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07日

創作人形展とビスクドール展

■東武アートフェスタ2014
2014年12月27日、東武デパートで開催された「東武アートフェスタ2014」(12月25日~31日開催)に行ってきました。興味を覚えたのが、ブース5で展示されていた「憂国の少女たち」(笹本正明作品、恋月姫作品、蒼野甘夏作品)と、ブース3で展示されていた「谷井真由美ビスクドール展」です。

いずれも人形をテーマにした絵画作品、制作あるいは創作された人形そのものです。これらを見ていると、平面と立体との違いはあっても、作家たちが永遠の時を生きる人形の魅力を個性豊かに捉えようとしていることがわかります。

笹本正明氏の「月無き国の独裁者」(8号S)では独特のタッチと色彩で、少女のもつ不可思議で怪しげな魅力が表現されていました。上部中央に大きく描かれているのが謎めいた雰囲気を湛えた少女の顔です。そして、その背後にはまるで被り物のように大きな蝶の羽らしきものが配され、胸から下にはさまざまな人形や動物、生物が重なり合うように描かれています。画面いっぱいに広がる不思議な雰囲気の世界に惹きこまれ、しばらく見入ってしまいました。

笹本正明氏にはこれ以外にもさまざまな作品があります。

こちら →http://www.chiyoharu.com/sp/topics.htm

■恋月姫の創作人形
同じように幻想的な世界を現出させていたのが、恋月姫の人形たちです。こちらは立体でしかも身体が大きいので迫力があります。一歩、展示室に足を踏み入れた途端、現実世界から引き離され、異空間に迷い込んでしまったような気分になってしまいます。人形たちの見事なまでに美しく、そして、けだるく、物憂い表情がそのような気持ちにさせてしまうのでしょう。あまりにも人間に近すぎたからかもしれません。

■谷井真由美のビスクドール
一方、同じ人形でありながら、あくまでも人形として鑑賞することができるのが、谷井真由美氏が制作したビスクドールたちです。サイズが手頃だということもありますが、もとはと言えば、子どもたちのおもちゃとして使われていたからでしょう。

谷井真由美氏の展示作品を見ると、ジュモー(Jumeau)、ブリュ(Bru Jeune)、A.T.(A. Thuillier)、等々の作家の個性が滲み出た人形たちが所狭しとばかりに並べられ、いずれも当時の素材やデザインに拘ったドレスや装飾品を身にまとっていました。

■ビスクドールとは
ビスクドール(bisque doll)のビスク(bisque 英)は、フランス語のbiscuit(二度焼き)が語源なのだそうです。この人形の頭部や手、全身の材料が二度焼きされた素焼きの磁器製であったことを思えば、ビスクドール(bisque doll、 poupée en biscuit)と名付けられた理由もわかります。

“ビスクドール”は19世紀のヨーロッパ・ブルジョア階級の女性たちの間でまずはファッションドールとして流行し、19世紀末のフランスで黄金時代を迎えました。この時期、ジュモー(Jumeau)、ブリュ(Bru Jeune)、A.T.(A. Thuillier)などの人形作家たちが活躍していました。やがて、需要に合わせて人形の形態が変化していきました。手足が動くコンポジションドールが開発され、子どもたちの玩具として量産されるようになったのです。さらに、ゴム製やセルロイド製の安価な人形が量産されるようになった1930年ごろ、ビスクドールは製造されなくなってしまったようです。

それでは、なぜ、現在、私たちは多くのビスクドールを手にすることができるようになったのか。それは、ビスクドール工房で大量生産されていたときの型が残っていて、それに基づいて型取りをし、制作できるからだそうです。

それにしても、なぜ、私たちは「人形」を求めるのでしょうか。会場でさまざまな人形たちを眼にし、あらためて、その思いに捉われてしまいました。今後、この問いに対する答えを考え続けていきたいと思います(2015/01/07, 香取淳子)