ヒト、メディア、社会を考える

10日

子どものiPad使用は是か非か。

子どものiPad使用は是か非か。

■子どものiPad禁止は正しい選択か

ニュースウィーク日本語版(2014年4月8日)で興味深い記事を読みました。「子供のiPad禁止は正しい選択か」という刺激的なタイトルの記事です。小児科作業療法士が書いた「12歳以下の子供に携帯機器を禁止すべき10の理由」という記事が論争を引き起こしているという内容ですが、これがフェイスブックで39万4000回以上シェアされ、「いいね!」も120万に上るほど反響を呼んだそうなのです。しかも、それに対する批判の声も多数に上っているといいます。アメリカでちょっとした論争を引き起こしているようです。

日本語版の記事には肝心の「禁止すべき10の理由」が書かれていなかったので、ネットで該当記事を探してみました。すると、「10の理由」として著者が掲げていたのは以下のものでした。

1.脳の早すぎる成長、2.発達遅滞、3.病的な肥満、4.睡眠不足、5.精神疾患、6.攻撃性、7.デジタル認知症、8.依存症、9.放射線被ばく、等々のリスクをあげ、最後に、10.機器使用を支持できない、と結論づけています。子どもに携帯情報端末を与えると、上記のような弊害が起こると警告しているのです。

詳細はこちら。 http://www.huffingtonpost.com/cris-rowan/10-reasons-why-handheld-devices-should-be-banned_b_4899218.html?view=print&comm_ref=false

原文のタイトルは以下のものです。

「10 Reasons Why Handheld Devices Should Be Banned for Children Under the Age of 12」(12歳以下の子どもに携帯情報端末を禁止すべき10の理由)としているように、明確に禁止すべき対象年齢を打ち出しています。そして、彼女は以下に示すグラフのように、子どもにはICT利用のガイドラインを提示すべきだとしています。

 

これを見ると、どういうわけか、テレビも禁止対象の機器に入れられていますが、こちらは他の機器に比べ比較的、制限が緩やかです。そうはいっても、2歳までの子どもにはテレビは見せない、3-5歳児で1日1時間、6-12歳で1日2時間、13-18歳で1日2時間、といった具合ですから、かなり厳しい内容です。日本の実態を考えると、このガイドラインは非現実だといわざるをえません。

ですから、ニューズウィーク日本語版の記事では、以下のように結論づけているのでしょう。

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携帯機器の使用時間を制限しなくてもいい、というわけではない。度を超したテクノロジーの利用は有害になり得る。しかし、子供には携帯機器をすべて禁止すべきだとする研究結果はほとんどない。iPadでドクター・スースの絵本『みどりのたまごとハム』を時々読み聞かせたり、雨の土曜日に『セサミストリート』を見せたって、後ろめたく思うことはない。

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■子どものメディア利用に対する不安

たしかに、絵本や児童書なら、ためらいもなく、子どもに与えますが、テレビをはじめ電子機器にはややためらいがあります。制限しなくてもいいのか、どのぐらいならいいのか、といった基準が私たちにはわかりません。ですから、このような記事を見かけると、すぐに飛びついてしまうのですが、読んだからといって問題が解決するわけではなく、逆に不安が募ってしまったりします。

子どもに及ぼすメディアの影響が確定されないまま、次々と新しいメディアが登場してきます。不安に思いながらも、ついつい子どもが夢中になってしまうのを見逃してしまっているのが現状ではないでしょうか。

■iPadで遊ぶ子どもたち

昨年8月、北京に滞在していたとき、屋台でおでんを売っている親の傍らで、4歳ぐらいの女の子が段ボールの上に寝そべってiPadで遊んでいたのを見たことがあります。親が買って与えたのでしょう、そのギャップに驚きました。ちなみに、iPadでは知育用のアプリが数多く開発されています。

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たとえば、上記のようなアプリは子どもが言葉を学習するのに役立ちます。シチュエーションを説明する文字が下の方に書かれており、キャラクターをクリックすると、そのキャラクターのセリフが表れ、同時に音声が出ます。以前なら考えられなかったようなデバイスです。それを子どもがいつでも自由に好きなだけ使うことができるのです。

■wifi環境下での教育機会

ですから、wifi環境が整備されてくると、この種の情報機器は教育の機会均等の大きく寄与する可能性があります。先進諸国では子どもの影響を憂え、使用制限する方向に傾くかもしれませんが、途上国ではこの種の機器はむしろ貴重な教育機会として重宝されるようになるでしょう。

子どもの情報機器の利用への懸念は古くて新しい課題です。かつてはテレビが問題視され、いまは携帯情報機器の利用が心配されるようになりました。メディアははたして子どもの成長にどのような影響を及ぼすのか、横断的な研究だけでは影響のプロセスがわかりませんから、縦断的な研究と合わせて実施する必要があるでしょう。(2014/4/10 香取淳子)