ヒト、メディア、社会を考える

27日

回転寿司とICT

おもてなしは、やはり鮨?

2014年4月23日、オバマ大統領が来日しました。安倍首相は非公式夕食会の場として、東京・銀座の鮨店「すきやばし次郎」を設定しました。日本人にとって、いざというときのおもてなしはやはり鮨なのでしょう。「すきやばし次郎」は、ミシュラン・ガイド東京版で最高の三ツ星の格付けを得ている高級鮨店です。メニューはなく、「おまかせ」で注文するシステムで、値段は一人3万円以上だそうです。

「すきやばし次郎」詳細はこちら。http://www.sushi-jiro.jp/jpn-index.html

安倍首相とオバマ大統領の約2時間半に及んだ会食は、いま懸案のTPP交渉の話題で終始したようですが、25日の共同声明では大筋合意に至りませんでした。せっかく用意した高級「鮨」の効果はなかったのでしょうか。

■回転寿司

安倍首相とオバマ大統領の鮨会食のニュースに刺激され、私も久しぶりにお鮨を食べたくなりました。とはいえ、私たち庶民にとって身近な鮨はやはり回転寿司です。たまたま神奈川県藤沢市に用事があって出かけたため、もよりの湘南台「はま寿司」に行きました。やはり家族連れが姿が目立ちましたが、土曜日だというのに客数は少なく、大丈夫かな?とちょっと不安になりました。「はま寿司」に入るのは初めてです。

IMG_0885 (640x480)

よく行く「かっぱ寿司」とは違って、注文した寿司が特急レーンで運ばれるシステムではないので、最初はまごつきました。注文した鮨もそうでない鮨も同じようにベルトコンベアに乗って流れてくるので、他人が注文した鮨を間違って取ってしまう可能性があるのです。よく見ると、注文した皿は台の上に乗っているのですが、最初はわかりません。カウンター席に座ってすぐにベルトコンベアから手に取った皿は今思えば、他人が注文した鮨だったのでしょう。大変おいしいしめさばでした。

IMG_0884 (640x480)

次に上記の注文システムを使って、おすすめの特ネタを注文しました。写真だけで判断し、なんとなくおいしそうに見えたマグロのトロを注文しました。注文した商品が届く際には、音声案内があります。同じようにベルトコンベアに乗ってきますが、注意深く確かめながら、皿を手に取りました。注文したトロですが、見ただけで時間が経っていることがわかります。表面に艶がなく乾燥しているのです。案の定、口に入れると、端の部分が乾燥して固くなっていました。吐き出しました。

これまで「かっぱ寿司」や「スシロー」などの回転寿司チェーンで何度が鮨を食べたことがありますが、一度もこのようなまずい鮨を食べたことがありませんでした。鮮度管理が徹底していたのでしょう。鮨は生ものですから、鮮度が命です。その鮮度がなく、乾燥して固くなってしまっているのですから、もはや商品とはいえません。

ですが、お店の人にクレームをつけず、そのまま他の鮨ネタに手を伸ばしました。エビ、イカ、ホタテ・・・、よく食べるネタ皿を次々と取って食べてみましたが、ホタテ以外は鮮度がよくありません。いつもは10皿は食べるのですが、お腹が空いていたので7皿は食べましたが、それ以上は食べる気がしませんでした。

支払のために会計に立ち、ふと壁側に目を向けると、以下のような表示に気づきました。

IMG_0886 (640x480)

なんと、「はま寿司のこだわり」として、ICチップを内蔵した皿を使用して鮮度管理しているというのです。だとすれば、私が注文して食べたマグロのトロは自動的にレーンから外れたものを再度、ヒトが注文皿に入れ、ベルトコンベアで流したのでしょうか。たとえICTを導入して鮮度管理をしていたとしても、ヒトがそれを戻したのではまったく意味がありません。なぜ乾燥したトロが私の席に注文皿で届いたのかわまりませんが、後味が悪く、不愉快な気分で店を出ました。

今回の件は不幸な経験でしたが、回転寿司自体はとても面白いシステムです。技術と職人技を統合しようとして日本的試みとして傑出しているのです。はたして回転寿司はどのような経過を辿って、現在の姿にまで進化してきたのでしょうか。「回転寿司の世界」vol.10から、回転寿司の歴史をざっとおさらいしてみることにしましょう。

詳細はこちら。http://www.ntt-card.com/trace_bn/vol10_201401/special/index.html

■回転寿司の黎明期

回転寿司店は、大阪の寿司職人・白石義明氏によって1958年に開設された「廻る元禄寿司1号店」が最初だといわれています。白石氏は開発の際にベルトコンベアの特許「コンベア旋回式食事台」を取得していました。ですから、当時、回転寿司市場は「元禄寿司」の独占状態だったようです。関西からやがて東日本へと発展し、仙台の屋台寿司店の江川金鐘氏が回転する中華テーブルをヒントにして回転寿司のシステムを開発していました。ところが、白石氏がすでに回転寿司の特許を取っていましたので、実用化ができず、販売契約という形を取ることになったようです。その結果、「元禄寿司」が広がっていきました。ちなみに、この「回転寿司=元禄寿司」という状況は、特許が切れる1978年まで続いたといわれています。

■大阪万博でブレイクした回転寿司

回転寿司は大阪万博で一躍、認知度を高めました。元禄寿司は万博で大阪を訪れていた多くの日本人、外国人の注目を集めました。当時、万博で出店していたのは、マクドナルド、ミスタードーナッツなどの有名外食企業でした。ところが、その中に混じって、元禄寿司はそのシステムの物珍しさから、「電気自動車」や「動く歩道」などの近未来的な展示物と同じような、未来を予感させる存在として脚光を浴びていたといわれています。ですから、万博終了後、マスコミや事業者から元禄寿司に問い合わせが殺到したそうです。

■回転寿司店の勃興

回転寿司店が次々と台頭してきたのが、1978年以降です。というのも、この年「コンベア旋回式食事台」の特許権が失効したからでした。1979年に「かっぱ寿司」、1984年に「回転寿司くら(現・くら寿司)、「すし太郎(現・スシロー)」そして、1987年に「がってん寿司」など、現在よく目にする回転寿司チェーンは実はこの時期に誕生していたのです。それぞれが起業後40年を経てもなお、事業を継続することができているのが興味深いところです。おそらく、各社それぞれ技術開発等に企業努力を怠らなかったからでしょう。

たとえば、全国的にチェーン店が増えるにつれ、寿司職人が不足するという事態が発生しました。これを契機に寿司ロボットの導入等の自動化が推進されました。安さを魅力にしている回転寿司チェーンは経費節減のため、並々ならぬ努力をしていたのです。

そればかりではありません。安全と美味しさを求め、各回転寿司店は多大な努力をしていたようです。

■回転寿司のICT戦略

いまから9年ほど前すでに酢飯はロボットが握り、仕入れや客の回転率を極限まで効率化するため、ICTが利用されていました。

スシローの場合、スシ皿にはICタグが付けられていて、センサーがそれを認識するように設定されていました。調理場で認識された後、別のセンサーで認識された際に皿がなくなっていたら、客が食べたと判断し、なくなっていなければ食べられていないことになります。いまや、スシ皿にICタグを付けるのは当たり前になっています。350メートル移動した皿は自動的に廃棄されるように設定されていたというのですが、おそらくその距離が鮮度の限界なのでしょう。

それでは、現在のスシローはどうでしょうか。

『日経情報ストラテジー』(2013年9月)によると、以下のようになっているようです。

********

皿にICチップを取り付け、単品ごとに管理し、売れ筋をリアルタイムで把握し、それを需要予測に生かす。

レーンにおけるネタごとの走行距離も収集しており、ネタごとにあらかじめ決めた走行距離を過ぎれば、「鮮度が落ちた」と判断して、自動的に廃棄する仕組みも導入している。例えばまぐろであれば、350m以上が対象になる。

********

7年前もこれと同様の管理が行われていました。鮮度管理の自動化は真っ先に導入しなければならないことだったからでしょう。ICタグによる管理はそのまま現在にまで引き継がれていたのです。

いまではビッグデータによってネタ毎に鮮度時間がわかっています。それに対応した機器も開発されています。ですから、以前よりも鮮度管理の仕組みが向上していることは確かです。

回転寿司はこのように技術とともに進化を遂げてきたにもかかわらず、私は乾燥しきった鮨ネタを食べる羽目になってしまいました。それは、ヒトがこの全自動技術をいっとき排除した結果だったのでしょうか、それとも、他に理由があったのでしょうか。

いずれにしても、ヒトも技術も最終的に何をしたいのかという目的が明確でなければ、この種のミスは発生しやすくなるのだという気がしました。技術が万能なのでもなく、ヒトが万能なのでもありません。ヒトが技術の支援を受けて果たそうとする目的こそが’万能’、すなわち重要なのだということを今回の件で再確認しました。(2014/4/27 香取淳子)