ヒト、メディア、社会を考える

04月

Google :日本の大学教育に参入

Google :日本の大学教育に参入

このブログでは今月に入ってから、次々とGoogleが様々なレベルで日本の教育に参入していることを報告してきました。就学前児童に対するもの、義務教育レベルの子どもたちに対するもの、通信制高校レベルの生徒に対するもの、いずれも、クラウド・コンピューティングシステムを使って、オンライン教育を実施するものでした。

「iPadとアプリゼミ」(4月11日)、「学びのイノベーション」(4月14日)、「Google:日本のICT教育支援」(4月15日)、「Google Appsで全面ネット制高校」(4月16日)、等々。

まだ始まったばかりなので、どのような結果を生むのかはわかりませんが、子どもについて実証研究を行ったところ、子どもたちが自発的に授業に参加している、楽しみながら学習に取り組んでいる、等々のpositiveな反応、国語については施行後の成績が上昇したという結果が得られています。

この流れでいえば、大学教育に取り込まれるのは時間の問題でしたが、案の定、今年の4月から京都大学でGoogleが関与するedXを使ったシステムでオンライン教育が行われました。

■MOOC と大学教育

いわゆるMOOC (Massive Open Online Courses) と呼ばれるオンライン教育システムの中で大学教育を対象にしたものとしては、Coursera や edX があります。大学講義系のMOOCは、大学としてプラットフォームに参加し、プログラムを提供しているので、基本的に教授が自分でコースを開設することは難しいといわれています。

日本の大学でMOOCに最初に参画したのは東京大学で、Courseraのプラットフォームで行いました。2013年9月に第一弾として「From the Big Bang to Dark Energy」、その後、第二弾として「Conditions of War and Peace」が提供されました。

東京大学によると、このオンライン授業は、「世界150ヵ国以上から8万人以上が登録し、約5400人が修了」したということでした。2014年度はさらに、経済学分野、情報学分野の2講座を新規に設定し、Courseraで開講する予定なのだそうです。

この記者発表ではさらに、東大では、このMOOC提供の取り組みを進展させるために、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(以下MIT)が出資して設立されたMOOCプラットフォームのedXと配信協定を締結し、2014年秋から提供することを伝えています。

詳細はこちら。 http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_260218_j.html

この記者発表では東大が2014年からedXでオンライン授業を開始することが明らかになりました。2013年に東大はCourseraでオンライン授業を開始したにもかかわらず、2014年からはedXでも始めるというのです。

■京都大学で始まったMOOC:edX

2014年4月10日から京都大学で生命科学のオンライン講義が開始されました。edXをプラットフォームにしたオンライン講義は日本ではこれが初めてです。提供されるのは、京大の上杉志成教授による「生命の科学」という授業でした。

講義の詳細はこちら。

https://www.edx.org/course/kyotoux/kyotoux-001x-chemistry-life-858#.U1D2rSyKDuh

英語を聞き取りにくい学生のために字幕付き、速度調節といった補助機能も装備されていたようです。そのせいか、受講学生の反応もよく、「How exciting!」 とツィッターで書いているほどです。

このedXは、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学が設立した非営利組織が運営するものです。米カリフォルニア大学バークレー校、米ジョージタウン大学がすでに講義を提供していますが、アジアでは京都大学、北京大学、精華大学、ソウル大学などが参加しています。

大学教育に向けたMOOCのプラットファームとしては、Coursera と edX があります。これらがどのように違うのか、見てみることにしましょう。

■Coursera と edX

北海道大学の重田准教授によると、Courseraの受講者が400万人以上、 edXの受講生は120万人だそうです。設立されて間もないにもかかわらず、大規模な人数の参加がみられます。なぜ、急激に普及してきたのでしょうか。

Kisobiファウンダーの浦部洋一氏はその原因を以下のように考察しています。

*********

・大学の授業内容を、誰でも受講可能にしている。

・基本的いん、無料で受講できる(修了認定証などは有料の場合がある)

・講義画面を公開するだけではなく、レポートを提出したり、コミュニティで議論したり、実際のクラスに近い仕組みを提供している。

・多くの大学が参加しており、講義の種類と量が増えている。

・インターネットの高速通信や、ノートPC、タブレット端末の普及、などオンライン学習に適したインフラが整ってきた。

・クラウドなどのIT技術の進化により、動画の配信やWebサイト運営のコストが大幅に下がった。

・MOOCsベンチャーをVCが支援しており、各社サービスが充実している。

*********  以上。 詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

このように利点は多いのですが、浦部氏は次のようにMOOCsの課題を指摘しています。

********

①ビジネスとして成立するのか?

②MOOCsの授業の学習効果は低いのではないか?

******* 以上。   詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

まだまだ始まったばかりのMOOCsであるが、世界の著名大学がこの方向で動いているので、日本の大学もこの流れに乗らざるをえなくなると思います。日本でもまずは東大、京大といったトップ校から開始されています。

京都大学の授業に対する学生の反応から明らかになったように、字幕や速度調節など、英語を聞き取りにくい学生のための補助装置が装備されているようです。ですから、今後、この流れは加速していく可能性があります。

デジタル教材の無料公開、デジタル教材を使った教育環境、等々が教育の機会均等に大きく貢献することは確かです。しかも、これはグローバルな展開が可能です。環境整備が整えば、意欲の有無が学習機会の多寡にこれまで以上に大きく影響してくるでしょう。いよいよ大学教育のグローバル化の時代を迎えたのです。(2014/4/18 香取淳子)

 

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

2014年4月16日、笹井芳樹・理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の会見中継を見ました。途中で席を立ったりしたので、すべてを見たわけではないのですが、小保方氏の会見よりははるかに専門家らしい会見になっていたと思います。記者の質問も事前によく調べられていたように思えました。

■質問力

今回はとくに女性ジャーナリストが専門領域をよく調べ、的を得た質問をしているような印象を受けました。何人かの女性ジャーナリストが要点を絞り、段階的に核心に迫れるように組み立てて質問をしていたから、そのような印象を受けたのかもしれません。いずれにしても、渦中にある専門家に対して的確な質問をするには、それなりの知識と理解力がなければならないことを今回も感じさせられました。

小保方氏の会見の時から私も、「STAP現象」という言葉が気になりはじめていました。これまで「世紀の発見 STAP細胞」といわれてきたものが、「STAP現象」「STAP細胞」「STAP幹細胞」と三つの専門用語を使い分けられるようになったような気がしていたのです。女性ジャーナリストの質問はそのあたりの違和感を突くものでした。ところが、笹井氏の回答は巧みにそれを回避するものでした。表情を変えず、あくまでも論理に訴えかけようとする笹井氏の姿勢は一貫していました。付け入る隙はありませんでした。

事前によく勉強して練り上げた質問であっても、回答者が答えたくなければ、回避できるということにこの時、気づきました。私が見ている限りにおいて、笹井氏の回答は一事が万事、理路整然としていましたが、言い逃れと自己弁明に終始していたような印象が残り、真相に迫ることはできなかったという不全感が残りました。

■実験ノート見ず、生データを見ずに論文指導

笹井氏は小保方氏の実験ノートを見ることも、生データを見ることもなく論文を指導し、論文の組み立て、執筆を行ったと回答しました。そのような杜撰なやり方でNatureに投稿したというのです。Natureは実績のある研究者が著者として名前を連ねているため、掲載に踏み切ったのでしょう。それ以前に小保方氏がNatureに投稿した時は掲載不可になったそうですから、今回の掲載に果たした笹井氏の貢献は多大なものがあったと思います。それが、自分が担当したのは最後の段階でしかなかったと弁明したのです。

■「未熟な研究者」が研究ユニットリーダー?

理研調査委員会から不正があったとされた小保方氏は理事長の野依氏から「未熟な研究者」といわれ、自分でもそのように弁明していました。論文の流用、剽窃、捏造、これまでに執筆した論文のほとんどにそのような指摘がされています。

詳細はこちら。http://stapcells.blogspot.jp/

本人が「自己流」でやったとその事実を認めています。ところが、その小保方氏の身分はいまだに理研の研究者です。検証研究に小保方氏が参加することについて、笹井氏は「小保方さんはやりたいと言っている。それは一定の理解ができる」と回答しています。文系の人間からすれば、小保方氏の研究者生命は終わっているのですが、理研ではそうは認識していないのでしょうか。

■「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文

「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文がこのまま放置されるのであれば、日本の真面目な研究者は浮かばれないでしょう。日本の研究者の国際的評価は貶められ、信用されなくなるでしょう。理研調査委員会は小保方氏を「未熟な研究者」だとし、「ミスの多い」論文で「撤回すべき」だとしているのに、小保方氏は「撤回しない」と宣言しました。

論文を実質的に執筆した笹井氏は「論文の撤回は同意する」としていますが、「STAP細胞は有望で合理的な仮説と考える」と言明し、存在の可能性を強調しています。ところが、小保方氏同様、その根拠は挙げられていません。小保方氏よりも論理的な話し方だったので気づきにくいですが、笹井氏もまた、論拠も示さず、STAP細胞の存在可能性だけ主張だけされたのです。

■笹井氏への不信

小保方氏は「未熟な研究者」で済みます。ところが、笹井氏は理研CDB副センター長で、「未熟」どころかベテラン研究者だといわれています。その彼が、生データを見ることもせず、「ミスの多い」論文を執筆し、Natureに掲載されると、ノーベル賞級の成果だとして大々的に発表したのです。

執筆者二人の会見によって、いくつかわかってきたことがあります。それは共著者といいながら、彼らは相互に論議を交わすことなく、データの確認をすることもなく、分業作業で論文を仕上げたということです。実験の得意な研究者が実験をし、論文が何度もNatureに掲載された実績のある研究者が論文を執筆し、最終的には「未熟な研究者」を筆頭研究者に担ぎ上げました。

きわめて不自然な一連の流れの背後にいったい何があったのでしょうか。

笹井氏は論文作成にかかわっただけだとしています。しかも、それはCDBセンター長に頼まれてやったことなのだと弁明しています。自発的にかかわったわけではないと強調していますが、共同研究に必要なデータの確認、研究者間の論議、といった基本的な作業がなされていません。自発的にかかわっていないのなら、普通の手順を踏むはずなのに、今回は複数の研究者のチェックを入れることなく、実質的に論文執筆作業、必要なデータの選定等は笹井氏と小保方氏の二人でなされたようです。

笹井氏の一見、理路整然とした回答からは真相につながるものは何も出てきませんでした。

■理研ははたして研究組織といえるのか

副センター長・笹井氏の会見を見て、理研という組織が研究組織として健全に機能していたのかどうか、疑わざるをえません。「未熟な研究者」をユニットリーダーとして担ぎ上げたことはまだしも、「ミス」「捏造」が発覚しても、笹井氏や丹羽氏が口を揃えるように、「指導しきれなかった、斬鬼の念に堪えない」といっています。ユニットリーダーになるような研究者が「未熟さ」ゆえに「捏造」や「不正」が許されるということが理解できないのです。このような研究者がリーダーを務めている理研ははたして研究組織として健全なのか、といわざるをえません。

■メディアの限界

今回もまたメディアの限界があり、真相究明にはほど遠いことが判明しました。ですが、疑惑をもたれた関係者の会見があれば、少しずつ事実が明らかになっていくことは確かです。無表情に理路整然と話せば話すほど、その背後に何があるのか、ちょっとした質問に揺らぐ表情、そのようなものが真実に一片を伝えます。ですから、メディアは一回だけで真相に迫ることはできませんが、何度も角度を変えて迫れば、少しずつ、真相に近づくことができるのではないかと思います。(2014/4/17 香取淳子)

 

 

 

Google Apps で全面ネット制高校

Google: 全面ネット制高校

■全面ネット制高校の誕生

産経新聞(2014年4月15日付)は、クラウド・コンピューティングなど最新のインターネット環境を全面導入した初の通信制高校が4月下旬に授業を開始すると報じています。今月開校した通信制のコードアカデミー高等学校が、米グーグルのアプリを使ってほぼすべての学習を行うというのです。

「大好きなインターネットで未来を開く」というキャッチフレーズで生徒募集をしているコードアカデミーは、長野市にある学校法人信学会が、企業向け教育ベンチャーの協力を得て設立した広域通信制・単位制課程普通高校です。この高校では、ソフトのプログラミングが必須科目になっているといいます。

コードアカデミー高等学校の詳細はこちら。 http://www.code.ac.jp/

■Google Apps とは?

前回、取り上げたのは義務教育課程の小中学校に対するICT支援でしたが、今回取り上げるのは、通信制高校に対する支援です。

授業では、情報共有のためにグーグルのソフト「Google Apps」の教育機関版を採用するのだそうです。このソフトを使い、テキストや動画を含む教材や課題、レポート提出はもちろん、複数の生徒との質疑応答もネット上で行うといいます。テレビ会議システムを使って、ライブ授業や面接指導も行いますから、一般的な通信制高校では難しかった対面指導も可能だといわれています。

GoogleAppsはGoogleのオンラインアプリケーションパックです

上の図はGoogle Appsの概念図です。メール、カレンダー、ドライブ、ドキュメント、サイト、グループ、トークなどこれまでにグーグルが進化させてきたソフトを組み込んだ統合システムだということがわかります。クラウド・コンピューティングシステムを使って、きわめて生産性の高い仕事ができるシステムを構築しているのです。

Google Appsについての詳細はこちら。 http://www.appsupport.jp/googleapps/

■反転授業とは?

具体的な進め方としては、生徒がパソコンやタブレット端末、スマートフォンで年8回の課題を受け取り、必要に応じて教師とやり取りしながら、解答を送信します。その際、いま注目されている「反転授業」が試行されるといいます。

反転授業とは、これまでのような説明型の授業をオンライン教材にして事前学習の宿題にし、説明型の授業では授業の後で宿題にされていた演習や応用課題を教室で、対面で行う学習形態のことをいうようです。

実際の授業時間では、対面であることを活かし、個々の生徒に教師が説明をしたり、普段解けないような難しい問題に挑戦する時間にしたり、グループ学習やアクティブラーニングを行ったりするといいます。

反転授業についての詳細はこちら。http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/seminar/001.html

■新しい試みは常に周縁から

このような形態の授業を通信制高校で4月下旬から実施するというのです。画期的なことだといわざるをえません。新しいことは周縁から生まれるといいますが、この試みも長野県の学校法人が通信制高校の場で試行されるようです。チャレンジ精神のあふれた高校生が新しい形態の授業を通して、次代を担う情報技術をしっかりと身につけ、社会をリードしていってもらいたいと思います。(2014/4/16 香取淳子)

 

Google : 日本のICT教育支援

Google : 日本のICT教育支援

情報機器の進化に合わせ、社会が大きく変化しています。それに対応して、教育内容、方法、教材も変えていこうというのが、最近の文科省をはじめとする一連の動きです。今回はNPO法人CANVASのプログラムを紹介することにしましょう。

■PEG、東京大学でキックオフイベント開催

2014年2月8日、東京大学でPEGのキックオフイベントが開催されました。PEGとは、Programming Education Gatheringの略で、6歳から15歳の子どもを対象にプログラミング学習を普及させていくことを目的にしたプロジェクトです。その主体は子ども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を 推進するNPO法人CANVAS です。CANVASがGoogleと連携し、「コンピュータに親しもうプログラム」を立ち上げたのです。

詳細はこちら。 http://www.canvas.ws/programming/event.html

ちなみにGoogle はこの2013年10月29日、日本のICT教育を支援するため、「コンピュータに親しもう」プロジェクトを開始すると発表しています。GoogleがRaspberry Piを5000台提供し、CANVASと協力して1年で2万5000人以上の児童・生徒の参加を目指すというのです。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20131029/514542/

■Raspberry Pi

ここでは、Raspberry Pi や Scratch を使ったワークショップが中心になっています。義務教育の場である小中学校にはパソコンが配備されているというのに、なぜ、パソコンではなく、小型のPCボードであるRaspberry Pi を使うのでしょうか。

Raspberry Pi - Wikipedia

上の写真がRaspberry Piです。非常にシンプルなカード・サイズのコンピューターで、誰でも簡単にプログラムすることができるといわれています。それにしてもなぜ、すでにパソコンが配備されているのに、Raspberry Piなのでしょうか。

■なぜ、Raspberry Pi なのか

このPEGのワークショップを監修している阿部和弘氏に対するインタビューをみてみることにしましょう。

阿部氏はこれまでにRaspberry Pi 上でScratchを動かすワークショップを数多く実施してきたそうです。その阿部氏が経験を踏まえ、子どもたちがプログラミングを継続して学習するには、現状ではRaspberry Pi が最も適していると判断しているというのです。

彼はその理由として以下の5点を挙げています。

**********

①コスト:Raspberry Pi は他のデジタル機器に比べ非常に安価。高機能版でも3000円代から入手可能。

②基盤むき出しで提供されている:基盤がむき出しになっているので、教育向き。

③地デジ対応TVに接続して使用可能:家庭の地デジに接続可能なので、学校だけではなく、家庭でも使用できる。

④Raspberry Pi にはGPIO(汎用入出力)があること:GPIOはきわめて原始的な入出力端子なので、LED(発光ダイオード)、センサー、スイッチなどをつないで電子工作が容易にできる。

⑤自らプログラムを書けること:Raspberry Pi では子ども自身がプログラムを書いて何かを作り出す環境が整っている。Scratchなどが用意されており、それらを使ってモノ作りを体験できる。

****** 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

■主体的に学ぶとは?

たしかに、これまでの情報機器は与えられたアプリケーションを消費するだけでした。義務教育の段階で、自分でプログラムを作る機会が与えられれば、子どもたちは能動的に情報機器を活用するようになるでしょう。それこそが情報社会に適応していくための教育といえます。

阿部氏はこうも述べています。

**********

Raspberry Pi のように子どもたちが主体的に扱えるデバイスを使えることが大事だと考えている。

理想的には一人一台ということが重要だ。自分のものになれば、だれにもじゃまされずに使えるし、愛着もわく。自分のRaspberry Pi を使って何かを作ろうというモチベーションになる。

子どもにRaspberry Pi を与えるというのはLinuxワークステーションを与えることと同じであり、スキルさえあれば何でもできる。

ネットにつながってなんでもできるRaspberry Pi をもらうということは、自由を得るだけではなく相応の責任を負うことにもなる。

だからこそ、はじめは保護者やファシリテーターの目の届くところで使ってもらう必要がある。危険なものを子どもから取り上げるのではなく、その扱い方をきちんと身につけてもらおうとしている。

********* 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

このように阿部氏は、Raspberry Pi を教育で活用することの意義を説明したうえで、これを提供する先は、「Raspberry Pi を使って何かできないだろうか」という意欲を持った組織だと言明しています。

■情報(情報機器等)を生産することを学ぶ

21世紀に入って早14年目になってしまいました。この間の情報革命は驚くほどの勢いです。使い勝手がいい状況で消費者の前に登場してくるので、その仕組みがわからないまま、日々、私たちはスマホやタブレットに接触しています。

いまや仕組みがわからないまま使っていることにさほど危機感を覚えず、新しい機器の操作に慣れようとしています。はたして、それでいいのでしょうか。それこそ、情報(情報機器等を含む)を生産できる側と、ただ消費するだけの側とに分離してしまっているように思えます。

それがおそらく新たな格差の根源になっていくのでしょう。だとすれば、それこそ義務教育の段階から情報(情報機器等を含む)を生産できる能力を養うことが重要なのではないかと思います。(2014/4/15 香取淳子)

学びのイノベーション:授業の電子化

学びのイノベーション:授業の電子化

知らない間に教育現場のICT化が進んでいるようです。日経新聞(2014年4月12日付)は、「タブレットや電子黒板活用」「授業分かった、9割」との見出しをつけて文科省が出した報告書の内容を紹介しています。はたしてどのような内容だったのか、文科省のホームページを参照しながら、概観してみることにしましょう。

■実証研究の報告書

4月11日、文部科学省は電子教材を使って授業する実証研究についての報告書を出しました。今回の実証研究は教育のICT化に関するもので、2011~2013年度に、小中学校の児童・生徒約5700人を対象に実施されました。この3年間に文科省は、ICTを活用した教育の効果・影響についての検証、指導方法の開発、デジタル教科書・教材の開発などを行ってきましたが、その結果についての報告です。

たとえば、ICTを活用した指導方法の開発についてはどうなのか、報告書の概要からその一端を紹介しましょう。

■ICTを活用した指導方法の開発

これについては学習場面ごとにICTの活用を類型化し、実証実験を行っているようです。

①従来型の一斉学習については、教材、教具の電子化により、わかりやすい授業が試行されています。

②個別学習については、ⅰ習熟度に応じた個別学習、ⅱ調査活動を通し、ネットでの情報収集、写真や動画による記録、ⅲシミュレーションなどのデジタル教材を活用し、思考を深める学習、ⅳマルチメディアを活用し、資料や作品の制作、ⅴ情報端末の持ち帰りによる家庭学習、などが試行されています。

③協働学習については、ⅰグループや学級全体での発表や話し合い、ⅱ複数の意見や考えを議論して、意見を整理、ⅲグループでの分担、協働による作品の制作、ⅳ遠隔地や海外の学校等との交流授業、などが試行されています。

これはほんの一端ですが、文科省は、以上のように授業のイノベーションを通して教育改革を行い、次世代を担う人材を育成しようとしているのです。内容を見ると、これまでにいわれてきたこととそれほど大きく変わることはありませんが、「思考を深める学習」が取り上げられているのは興味深いことです。

産業化社会としてくくられることの多かった20世紀とは明らかに社会の在り方が異なってきています。学びの多様性を実現するために、教育改革、とくに、指導方法の開発は重要です。

子どもたちが今後どのような社会で生きるようになるのか、それを踏まえた上での基礎学力、教養、処理能力の育成が行われなければなりません。下図は先導的な教育ICTシステムです。

■先導的な教育ICTシステム

 

上の図は、http://www.japet.or.jp/Top/Cabinet/?action=cabinet_action_main_download&block_id=12&room_id=66&cabinet_id=1&file_id=287&upload_id=1270

図にしっかりとクラウドが示されているように、このような教育システムはクラウド・コンピューティングの技術によって支えられています。クラウドなど最先端技術によって、学校間、学校と家庭などで情報を共有し、垣根の障壁を超え、シームレスに交流できるような教育体制が構想されています。

3年間にわたる実証研究の結果、授業のICT化によりとくに国語の成績の悪い層の割合が10ポイント減少されたと報告されています。子どもたちに関心をもってもられるような授業内容にすることによって、とくに国語で効果が見られたというのです。

情報技術やメディアの発達によって、今後ますます複雑で多様な社会になっていくのだろうと思われます。それだけに、社会変容に見合った教育が必要です。教育現場では実証実験をし、その結果の検証作業を繰り返しながら、より適切な内容のものに組み替えられていくのでしょう。

どうすれば、子どもたちが社会の中で自分の居場所を見つけ、自分の能力を存分に発揮して生きていくことができるようになるのか、その基盤となる能力を養成する教育システムの重要性はますます高まってくると思います。慎重で積極的、かつ的確な教育改革を望みます。(2014/4/14 香取淳子)

 

Google:情報社会のリスク

Google:情報社会のリスク

■相次ぐ情報流失

4月10日に引き続き、4月11日にはJR東京駅やJR新大阪駅の平面図も誰もが閲覧できる状態になっていたことが判明しました。誤って非公開にしておかなければならない情報を、グーグル社員らが公開していたからだとされています。

■Googleの革新

Gメールはこの10年間で利用者数が5億人を超えたようです。私もGメールの登場までは他のメールサービスを利用していたのですが、Gメールの利点を知ってから切り替えました。一番の理由は、検索機能が優れているからです。

受送信したメールは自動的に保存され、キーワードを入れるだけで膨大な量のメールの中から該当するメールを探し出してきてくれます。しかも、最近は、受信メールを自動的に、メイン、ソーシャル、プロモーションの3種に振り分けてくれるので、大量のメールを手際よくチェックすることができます。その上、保存量が多い。これも重宝している理由の一つです。

それ以外にもさまざまな機能があります。Gメールにはいったん利用すると手放せなくなってしまう利便性があるのです。だからこそ、世界最大のメールサービスを提供するようになったのでしょう。とはいえ、はたして利便性だけでGメールを重宝がっていていいものか、という問いかけがCNN電子版(2014/4/1)に掲載されています。

「Gmail at 10:How Google dominated e-mail」というタイトルの記事です。

詳細はこちら。http://money.cnn.com/2014/04/01/technology/gmail/

この記事では、グーグルがこの10年間でさまざまなイノベーションを行ってきたことを評価しています。また、グーグルが行ってきたイノベーションは必ずしも利用者に受け入れられたわけではありませんが、グーグルがイノベーションを続ける姿勢を崩さないことも評価しています。

■プライバシー侵害

ただ、プライバシーについては、たとえば、グーグルが2010年2月から提供しはじめたソーシャルネットワークであるGoogle Buzzの例をあげ、みじめな結果に終わったとしています。Google BuzzはGmailと連動させて利用促進を図っていたサービスでした。そのため、サービス開始当初から個人情報の流出が危惧されていたようです。このサービスは、プライバシーに疑義が生まれたせいで、ほどなく終了し、今ではGoogle+に一本化されています。ストリートビューもまた大きな論議を呼びました。

New Logo Gmail.svg

 

■信頼性、安全性

信頼性に関しては記事は、グーグルがGメールからどんな情報を集め、それに基づき、どのように利用者に広告を提供しているかについては明らかにしようとしてきたと述べています。

Gメールの場合、受信したメールは自動的に解析され、内容に関連する文字の広告が表示されるようになっています。つまり、勝手にメールが覗き見されているのです。ですから、それが利用者を不快にさせていることも事実です。ところが、これについてGoogleは、電子メールの自動スキャンはプライバシーの侵害には当たらないという態度のようです。私もそれがわかっていながら、結局、Gメールは利便性が高いので使っています。

■フリーメールの安全性とリスク

私のように、グーグルによって受信メールがスキャンされていることがわかっていても、利便性の方を優先させてしまっているヒトは多いのではないでしょうか。無料であり、利便性が高いのであれば、プライバシー等のリスクは見逃してしまうというような・・・。

もっとも、電子メール自体、その信頼性は非常の脆いのだそうです。さらに、Gメールの信頼性、安全性については次のような指摘もあります。

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Gmailというシステムは、そのメールというプロトコル自体の脆弱さを抜きにすれば、セキュリティとしては個人が利用できるものではほぼ最高峰に近い。

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詳細はこちら。http://blogos.com/article/68266/

■情報社会のリスク

いまでは誰もが日常的に電子メールを利用しています。そして、メールは専門家、秘匿しなければならない部門の人びとも利用します。ですから、空港の情報流失等にみられるように、情報社会になると情報流失のリスクが高まってくることになります。いかにそのリスクを回避するか、一連の情報流失事件をみると、そのためのシステム構築の重要性がさらに高まってきたと思います。(2014/4/13 香取淳子)

 

Google:空港詳細図の流失

Google:空港詳細図の流失

■インドアグーグルマップの流失

4月11日、あっと驚くようなことがありました。朝、パソコンを開くと、空港詳細図が流失したというニュースが載っていたのです。びっくりしました。慌ててニュース項目をクリックし、本文を読むと、なんと中部国際空港と新千歳空港の「インドアグーグルマップ」が誰でも見られる状態になっていたというのです。「インドアグーグルマップ」とは設計図をはじめ、詳細な空港の内部地図のことです。一般のヒトが知ることのできない、乗客が通らない職員専用の通路、保安区域などが載っています。

■パース空港での経験

私は10年ほど前、オーストラリアのメルボルンからパース行の国内線に乗り、パースから成田行の国際線に向かうスケジュールを組んで旅行したことがありました。乗り継ぎ時間は1時間半ほどありましたから、間に合うと思ってそのようなスケジュールを組んだのです。ところが、メルボルンで搭乗機がエンジントラブルを起こし、出発が1時間ほど遅れました。しかも、搭乗機は途中で何度か乱気流に巻き込まれました。当然、通常以上に飛行時間がかかっています。これでは到着が遅れ、乗り継ぎできなくなるのではないかと、非常に心配し、何人かのスタッフに尋ねました。すると、「大丈夫!」{大丈夫!」とどのスタッフもいかにもオーストラリア人らしくおおらかに笑いながら答えるのです。

ようやく到着したのですが、予定より1時間20分も遅れています。機内で「大丈夫」と請け合ったスタッフに再度、大丈夫か尋ねると、「大丈夫!」とやはりにこやかに答えたのですが、今度は時計を見て、気になったらしく、別のスタッフに私を預けました。そのスタッフは私を引き連れて「staff only」と書かれた扉を開け、また、次の「staff only」の扉を開けて、外に出て、空港専用車に乗せてくれて、国際空港に移動したのです。パースの国内線から国際線に行くにはかなり距離があります。そして、国際線に着くと、また、次々と「staff only」の箇所を通過し、私一人のために税関がいてくれて出国審査をし、荷物の検査をし、ようやく、成田行きの飛行機に乗り込むことができた経験があります。

搭乗機のタラップまで付き添ってくれたインド人らしい風貌のスタッフは、空港専用車で搭乗機まで乗せていってくれたのですが、別れ際に「Happy Christmas!」といってくれました。ちょうど12月24日、クリスマスでした。そのときの暖かい笑顔が今でも心に焼き付いています。

成田行のJAL国際便の乗客は「日本人女性が遅れて搭乗するため、40分遅れて出発します」と機内アナウンスによって伝えられていたそうです。隣の乗客から知らされました。

■空港での位置情報

カンタス航空のスタッフが機転を利かせてそのような処置をしれくれなかったら、私は予定していた搭乗機には乗れなかったでしょう。おそらく、そのとき私は最短コースで、国内線から国際線へと移動したのだと思います。「staff only」の箇所を何度も何度も通過していったのですが、誰にも出会うことはありませんでした。通常の乗客なら経験できないことでした。私はそのとき、飛行場には利用客の安全を支えるために見えない部分がたくさん存在することに気付いたのです。

今回、流失した「インドアグーグルマップ」にはその種の情報が詳細に記されていました。安全を確保するため、もっとも厳しく管理しなければならないはずの情報がいとも簡単に誰もがインターネットを通して見られる状態になっていたのです。驚きました。

まだソ連といわれていたころのモスクワに行ったことがあります。空港の撮影は禁止されていました。モスクワだけではなく、ハバロフスクもそうでした。一般客の写真撮影すら禁止されるのですから、空港地図はどこでも機密情報扱いのはずです。

なぜ、このようなことが起こったのかについて、読売新聞は、グーグル日本法人の社員らはグーグルグループを利用していたが、公開設定のまま、情報のやり取りをしていたため、空港側が提供した設計図などがネット上で誰もが見られるようになっていたと解説しています。

■グーグルへの不信

グーグルは利便性の高い情報サービスを提供していますので、ともすれば、利用しがちですが、実は安全面ではそれほど信頼できないのかもしれません。たとえば、Gメールは検索機能がついており、大変便利で、重宝していますが、情報の漏えいは覚悟して使わないといけないのかもしれません。便利さの代償として安全性に問題があるとすれば、メールも使い分ける必要がでてくるでしょう。便利さを掲げて世界を制覇しているGoogleですが、今回の件を知って、その利用については改めて考える必要があると思いました。(2014/4/11 香取淳子)

 

iPadと「アプリゼミ」

iPadと「アプリゼミ」

■タブレットを活用した授業

タブレットを活用した授業を進める小中学校が増えてきているといいます。

毎日新聞電子版(4月1日付)は、多摩市立愛和小学校(旧東愛宕小学校)では新1年生に、通信教育アプリの「小学1年生講座」を授業外学習ICT化の一貫として導入すると報じています。そして、松田校長の話として以下のような話を伝えています。

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アプリゼミに取り組んでいる時間に1年生の教室に入ると「先生、見て!」とあちらこちらから声がかかります。アプリゼミは結果がすぐ可視化されるので、自身の頑張りや結果を認めて欲しいのだと思います。すごいね! と返答すれば、満面の笑みが返ってきて、そしてすぐさま次の課題に真剣に取り組み始めます。さらに子どもたちは学習結果を競いながらもお互いをリスペクトする関係性を構築することにもつながっており、驚いています。

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■iPadで引き出す子どもたちの積極性

iPadを使うと、子どもたちは授業に積極的に参加するようになり、主体的な行動を取るようになるばかりか、子ども同士が互いに競い合いながらも尊重しあうという関係を築きあえるようになると、愛和小学校の校長はその効果を報告しています。

iPadの機能からいえば、おそらくその通りなのでしょう。iPadには2,3歳の幼児さえ関心を抱くことを私は経験しています。i-phoneほど小さくなく、画面を触るだけで操作できる情報端末だからでしょう。まだ文字も数字もわからない年齢の子どもの情報欲求、探究欲求を喚起するのです。

実際、私がiPadを持っているのを見つけると、幼児はすぐさま近寄ってきて、触ろうとします。自由に触らせておくと、教えもしないのに、自分で画面をいじりながら、タップすれば画面移動できることを見つけてしまいます。直観的に操作できるというiPadの特性がその年齢の子どもをも引き付けてしまうのでしょう。だから、自分で実際にさまざまに操作することができますし、その過程で使い方をマスターしてしまうのでしょう。そうだとすると、小学校1年生という低学年でiPadを導入した授業があってもいいのではないかと思います。

■愛和小学校の事例

実は、この小学校では2013年10月から、児童1人に対し1台のiPadを貸与し、授業で活用していました。そして、2014年2月13日にはiPadを使った「授業外学習」を報道陣に公開しております。ですから、iPadを使った学習については6カ月ほどの試行期間を経ていることになります。さらに、2014年3月下旬に小学校1年生向けコンテンツの評価テストを行った上で、4月から本格的に導入しているのです。

2014年2月13日に公開した授業外学習では、通信教育アプリ「アプリゼミ」の国語と算数を取り入れ、授業を行いました。「アプリゼミ」というのは、DeNA(プラットフォーム事業とソーシャルゲーム事業を展開している会社)が開発した児童向け学習アプリです。教育とエンターテイメントを融合させ、子どもが楽しみながら自発的に学習に取り組めることをコンセプトに教材を開発したそうです。

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上記は「アプリゼミ」に収録されているコンテンツです。文字や数字、物事の関係性、物事の仕組み、等々を子どもたちが楽しみながら学ぶことができる内容になっています。まさにテレビ番組『セサミストリート』のタブレット用アプリ版といえるものです。

■『セサミストリート』の場合

『セサミストリート』は、ジョンソン政権の時代に開発された就学前の児童を対象にした教育プログラムです。

当時、アメリカでは少年非行が社会問題化していました。いくつもの研究が行われた結果、学校教育になじめなかった子どもたちが非行に走りやすく、その後も犯罪を繰り返すようになるということがわかってきたのです。つまり、子どものときに学校教育についていけず、その後、適切な高等教育を受けられないと、正規の職業に就くことができず、貧困に陥りやすくなります。その結果、犯罪に手を染めるようになりがちだという非行発生のメカニズムがわかったのです。

さらに調べると、非行に走った子どもはすでに小学校段階で学校教育に馴染めなくなっていることもわかってきました。つまり、小学校に入学する段階ですでに家庭環境の違いから学習能力に格差が生じていたのです。そこで、1964年、ジョンソン政権の時代に、「ヘッドスタートプログラム」が政府支援の下で開始されました。どうすれば、あらゆる家庭の子どもたちが「ヘッドスタート」(頭を並べて、いっせいに)学校教育に入っていけるのか。課題解決につながる実践的な研究が求められました。非行、貧困という社会問題を解決するために、さまざまな領域の研究者が関わり、大がかりなプロジェクトが展開されました。

その成果の一つが『セサミストリート』です。どの家庭にもあるテレビを使って就学前教育を行い、家庭環境の差なく、スムーズに子どもたちを学校教育に馴染めるようにするために開発された番組です。ですから、番組を見ていれば、子どもたちが文字、数字、物事の関係、仕組み、等々を自然に、確実に習得できるように制作されています。子どもたちが飽きないように、それぞれのシーンは短く、リズミカルに構成され、人形やアニメーション、自分たちと似たような年齢の子どもたちを使ってわかりやすく伝わるように工夫されています。

■子どもの自発性、主体性を中心にした教育

1980年代初に幼児とテレビの研究をしていた私は、この番組の開発に関わったハーバード大学のジェラルド・レッサー教授と久留米大学で開催された小児科学会のシンポジウムでご一緒したことがあります。子どもたちが自発的に学ぼうとする意欲を喚起するには、子どもたちが面白いと感じる内容と表現様式にしなければならないという、教育の受容者の側に立った視点が印象的でした。

就学前、あるいは就学時点で、確実に基礎学力を身につけさせようとする点で、幼児や小学生向けの「アプリゼミ」はこの『セサミストリート』に似ているように思えます。また、自発的に取り組めるよう、子どもの関心をよび、興味を持続できるような方法で情報を提供し、教育効果を高めようとしている点でも、共通していると思います。

このようなiPadを導入した授業への取り組みについて、松田校長は、「iPadを利用することで、基礎学力の向上を図るとともに、共同学習をする力やプレゼンテーション力を伸ばせる」と述べています。(『ITメディア』2014/02/14)

■タブレットによる授業方法の多様化

前回、このメディア日誌ので取り上げたように、子どものiPad使用については懸念する人々も存在します。ですが、今回取り上げたように、積極的に学習の場に取り入れようとする動きもあります。

さまざまなメディアが日常生活の中にあふれている現在、従来型の授業では子どもたちが満足しなくなっているのではないか、という思いから、子どもが自発的に取り組める授業が週に一つぐらいあってもいいのではないかと私は考えています。今後、さらに複雑になっていく社会を生きるようになる子どもたちこそ、多様な物差し、多様な人々との出会い、多様な学びの場を経験することが大切なのではないかと私は思っています。(2014/4/11 香取淳子)

 

子どものiPad使用は是か非か。

子どものiPad使用は是か非か。

■子どものiPad禁止は正しい選択か

ニュースウィーク日本語版(2014年4月8日)で興味深い記事を読みました。「子供のiPad禁止は正しい選択か」という刺激的なタイトルの記事です。小児科作業療法士が書いた「12歳以下の子供に携帯機器を禁止すべき10の理由」という記事が論争を引き起こしているという内容ですが、これがフェイスブックで39万4000回以上シェアされ、「いいね!」も120万に上るほど反響を呼んだそうなのです。しかも、それに対する批判の声も多数に上っているといいます。アメリカでちょっとした論争を引き起こしているようです。

日本語版の記事には肝心の「禁止すべき10の理由」が書かれていなかったので、ネットで該当記事を探してみました。すると、「10の理由」として著者が掲げていたのは以下のものでした。

1.脳の早すぎる成長、2.発達遅滞、3.病的な肥満、4.睡眠不足、5.精神疾患、6.攻撃性、7.デジタル認知症、8.依存症、9.放射線被ばく、等々のリスクをあげ、最後に、10.機器使用を支持できない、と結論づけています。子どもに携帯情報端末を与えると、上記のような弊害が起こると警告しているのです。

詳細はこちら。 http://www.huffingtonpost.com/cris-rowan/10-reasons-why-handheld-devices-should-be-banned_b_4899218.html?view=print&comm_ref=false

原文のタイトルは以下のものです。

「10 Reasons Why Handheld Devices Should Be Banned for Children Under the Age of 12」(12歳以下の子どもに携帯情報端末を禁止すべき10の理由)としているように、明確に禁止すべき対象年齢を打ち出しています。そして、彼女は以下に示すグラフのように、子どもにはICT利用のガイドラインを提示すべきだとしています。

 

これを見ると、どういうわけか、テレビも禁止対象の機器に入れられていますが、こちらは他の機器に比べ比較的、制限が緩やかです。そうはいっても、2歳までの子どもにはテレビは見せない、3-5歳児で1日1時間、6-12歳で1日2時間、13-18歳で1日2時間、といった具合ですから、かなり厳しい内容です。日本の実態を考えると、このガイドラインは非現実だといわざるをえません。

ですから、ニューズウィーク日本語版の記事では、以下のように結論づけているのでしょう。

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携帯機器の使用時間を制限しなくてもいい、というわけではない。度を超したテクノロジーの利用は有害になり得る。しかし、子供には携帯機器をすべて禁止すべきだとする研究結果はほとんどない。iPadでドクター・スースの絵本『みどりのたまごとハム』を時々読み聞かせたり、雨の土曜日に『セサミストリート』を見せたって、後ろめたく思うことはない。

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■子どものメディア利用に対する不安

たしかに、絵本や児童書なら、ためらいもなく、子どもに与えますが、テレビをはじめ電子機器にはややためらいがあります。制限しなくてもいいのか、どのぐらいならいいのか、といった基準が私たちにはわかりません。ですから、このような記事を見かけると、すぐに飛びついてしまうのですが、読んだからといって問題が解決するわけではなく、逆に不安が募ってしまったりします。

子どもに及ぼすメディアの影響が確定されないまま、次々と新しいメディアが登場してきます。不安に思いながらも、ついつい子どもが夢中になってしまうのを見逃してしまっているのが現状ではないでしょうか。

■iPadで遊ぶ子どもたち

昨年8月、北京に滞在していたとき、屋台でおでんを売っている親の傍らで、4歳ぐらいの女の子が段ボールの上に寝そべってiPadで遊んでいたのを見たことがあります。親が買って与えたのでしょう、そのギャップに驚きました。ちなみに、iPadでは知育用のアプリが数多く開発されています。

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たとえば、上記のようなアプリは子どもが言葉を学習するのに役立ちます。シチュエーションを説明する文字が下の方に書かれており、キャラクターをクリックすると、そのキャラクターのセリフが表れ、同時に音声が出ます。以前なら考えられなかったようなデバイスです。それを子どもがいつでも自由に好きなだけ使うことができるのです。

■wifi環境下での教育機会

ですから、wifi環境が整備されてくると、この種の情報機器は教育の機会均等の大きく寄与する可能性があります。先進諸国では子どもの影響を憂え、使用制限する方向に傾くかもしれませんが、途上国ではこの種の機器はむしろ貴重な教育機会として重宝されるようになるでしょう。

子どもの情報機器の利用への懸念は古くて新しい課題です。かつてはテレビが問題視され、いまは携帯情報機器の利用が心配されるようになりました。メディアははたして子どもの成長にどのような影響を及ぼすのか、横断的な研究だけでは影響のプロセスがわかりませんから、縦断的な研究と合わせて実施する必要があるでしょう。(2014/4/10 香取淳子)

 

メディアは真相に迫れるのか?:小保方氏会見中継を見て

メディアは真相に迫れるのか?:小保方氏会見中継を見て

■マスメディアは真相に迫れるか?

4月9日午後1時から始まった小保方氏の記者会見を見ました。会見が開かれた大阪のホテルには300人の記者が集まったそうです。

現場からの中継で記者会見を見たのですが、地上波民放テレビの場合、すぐにCMが入るだけではなく、まだ会見が続いているのに中途半端に編集された映像を見せられたり、スタジオでのコメントを聞かせられたりします。ですから、途中で、CSに切り替えました。おかげで、落ち着いて中継を見ることができました。

テレビを初め、マスメディアははたして真相に迫れるのか、というのが、中継を見終えての率直な感想です。

■記者の質問力

中継すべてを見ていたわけではありませんが、まず、記者の質問内容に問題があるように思いました。たとえば、質問の趣旨が明快でない、自身の意見を開陳するだけ、わかりきっていることを尋ねる、意味のない質問をする、明らかに勉強不足、等々の質問が気になりました。せっかく開催された記者会見なのに、こんな質問が続くようでは時間がもったいないと感じたほどでした。専門性の高い案件だとはいえ、真相に迫るためにも、会見に赴いた記者はすくなくとも問題の本質を把握し、質問力を高めておかなければならなかったのではないでしょうか。

大勢の記者に取り囲まれ、最初は不安そうに見えた小保方氏ですが、本質に迫らない質問が続いたので、次第に心に余裕が生まれたのでしょう、やがて、質問を待ち構えるような姿勢になっていきました。無表情に淡々と、そして、誠実に質問に答えようとする姿勢には好感が持てました。会見内容は、会見されるヒトと質問する記者との知的な力関係に影響されるものだということを改めて思い知らされた気がします。

もちろん、核心に触れる質問もありました。ある記者が「論文を撤回する意思はあるか」と尋ねたのです。すると、小保方氏はきっぱりと、「論文の撤回はしません」と答えました。その理由として「論文を撤回すると、結論が間違っているということになり、それを世界に公表することになりますから」と明言しました。ここに彼女のスタンスがはっきりと見えます。

さらに、調査結果に対し不服申し立てをしてことに関し、調査委員会に対し納得させるだけの証拠は出せるのかという質問をした記者もいました。それについては今回は調査が不十分であるということについての不服申し立てだと回答し、小保方氏はその質問をうまく回避していました。

■「誠実さ」を印象づける

テレビ画面で見る小保方氏は当初、非常にはかなげで、脆いように見えていましたが、記者からの質問に対する答え方を見ていると、しっかりと質問内容を受け止め、的確に言葉を選び、言語明晰に切り返していました。時に涙ぐむこともありましたが、随所で自分は研究者として未熟で、不勉強、不注意によって今回の事態に至ったことを詫びていました。しかも、Natureに2本を論文を載せるのは自分の能力をはるかに超えていたと率直に語ります。まるで会場の記者たちの機先をそぐかのように、あっけないほど率直に誤りを認め、関係者に迷惑をかけたと謝っていたのです。誠実だという印象を受けたのはそのせいだったのかもしれません。

■儚さの背後に見えるしたたかさ

ところが、調査委員会によって「不正」とされたことにははっきりとノーといい、とても承認できるものではないと意思表示しました。非常にしっかりとしたヒトだし、的確に状況判断ができる頭のいいヒトだという印象を受けました。大勢の記者を前にして、冷静に次々と質問を処理していっただけではなく、自分の主張を明確に表明したのですから・・・。はかなげで頼りなさそうに見えていただけに、「STAP細胞はあります」と語調を強めたとき、「200回以上作製しました」といいきったときは驚きました。

それでは、この記者会見で、小保方氏への疑惑を払拭できたのかといえば、そうではないといわざるをえませんでした。というのも、これまでさまざまにいわれてきた疑惑が解明されたわけではなかったからです。たとえば、以下のような情報があります。

詳細はこちら。 http://stapcells.blogspot.jp/

■SNS経由で噴出した疑義

そもそも、Nature論文への疑惑は、SNS経由で噴出してきました。日本だけではなく、世界中の専門家が論文の不具合な部分に気づき、疑義を唱え始めたのです。画像の使い回し、他人の論文の剽窃、等々の疑惑が次々と出てきました。それらを払拭するには納得できるだけの証拠を示さなければなりません。ですが、この記者会見ではそれが示されませんでしたし、その可能性もあるとはいえませんでした。

今日の会見で小保方氏側の事情、見解が多少、わかりました。ですから、小保方氏にとってこの会見はプラスに働いたように思います。一連の質問に答える姿からは誠実な研究者という印象が残りましたし、よどみなく的確に言葉を選びながら答える姿からは頭脳明晰だという印象も受けました。ただ、そのような印象を受けてしまうのも、テレビという視聴覚媒体によってこの会見を見たからでしょう。見た目や話し声、話し方といった視聴覚媒体になじむ情報が優先的に受容された結果、内容よりも誠実さという印象が強く残った可能性が考えられます。

■理研の説明責任

この件のように専門性の高い領域の不正は、専門家しかその是非を判断することはできません。専門家の果たす役割がきわめて重要なのです。ただ、今回の会見内容は詳細にテープ起こしされるでしょうから、小保方氏の発言の真偽は今後、ひとつずつ検証されていくことでしょう。そして、真相に少しは近づけるしかないのかもしれません。それにしても不可解なのが、理研の対応です。

Nature論文を実際に執筆したのではないかといわれ、今回の研究を実質的に誘導したとされる笹井氏はなぜ公の場に姿を現さないのでしょうか。小保方氏の記者会見によっても、結局、真相に迫ることはできませんでした。これ以上何かがわかるという可能性も考えられません。ですから、この会見によって、この件に幕が引かれるのではなく、理研側が一連の騒動の真相に迫るためのスタートラインに立たされることになったように思います。理研は今後、納得できるだけの説明責任を果たさなければならなくなったのではないでしょうか。(2014/4/9 香取淳子)