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11日

新鋭美術家2016:圧倒される表現力

■「新鋭美術家2016」展の開催
 「都美セレクション 新鋭美術家2016」展(2016年2月19日ー3月15日)が、東京都美術館ギャラリーCで開催されています。

 新鋭美術家展とは、東京都美術館が、27の公募団体から選りすぐった作家を紹介する「公募団体ベストセレクション美術」展の出品作家の中から今後、活躍が期待される50歳以下の作家をさらに選別し、新鋭美術家としてそれぞれ個展形式で紹介する展覧会です。「公募団体ベストセレクション2015」展は以下のような公募団体からの出品がありました。

こちら →http://www.tobikan.jp/media/pdf/20150313_bestselection2015a.pdf

 「新鋭美術家」展は、2012年に都美術館を大規模改修後、公募団体の活性化を目的に毎回、開催されるようになったそうです。今年は第4回目に当たります。先述した「公募団体ベストセレクション2015」展から、花澤洋太(独立美術協会、洋画)、森美樹(日展、日本画)、西村大喜(国画会、彫刻)武田司(日展、工芸)、戸田麻子(二紀会、洋画)の5人の作家が選ばれ、新作を含めた作品が個展形式で展示されています。

こちら →http://www.tobikan.jp/media/pdf/20151225_newwave.pdf

■圧倒される表現力
 2月28日、「新鋭美術家2016」展に行ってみました。まず、花澤洋太氏の作品に驚きました。巨大な曲面を支持体にモチーフが描かれているのです。写真で見るのと違って、圧倒的な迫力があります。

こちら →https://youtu.be/DmC1YJj5_rY
(http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=778 より)

 その隣りのコーナーに展示されていたのが、森美樹氏の作品です。一連の作品を見ていると、心の奥底に埋もれていた感覚が次第に蘇ってくるような気がします。子どものころ持っていたはずの感覚です。

こちら →https://youtu.be/BQE1vmO4F1M
(http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=778 より)

 春、木々が芽吹き、花を咲かせ始めます。それを見て喜んだのも束の間、やがて枯れていくのを悲しむ・・・、身の周りで起こるそのような生命現象を、ただひらすらに受入れ、そして、少しずつ、そこからさまざまなことを学んでいった子どものころが思い出されてくるのです。

 モチーフといい、色彩といい、構図といい、森羅万象に対する切ないほどの愛おしさが画面から伝わってきます。静かで深く、観客に訴えかけてくる表現力が素晴らしいと思いました。

 壁面と反対側に展示されていたのが、西村大喜氏の作品です。どの作品にも温かさが感じられ、見ていると触ってみたくなり、気持ちが和んでいきます。

こちら →https://youtu.be/pzkjUoSCx8M
(http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=778 より)

 写真を見ているだけではわからないかもしれませんが、これはすべて石です。そっと撫でてみると、その形状にふさわしい柔らかさと温もりが感じられます。不思議なことに、一連の作品を見ていくうちに、気持ちが優しくなっていくような気がするのです。微妙な曲線によって作り上げられた調和の世界に居心地の良さが感じられるからでしょうか。硬い石で作り出されたいくつもの球面が、観客の心の底からそっと優しい気持ちを引き出してくれそうです。

 受付を挟んで反対側のコーナーに展示されていたのが武田司氏の作品です。工芸作家として今回、はじめて新鋭美術家に選ばれたのだそうです。どの作品も緻密な仕上がりの中に遊びがあり、豊かな着想力を感じることができます。

こちら →https://youtu.be/6Ww9vNinAtA
(http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=778 より)

 絵画のようなモチーフ、構図ですが、よく見ると、繊細な技巧で制作された漆工芸です。どの画面にも動きが感じられ、モチーフを超えた奥行きと柔らかさが感じられます。よく見ると、浮彫になっていて、女性や鬼の身体の曲線が巧みに表現されています。

 漆や螺鈿などを使って微妙な細部が表現されているだけではなく、それらを統合した全体像がまた素晴らしいのです。時間をかけて構想し、なんども練り直して制作されているからでしょう。表現力のすばらしさに驚きました。

 その隣のコーナーに展示されていたのが、戸田麻子氏の作品です。作品を一目、見て、衝撃を受けました。そして、戸田氏がまだ20代の女性だと知って、さらに驚きました。一連の作品には深い苦悩と、存在への問いかけが描かれていたのです。

こちら →https://youtu.be/1lBCLtcZsO8
(http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=778 より)

 衝撃を受けたのが、ニワトリの磔刑図です。意表を突くモチーフですが、羽根の白さ、トサカと内臓の赤によって、ニワトリの苦痛が直接的に表現されています。背景も暗い色調で描かれていますから、その苦痛がとてもリアルに伝わってきます。

 見ているうちに、気持ちが痛み、次第に内省的になっていきます。画面上で表現された苦痛が観客の心に投影され、苦悩を引き出すからですからでしょうか。戸田氏の構想力、構成力、そして、表現力に感嘆しました。

■2016年度の新鋭美術家
 2015年度の新鋭美術家展も素晴らしかったですが、今回はそれ以上に野心的な試みが見受けられ、今後がおおいに期待されます。公募展から推薦され出品された作品の中から5人の作家が選ばれるという仕組みの成果でしょうか。あるいは、年齢条件のせいでしょうか。
 
 若手作家としながらも、ここでは50歳以下に年齢が設定されています。その点もよかったのではないかと思いました。若すぎると、その時点で才気が感じられても、将来はまだわかりません。多くの画家は試行錯誤しながら、30代、40代になってようやく画家としての境地を切り開き、安定化させていくのだろうと思います。ですから、「今後活躍が期待される50歳以下」という条件は若すぎなくていいと思いました。

 今回、選ばれた5人の画家のうち、花澤洋太氏は49歳、森美樹氏は48歳、武田司氏は46歳です。もし、「40歳以下」という条件なら、このような圧倒的な画力を見せる画家が選に洩れてしまいます。幅広く年齢設定をしているおかげで、20歳の才気あふれる新人から、技術を蓄え、圧倒的な表現力をもつ中堅までの画家を対象にすることができました。見応えのある展覧会でした。

こちら →images
(西村氏の作品を手前に、左に花澤氏の作品、右に森氏の作品が展示されています)

 花澤氏、武田氏のギャラリートークに参加しましたので、両氏の作品については、あらためて、ご報告したいと思います。(2016/3/11 香取淳子)