ヒト、メディア、社会を考える

04月

英エコノミスト誌が伝える安倍「成長戦略」としての女性活用

英エコノミスト誌が伝える安倍「成長戦略」としての女性活用

■中国人女性からの質問

昨日、メールをチェックしていて、見慣れない名前のヒトからのメールを見つけました。開けてみると、昨年、北京で取材をした中国人女性からのメールでした。主な内容は、日本では女性の社会的価値が低いの?という質問でした。なぜ、突然、このようなメールが来るのか不思議でしたが、その後、たまたま、英エコノミスト誌(2014年3月29日号)を読む機会があり、パラパラとページをめくっていて、これだ、と納得しました。「日本人女性と仕事」と題した記事があったのです。

そのリードの部分がまさにメールで書かれた質問に合致する内容だったのです。記事タイトルの下には、東京発として、太字で「日本の職場では女性の地位が低く、ここ何十年も改善されてこなかったが、安倍首相はそのような状況を変えたいと思っている・・・・」と書かれていました。

■安倍首相の「成長戦略」

たしかに安倍首相はダボス会議でも成長戦略の一つとして女性の活用を掲げ、その実行を高らかに宣言しました。首相官邸のホームページにも「女性が輝く日本へ」というタイトルのページが設定されています。女性が働きやすい環境づくりを推進するだけではなく、リーダーとして女性の登用を奨励することも考えられているようです。そして、それらの目的を確実に達成するための課題も具体的に書かれています。ですから、今度こそは本気で政策課題として取り組まれていくと思います。少子高齢化による弊害を乗り越え、日本経済を持続的に成長させていくには、女性を労働市場で積極的に活用していくことがなによりも大切だからです。

詳細はこちら。http://www.kantei.go.jp/jp/headline/women2013.html

ただ、そうするにはいくつかの阻害要因が日本社会にはあります。その一つとして挙げられるのが、日本社会に広く蔓延している企業文化です。

■家事参加率の低い日本人男性

英エコノミスト誌はそれに関連して、記事の中で次のような図を使っています。「workplace uncoupling」と名付けられた下図は、OECDが作成したもので、先進諸国における女性の労働市場への参加率(茶色)、家事・育児など報酬のない労働への男性の参加率(青色)が示されています。これを見ると、スウェーデンは女性の労働市場への参加率は高く、男性の報酬のない労働への参加率も高いことがわかります。つまり、女性が社会進出できることの背景に、家事・育児労働への男性の協力が大きいことが示されています。

このグラフで際立っているのが、日本男性の報酬のない労働への参加率の低さです。先進国の中では低いフランスと比べてもその半分以下です。日本女性の労働市場への参加率は他国に比べ、それほど変わりませんが、男性が極端に低いのです。つまり、この図からは、日本の場合、男性がほとんど家事・育児に参加しないため、女性に負担がかかっているということが示されているのです。

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保育園の待機児童を減らす政策はこの課題に対応するものなのでしょう。

■職場待遇への不満高い日本人女性

英エコノミスト誌はさらに、興味深い研究成果を紹介しています。大学を卒業した女性が職場を止めた理由を日米で比較すると、米国の場合、育児や介護のためと辞めるケースが多くみられたのですが、日本の場合、仕事に不満があった、あるいは、将来性のない仕事に嫌気がさしたといった理由で辞めるケースが多くみられたというのです。これは、日本人なら日常的に仄聞することでもありますが、あらためて、日本女性は職場で責任のある仕事を与えられることが少なく、リーダーになることも少ないという現実が浮き彫りにされたといえそうです。

このような現実への対応策として、女性リーダーの登用という政策が掲げられたのでしょう。私たちもまた、性別、年齢別のカテゴリーではなく、個人として責任のある仕事をしていかなければならないと思います。(2014/4/9 香取淳子)

 

 

 

SNSの影響?: ヒトから悲しみの感情が失われている?

SNSの影響?: ヒトから悲しみの感情が失われている?

■失われつつある悲しみの感情

今日(4月3日)、『WIRED』日本語版(4月1日付)で興味深い記事を読みました。米デトロイト大学の人工知能研究者アッティカブラウン教授が自身のブログで唱えているという大胆な仮説です。興味深いので紹介しておきましょう。

「通常、悲しみの感情は、進化的に古い脳である大脳辺縁系の扁桃体と呼ばれる領域で生み出されるということが、これまでの研究から明らかになっているのですが、これらの被験者のなかには、悲しいという感情を本人が想起しているにもかかわらず、まったくこの部位が活性化しないという人がいるのです。代わりに、どちらかというと性的な昂りに近い分野が活性化されるのです」

このような興味深い発見をしたブラウン教授は、数年間にわたって、感情と脳の関係性を数多くの被験者を対象に実験してきた人工知能の研究者です。数千人に及ぶ被験者のなかで、とくに悲しみを司どる部位に機能不全がみられる者が一定数いたというのです。彼はその原因として、以下のようにSNSの影響を想定しています。

 「本来、悲しみの感情は、社会的倫理観、すなわち自分や他者の行動に対する正義感、罪悪感といったより複雑な感情を形づくるベースとなっています。近年、ソーシャルネットワークでの活動において、人は、本当の自分ではなく、さまざまな自分に擬態してコミュニケーションをおこなっています。それが脳に与える影響は、わたしたちが想像している以上に大きいと言えるのかもしれません。こうした環境に慣れてしまうことで脳が感情の捏造を繰り返し、そのことで、本来の感情野が退化しはじめているということがおこっているのかもしれません。自分をよく見せようという意識が、感情の捏造に留まらず、モラルやマナーの低下を引き起こすのではないか、とわたしは危惧しています」

■SNSの影響か?

ブラウン教授はこのようにSNSの影響で脳が感情の捏造を繰り返すようになっているのではないかと考えているのです。まだ、発見段階の知見でしかなく、検証されているわけではないのですが、実に興味深い指摘です。

詳細はこちら。http://wired.jp/2014/04/01/aprilfool-2014/

新しいメディアが次々と登場し、私たちは日常的にさまざまなメディアを利用して暮らしています。便利だからこそ、使い続けているのですが、その結果、脳の思考回路が変化し、感情面にもなんらかの変化が生じているのかもしれません。喜怒哀楽の感情はヒトに普遍的なものだと思っていましたが、そこに影響が及んでいるとしたら・・・、一考の価値がありそうです。

私はSNSをしていませんが、このところ、悲しんだという記憶がありません。ですから、ヒトから悲しみの感情が失われつつあるというブラウン教授の指摘には納得するところがあるのです。

■感情とバイオリンの音色

悲しみを表現していた演歌は廃れ、歌謡曲もほとんど聞かれなくなってしまいました。メロディよりもリズムが優先された音楽ばかりが蔓延っていますが、それでは感情を添わせ、リラックスさせることは難しい・・・。微妙な感情の起伏を味わい、深く内省することができるメディア・コンテンツへの需要が少なくなっているのでしょうか。私も最近はリズム優先の曲しか聞かなくなってしまいました。

私はかつて「ツィゴイネルワイゼン」などのサラサーテのバイオリン曲が大好きだったときがありました。とくにSPレコードで(78rpm record)聞くのが味わい深くて、素晴らしかったです。このこだわりは亡き父の影響ですが、SPレコードで聞くからこそ、もの悲しさが増幅され、説明できない深い悲しみに浸ることができて、心揺さぶられたからです。

葉加瀬太郎20周年コンサートでの「ツィゴイネルワイゼン」はこちら。https://www.youtube.com/watch?v=DKRE59DWsxw

バイオリンという楽器は、言葉では説明できない微妙で奥行のある悲しみの感情を巧みに表現することができます。ですから、かつては聞いているだけで感動したものです。ところが、今はそうではない。そのような曲を聴きたいという欲求が起こらないのです。それが何に起因するのかわかりませんが、現代の生活の場からはどうやら、悲しみを受容し、追憶し、浸る、あるいは悲しみを契機に内省するという場がなくなりつつあるのかもしれません。(2014/4/3 香取淳子)