積み立てたものです。ですから、オーストラリア滞在中にこの制度に加入していた有資格者はオーストラリア国税局に換金請求ができるといいます。

詳細はこちら。http://www.australia.or.jp/aib/pension.php

■高齢人口の増加

オーストラリアの65歳以上の高齢者は今後30年間で約350万人から約700万人へと2倍に増加し、全人口の約22%を占めるようになると予測されています。そのうち、85歳以上の高齢者は50万人弱から140万人へと約3倍に増加し、医療保険制度を圧迫することが予想されています。オーストラリアの人口は約2340万人で、平均寿命は男性が79歳、女性が84歳ですから、高齢化に対する措置はいまから取っておいた方がいいでしょう。いずれにしても今後、多くの国で高齢人口の増加が年金、医療等を含む社会システムを大きく変容させていくことは明らかです。いち早く急激な高齢化の波をかぶっている日本が適切な対策を取っていけば、高齢社会をリードしていく存在になりうると思います。(2014/5/8 香取淳子)

 

相次ぐギャル系ファッション誌の休刊を考える。

■子ども人口の減少

今日は5月5日、子どもの日です。総務省が発表した資料によると、4月1日現在の子どもの人口は1633万人で、前年より16万人減少しております。これで、子ども人口は33年連続して減少しているというわけです。また、子ども人口の総人口に占める比率は12.8%で、こちらは40年連続して減少しています(下表、参照)。 いずれにしてもこれは子ども人口の減少に歯止めがかかっていないことを示すデータといえます。

表2 男女、年齢3歳階級別こどもの数  (平成26年4月1日現在)

出所:統計局

次に、子どもの年齢別に総人口に占める割合を見ていくと、12から14歳は2.8%、9から11歳が2.6%、6から8歳が2.5%となっております。3年毎に子ども人口を見ても、減少傾向がはっきりとしめされています。子どもマーケットが確実に縮小しつつあるのです。その影響を具体的に見てみることにしましょう。

■相次ぐギャル系ファッション誌の休刊

5月5日の日経MJを読んでいると、興味深い記事が目につきました。「ギャル系休刊相次ぐ」という見出しの記事です。記事の内容は、女性ファッション誌「egg」は7月号で休刊、「小悪魔ageha」も休刊となったというものでした。調べてみると、この雑誌を刊行していた出版社フォレストは約30億円の負債を抱え倒産し、4月15日付で事業を停止しています。帝国データバンクによると、今後は債務調査を進めるとともに、出版物等のコンテンツ売却の検討を進めるとしています。

詳細はこちら。http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/3901.html

■ギャル系ファッション誌

「小悪魔ageha」は2006年に創刊され、2009年にはギャル系雑誌として一世風靡したこともありました。ピーク時は約30万部を発行するほどの勢いだったようです。ところが全盛期の誌面構成を担当していた名編集長が2011年11月に去ってからはこの雑誌の衰退がはじまったと分析されています。

衰退に至る過程についての詳細はこちら。http://gigazine.net/news/20140416-infor/

小悪魔ageha 8月号の画像(プリ画像)

上の写真が「小悪魔ageha」の表紙です。表紙のキャッチコピーを見ると、「7日間で脱でぶ子」「あのコの整形級メイク全プロセス」といった具合に、ファッション以外に美容、体型改善など、身体、ファッションともに美しくなるような情報が満載されています。一時は、人気のギャル系ファッション誌だったといわれています。ギャル系ファッション誌とは、ギャル系ファッションを中心に掲載している雑誌を指します。この種の雑誌を見て、中学高校生は自分のファッションをチェックし、コーディネートをチェックします。いってみれば、中高生のファッションの指標になるような雑誌でした。購買数が上がり、多くの中高生が読むことになれば、そこに掲載されたファッションやファッション小物は彼女たちの目に留まり、購入される可能性も高くなります。当然、広告価値も高いはずでした。それがなぜ、次々と休刊に追い込まれているのでしょうか。

■なぜ次々と休刊に追い込まれているのか

5月5日付の日経MJS紙で、長田真美記者は以下のように分析しています。

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ギャル系雑誌が相次ぎ休刊になっている要因の1つにスマホの普及がある。

若い女性は雑誌に頼らず、ファッションやメークなどの最新情報をインターネットを通じて収集するようになった。大洋図書の担当者は「読者モデルのブログなどを見ることで満足している人も増えているようだ」と推測する。

出版科学研究所の調べによると、2013年の雑誌(コミック含む)の市場規模は8972億円で、ピークだった1997年と比べると、約6割に縮小。なかでも女性ファッション誌の落ち込みは特に大きい。

スマホで得られる以上の情報を提供できるかどうかが雑誌の存続を左右しそうだ。

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長田記者はギャル系ファッション誌が相次いで休刊に追い込まれている実態を報告し、その要因としてスマホを挙げています。たしかに、近年のスマホの普及を考えると、その可能性もあります。でも、はたしてそれだけなのでしょうか?

■スマホが原因?

インターネットでファッション誌を見ることができるようになると、たしかに一部の読者はネットに流れ、もはや雑誌を購入しなくなった可能性はあります。ですが、雑誌とインターネットとは本質的に異なります。雑誌は寝転がっても読むことができますが、パソコンの場合、それができません。スマホならできますが、スマホの画面は小さすぎて、ファッションを見るには不向きです。また、雑誌の場合、ページを飛ばして読むこともできますが、スマホの場合、それが非常に難しい。ですから、ファッション誌が提供していたような情報をインターネットで得ることができるようになったから、雑誌が売れなくなったとは思えないのです。

■読者モデルのブログ

大洋図書の担当者は「読者モデルのブログなどを見ることで満足している人も増えているようだ」と推測していたそうです。読者がネットに流れたのだとしたら、それはおそらく、ネットがファッションに関してこれまでにない楽しみを提供できるようになったからなのでしょう。それが読者モデルのブログでした。ですから、雑誌を購入しなくてもブログを見るだけで満足できるヒトが増えてきたからこそ、雑誌が売れなくなってきたのだという担当者の推測に私は納得できます。

ギャル系ファッション誌の読者モデルは同年齢の読者にとって憧れの的です。そのモデルがファッションに関する情報をブログで提供してくれるとしたら・・・、それこそ、これまでにない魅力的なコンテンツになったに違いありません。しかも、ブログならスマホでも十分に楽しめます。いつでもどこでもスマホなら読者モデルのブログを読むことができます。もちろん、画面が小さくてもファッションやファッション小物の値段のチェックぐらいはできるでしょう。

■子ども人口減少も要因の一つ

雑誌全般に衰退傾向が続いています。とはいえ、とくにギャル系の休刊が相次いでいる背景には何か別の要因もありそうです。中高生という狭いターゲットを対象にしているのがギャル系ファッション誌です。そこに多数の雑誌が乱立していたというのも一つの要因でしょう。さらに、ギャル系ファッション誌の市場が縮小していたというもの大きな要因ではなかったかと思うのです。さきほど総務省統計局の発表した子ども人口の構成表をみると、12~14歳、9から11歳、6から8歳、というように3歳刻みで見ると、総人口の占める比率は年齢が低くなるほど低くなっています。つまり、ギャル系ファッション誌の対象人口が年々減少しているという実態があるのです。ターゲット年齢を狭く設定した市場では、人口減少は直接市場に反映されると推測されます。したがって、ギャル系ファッション誌の相次ぐ休刊の要因の一つに、子ども人口の減少があると考えられます。5月5日の子どもの日もだんだんさびしくなっていくような気もしますが、気のせいでしょうか。(2014/5/5  香取淳子)

 

ICT「4つの波」の時代、到来か

2020年はICT「4つの波」の時代へ?

いつの世もメディアの開発が人々の生活に大きな変化を与え、社会を変容させてきました。ICTの進化は「ドッグイヤー」だといわれていたのが懐かしくなるほと、最近はそのスピードが速くなりました。東京五輪が開催される2020年はいったいどのような社会になっているのでしょうか。日経産業新聞(2014/4/23)は『日経コミュニケーション』2014年1月号から、2020年を予測した記事を紹介しています。

■4つのICTに席巻される市場

日経コミュニケーション編集部は、総力を結集して情報を収集し、分析した結果、2020年にはICTにおける4つの波が日本社会を大きく変容させていると結論づけています。トフラーの「第三の波」をもじったものなのでしょうか、「4つの波」とネーミングしていますが、この概念には縦断的な歴史的社会的視点が含まれていません。どうやら技術のカテゴリーを指すようですが・・・。どういうことなのか、見ていくことにしましょう。

■2020年の市場はどうなるか

日経コミュニケーション編集部は社会変革をもたらす4つのICTとして、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション」などをあげています。そして、それらのICTが2020年の市場を席巻するとしています。日経コミュニケーションが概念化した仕組みは以下のようなものになります。

図1 2020年、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション(仮想化)」の4つの波が既存マーケットを飲み込む

 

 

 

 

 

 

 

 

資料:日経新聞電子版2014年3月26日

■4つのICTとは何か

それでは、4つのICTとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

①スマートデバイスは、スマートフォン、タブレット、ウェアラブル端末など。

いまでもそうですが、利用者の可処分時間を奪ってしまうほど身体密着型のメディアです。今後、注目すべきものとしては、眼鏡型端末だとされています。グーグルをはじめ多くのICT企業がこの端末の開発に取り組んでいるようです。というのも、この種の端末が利用者の視線を完全に奪ってしまえるからだそうです。

一方、センサーの集合体ともいえるスマートデバイスは、利用者の行動を予測可能あものにしる「ビッグデータ」をも生み出します。ですから、これらのビッグデータを活用したビジネスは今後、既存市場に大きな影響を与える可能性があるというのです。

ちなみに、グーグルは以下のような眼鏡型端末を開発しています。

Google Glass with frame.jpg

資料:http://www.google.com/glass/start/

いずれにしても、この種のスマートデバイスは、クラウドと大容量で低遅延のネットワークの普及、そして、半導体のさらなる小型化、省電力化などに伴い、2020年ごろにはデバイス市場で大きな存在感をしめしているのではないかと日経コミュニケーション編集部は予測しています。

②スマートマシンとは、自律的に学習し推論する機械を指すといいます。たとえば、米IBMが開発した質疑応答システムの「ワトソン」があります。これはヒトの言葉を理解し、瞬時に的確な回答を打ち出せるといいます。このマシンは2011年に米国のクイズ番組でクイズ王を破ったほど賢いといいます。すでに医療分野やコールセンターなどでの応用が始まっているといわれています。

実際、Carl Weinschenk は、「スマートマシンは、今後、ビッグデータ活用時代になると、もっと普及するだろう」と述べています。

詳細はこちら。 http://www.itbusinessedge.com/blogs/data-and-telecom/smart-machines-becoming-more-common-in-our-data-run-world.html

スマートマシンは膨大なデータから学習し、パターン認識や推論といった側面ではすでにヒトの能力をしのぎつつあるといわれています。

ですから、スマートマシンがさらに賢くなっていけば、ヒトの定型業務は奪われてしまいかねません。ますます、ヒトは今後、どうあるべきか、教育の在り方が問われていくことになりそうです。

③ソーシャルパワーとは、利用者同士の緩やかなつながりが、社会システムに大きな影響を与えるようになった社会的動きのことを指します。

たとえば、米ベンチャー企業が開発したAir bnb など、利用者同士をマッチングさせるサービスが代表例だといいます。Air bnb は2008年にサンフランシスコで起業したベンチャー企業です。使用していない不動産などをパーティや宿泊のために賃借するオンラインプラットフォームを提供しています。2012年11月までに192カ国、3万都市、25万件の目録が登録されているようです。

サービスを利用する場合、ユーザー登録、オンラインプロフィールの作成が必須で、プロフィールには過去の貸借に関するレビューも含まれるといいます。

元々、インターネットは需要と供給のマッチングサービスに適しているといわれていましたが、このサービスなどはその典型です。

詳細はこちら。https://www.airbnb.jp/

④バーチャリゼーション(仮想化)とは、一台のハード機器を仮想的に分割したり、複数の機器を統合したりできる仮想化技術のことを指すようです。そしていま、この技術がICTのあらゆる部分で利用されるようになってきているといわれています。

たとえば、グーグルは、クラウドサービスのネットワーク仮想化基盤として「Andromeda」を米国内の2つのゾーンに投入した結果、クラウドのネットワークスルートップが向上したことを報告しています。

詳細はこちら。http://googlecloudplatform.blogspot.jp/2014/04/enter-andromeda-zone-google-cloud-platforms-latest-networking-stack.html

■「4つの波」に乗れるかいなか。

こうしてみると、仮想化技術があらゆる領域に浸透していけば、利用者の利用環境はもちろんのこt、業界の構造も変容せざるをえません。

日経コミュニケーション誌の堀越功記者は、「2020年には通信インフラやデバイスを支える要素技術は、現在から一変している安納聖が高い。いち早く変化に気づき、対策を取って動き出すプレイヤーがチャンスをつかみ取れる。座して待つだけの人には、過酷な未来が待っている」と指摘しています。

昨今の急速なICTの進化を見ていると、おそらく堀越記者が指摘するような変化が2020年には訪れているのでしょう。ただ、技術は技術だけで進化はできません。利用者がいて初めて技術が進化し、ヒトの生活を変容させていくのだと思います。ですから、ICTの4つの波は先導的な役割を果たすことは確かだと思いますが、むしろ、社会変革のキーになるのは、どれほど利用者が使いやすいデバイスの開発がされるのか、サービスの開発がされるのかが重要だと思っています。

それにしても、この領域でもグーグルは最先端を走っていました。追っかけを止めるわけにはいかなくなりました。(2014/4/24 香取淳子)