ヒト、メディア、社会を考える

15日

文化庁メディア芸術祭:新たな表現の地平を拓く

■受賞作品展
2015年2月13日、国立新美術館で開催されている第18回文化庁メディア芸術祭・受賞作品展に行ってきました。開催期間は2015年2月4日から2月15日までです。平日のお昼過ぎだというのに若いヒトが大勢、参加していたので驚きました。

入ってすぐのコーナーにはインスタレーション作品が展示されていました。中央にコントローラーが設置され、参加者が周波数をコントロールすることができるようになっています。自分の手先の動きがどのように映像や音声に反映されるのか試してみることができるのです。電磁波を可視化、可聴化した作品で、参加型の芸術です。大勢のヒトが次々と変化する映像を食い入るように眺めていました。

制作者は坂本龍一氏と真鍋大度氏、「センシング・ストリームズ―不可視、不可聴」というタイトルで、インスタレーション部門の優秀賞を受賞しています。札幌国際芸術祭2014のために制作された作品だそうです。

こちら →http://www.rhizomatiks.com/archive/sensing_streams/

いまや生活必需品になってしまったテレビや携帯は、実は、電波を使ったメディアです。それぞれ割り当てられた周波数帯域を使っていますが、この作品はその周波数を可視化、可聴化するというもので、新たな表現領域を開拓したといえるでしょう。まさにメディア芸術祭ならではの作品です。

メディア芸術祭では、このインスタレーション作品のようなアート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門など4部門の応募作品を対象に、それぞれ優秀賞、新人賞、審査委員会推薦作品が選ばれ、受賞展で展示されます。この展覧会は、既存の「芸術」という枠組みに入りきらない新しい領域の表現活動に対する評価と発表の場なのです。

こちら →http://j-mediaarts.jp/

■過去最高の応募総数
文化庁メディア芸術祭受賞作品展は1998年に第1回目が開催され、今年で18周年を迎えました。その推移は以下の通りです。

こちら →http://archive.j-mediaarts.jp/about/history/

今回の応募総数は3853作品だったそうです。そのうち国内は過去最高の2035作品、海外は70カ国・地域から1818作品といいますから、文化庁メディア芸術祭が国内外で幅広く知れ渡っていることが示されています。

文化庁のサイトから、応募作品数の推移を見ると、2012年に飛躍的に増えていることがわかります。現在、第16回までのデータしかありませんが、今回、第18回の応募総数は過去最高だったそうです。文化庁メディア芸術祭は回を重ねるにつれ、グローバルに認知されるようになり、果たす役割も大きくなりつつあることがわかります。

こちら →
http://archive.j-mediaarts.jp/data/about/assets/docs/jmaf_number_of_entries16ja.pdf

さて、第18回(2014年)は過去最高の応募総数だったといわれています。そこで、応募作品数データをみると、それぞれ、アート部門(1877)、エンターテインメント部門(782)、アニメ部門(431)、マンガ部門(763)でした。飛躍的に応募作品数が増えた第16回(2012年)のデータと比較すると、アート部門は約25%増、エンターテインメント部門は約5.5%増、アニメ部門は約14.2%減、マンガ部門は約66.6%増でした。メディア芸術祭が対象とする4部門のうち、3部門が増加しているのに、アニメ部門だけが減少しているのです。日本といえばアニメといわれるほど、日本アニメーションの存在は大きいと思っていただけに、ちょっと気になりました。

■アニメ部門の受賞者
アニメ部門の受賞者を見ると、大賞が短編アニメーションでロシアが1作品、優秀賞が劇場アニメーションで日本が2作品、短編アニメーションでアルゼンチン1作品とフランス1作品、新人賞が劇場アニメーションで日本1作品、短編アニメーションが中国1作品、韓国1作品という結果でした。日本は劇場アニメーションで優れた作品を制作していますが、短編ではどうやらそうでもなさそうです。

そこで、審査委員会推薦作品を見てみると、日本は短編アニメーションで7作品、テレビアニメーションで4作品、劇場アニメーションで1作品でした。推薦作品24本のうち、なんと半数を日本が占めているのです。今回短編アニメーションの応募数は371作品だったそうです。その内外比は明らかにされていませんが、受賞作品と審査委員会推薦作品の結果からは、日本は依然として一定のレベルの作品を制作する力量を保持しているといっていいのかもしれません。

推薦された短編アニメーション作品16作品のうち、7作品は日本でしたが、オランダ/米、スロベニア、米、イタリア、ラトビア、台湾、中国などがそれぞれ1作品、スペインは2作品推薦されています。さまざまな国が短編アニメーションを制作しはじめ、それぞれの文化を反映した秀逸な作品を輩出しつつあることがわかります。

一方、まだ数としては少ないですが、ブラジルは劇場アニメーション、オーストラリアは長編アニメーションで審査委員会推薦作品を出しています。短編とは違ったテクニックいが要求される領域でも海外作品に優秀なものが出てきているのです。これまで日本は劇場アニメーション、テレビアニメーションの領域で牙城を築いてきましたが、いつまでも安穏としていられなくなるかもしれません。

■新たな表現の地平を拓く
とくにオーストラリアの作品には新鮮さが感じられました。長編アニメーションでありながら、新しい表現領域に挑戦した実験性の強い作品です。

こちら →https://www.youtube.com/watch?v=89ot4uLkYvI

思い起こせば、モーション・キャプチャーを使って見事な3DCG作品「Happy Feet」(2006年)を仕上げたのがオーストラリア出身のジョージ・ミラー監督でした。タップダンスが得意の主人公(ペンギン)の滑らかな動きを表現するため、当時、IBMオーストラリアの協力を得て膨大な作業をパソコンで処理していました。制作に関わったアニメーターの一人にブリスベンで取材したことを思い出します。

何を表現するか、いかに表現するか。これは芸術表現に付きものの課題ですが、メディア芸術にはとくにメディアを駆使した表現の可能性を試行する必要があると思います。私がオーストラリアの作品「The Stressful Adventures of Boxhead & Roundhead」に強く関心を覚えたのはおそらくそのせいでしょう。この作品の背後にチャレンジ精神に溢れた多数の若手アニメーターたちの姿が透けて見える気がするのです。(2015/2/15 香取淳子)