ヒト、メディア、社会を考える

09日

メディアは真相に迫れるのか?:小保方氏会見中継を見て

メディアは真相に迫れるのか?:小保方氏会見中継を見て

■マスメディアは真相に迫れるか?

4月9日午後1時から始まった小保方氏の記者会見を見ました。会見が開かれた大阪のホテルには300人の記者が集まったそうです。

現場からの中継で記者会見を見たのですが、地上波民放テレビの場合、すぐにCMが入るだけではなく、まだ会見が続いているのに中途半端に編集された映像を見せられたり、スタジオでのコメントを聞かせられたりします。ですから、途中で、CSに切り替えました。おかげで、落ち着いて中継を見ることができました。

テレビを初め、マスメディアははたして真相に迫れるのか、というのが、中継を見終えての率直な感想です。

■記者の質問力

中継すべてを見ていたわけではありませんが、まず、記者の質問内容に問題があるように思いました。たとえば、質問の趣旨が明快でない、自身の意見を開陳するだけ、わかりきっていることを尋ねる、意味のない質問をする、明らかに勉強不足、等々の質問が気になりました。せっかく開催された記者会見なのに、こんな質問が続くようでは時間がもったいないと感じたほどでした。専門性の高い案件だとはいえ、真相に迫るためにも、会見に赴いた記者はすくなくとも問題の本質を把握し、質問力を高めておかなければならなかったのではないでしょうか。

大勢の記者に取り囲まれ、最初は不安そうに見えた小保方氏ですが、本質に迫らない質問が続いたので、次第に心に余裕が生まれたのでしょう、やがて、質問を待ち構えるような姿勢になっていきました。無表情に淡々と、そして、誠実に質問に答えようとする姿勢には好感が持てました。会見内容は、会見されるヒトと質問する記者との知的な力関係に影響されるものだということを改めて思い知らされた気がします。

もちろん、核心に触れる質問もありました。ある記者が「論文を撤回する意思はあるか」と尋ねたのです。すると、小保方氏はきっぱりと、「論文の撤回はしません」と答えました。その理由として「論文を撤回すると、結論が間違っているということになり、それを世界に公表することになりますから」と明言しました。ここに彼女のスタンスがはっきりと見えます。

さらに、調査結果に対し不服申し立てをしてことに関し、調査委員会に対し納得させるだけの証拠は出せるのかという質問をした記者もいました。それについては今回は調査が不十分であるということについての不服申し立てだと回答し、小保方氏はその質問をうまく回避していました。

■「誠実さ」を印象づける

テレビ画面で見る小保方氏は当初、非常にはかなげで、脆いように見えていましたが、記者からの質問に対する答え方を見ていると、しっかりと質問内容を受け止め、的確に言葉を選び、言語明晰に切り返していました。時に涙ぐむこともありましたが、随所で自分は研究者として未熟で、不勉強、不注意によって今回の事態に至ったことを詫びていました。しかも、Natureに2本を論文を載せるのは自分の能力をはるかに超えていたと率直に語ります。まるで会場の記者たちの機先をそぐかのように、あっけないほど率直に誤りを認め、関係者に迷惑をかけたと謝っていたのです。誠実だという印象を受けたのはそのせいだったのかもしれません。

■儚さの背後に見えるしたたかさ

ところが、調査委員会によって「不正」とされたことにははっきりとノーといい、とても承認できるものではないと意思表示しました。非常にしっかりとしたヒトだし、的確に状況判断ができる頭のいいヒトだという印象を受けました。大勢の記者を前にして、冷静に次々と質問を処理していっただけではなく、自分の主張を明確に表明したのですから・・・。はかなげで頼りなさそうに見えていただけに、「STAP細胞はあります」と語調を強めたとき、「200回以上作製しました」といいきったときは驚きました。

それでは、この記者会見で、小保方氏への疑惑を払拭できたのかといえば、そうではないといわざるをえませんでした。というのも、これまでさまざまにいわれてきた疑惑が解明されたわけではなかったからです。たとえば、以下のような情報があります。

詳細はこちら。 http://stapcells.blogspot.jp/

■SNS経由で噴出した疑義

そもそも、Nature論文への疑惑は、SNS経由で噴出してきました。日本だけではなく、世界中の専門家が論文の不具合な部分に気づき、疑義を唱え始めたのです。画像の使い回し、他人の論文の剽窃、等々の疑惑が次々と出てきました。それらを払拭するには納得できるだけの証拠を示さなければなりません。ですが、この記者会見ではそれが示されませんでしたし、その可能性もあるとはいえませんでした。

今日の会見で小保方氏側の事情、見解が多少、わかりました。ですから、小保方氏にとってこの会見はプラスに働いたように思います。一連の質問に答える姿からは誠実な研究者という印象が残りましたし、よどみなく的確に言葉を選びながら答える姿からは頭脳明晰だという印象も受けました。ただ、そのような印象を受けてしまうのも、テレビという視聴覚媒体によってこの会見を見たからでしょう。見た目や話し声、話し方といった視聴覚媒体になじむ情報が優先的に受容された結果、内容よりも誠実さという印象が強く残った可能性が考えられます。

■理研の説明責任

この件のように専門性の高い領域の不正は、専門家しかその是非を判断することはできません。専門家の果たす役割がきわめて重要なのです。ただ、今回の会見内容は詳細にテープ起こしされるでしょうから、小保方氏の発言の真偽は今後、ひとつずつ検証されていくことでしょう。そして、真相に少しは近づけるしかないのかもしれません。それにしても不可解なのが、理研の対応です。

Nature論文を実際に執筆したのではないかといわれ、今回の研究を実質的に誘導したとされる笹井氏はなぜ公の場に姿を現さないのでしょうか。小保方氏の記者会見によっても、結局、真相に迫ることはできませんでした。これ以上何かがわかるという可能性も考えられません。ですから、この会見によって、この件に幕が引かれるのではなく、理研側が一連の騒動の真相に迫るためのスタートラインに立たされることになったように思います。理研は今後、納得できるだけの説明責任を果たさなければならなくなったのではないでしょうか。(2014/4/9 香取淳子)

 

英エコノミスト誌が伝える安倍「成長戦略」としての女性活用

英エコノミスト誌が伝える安倍「成長戦略」としての女性活用

■中国人女性からの質問

昨日、メールをチェックしていて、見慣れない名前のヒトからのメールを見つけました。開けてみると、昨年、北京で取材をした中国人女性からのメールでした。主な内容は、日本では女性の社会的価値が低いの?という質問でした。なぜ、突然、このようなメールが来るのか不思議でしたが、その後、たまたま、英エコノミスト誌(2014年3月29日号)を読む機会があり、パラパラとページをめくっていて、これだ、と納得しました。「日本人女性と仕事」と題した記事があったのです。

そのリードの部分がまさにメールで書かれた質問に合致する内容だったのです。記事タイトルの下には、東京発として、太字で「日本の職場では女性の地位が低く、ここ何十年も改善されてこなかったが、安倍首相はそのような状況を変えたいと思っている・・・・」と書かれていました。

■安倍首相の「成長戦略」

たしかに安倍首相はダボス会議でも成長戦略の一つとして女性の活用を掲げ、その実行を高らかに宣言しました。首相官邸のホームページにも「女性が輝く日本へ」というタイトルのページが設定されています。女性が働きやすい環境づくりを推進するだけではなく、リーダーとして女性の登用を奨励することも考えられているようです。そして、それらの目的を確実に達成するための課題も具体的に書かれています。ですから、今度こそは本気で政策課題として取り組まれていくと思います。少子高齢化による弊害を乗り越え、日本経済を持続的に成長させていくには、女性を労働市場で積極的に活用していくことがなによりも大切だからです。

詳細はこちら。http://www.kantei.go.jp/jp/headline/women2013.html

ただ、そうするにはいくつかの阻害要因が日本社会にはあります。その一つとして挙げられるのが、日本社会に広く蔓延している企業文化です。

■家事参加率の低い日本人男性

英エコノミスト誌はそれに関連して、記事の中で次のような図を使っています。「workplace uncoupling」と名付けられた下図は、OECDが作成したもので、先進諸国における女性の労働市場への参加率(茶色)、家事・育児など報酬のない労働への男性の参加率(青色)が示されています。これを見ると、スウェーデンは女性の労働市場への参加率は高く、男性の報酬のない労働への参加率も高いことがわかります。つまり、女性が社会進出できることの背景に、家事・育児労働への男性の協力が大きいことが示されています。

このグラフで際立っているのが、日本男性の報酬のない労働への参加率の低さです。先進国の中では低いフランスと比べてもその半分以下です。日本女性の労働市場への参加率は他国に比べ、それほど変わりませんが、男性が極端に低いのです。つまり、この図からは、日本の場合、男性がほとんど家事・育児に参加しないため、女性に負担がかかっているということが示されているのです。

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保育園の待機児童を減らす政策はこの課題に対応するものなのでしょう。

■職場待遇への不満高い日本人女性

英エコノミスト誌はさらに、興味深い研究成果を紹介しています。大学を卒業した女性が職場を止めた理由を日米で比較すると、米国の場合、育児や介護のためと辞めるケースが多くみられたのですが、日本の場合、仕事に不満があった、あるいは、将来性のない仕事に嫌気がさしたといった理由で辞めるケースが多くみられたというのです。これは、日本人なら日常的に仄聞することでもありますが、あらためて、日本女性は職場で責任のある仕事を与えられることが少なく、リーダーになることも少ないという現実が浮き彫りにされたといえそうです。

このような現実への対応策として、女性リーダーの登用という政策が掲げられたのでしょう。私たちもまた、性別、年齢別のカテゴリーではなく、個人として責任のある仕事をしていかなければならないと思います。(2014/4/9 香取淳子)