ヒト、メディア、社会を考える

2014年

ガルシア・マルケスと莫言

ガルシア・マルケスと莫言

今日は孔子学院で、「中国現代小説を読もう」講座がありました。授業が始まると、先生がガルシア・マルケスが亡くなりましたね、とおっしました。私も新聞を読んでそのことを知っていました。実はずいぶん前に必要があって、『物語の作り方』という本を読んだことがありました。そのガルシア・マルケスが2014年4月17日、メキシコの自宅で亡くなりました。享年87歳でした。

先生はさらに言葉を継いで、莫言はガルシア・マルケスの影響をとても受けていたのですよ、と教えてくださいました。ちょうど今、莫言の短編『拇指铐』を読んでいるところです。そこで、今日は、ガルシア・マルケスと莫言について、ちょっと考えてみたいと思います。

■莫言のスピーチ

莫言は2012年、ノーベル文学賞を受賞しました。スウェーデンアカデミーでの受賞の席で彼は「讲故事的人」(ストーリーテラー)という題のスピーチをしたそうです。このとき、彼は山東省の高密県の農村で少年時代を過ごしていますが、そこで経験した貧困、飢え、孤独などについて彼は多く語ったといいます。ですから、幼少期の経験が文学の根幹となっていることは確かなのです。

スピーチの詳細はこちら。 http://file.xdf.cn/uploads/121210/100_121210175134.pdf

実際、私がいま教室で読んでいる『拇指铐』は8歳の少年阿义が主人公の物語です。病に倒れた母を救うために薬を求めて町に出かけた少年が、親指錠をはめられてしまうという残酷な物語です。親指錠など日本では見たこともないですが、中国でもほとんど知られていないそうです。

通りすがりの人々がなんどか開錠しようと奮闘してくれるのですが、どのような方法を試みてもできず、少年は次第に疲労の極みに達してしまいます。自分ではどうすることもできない、貧しい農村の貧しい子どもだからこそ経験するような出来事なのでしょう。まさに不条理そももの、想像もできない辛い出来事が展開されていきます。意識が混濁する中で現れる幻想の世界、それこそが辛い現実を異化してくれるのでしょう・・・。

彼は故郷での経験をただ写実的に描いたのではありませんでした。いま、読んでいる短編でもそうですが、現実から空想に転化する場面が随所に描かれています。貧しさゆえに強いられる過酷な現実を幻想によって異化し、読者を奥深い精神世界に誘ってくれます。それが彼の作品を一味違うものにしているように思います。

実際、彼は幻覚現実主義の作家だといわれているようです。現実と幻想の世界を交差させて表現していくところに大きな特徴があるといわれているのです。ですから、莫言を農村作家だと強調しすぎると、そのあたりの洒脱な作風について説明がつかないのです。題材こそ幼少期の農村での経験から着想を得ていますが、その表現方法はさまざまな作品から影響を受けていたのではないでしょうか。

実は、莫言は大変な読書家で、古今東西のあらゆる小説を読んでいたといわれます。海外の作家でとくに莫言に影響を与えたのが、米国のウィリアム・フォークナーと、先日亡くなったコロンビアのガルシア・マルケスだといわれているのです。

■ガルシア・マルケスの影響

ガルシア・マルケスは1982年にノーベル文学賞を受賞しましたが、その受賞理由は、現実的なものを幻想的なものとを融合させて、豊かな表現の世界を切り開いたからだとされています。彼もやはり人口2000人ほどの寒村の生まれです。寒村での経験を想像力で補強し、豊かな作品世界を築き上げています。

代表作の『百年の孤独』は、彼の家族の話、故郷に伝わる伝承などを踏まえて構築されています。莫言も同様、幼少期の経験や故郷の話などが彼の作品世界の母体になっています。

興味深いことに、彼もまた、ノーベル賞受賞の演説で、「フォークナーが立ったのと同じ場所に立てたことはうれしい」と語っています。時代が違えば、国情も違うガルシア・マルケス(1982年受賞、コロンビア)と、莫言(2012年受賞、中国)に共通に影響を与えたのがフォークナー(1949年受賞、アメリカ)だというわけです。

時代も社会風土も異なる3人のノーベル文学賞の受賞者の共通する要素は何かといえば、農村です。フォークナーはミシシッピー州の田舎町で人生の大半を過ごし、作品の大部分はその田舎町をモデルにした架空の土地を舞台にしています。ガルシアマルケス、莫言も同様です。田舎を舞台にしているからこそ、描ける世界にこだわっているという点で共通するのです。

ちなみに、フォークナーはノーベル賞受賞に際し、次のようなスピーチをしています。

スピーチの詳細はこちら。 http://www.rjgeib.com/thoughts/faulkner/faulkner.html

ヒトとして、生きることと真摯に向き合おうとしています。

ただ、ガルシア・マルケスは、フランツ・カフカの影響も強く受けています。カフカの『変身』を読み、大きな衝撃を受けて自身の作風を確立したといわれています。ですから、莫言の、どちらかといえば素朴さの残る幻想性とはやや趣が異なるのではないかと思います。

以上、ちょっとかじっただけで、生半可なことを書いてしまいました。今日のところはこのぐらいにしておきましょう。また、気が向いたら、この領域にも踏み込んでいきたいと思います。(2014/4/22 香取淳子)

 

 

 

小保方氏ファッションが放つメッセージ

ファッションが放つメッセージ

春のサンクスフェア開催の案内ハガキが届きました。100個限定販売の指輪とペンダントが対象です。輝かしいデザインを見ていて、ふと、小保方氏の指輪を思い出しました。そこで、今日は小保方氏の論文発表時のファッションを読み解いてみたいと思います。

■当初から違和感があった「STAP細胞」案件

STAP細胞案件については発表当初から違和感がありましたので、一般紙の記事を読んだぐらいで深追いはしませんでした。割烹着、イヤリング、指輪、バッチリメーク、巻き毛の女性研究者など見たことがなかったからです。仮にこの日限りのデモンストレーション、マスコミ向けのファッションだったのだとしても、なぜ、小保方氏は同意したのでしょうか。このようなファッションで論文内容の発表をすることに抵抗を示さなかった小保方氏に研究者としての’うさんくささ’を感じていました。ですから、2月末ごろまでは興味の対象外でした。

■論文発表時の小保方氏ファッションへの違和感

正確にいうと、別の意味ではこの日のファッションには興味をそそられました。あまりにもちぐはぐでしたから、いったい誰がこのファッションを企画したのか、ということには関心が向きました。

意表を突かれた割烹着姿は、秋葉原のメイド喫茶で見受けられる「メイド服」のオジサン版ともいえます。ところが、ややカラーリングした巻き毛、バッチリメークは「メイド服」にぴったりです。そして、極めつけは、ヴィヴィアンウェストウッド(Vivienne Westwood)の指輪です。小保方氏の記者発表以来、注目を集めていますが、このファッションブランドは1970年代に前衛的な若者の間でブレークしたそうです。

■Vivienne Westwood指輪の持つ意味

このVivienne Westwoodは、1941年英ダービーシャーで生まれたヴィヴィアン・イザベル・スウィアが作ったファッション・ブランドで、前衛的なバンク好きにはカリスマ的な存在だったそうです。そして、填めていた指輪はNew Orb Poison Ring(下図)といわれるものだそうですが、その原型であるPoison Ringは、中に薬や毒を入れられるようになっている指輪で、16世紀のヨーロッパで流行し、敵に毒を盛ったり、捕虜になった際、自害するために用いたといわれています。

poison ring

 

2年前に販売終了しているこの指輪を小保方氏は填めていました。この指輪の原型であるPoison Ringには毒という名がついていますから、それなりの物語があります。専門店によると、「そのリングの中に毒を隠し持ち、もし恋人に不慮の死が訪れた際には、自分もその指輪に隠し持った毒を持ってすぐに死を選択し、恋人のもとへ旅立つ」という恋人への決意、誓いを込めて作られたという物語があるそうです。

出典:リング指輪 アンティークジュエリー専門店http://www.antique-i.net/catalog/ring/R0131V.html

■違和感の背後にある中高年男性の美意識、価値観

論文発表時の小保方氏のファッションに私は違和感を覚え、ちょっとした不快感を覚えてしまいました。おそらく、その背後に中高年男性の美意識、価値観が見え隠れしていたのを感じてしまったからだと思います。

「実験用の白衣」ではなく「割烹着」を着けた小保方氏は、「研究者」ではなく「家庭を維持する女性」を願望する男性の価値観の反映であり、バッチリメーク、カラーリングした巻き毛、ミニスカートは「セクシーな若い女性」を願望する男性の美意識の表れとみることができます。

さらに問題の指輪は、70年代のイギリスで一世風靡したファッションブランドの製品でした。3,40年ほども前の前衛的なパンクファッションの系譜を引くブランドの指輪を着用していたことからも、小保方氏のファッションには中高年男性の美意識が背後に働いていたことが推察されます。上図の形を見てもわかるように、上がとんがっており、普段は使いづらい指輪です。パーティなどで着用するにしてもよほど気をつけないと何かにひっかけてしまう恐れがあります。買っても滅多に着けることはないでしょう。ですから、若い小保方氏がはたして自分でこの指輪を購入したのかどうか疑問です。

■論文発表時のファッションが放つメッセージ

この指輪には「恋人への決意」を表すという物語がありました。そのような物語のある指輪をわざわざ論文発表時に填めていたということは、話題集め以上の大きな意味があります。この指輪を填めることが自発的なものであったにせよ、あるいは、強制されたものであったにせよ、小保方氏にとって何か問題が生じたとき、「裏切らない」「ともに死ぬ(研究者としての生命を断つ)」という決意の表明であったのでしょう。少なくともそのことを当事者たちは意識していたのではないでしょうか。

そう考えると、当事者たちは発表段階で、将来、何か問題が生じる可能性を想定していたともいえます。もっとも、そのことはこのファッションを企画したヒトだけが承知していたことなのかもしれません。何らかの事情で問題のある論文を発表せざるをえず、良心の呵責にかられてそのことを伝えようとし、敢えて研究者らしからぬファッションを小細工していたのかもしれません・・・。穿ち過ぎでしょうか。

ひょっとしたら、この奇妙なファッションは、心ある人は読み解いて欲しいという当事者からのメッセージだったのかもしれないのです。そうだとしたら、それこそ、この「STAP細胞」事件の背後で「大きな力」が働いていたと考えざるをえなくなります。・・・、また、気が向いたときに、新解釈をしてみたいと思います。(2014/4/21 香取淳子)

 

メディアの観点から見たGoogleの決算報告

Google第1四半期決算、メディアはどう伝えたか

2014年4月16日、グーグルの第1四半期決算が発表されました。興味深いことに、同じ決算内容なのにメディアによって力点の置き方が異なるのです。どう違っているのかを見てみることにしましょう。

■新聞

目についたものだけ、記事タイトルと発信者を拾ってみましょう。

●朝日新聞:「米グーグル、広告好調で過去最高益に 1-3月期決算」ニューヨーク=畑中徹

●日経新聞:「米グーグルの1~3月期、純利益3%増 ネット広告好調で」NQNニューヨーク=増永裕樹

●日経産業新聞:「グーグル、純利益3%増 1~3月 四半期で最高3520億円」シリコンバレー=小川義也

●読売新聞:「グーグル最高益更新もスマホ普及で広告単価下落」

日本のマスメディアが概してこの決算報告についてプラスの側面にウェイトを置いて報じていることがわかります。読売新聞だけが、マイナス面も追加していますが、こちらは発信者の名前がないので、通信社からの情報かもしれません。

それでは、ネットメディアはどうでしょうか。

■ネットメディア

●ITmedia:「Google、純利益は過去最高だが売上高は伸び悩み」 佐藤由紀子

●Reuter:「米グーグル第1四半期売上高は予想下回る、広告料低迷で」 ロイター

●THE WALL STREET JOURNAL:「グーグル第1四半期、増益もクリック単価低下‐時間外で株価下落」ROLFE WINKLER AND JOHN KELL

●Bloomberg:「米グーグル:1-3月期売上高は予想下回るー広告単価が低下」

ネットメディアも日本で目につくものだけを取り上げましたので、片寄りが大きいと思いますが、ロイターとブルームバーグはマイナス面に力点を置いた記事タイトルになっています。ITmediaとウォールストリートジャーナルはプラス面、マイナス面から捉えた記事タイトルでした。

いずれの記事も出典はGoogleが4月16日に発表した第1四半期の決算報告です。

Google Financial Tables balance sheet Q1 2014 の詳細はこちら。 http://investor.google.com/earnings/2014/Q1_google_earnings_tab0.html

同じソースからのニュースなのに、なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか。

そこで、内容との関連を見ると、ポジティブな部分を強調した見出しは一般紙で見られ、内容量も少なかったのに対し、ネガティブな部分を強調した見出しは経済専門メディアで見られ、内容量も多いという特性が見受けられました。

経済専門メディアの場合、収支のバランスだけではなく、決算発表後の株価の下落なども取り上げていますから、そちらに引きずられてネガティブな見出しになった可能性があります。

■メディアの観点から見たグーグル決算発表

メディアという観点からグーグルの決算発表を報告していたのが、日経産業新聞(2014/4/18)とITmedia(2014/4/17)でした。

日経産業新聞は、株価の下落にも触れながら、モバイル向け広告がパソコン向けよりも広告単価が安いので、クリック数が増加しても収益力は相応に高まることはないという分析をしており、専門的でありながら、わかりやすかったです。しかも、最高事業責任者への電話取材で、モバイル機器には位置情報などパソコンにはない付加価値があるとし、中長期的にはモバイル広告の単価はパソコンよりも高くなるべきだという見解を引き出していたことは大変興味深く、考えさせられました。

ITmediaは、グーグルの四半期の売上高の推移をグラフ(下図)で示し、グーグルの躍進ぶりをわかりやすく表示しているのが特徴です。

 google

これを見ると、ネット広告、Google直営サイトからの収入、クラウドサービス等その他の事業、とも前期比減となっていることがわかります。2012年以降の流れとしてはすべての部門で収益を拡大させており、今後もこの傾向が続くことが予想されます。

■グーグルの多様な事業展開

検索エンジンサービスを展開してきたグーグルがいつの間にか、クラウド事業に基づく教育支援事業、OSの開発、等々、多様な事業を展開するようになっています。今期の決算ではモバイル機器のネット広告の収益性が問題になりましたが、それも、CEOがいうように、将来的には位置情報という付加価値をもつモバイル機器の広告優位性が高まってくるのかもしれません。いずれにしても、領域を超えた事業展開をするグーグルの動きには目が離せません。(2014/4/20 香取淳子)

 

Googleはイノベーションを促進するか?

Googleはイノベーションを促進するか?

安倍政権は成長戦略の一つとして、起業の開業率を現在の5%弱から倍に引き上げることを目標にしています。とはいえ、閉鎖的な日本の企業風土を見ると、それが可能なのかどうか、はなはだ心もとないといわざるをえません。これまでに何度か若手起業家が華々しくデビューしたことがありましたが、すぐに潰れてしまいました。日本には起業家を育てる風土はなく、志を持った人々にとって起業しやすい環境とはいえないのが実情です。そんな中、米グーグル出身の若手日本人が次々と起業をしているというのです。

■Google出身の若手起業家、次々と誕生

日経新聞(2014年4月18日付)は米グーグルの日本法人出身の起業家が増えていると報じていました。美容院やヨガ教室を対象に、スマホで予約を受けて管理するサービスを始めたクービック社長の倉岡寛氏、クラウド・コンピューティングを活用した会計サービスを展開するfreee CEOの佐々木大輔氏、広告関連技術のフリークアクト設立した佐藤祐介氏、ネットを通じだチケット販売・イベント管理サービスを手掛けるイベントレジストCEOの平山幸介氏、等々(下図、参照)。29歳から40歳の若手です。いったい、なぜ、グーグルはこれだけの人材を輩出することができたのでしょうか?

 

上記資料:日経新聞(2014年4月18日)より

 

■起業はGoogleの企業文化が生み出した?

この記事を書いた日経新聞の奥山和行記者は、グーグルでは起業が身近だったことに加え、グーグルの企業文化が新たな事業を興すことを後押ししたと分析しています。グーグルには、技術者が働きやすく、彼らの意欲を喚起する仕組みに大きなコストと時間を費やす企業文化があったというのです。さらに、規模の急拡大や海外対応に備えたサービスの開発がいわば前提となっているのが、グーグルの特徴だったといいます。たとえば、クービックはサービス開始直後から日本語に加え、英語と韓国語に対応していますし、イベントレジストは当初からインドネシア語を含む5か国語に対応しているようです。

■Google出身起業家の特徴

上図をみてもわかるように、グーグル出身の起業家が立ち上げているのはインターネットをベースに海外展開を目指す企業だという点に特徴があります。そもそもグーグル自体が、検索エンジンやクラウド・コンピューティング、ソフトウエア、オンライン広告などのインターネット関連のサービスや商品を提供する米の多国籍企業ですから、そこから巣立った彼らがそのような志向性を持つのも当然といえば当然のことです。そして、そのような彼らが起業したビジネスで成功を収める確率が高いということは、彼らが持つ能力や価値観、視点がいまの時代にきわめて適合的だということを示しています。

■デジタルエコノミー時代の競争

2014年3月14日、国際シンポジウム「デジタルエコノミーにおける競争政策」が開催されました。登壇者からの指摘が興味深く、考えさせられました。印象に残ったところをかいつまんで紹介することにしましょう。

たとえば、仏トゥルーズ大学のクレメール教授は「デジタルエコノミーでは起業の規模が大きくなると効率も大幅に向上する」と述べています。また、米ボストン大学のライスマン教授は「デジタル産業に移行したことで、規模の経済が働きやすくなり技術革新も激しくなった」と述べています。両者とも、デジタルエコノミーの時代には規模の経済が大きく働くようになるといっているのです。ですから、米グーグル出身の起業家たちはいずれも規模の急拡大に耐えるシステム、多言語に対応したサービスを構築したのでしょう。

クレメール教授はデジタルエコノミーでは技術革新が激しく、企業の独占はあまり長く続かないと述べ、AOLの例をあげています。私もAOLメールを使っていたことがありましたが、一時、AOLが市場を独占していたことは確かです。ところが、その後の技術革新の波に乗り切れず、独占的地位を失ってしまいました。このようにデジタルエコノミーの時代では、企業が安定して独占的な地位を占めることは難しく、競争が熾烈なものになっていくのは必至なようです。

■日本の国際競争力は?

IMD(経営開発国際研究所)の2013年世界競争力年鑑によると、日本の総合評価は24位でした。それ以前も、22位(2008年)、17位(2009年)、27位(2010年)、26位(2011年)、27位(2012年)といった具合で、予想していたよりはるかに低いものでした。(以上のデータは http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_6019129_po_074406.pdf?contentNo=1 )日本の科学技術力は世界のトップレベルだと思っていただけに、ちょっとショックでした。

ところが、研究開発投資や人材などの科学インフラの項目では日本は2位にランクされているといいます。ですから、かなり改善の余地があることは事実でしょう。とくに、企業の大学教育への評価、起業家精神などについては順位が低いといわれていますから、日本の強みを生かせるようにきめ細かく対応していく必要があるのでしょう。

■世の中のニーズとのマッチング

気になるのは、東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏の指摘です。彼は日経新聞(2014/4/18付)で「日本には今、技術がないのに、あるかのようなイリュージョンをみんなが持っている」と指摘しています。個々の技術はあるが、世の中の要求に対応する技術がないというのです。日経新聞編集委員の賀川雅人氏は中国などの追い上げ等を踏まえ、「日本の強みを生かせないままの失速が懸念される」とし、「日本は産学連携を強化してきたが依然不十分で、一層加速する必要がある」と結論づけています。

個別にみると、日本の科学技術に優れた側面はありますが、総合的な競争力という点では評価が落ちるのです。ニーズに対応しようとする姿勢が希薄なのでしょう。その点で、米グーグル出身の起業家たちは世の中のニーズを踏まえているだけではなく、さらに、急拡大への対応、多言語への対応なども基本要素としてサービスの構築を考えています。ビジネスとして成功するのも当然だという気がします。

■世界のベンチャーに目を向けるGoogle

グーグルは自身の体質を強化するために、世界のベンチャーに目を向けているようです。イスラエルのベンチャー企業Wazeを買収しました。この企業はスマホ向け地図アプリなどを開発しています。グーグルはこの企業が開発したアプリ利用者が提供するデータに基づき、渋滞情報などを効率的に更新していく技術に自社との親和性を感じたからだといわれています。

Peter CohanはグーグルがWazeを買収した理由を四つあげています。すなわち、①Waze利用者の参加、②フェイスブックやアップルからWazeの囲い込み、③グーグルマップにはない特色がWazeにはある、④グーグルマップの代替としてWazeを利用、等々です。

 

FAIRFAX, CA - DECEMBER 13:  The Google Maps ap...

上記の写真:http://www.forbes.com/sites/petercohan/2013/06/11/four-reasons-for-google-to-buy-waze/

■グローバルな競争時代に生き残るための次世代技術

時代の潮流に乗っているグーグルは、競争力を維持するために世界に目を向けています。自社に必要な技術をもつベンチャー企業を買収するだけではなく、次世代につながる技術にまで手を伸ばそうとしているのです。なんとグーグルは2013年末にかけて8社のロボットベンチャーを買収したというのです(日刊工業新聞2014/4/18)。ロボットが次世代技術だとみなしているからでしょう。検索エンジンでスタートしたグーグルですが、時代の流れに沿って、次々と技術を手に入れ、商品化してきたことがわかります。

ロボットは情報端末でもあります。ですから、インターネット経由で家電製品にリンクし、掃除機に掃除させたり、洗濯機に洗濯させることができます。使用履歴から個人の情報を集約することもできます。このようにしてロボットが消費者からデータを収集できれば、さらなるサービスを生み出すことができるでしょう。つまり、グーグルは次世代技術をベンチャー企業から次々と買収することによって、対応しようとしているのです。

グローバルな競争時代に生き残るためにグーグルは、複層的な手段を講じています。一つは自由で新しいアイデアを創出しやすく、それを事業化しやすい企業文化を醸成していることです。実際、そのような企業風土の中からベンチャービジネスを立ち上げ、成功している人々がいます。さらには、自社内では創出できないようなビジネスについては世界中に張り巡らした探索網を通してキャッチし、買収しています。科学技術に強く、製品化に長けているだけでは不十分であることがわかります。グーグルやアマゾンなどのやり方を見ていると、英語圏であり、インターネットを開発したアメリカの強さを感じずにはいられません。(2014/4/19 香取淳子)

 

Google :日本の大学教育に参入

Google :日本の大学教育に参入

このブログでは今月に入ってから、次々とGoogleが様々なレベルで日本の教育に参入していることを報告してきました。就学前児童に対するもの、義務教育レベルの子どもたちに対するもの、通信制高校レベルの生徒に対するもの、いずれも、クラウド・コンピューティングシステムを使って、オンライン教育を実施するものでした。

「iPadとアプリゼミ」(4月11日)、「学びのイノベーション」(4月14日)、「Google:日本のICT教育支援」(4月15日)、「Google Appsで全面ネット制高校」(4月16日)、等々。

まだ始まったばかりなので、どのような結果を生むのかはわかりませんが、子どもについて実証研究を行ったところ、子どもたちが自発的に授業に参加している、楽しみながら学習に取り組んでいる、等々のpositiveな反応、国語については施行後の成績が上昇したという結果が得られています。

この流れでいえば、大学教育に取り込まれるのは時間の問題でしたが、案の定、今年の4月から京都大学でGoogleが関与するedXを使ったシステムでオンライン教育が行われました。

■MOOC と大学教育

いわゆるMOOC (Massive Open Online Courses) と呼ばれるオンライン教育システムの中で大学教育を対象にしたものとしては、Coursera や edX があります。大学講義系のMOOCは、大学としてプラットフォームに参加し、プログラムを提供しているので、基本的に教授が自分でコースを開設することは難しいといわれています。

日本の大学でMOOCに最初に参画したのは東京大学で、Courseraのプラットフォームで行いました。2013年9月に第一弾として「From the Big Bang to Dark Energy」、その後、第二弾として「Conditions of War and Peace」が提供されました。

東京大学によると、このオンライン授業は、「世界150ヵ国以上から8万人以上が登録し、約5400人が修了」したということでした。2014年度はさらに、経済学分野、情報学分野の2講座を新規に設定し、Courseraで開講する予定なのだそうです。

この記者発表ではさらに、東大では、このMOOC提供の取り組みを進展させるために、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(以下MIT)が出資して設立されたMOOCプラットフォームのedXと配信協定を締結し、2014年秋から提供することを伝えています。

詳細はこちら。 http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_260218_j.html

この記者発表では東大が2014年からedXでオンライン授業を開始することが明らかになりました。2013年に東大はCourseraでオンライン授業を開始したにもかかわらず、2014年からはedXでも始めるというのです。

■京都大学で始まったMOOC:edX

2014年4月10日から京都大学で生命科学のオンライン講義が開始されました。edXをプラットフォームにしたオンライン講義は日本ではこれが初めてです。提供されるのは、京大の上杉志成教授による「生命の科学」という授業でした。

講義の詳細はこちら。

https://www.edx.org/course/kyotoux/kyotoux-001x-chemistry-life-858#.U1D2rSyKDuh

英語を聞き取りにくい学生のために字幕付き、速度調節といった補助機能も装備されていたようです。そのせいか、受講学生の反応もよく、「How exciting!」 とツィッターで書いているほどです。

このedXは、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学が設立した非営利組織が運営するものです。米カリフォルニア大学バークレー校、米ジョージタウン大学がすでに講義を提供していますが、アジアでは京都大学、北京大学、精華大学、ソウル大学などが参加しています。

大学教育に向けたMOOCのプラットファームとしては、Coursera と edX があります。これらがどのように違うのか、見てみることにしましょう。

■Coursera と edX

北海道大学の重田准教授によると、Courseraの受講者が400万人以上、 edXの受講生は120万人だそうです。設立されて間もないにもかかわらず、大規模な人数の参加がみられます。なぜ、急激に普及してきたのでしょうか。

Kisobiファウンダーの浦部洋一氏はその原因を以下のように考察しています。

*********

・大学の授業内容を、誰でも受講可能にしている。

・基本的いん、無料で受講できる(修了認定証などは有料の場合がある)

・講義画面を公開するだけではなく、レポートを提出したり、コミュニティで議論したり、実際のクラスに近い仕組みを提供している。

・多くの大学が参加しており、講義の種類と量が増えている。

・インターネットの高速通信や、ノートPC、タブレット端末の普及、などオンライン学習に適したインフラが整ってきた。

・クラウドなどのIT技術の進化により、動画の配信やWebサイト運営のコストが大幅に下がった。

・MOOCsベンチャーをVCが支援しており、各社サービスが充実している。

*********  以上。 詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

このように利点は多いのですが、浦部氏は次のようにMOOCsの課題を指摘しています。

********

①ビジネスとして成立するのか?

②MOOCsの授業の学習効果は低いのではないか?

******* 以上。   詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

まだまだ始まったばかりのMOOCsであるが、世界の著名大学がこの方向で動いているので、日本の大学もこの流れに乗らざるをえなくなると思います。日本でもまずは東大、京大といったトップ校から開始されています。

京都大学の授業に対する学生の反応から明らかになったように、字幕や速度調節など、英語を聞き取りにくい学生のための補助装置が装備されているようです。ですから、今後、この流れは加速していく可能性があります。

デジタル教材の無料公開、デジタル教材を使った教育環境、等々が教育の機会均等に大きく貢献することは確かです。しかも、これはグローバルな展開が可能です。環境整備が整えば、意欲の有無が学習機会の多寡にこれまで以上に大きく影響してくるでしょう。いよいよ大学教育のグローバル化の時代を迎えたのです。(2014/4/18 香取淳子)

 

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

2014年4月16日、笹井芳樹・理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の会見中継を見ました。途中で席を立ったりしたので、すべてを見たわけではないのですが、小保方氏の会見よりははるかに専門家らしい会見になっていたと思います。記者の質問も事前によく調べられていたように思えました。

■質問力

今回はとくに女性ジャーナリストが専門領域をよく調べ、的を得た質問をしているような印象を受けました。何人かの女性ジャーナリストが要点を絞り、段階的に核心に迫れるように組み立てて質問をしていたから、そのような印象を受けたのかもしれません。いずれにしても、渦中にある専門家に対して的確な質問をするには、それなりの知識と理解力がなければならないことを今回も感じさせられました。

小保方氏の会見の時から私も、「STAP現象」という言葉が気になりはじめていました。これまで「世紀の発見 STAP細胞」といわれてきたものが、「STAP現象」「STAP細胞」「STAP幹細胞」と三つの専門用語を使い分けられるようになったような気がしていたのです。女性ジャーナリストの質問はそのあたりの違和感を突くものでした。ところが、笹井氏の回答は巧みにそれを回避するものでした。表情を変えず、あくまでも論理に訴えかけようとする笹井氏の姿勢は一貫していました。付け入る隙はありませんでした。

事前によく勉強して練り上げた質問であっても、回答者が答えたくなければ、回避できるということにこの時、気づきました。私が見ている限りにおいて、笹井氏の回答は一事が万事、理路整然としていましたが、言い逃れと自己弁明に終始していたような印象が残り、真相に迫ることはできなかったという不全感が残りました。

■実験ノート見ず、生データを見ずに論文指導

笹井氏は小保方氏の実験ノートを見ることも、生データを見ることもなく論文を指導し、論文の組み立て、執筆を行ったと回答しました。そのような杜撰なやり方でNatureに投稿したというのです。Natureは実績のある研究者が著者として名前を連ねているため、掲載に踏み切ったのでしょう。それ以前に小保方氏がNatureに投稿した時は掲載不可になったそうですから、今回の掲載に果たした笹井氏の貢献は多大なものがあったと思います。それが、自分が担当したのは最後の段階でしかなかったと弁明したのです。

■「未熟な研究者」が研究ユニットリーダー?

理研調査委員会から不正があったとされた小保方氏は理事長の野依氏から「未熟な研究者」といわれ、自分でもそのように弁明していました。論文の流用、剽窃、捏造、これまでに執筆した論文のほとんどにそのような指摘がされています。

詳細はこちら。http://stapcells.blogspot.jp/

本人が「自己流」でやったとその事実を認めています。ところが、その小保方氏の身分はいまだに理研の研究者です。検証研究に小保方氏が参加することについて、笹井氏は「小保方さんはやりたいと言っている。それは一定の理解ができる」と回答しています。文系の人間からすれば、小保方氏の研究者生命は終わっているのですが、理研ではそうは認識していないのでしょうか。

■「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文

「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文がこのまま放置されるのであれば、日本の真面目な研究者は浮かばれないでしょう。日本の研究者の国際的評価は貶められ、信用されなくなるでしょう。理研調査委員会は小保方氏を「未熟な研究者」だとし、「ミスの多い」論文で「撤回すべき」だとしているのに、小保方氏は「撤回しない」と宣言しました。

論文を実質的に執筆した笹井氏は「論文の撤回は同意する」としていますが、「STAP細胞は有望で合理的な仮説と考える」と言明し、存在の可能性を強調しています。ところが、小保方氏同様、その根拠は挙げられていません。小保方氏よりも論理的な話し方だったので気づきにくいですが、笹井氏もまた、論拠も示さず、STAP細胞の存在可能性だけ主張だけされたのです。

■笹井氏への不信

小保方氏は「未熟な研究者」で済みます。ところが、笹井氏は理研CDB副センター長で、「未熟」どころかベテラン研究者だといわれています。その彼が、生データを見ることもせず、「ミスの多い」論文を執筆し、Natureに掲載されると、ノーベル賞級の成果だとして大々的に発表したのです。

執筆者二人の会見によって、いくつかわかってきたことがあります。それは共著者といいながら、彼らは相互に論議を交わすことなく、データの確認をすることもなく、分業作業で論文を仕上げたということです。実験の得意な研究者が実験をし、論文が何度もNatureに掲載された実績のある研究者が論文を執筆し、最終的には「未熟な研究者」を筆頭研究者に担ぎ上げました。

きわめて不自然な一連の流れの背後にいったい何があったのでしょうか。

笹井氏は論文作成にかかわっただけだとしています。しかも、それはCDBセンター長に頼まれてやったことなのだと弁明しています。自発的にかかわったわけではないと強調していますが、共同研究に必要なデータの確認、研究者間の論議、といった基本的な作業がなされていません。自発的にかかわっていないのなら、普通の手順を踏むはずなのに、今回は複数の研究者のチェックを入れることなく、実質的に論文執筆作業、必要なデータの選定等は笹井氏と小保方氏の二人でなされたようです。

笹井氏の一見、理路整然とした回答からは真相につながるものは何も出てきませんでした。

■理研ははたして研究組織といえるのか

副センター長・笹井氏の会見を見て、理研という組織が研究組織として健全に機能していたのかどうか、疑わざるをえません。「未熟な研究者」をユニットリーダーとして担ぎ上げたことはまだしも、「ミス」「捏造」が発覚しても、笹井氏や丹羽氏が口を揃えるように、「指導しきれなかった、斬鬼の念に堪えない」といっています。ユニットリーダーになるような研究者が「未熟さ」ゆえに「捏造」や「不正」が許されるということが理解できないのです。このような研究者がリーダーを務めている理研ははたして研究組織として健全なのか、といわざるをえません。

■メディアの限界

今回もまたメディアの限界があり、真相究明にはほど遠いことが判明しました。ですが、疑惑をもたれた関係者の会見があれば、少しずつ事実が明らかになっていくことは確かです。無表情に理路整然と話せば話すほど、その背後に何があるのか、ちょっとした質問に揺らぐ表情、そのようなものが真実に一片を伝えます。ですから、メディアは一回だけで真相に迫ることはできませんが、何度も角度を変えて迫れば、少しずつ、真相に近づくことができるのではないかと思います。(2014/4/17 香取淳子)

 

 

 

Google Apps で全面ネット制高校

Google: 全面ネット制高校

■全面ネット制高校の誕生

産経新聞(2014年4月15日付)は、クラウド・コンピューティングなど最新のインターネット環境を全面導入した初の通信制高校が4月下旬に授業を開始すると報じています。今月開校した通信制のコードアカデミー高等学校が、米グーグルのアプリを使ってほぼすべての学習を行うというのです。

「大好きなインターネットで未来を開く」というキャッチフレーズで生徒募集をしているコードアカデミーは、長野市にある学校法人信学会が、企業向け教育ベンチャーの協力を得て設立した広域通信制・単位制課程普通高校です。この高校では、ソフトのプログラミングが必須科目になっているといいます。

コードアカデミー高等学校の詳細はこちら。 http://www.code.ac.jp/

■Google Apps とは?

前回、取り上げたのは義務教育課程の小中学校に対するICT支援でしたが、今回取り上げるのは、通信制高校に対する支援です。

授業では、情報共有のためにグーグルのソフト「Google Apps」の教育機関版を採用するのだそうです。このソフトを使い、テキストや動画を含む教材や課題、レポート提出はもちろん、複数の生徒との質疑応答もネット上で行うといいます。テレビ会議システムを使って、ライブ授業や面接指導も行いますから、一般的な通信制高校では難しかった対面指導も可能だといわれています。

GoogleAppsはGoogleのオンラインアプリケーションパックです

上の図はGoogle Appsの概念図です。メール、カレンダー、ドライブ、ドキュメント、サイト、グループ、トークなどこれまでにグーグルが進化させてきたソフトを組み込んだ統合システムだということがわかります。クラウド・コンピューティングシステムを使って、きわめて生産性の高い仕事ができるシステムを構築しているのです。

Google Appsについての詳細はこちら。 http://www.appsupport.jp/googleapps/

■反転授業とは?

具体的な進め方としては、生徒がパソコンやタブレット端末、スマートフォンで年8回の課題を受け取り、必要に応じて教師とやり取りしながら、解答を送信します。その際、いま注目されている「反転授業」が試行されるといいます。

反転授業とは、これまでのような説明型の授業をオンライン教材にして事前学習の宿題にし、説明型の授業では授業の後で宿題にされていた演習や応用課題を教室で、対面で行う学習形態のことをいうようです。

実際の授業時間では、対面であることを活かし、個々の生徒に教師が説明をしたり、普段解けないような難しい問題に挑戦する時間にしたり、グループ学習やアクティブラーニングを行ったりするといいます。

反転授業についての詳細はこちら。http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/seminar/001.html

■新しい試みは常に周縁から

このような形態の授業を通信制高校で4月下旬から実施するというのです。画期的なことだといわざるをえません。新しいことは周縁から生まれるといいますが、この試みも長野県の学校法人が通信制高校の場で試行されるようです。チャレンジ精神のあふれた高校生が新しい形態の授業を通して、次代を担う情報技術をしっかりと身につけ、社会をリードしていってもらいたいと思います。(2014/4/16 香取淳子)

 

Google : 日本のICT教育支援

Google : 日本のICT教育支援

情報機器の進化に合わせ、社会が大きく変化しています。それに対応して、教育内容、方法、教材も変えていこうというのが、最近の文科省をはじめとする一連の動きです。今回はNPO法人CANVASのプログラムを紹介することにしましょう。

■PEG、東京大学でキックオフイベント開催

2014年2月8日、東京大学でPEGのキックオフイベントが開催されました。PEGとは、Programming Education Gatheringの略で、6歳から15歳の子どもを対象にプログラミング学習を普及させていくことを目的にしたプロジェクトです。その主体は子ども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を 推進するNPO法人CANVAS です。CANVASがGoogleと連携し、「コンピュータに親しもうプログラム」を立ち上げたのです。

詳細はこちら。 http://www.canvas.ws/programming/event.html

ちなみにGoogle はこの2013年10月29日、日本のICT教育を支援するため、「コンピュータに親しもう」プロジェクトを開始すると発表しています。GoogleがRaspberry Piを5000台提供し、CANVASと協力して1年で2万5000人以上の児童・生徒の参加を目指すというのです。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20131029/514542/

■Raspberry Pi

ここでは、Raspberry Pi や Scratch を使ったワークショップが中心になっています。義務教育の場である小中学校にはパソコンが配備されているというのに、なぜ、パソコンではなく、小型のPCボードであるRaspberry Pi を使うのでしょうか。

Raspberry Pi - Wikipedia

上の写真がRaspberry Piです。非常にシンプルなカード・サイズのコンピューターで、誰でも簡単にプログラムすることができるといわれています。それにしてもなぜ、すでにパソコンが配備されているのに、Raspberry Piなのでしょうか。

■なぜ、Raspberry Pi なのか

このPEGのワークショップを監修している阿部和弘氏に対するインタビューをみてみることにしましょう。

阿部氏はこれまでにRaspberry Pi 上でScratchを動かすワークショップを数多く実施してきたそうです。その阿部氏が経験を踏まえ、子どもたちがプログラミングを継続して学習するには、現状ではRaspberry Pi が最も適していると判断しているというのです。

彼はその理由として以下の5点を挙げています。

**********

①コスト:Raspberry Pi は他のデジタル機器に比べ非常に安価。高機能版でも3000円代から入手可能。

②基盤むき出しで提供されている:基盤がむき出しになっているので、教育向き。

③地デジ対応TVに接続して使用可能:家庭の地デジに接続可能なので、学校だけではなく、家庭でも使用できる。

④Raspberry Pi にはGPIO(汎用入出力)があること:GPIOはきわめて原始的な入出力端子なので、LED(発光ダイオード)、センサー、スイッチなどをつないで電子工作が容易にできる。

⑤自らプログラムを書けること:Raspberry Pi では子ども自身がプログラムを書いて何かを作り出す環境が整っている。Scratchなどが用意されており、それらを使ってモノ作りを体験できる。

****** 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

■主体的に学ぶとは?

たしかに、これまでの情報機器は与えられたアプリケーションを消費するだけでした。義務教育の段階で、自分でプログラムを作る機会が与えられれば、子どもたちは能動的に情報機器を活用するようになるでしょう。それこそが情報社会に適応していくための教育といえます。

阿部氏はこうも述べています。

**********

Raspberry Pi のように子どもたちが主体的に扱えるデバイスを使えることが大事だと考えている。

理想的には一人一台ということが重要だ。自分のものになれば、だれにもじゃまされずに使えるし、愛着もわく。自分のRaspberry Pi を使って何かを作ろうというモチベーションになる。

子どもにRaspberry Pi を与えるというのはLinuxワークステーションを与えることと同じであり、スキルさえあれば何でもできる。

ネットにつながってなんでもできるRaspberry Pi をもらうということは、自由を得るだけではなく相応の責任を負うことにもなる。

だからこそ、はじめは保護者やファシリテーターの目の届くところで使ってもらう必要がある。危険なものを子どもから取り上げるのではなく、その扱い方をきちんと身につけてもらおうとしている。

********* 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

このように阿部氏は、Raspberry Pi を教育で活用することの意義を説明したうえで、これを提供する先は、「Raspberry Pi を使って何かできないだろうか」という意欲を持った組織だと言明しています。

■情報(情報機器等)を生産することを学ぶ

21世紀に入って早14年目になってしまいました。この間の情報革命は驚くほどの勢いです。使い勝手がいい状況で消費者の前に登場してくるので、その仕組みがわからないまま、日々、私たちはスマホやタブレットに接触しています。

いまや仕組みがわからないまま使っていることにさほど危機感を覚えず、新しい機器の操作に慣れようとしています。はたして、それでいいのでしょうか。それこそ、情報(情報機器等を含む)を生産できる側と、ただ消費するだけの側とに分離してしまっているように思えます。

それがおそらく新たな格差の根源になっていくのでしょう。だとすれば、それこそ義務教育の段階から情報(情報機器等を含む)を生産できる能力を養うことが重要なのではないかと思います。(2014/4/15 香取淳子)

学びのイノベーション:授業の電子化

学びのイノベーション:授業の電子化

知らない間に教育現場のICT化が進んでいるようです。日経新聞(2014年4月12日付)は、「タブレットや電子黒板活用」「授業分かった、9割」との見出しをつけて文科省が出した報告書の内容を紹介しています。はたしてどのような内容だったのか、文科省のホームページを参照しながら、概観してみることにしましょう。

■実証研究の報告書

4月11日、文部科学省は電子教材を使って授業する実証研究についての報告書を出しました。今回の実証研究は教育のICT化に関するもので、2011~2013年度に、小中学校の児童・生徒約5700人を対象に実施されました。この3年間に文科省は、ICTを活用した教育の効果・影響についての検証、指導方法の開発、デジタル教科書・教材の開発などを行ってきましたが、その結果についての報告です。

たとえば、ICTを活用した指導方法の開発についてはどうなのか、報告書の概要からその一端を紹介しましょう。

■ICTを活用した指導方法の開発

これについては学習場面ごとにICTの活用を類型化し、実証実験を行っているようです。

①従来型の一斉学習については、教材、教具の電子化により、わかりやすい授業が試行されています。

②個別学習については、ⅰ習熟度に応じた個別学習、ⅱ調査活動を通し、ネットでの情報収集、写真や動画による記録、ⅲシミュレーションなどのデジタル教材を活用し、思考を深める学習、ⅳマルチメディアを活用し、資料や作品の制作、ⅴ情報端末の持ち帰りによる家庭学習、などが試行されています。

③協働学習については、ⅰグループや学級全体での発表や話し合い、ⅱ複数の意見や考えを議論して、意見を整理、ⅲグループでの分担、協働による作品の制作、ⅳ遠隔地や海外の学校等との交流授業、などが試行されています。

これはほんの一端ですが、文科省は、以上のように授業のイノベーションを通して教育改革を行い、次世代を担う人材を育成しようとしているのです。内容を見ると、これまでにいわれてきたこととそれほど大きく変わることはありませんが、「思考を深める学習」が取り上げられているのは興味深いことです。

産業化社会としてくくられることの多かった20世紀とは明らかに社会の在り方が異なってきています。学びの多様性を実現するために、教育改革、とくに、指導方法の開発は重要です。

子どもたちが今後どのような社会で生きるようになるのか、それを踏まえた上での基礎学力、教養、処理能力の育成が行われなければなりません。下図は先導的な教育ICTシステムです。

■先導的な教育ICTシステム

 

上の図は、http://www.japet.or.jp/Top/Cabinet/?action=cabinet_action_main_download&block_id=12&room_id=66&cabinet_id=1&file_id=287&upload_id=1270

図にしっかりとクラウドが示されているように、このような教育システムはクラウド・コンピューティングの技術によって支えられています。クラウドなど最先端技術によって、学校間、学校と家庭などで情報を共有し、垣根の障壁を超え、シームレスに交流できるような教育体制が構想されています。

3年間にわたる実証研究の結果、授業のICT化によりとくに国語の成績の悪い層の割合が10ポイント減少されたと報告されています。子どもたちに関心をもってもられるような授業内容にすることによって、とくに国語で効果が見られたというのです。

情報技術やメディアの発達によって、今後ますます複雑で多様な社会になっていくのだろうと思われます。それだけに、社会変容に見合った教育が必要です。教育現場では実証実験をし、その結果の検証作業を繰り返しながら、より適切な内容のものに組み替えられていくのでしょう。

どうすれば、子どもたちが社会の中で自分の居場所を見つけ、自分の能力を存分に発揮して生きていくことができるようになるのか、その基盤となる能力を養成する教育システムの重要性はますます高まってくると思います。慎重で積極的、かつ的確な教育改革を望みます。(2014/4/14 香取淳子)

 

Google:情報社会のリスク

Google:情報社会のリスク

■相次ぐ情報流失

4月10日に引き続き、4月11日にはJR東京駅やJR新大阪駅の平面図も誰もが閲覧できる状態になっていたことが判明しました。誤って非公開にしておかなければならない情報を、グーグル社員らが公開していたからだとされています。

■Googleの革新

Gメールはこの10年間で利用者数が5億人を超えたようです。私もGメールの登場までは他のメールサービスを利用していたのですが、Gメールの利点を知ってから切り替えました。一番の理由は、検索機能が優れているからです。

受送信したメールは自動的に保存され、キーワードを入れるだけで膨大な量のメールの中から該当するメールを探し出してきてくれます。しかも、最近は、受信メールを自動的に、メイン、ソーシャル、プロモーションの3種に振り分けてくれるので、大量のメールを手際よくチェックすることができます。その上、保存量が多い。これも重宝している理由の一つです。

それ以外にもさまざまな機能があります。Gメールにはいったん利用すると手放せなくなってしまう利便性があるのです。だからこそ、世界最大のメールサービスを提供するようになったのでしょう。とはいえ、はたして利便性だけでGメールを重宝がっていていいものか、という問いかけがCNN電子版(2014/4/1)に掲載されています。

「Gmail at 10:How Google dominated e-mail」というタイトルの記事です。

詳細はこちら。http://money.cnn.com/2014/04/01/technology/gmail/

この記事では、グーグルがこの10年間でさまざまなイノベーションを行ってきたことを評価しています。また、グーグルが行ってきたイノベーションは必ずしも利用者に受け入れられたわけではありませんが、グーグルがイノベーションを続ける姿勢を崩さないことも評価しています。

■プライバシー侵害

ただ、プライバシーについては、たとえば、グーグルが2010年2月から提供しはじめたソーシャルネットワークであるGoogle Buzzの例をあげ、みじめな結果に終わったとしています。Google BuzzはGmailと連動させて利用促進を図っていたサービスでした。そのため、サービス開始当初から個人情報の流出が危惧されていたようです。このサービスは、プライバシーに疑義が生まれたせいで、ほどなく終了し、今ではGoogle+に一本化されています。ストリートビューもまた大きな論議を呼びました。

New Logo Gmail.svg

 

■信頼性、安全性

信頼性に関しては記事は、グーグルがGメールからどんな情報を集め、それに基づき、どのように利用者に広告を提供しているかについては明らかにしようとしてきたと述べています。

Gメールの場合、受信したメールは自動的に解析され、内容に関連する文字の広告が表示されるようになっています。つまり、勝手にメールが覗き見されているのです。ですから、それが利用者を不快にさせていることも事実です。ところが、これについてGoogleは、電子メールの自動スキャンはプライバシーの侵害には当たらないという態度のようです。私もそれがわかっていながら、結局、Gメールは利便性が高いので使っています。

■フリーメールの安全性とリスク

私のように、グーグルによって受信メールがスキャンされていることがわかっていても、利便性の方を優先させてしまっているヒトは多いのではないでしょうか。無料であり、利便性が高いのであれば、プライバシー等のリスクは見逃してしまうというような・・・。

もっとも、電子メール自体、その信頼性は非常の脆いのだそうです。さらに、Gメールの信頼性、安全性については次のような指摘もあります。

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Gmailというシステムは、そのメールというプロトコル自体の脆弱さを抜きにすれば、セキュリティとしては個人が利用できるものではほぼ最高峰に近い。

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詳細はこちら。http://blogos.com/article/68266/

■情報社会のリスク

いまでは誰もが日常的に電子メールを利用しています。そして、メールは専門家、秘匿しなければならない部門の人びとも利用します。ですから、空港の情報流失等にみられるように、情報社会になると情報流失のリスクが高まってくることになります。いかにそのリスクを回避するか、一連の情報流失事件をみると、そのためのシステム構築の重要性がさらに高まってきたと思います。(2014/4/13 香取淳子)