ヒト、メディア、社会を考える

11日

Google:空港詳細図の流失

Google:空港詳細図の流失

■インドアグーグルマップの流失

4月11日、あっと驚くようなことがありました。朝、パソコンを開くと、空港詳細図が流失したというニュースが載っていたのです。びっくりしました。慌ててニュース項目をクリックし、本文を読むと、なんと中部国際空港と新千歳空港の「インドアグーグルマップ」が誰でも見られる状態になっていたというのです。「インドアグーグルマップ」とは設計図をはじめ、詳細な空港の内部地図のことです。一般のヒトが知ることのできない、乗客が通らない職員専用の通路、保安区域などが載っています。

■パース空港での経験

私は10年ほど前、オーストラリアのメルボルンからパース行の国内線に乗り、パースから成田行の国際線に向かうスケジュールを組んで旅行したことがありました。乗り継ぎ時間は1時間半ほどありましたから、間に合うと思ってそのようなスケジュールを組んだのです。ところが、メルボルンで搭乗機がエンジントラブルを起こし、出発が1時間ほど遅れました。しかも、搭乗機は途中で何度か乱気流に巻き込まれました。当然、通常以上に飛行時間がかかっています。これでは到着が遅れ、乗り継ぎできなくなるのではないかと、非常に心配し、何人かのスタッフに尋ねました。すると、「大丈夫!」{大丈夫!」とどのスタッフもいかにもオーストラリア人らしくおおらかに笑いながら答えるのです。

ようやく到着したのですが、予定より1時間20分も遅れています。機内で「大丈夫」と請け合ったスタッフに再度、大丈夫か尋ねると、「大丈夫!」とやはりにこやかに答えたのですが、今度は時計を見て、気になったらしく、別のスタッフに私を預けました。そのスタッフは私を引き連れて「staff only」と書かれた扉を開け、また、次の「staff only」の扉を開けて、外に出て、空港専用車に乗せてくれて、国際空港に移動したのです。パースの国内線から国際線に行くにはかなり距離があります。そして、国際線に着くと、また、次々と「staff only」の箇所を通過し、私一人のために税関がいてくれて出国審査をし、荷物の検査をし、ようやく、成田行きの飛行機に乗り込むことができた経験があります。

搭乗機のタラップまで付き添ってくれたインド人らしい風貌のスタッフは、空港専用車で搭乗機まで乗せていってくれたのですが、別れ際に「Happy Christmas!」といってくれました。ちょうど12月24日、クリスマスでした。そのときの暖かい笑顔が今でも心に焼き付いています。

成田行のJAL国際便の乗客は「日本人女性が遅れて搭乗するため、40分遅れて出発します」と機内アナウンスによって伝えられていたそうです。隣の乗客から知らされました。

■空港での位置情報

カンタス航空のスタッフが機転を利かせてそのような処置をしれくれなかったら、私は予定していた搭乗機には乗れなかったでしょう。おそらく、そのとき私は最短コースで、国内線から国際線へと移動したのだと思います。「staff only」の箇所を何度も何度も通過していったのですが、誰にも出会うことはありませんでした。通常の乗客なら経験できないことでした。私はそのとき、飛行場には利用客の安全を支えるために見えない部分がたくさん存在することに気付いたのです。

今回、流失した「インドアグーグルマップ」にはその種の情報が詳細に記されていました。安全を確保するため、もっとも厳しく管理しなければならないはずの情報がいとも簡単に誰もがインターネットを通して見られる状態になっていたのです。驚きました。

まだソ連といわれていたころのモスクワに行ったことがあります。空港の撮影は禁止されていました。モスクワだけではなく、ハバロフスクもそうでした。一般客の写真撮影すら禁止されるのですから、空港地図はどこでも機密情報扱いのはずです。

なぜ、このようなことが起こったのかについて、読売新聞は、グーグル日本法人の社員らはグーグルグループを利用していたが、公開設定のまま、情報のやり取りをしていたため、空港側が提供した設計図などがネット上で誰もが見られるようになっていたと解説しています。

■グーグルへの不信

グーグルは利便性の高い情報サービスを提供していますので、ともすれば、利用しがちですが、実は安全面ではそれほど信頼できないのかもしれません。たとえば、Gメールは検索機能がついており、大変便利で、重宝していますが、情報の漏えいは覚悟して使わないといけないのかもしれません。便利さの代償として安全性に問題があるとすれば、メールも使い分ける必要がでてくるでしょう。便利さを掲げて世界を制覇しているGoogleですが、今回の件を知って、その利用については改めて考える必要があると思いました。(2014/4/11 香取淳子)

 

iPadと「アプリゼミ」

iPadと「アプリゼミ」

■タブレットを活用した授業

タブレットを活用した授業を進める小中学校が増えてきているといいます。

毎日新聞電子版(4月1日付)は、多摩市立愛和小学校(旧東愛宕小学校)では新1年生に、通信教育アプリの「小学1年生講座」を授業外学習ICT化の一貫として導入すると報じています。そして、松田校長の話として以下のような話を伝えています。

***********

アプリゼミに取り組んでいる時間に1年生の教室に入ると「先生、見て!」とあちらこちらから声がかかります。アプリゼミは結果がすぐ可視化されるので、自身の頑張りや結果を認めて欲しいのだと思います。すごいね! と返答すれば、満面の笑みが返ってきて、そしてすぐさま次の課題に真剣に取り組み始めます。さらに子どもたちは学習結果を競いながらもお互いをリスペクトする関係性を構築することにもつながっており、驚いています。

**********

■iPadで引き出す子どもたちの積極性

iPadを使うと、子どもたちは授業に積極的に参加するようになり、主体的な行動を取るようになるばかりか、子ども同士が互いに競い合いながらも尊重しあうという関係を築きあえるようになると、愛和小学校の校長はその効果を報告しています。

iPadの機能からいえば、おそらくその通りなのでしょう。iPadには2,3歳の幼児さえ関心を抱くことを私は経験しています。i-phoneほど小さくなく、画面を触るだけで操作できる情報端末だからでしょう。まだ文字も数字もわからない年齢の子どもの情報欲求、探究欲求を喚起するのです。

実際、私がiPadを持っているのを見つけると、幼児はすぐさま近寄ってきて、触ろうとします。自由に触らせておくと、教えもしないのに、自分で画面をいじりながら、タップすれば画面移動できることを見つけてしまいます。直観的に操作できるというiPadの特性がその年齢の子どもをも引き付けてしまうのでしょう。だから、自分で実際にさまざまに操作することができますし、その過程で使い方をマスターしてしまうのでしょう。そうだとすると、小学校1年生という低学年でiPadを導入した授業があってもいいのではないかと思います。

■愛和小学校の事例

実は、この小学校では2013年10月から、児童1人に対し1台のiPadを貸与し、授業で活用していました。そして、2014年2月13日にはiPadを使った「授業外学習」を報道陣に公開しております。ですから、iPadを使った学習については6カ月ほどの試行期間を経ていることになります。さらに、2014年3月下旬に小学校1年生向けコンテンツの評価テストを行った上で、4月から本格的に導入しているのです。

2014年2月13日に公開した授業外学習では、通信教育アプリ「アプリゼミ」の国語と算数を取り入れ、授業を行いました。「アプリゼミ」というのは、DeNA(プラットフォーム事業とソーシャルゲーム事業を展開している会社)が開発した児童向け学習アプリです。教育とエンターテイメントを融合させ、子どもが楽しみながら自発的に学習に取り組めることをコンセプトに教材を開発したそうです。

photo

上記は「アプリゼミ」に収録されているコンテンツです。文字や数字、物事の関係性、物事の仕組み、等々を子どもたちが楽しみながら学ぶことができる内容になっています。まさにテレビ番組『セサミストリート』のタブレット用アプリ版といえるものです。

■『セサミストリート』の場合

『セサミストリート』は、ジョンソン政権の時代に開発された就学前の児童を対象にした教育プログラムです。

当時、アメリカでは少年非行が社会問題化していました。いくつもの研究が行われた結果、学校教育になじめなかった子どもたちが非行に走りやすく、その後も犯罪を繰り返すようになるということがわかってきたのです。つまり、子どものときに学校教育についていけず、その後、適切な高等教育を受けられないと、正規の職業に就くことができず、貧困に陥りやすくなります。その結果、犯罪に手を染めるようになりがちだという非行発生のメカニズムがわかったのです。

さらに調べると、非行に走った子どもはすでに小学校段階で学校教育に馴染めなくなっていることもわかってきました。つまり、小学校に入学する段階ですでに家庭環境の違いから学習能力に格差が生じていたのです。そこで、1964年、ジョンソン政権の時代に、「ヘッドスタートプログラム」が政府支援の下で開始されました。どうすれば、あらゆる家庭の子どもたちが「ヘッドスタート」(頭を並べて、いっせいに)学校教育に入っていけるのか。課題解決につながる実践的な研究が求められました。非行、貧困という社会問題を解決するために、さまざまな領域の研究者が関わり、大がかりなプロジェクトが展開されました。

その成果の一つが『セサミストリート』です。どの家庭にもあるテレビを使って就学前教育を行い、家庭環境の差なく、スムーズに子どもたちを学校教育に馴染めるようにするために開発された番組です。ですから、番組を見ていれば、子どもたちが文字、数字、物事の関係、仕組み、等々を自然に、確実に習得できるように制作されています。子どもたちが飽きないように、それぞれのシーンは短く、リズミカルに構成され、人形やアニメーション、自分たちと似たような年齢の子どもたちを使ってわかりやすく伝わるように工夫されています。

■子どもの自発性、主体性を中心にした教育

1980年代初に幼児とテレビの研究をしていた私は、この番組の開発に関わったハーバード大学のジェラルド・レッサー教授と久留米大学で開催された小児科学会のシンポジウムでご一緒したことがあります。子どもたちが自発的に学ぼうとする意欲を喚起するには、子どもたちが面白いと感じる内容と表現様式にしなければならないという、教育の受容者の側に立った視点が印象的でした。

就学前、あるいは就学時点で、確実に基礎学力を身につけさせようとする点で、幼児や小学生向けの「アプリゼミ」はこの『セサミストリート』に似ているように思えます。また、自発的に取り組めるよう、子どもの関心をよび、興味を持続できるような方法で情報を提供し、教育効果を高めようとしている点でも、共通していると思います。

このようなiPadを導入した授業への取り組みについて、松田校長は、「iPadを利用することで、基礎学力の向上を図るとともに、共同学習をする力やプレゼンテーション力を伸ばせる」と述べています。(『ITメディア』2014/02/14)

■タブレットによる授業方法の多様化

前回、このメディア日誌ので取り上げたように、子どものiPad使用については懸念する人々も存在します。ですが、今回取り上げたように、積極的に学習の場に取り入れようとする動きもあります。

さまざまなメディアが日常生活の中にあふれている現在、従来型の授業では子どもたちが満足しなくなっているのではないか、という思いから、子どもが自発的に取り組める授業が週に一つぐらいあってもいいのではないかと私は考えています。今後、さらに複雑になっていく社会を生きるようになる子どもたちこそ、多様な物差し、多様な人々との出会い、多様な学びの場を経験することが大切なのではないかと私は思っています。(2014/4/11 香取淳子)