ヒト、メディア、社会を考える

2014年

再び、メディア・プロパガンダの時代到来か?

■外務省の内部文書

2014年5月4日、産経新聞は外務省の内部文書に基づき、中韓が「官民一体」で重層的に情報戦略を行っていると報じています。中国は国際機関や主要メディアを積極的に活用し、韓国は地方から展開するといった特徴がみられると分析しているのです。中国にしても韓国にしても政権が交代してからとくに、歴史問題を盾に日本の評価を低下させるような情報戦略が激しくなっています。

外務省の内部文書では、「中韓は官民一体での一致団結した活動を完璧に行っている」としているのに対し、「日本の場合、官民一体には程遠い」という現状認識を示しています。ですから、この記事が第1面で取り上げられたことの背景には、これまでのような日本の対応でいいのかどうか、各方面から疑問が持ち上がってきているからではないかと考えられます。

安倍政権は、26年度の内閣府の広報関連予算や外務省の領土保全対策費を増額しました。日本の対外情報戦略をこのまま放置するのではなく、なんらかの対策を講じようとする姿勢を打ち出しているのです。ただ、予算を増額しただけで、この問題に対応できるのかどうか、疑問です。外務省の内部文書が指摘しているように、中国はメディア戦略、韓国はヒト戦略によって、内外ともに強烈な日本攻撃を展開しているからです。

韓国はヒト戦略によって、慰安婦像を各地で建立させています。米豪欧に移住した韓国人が各地で積極的なロビー活動を展開し、地方政治を動かしているからです。また、中国は内外のメディア戦略によって反日感情あるいは歴史認識の修正を迫ろうとしています。その結果、中国に進出した日本企業が大きな被害を受けたのはまだ記憶に新しいところです。

■中国のメディア戦略

外務省内部文書は、中国が「国際機関や主要メディアを積極的に活用」していると指摘しているといいます。国連総会や首脳会談といった国際会議のを活用、海外メディアやシンクタンクを通じてプロパガンダを展開、といった具合です。さらに、欧米などには、「政府よりも学者、有識者、記者による発信」を積極的に利用した結果、「中国の発信に刺激を受けた報道がある」といいます。そして、国営中国中央テレビ(CCTV)の多言語チャンネルや世界120カ国で1086校に及ぶ中国語・文化教育拠点「孔子学院」が「独自の主張を重層的に発信している」ともいいます。いってみれば、メディアと言語・文化教育によって自国の主張を広めようとしているのです。

CCTV本社ビル

上記はCCTV新本社ビルです。

■今後、日本が取るべき戦略は?

この記事を執筆した是永桂一氏は、外務省幹部の意見として、「政府が前面に出る情報発信は先進民主国として世界の共感が得られない。相手の土俵に乗らないことだ」という見解を紹介しています。たしかに、官民一体で情報戦略を推進する韓国、政府主導の堅固な情報戦略を内外で展開する中国を見ていると、日本が同じ土俵で勝負しても勝ち目はないと思います。

逆に、日本が誠実な態度を固持し続け、それを見える形で内外に情報発信し続ければ、やがては日本に対する内外からの信頼や尊敬が醸成されるようになるでしょう。そうなると、中国や韓国の中から、政府の態度はどうであれ、過去は過去、現在は現在と割り切って考える人々が出てくるに違いありません。つまり、中韓が展開する反日的な情報戦略に惑わされず、日本が誠実に対応をし続けていれば、中韓の人々はやがて自分の政府を疑いはじめるようになるのではないでしょうか。

実際、日本を激しく攻撃していた韓国の大統領はいま、公共交通機関の相次ぐ事故で信頼は失墜し、国民から謝罪要求までされています。ネット世論を見ていると、政府の態度とは別に、中国、韓国とも反日的な態度のヒトばかりではないことがよくわかります。ですから、日本は相手国を直接貶めるような情報戦略はすべきではないと思います。

■適切な対外広報戦略を

中国や韓国の国家主導型の情報戦略は強烈で、即効性に富んでいます。ですから、日本の対外広報戦略がお話にならないほど下手に見えてしまいますし、日本はこれまで必要な広報さえしてこなかったのではないかと思えてしまいます。ですから、今後、対外広報戦略を改善し、充実させていくことは重要です。

国が豊かになればなったで、諸外国からの嫉妬を回避する上で対外情報戦略は必要ですし、超高齢社会になればなったで、今度はそれでも日本に対する関心を失ってもらわないための対外情報戦略は必要です。その点で中国のメディア戦略は秀逸だと思います。学べる点はたくさんあると思います。

たとえば、CCTVが展開している多言語チャンネル。日本では国際対応といえば、英語放送しか思い浮かべませんが、中国は英語、スペイン語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、アラビア語、等々、使用人口の高い言語にはすべて対応し、それぞれの言語で中国のニュース、文化、等々の情報を毎日発信しています。

また、孔子学院を各地の大学に併設し、語学・文化の浸透を図っていますが、これは、フランスが日仏学院、イギリスがブリティッシュ・カウンシル、アメリカがアメリカンセンターを設置したのと同様、対外文化戦略の一つなのです。経済的に豊かであったとき、日本はそれをしませんでした。そう考えると、日本がこれまで対外情報戦略をしてこなかったせいで、不要なトラブルを引き起こしてきた可能性が高かったのではないかと思えてなりません。

安倍政権は成長戦略の一つとして、アニメや日本食を取り上げ、クールジャパン戦略を展開しようとしていますが、もっと根幹的なところで日本文化・日本語を世界に広めるという情報戦略があってもいいのではないかと思います。

中韓の情報戦略を知るにつけ、日本の情報戦略の下手さ加減、あるいは、適切な情報戦略をしてこなかったことのツケの大きさが思い知らされます。再び訪れようとしているメディア・プロパガンダの時代に日本はすでに乗り遅れてしまっているのではないか・・・。産経新聞の記事を読み終えたいま、そのことの恐さをひしひしと感じています。(2014/5/4/ 香取淳子)

 

MS社、IE修正プログラムの配布を開始。

IE修正プログラムの配布

2014年5月2日付日経新聞の電子版によると、米マイクロソフト社は5月1日、IEの欠陥を修正するプログラムの配布を開始したと報じています。マイクロソフト社からも同様のメールが私のところに来ていました。

■電子版と紙版

同日付の日経新聞には「マイクロソフト「IE」に欠陥」と題した記事が掲載されているだけです。IEとは何かに始まって、攻撃を受けるとどうなるのか、対策はどうなのか、といった内容です。この問題をわかりやすく整理したもので新しい情報としては、専門家のコメント程度です。改めて、電子版との違いを感じさせられました。

紙版のメリットはすでに報道されたニュース項目について要点をまとめたり、わかりやすく整理したり、これまでの経緯を説明したりするのに向いています。日経新聞は以下のように図示し、利用者にとってこの問題がどのような意味を持つのか、どうすればいいのかをわかりやすく整理しています。

IEユーザーはどうすればいいのか

資料:日経新聞(2014/5/2朝刊)

この新聞記事で興味深かったのは、セキュリティ大手の米FireEye日本法人の最高技術責任者の三輪信雄氏が「米国土安全保障省が攻撃の恐れがあると発表したのは異例。攻撃者グループは攻撃の痕跡を巧みに消し、非常に洗練されているとみている」と述べていることです。

たしかに米国土安全保障省がこの警告を発したとき、私もおかしいと思いました。対策として、IEではなく他の閲覧ソフトを使用することが推奨されていたからです。結果として、グーグルやファイア・フォックスなどを利することになりますから、何か裏があるのではと勘繰ったほどでした。

実際はマイクロソフトが26日に未修整の欠陥がみつかったと発表し、その後、米政府が警告を発していたようです。危険性が高いと政府が判断したからでしょう。ですから、三輪氏が指摘するように、今回の攻撃は、「攻撃の痕跡を巧みに消す」ほど洗練されている可能性があります。

■修正プログラム

マイクロソフト社からのメールを見ると、影響を受けるソフトウエアとして、システムやサービスパックなど多数が列記されていました。また、脆弱性の影響としては、リモートでコードが実行されるというものでした。ですから、放置すれば、遠隔からの操作を招く恐れがあるのです。つまり、外部からの操作で個人や企業のパソコンが操作されたり、パスワードなどの情報が盗まれたりする可能性があるのです。

修正プログラムの配布が開始されていますが、私は自分ではこのプログラムの修正をしないでしょう。仕組みがよくわからないので、不安なのです。ですから、自動的に修正されるのを待つか、そのまま他の検索エンジンを使うようになると思います。

興味深いのは、当初、修正プログラムの配布は5月14日と報じられていたのに、早々と5月1日には米国で修正プログラムが配布されはじめたことです。できるだけ他社の閲覧ソフトを使用する期間を短くしようとしたのでしょう。このことからは、マイクロソフト社が利用者離れを恐れていることがわかります。

IEは日本では長年、ネット閲覧ソフトとして親しまれています。往時ほどの勢いはないものの、現在でも53%のシェアを占めており、いまだにトップです。とはいえ、今回の件でIEを使用する利用者の減少は避けられないでしょう。

修正プログラムができたとはいいながら、IEを使用するには不安が残る、あるいは、別の閲覧ソフトに慣れてしまった、といったような事態は十分に考えられます。ですから、修正プログラムが配布されたからといって、これまでの利用者が再びIEを使うかどうかはわからないのです。

■攻撃者優位のサイバー空間

時事通信解説委員の鈴木美勝氏は、『外交』(Vol.24)誌上で、「サイバー戦争で狙われやすいのは、脆弱な生活インフラ、経済インフラだ。電気、水道、ガスの統御システム、道路、鉄道、航空、海上の交通統御システム、金融、医療等々は、通常考えられている以上に脆弱な標的だ」と書いています。

セキュリティに関する最近の事象はまさに鈴木氏のこの指摘に当てはまります。ネットでつながり、便利で快適になった反面、このような不安に常に脅かされていなければならないのが現代の生活なのでしょう。

ネット空間から抜け出すことができない私たちは、見えない敵に怯え、対処し、見えない敵からの防御を想定して生きていかなければならなくなりました。便利さ、気軽さ、効率、快適、等々と引き換えに、私たちはこの種の不安を抱え込まざるをえなくなったのです。(2014/5/2 香取淳子)

 

ビル管理システムにサイバー攻撃の可能性?

■ビル管理システムへの不審な通信

読売新聞(2014/5/1朝刊)は、「無防備ビルが狙われる」という見出しの記事を掲載しています。編集委員の若江雅子氏によって書かれた記事で、リード部分は以下の通りです。

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ビル管理システムの「穴」を探すようなインターネット上の不審な通信が3月以降、警視庁で検知されている。何者かがサイバー攻撃の「下見」をしている可能性があるという。ビルへの攻撃は社会を混乱に陥れるテロにもなりうるが、業界の対応は遅れている。

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この記事に限らず、最近、ネットのセキュリティに関するニュースが相次いでいますが、いったい、何があったのでしょうか。今回はそのことを考えていきたいと思います。

そもそも警視庁では不正アクセスの傾向を調べるため、全国の警察施設のインターネット接続点にセンサーを設置しています。ところが、そのセンサーが3月中旬から4月にかけて不審な通信をキャッチしたというのです。ビル管理で使われているシステムにターゲットを絞って通信を試みるような動きだったのだそうです。

そのため、警視庁は4月4日、ホームページ上で注意喚起を行っています。

詳細はこちら。https://www.npa.go.jp/cyberpolice/detect/pdf/20140404.pdf

警視庁の定点観測システムでは、宛先ポート 47808/UDP に対するアクセスを検知したといいます。しかも、この47808/UDP は、ビル管理システムで使用される通信プロトコル用標準規格「BACnet」で定義されているポートなのだそうです。ですから、このアクセスは、BACnet に基づいて
構成されたシステム(BACnet システム)を探索している可能性があるというのです。

さらに、この文書によりますと、適切な対策を施さずにビル管理システムをインターネットに接続していると、攻撃者に進入され、システムを任意に操作される恐れがあるといいます。大変な事態を引き起こしかねないのです。ですから、警視庁は4月4日、ビルの管理者に注意喚起を促し、以下のような対策を実施することを推奨したのです。

(1) 使用製品の最新セキュリティ情報の確認

(2) インターネットへの不要な公開の停止

(3) ネットワークセキュリティの確認

■マンションでの経験

昨年12月、火の気もないのに突然、マンションの火災報知器が鳴りだし、止めようとしても止まらず鳴り続けたので、困ったことがあります。報知器が誤作動を起こしたのですが、これまでに一度もこのような経験をしたことがなく、茫然としてしまいました。セキュリティ会社から警備員が飛んできましたが、その警備員もなすすべもなく、結局は強制的に電源を落とすことによって、ようやく警報音を消し止めることができました。その後、火災報知器のメーカーの技術者が来て検査しましたが、機器に異常は認められず、原因はわからないままです。

このような経験をして初めて、私の住んでいるマンションがセキュリティ会社によって遠隔管理されていることを知りました。火災報知器が鳴ると自動的にセキュリティ会社に連絡が行くようになっており、対応するというシステムです。

■多摩地区で起こった停電

そういえば、4月27日夜8時ごろ、東京都八王子市、多摩市、町田市、日野市で停電が発生しました。約31万軒が停電の被害に遭いました。交差点では信号が消え、電車は停まりました。発電所でトラブルが発生した可能性があるといい、東京電力が原因を調べているといいますが、発電所へのサイバー攻撃だった可能性はないのでしょうか。とても気になります。

事件の詳細はこちら。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140427/dst14042721210012-n1.htm

■経産省がCSSCの演習を実施

経済産業省は2014年1月17日、電力・ガス・ビル・化学分野のサイバーセキュリティ演習を順次実施することを発表しました。CSSCとはControl System Security Centerの略で、「技術研究組合制御システムセキュリティセンター」のことを指しています。

以上の写真はCSSC本部

経産省は1月21から計5回、CSSC本部で演習を実施すると発表しました。なぜ、このような演習をするのかといえば、近年、重要なインフラや工場プラントの制御システムを狙ったサイバー攻撃が、世界的に多数出現しているからでした。

CSSC本部

CSSCについて詳細はこちら。http://www.rbbtoday.com/article/2014/01/17/115937.html

■ビル管理システム等が危険に晒される可能性

読売新聞編集委員の若江雅子氏は5月1日の紙面で、「ビル、電気、ガス、工場などの制御システムはかつては外部のネットワークから隔離して運営されることが多く、サイバー攻撃は想定されてこなかった。その後、保守や生産管理を効率的に行うために外部とつなぐケースは増えたが、関係者の意識は変化になかなか追いつかないのが現状だ」と書いています。

インフラの保守、管理業務はこれまでネットワークにつながずに行われてきました。ところが、効率的に業務を遂行するため、近年はネットワークにつなぐケースが増えているといいます。そうすると管理システムそのものがサイバー攻撃される可能性が出てくるのです。ところが、若江氏によると、実際に業務に関わる人々にはその危険性に対する認識が低いようなのです。

経産省が2014年初から数回にわたって実施したCSSCの演習はまさに、そのような実態への警告の意味があったのかもしれません。

若江編集委員はさらに記事の中で、「そもそもビル管理システムを導入しているビルが国内にどのぐらいあり、どのような管理がされているのか、国内のいずれの機関でも把握はされていない」と書いています。経産省が先導して作ったCSSCもその現状を把握できていないようです。

米国のセキュリティ会社が日本のビルシステムへの接続を試みたところ、わずか数時間の作業で40件以上ものビルシステムに接続できたといいます。その最高責任者は、「接続できれば、照明でも温度でも何でも好きなように操れる。いつ攻撃者に狙われてもおかしくない」と指摘したといいます。日本のビル管理システムがあまりにも無防備であることが明らかになったのです。

■生活インフラのセキュリテイは?

このような事態に際し、CSSCは早々にビル管理業界にも保守点検などで外部に接続する際のルール作りを求めるといっているそうです。ルール作りも当然ですが、セキュリティ部門の強化を図り、さまざまな観点からサイバー攻撃からの防御を図る必要があるのではないかと私は思います。とくに生活インフラに関しては最新のセキュリティを施してもらいたいと思います。

たとえば、日本各地でスマートシティの実現に向けた取り組みが行われています。オバマ大統領がグリーン・ニューディル政策を打ち上げて以来、日本でも積極的にプロジェクトが推進されはじめています。資源を有効活用し、環境に配慮した街づくりの理念は素晴らしいと思います。次世代に向けたプロジェクトとして大変有意義なのですが、これがITによるコントロール下に置かれているのです。

スマートシティの概念図は以下のようなものです。

スマートシティ概念図

出所:http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/service/newsletter/i_02_71_1.html

図に示されたように、スマートシティの概念は、電力や交通などをはじめ、都市の生活インフラの最適化をITで制御するというものです。この考え自体は環境に優しい画期的なものですが、生活の中にITによる制御システムが入り込むことになります。ですから、いつ外部からの侵略を受け、インフラが誤作動を起こさないとも限りません。その安全性を確実なものにしていくための対策を講じる必要があります。

ITを活用し、さまざまな生活サービスが事業として展開されています。その最たるものが、生活インフラの効率化に関わるものだといえます。精巧に組み立てられたシステムはいざ誤作動を起こすと、大変なことになります。仕組みがわからず、対処の仕方も知らされていないので、そこで生活しているヒトは何もできないのです。

そのような事態が外部の何者かに故意に引き起こされたのものだとしたら・・・・?私のささやかな経験からしても、ビル管理システムへのサイバー攻撃は、ヒトを限りなく不安に陥れることは確かだと思います。ですから、外部の何者かが日本社会を攪乱させようとする場合、もっとも低コストで効果的な方法がビル管理システムへの攻撃だということがわかります。早急に全国規模で安全対策を講じる必要があります。(2014/5/1 香取淳子)

 

スマートシニアが消費市場を変える?

■スマートシニアが急増している?

4月30日夕刊の日経新聞で、スマートシニアが急増しているという興味深い記事を読みました。シニア層のインターネット利用率が急増しているというのです。

東北大学特任教授の村田裕之氏はネット時代の高齢者像として15年前からスマートシニアという概念を提唱していたそうです。スマートシニアとは、ネットを通して多様な情報に接し、スマートな(賢い)シニアのことを指すのだそうですが、それが近年、急増しているというのです。

■総務省の通信利用動向調査

総務省の通信利用動向調査によると、シニア層のネット利用率は2001年から2012年までの11年間で、60~64歳が19.2%から71.8%、65~69歳が12.3%から62.7%、70~79歳が5.8%から48.7%に急上昇しています。とくに増加率の大きいのが60歳代で、70歳代になるとやや落ちています。

シニアのネット利用率

 

出所:日経新聞(2014/4/30夕刊)

さらに、いまネットを活用している60歳以下の世代がこれからどんどん高齢者になっていきますから、この傾向は今後ますます強まるでしょう。つまり、これからの高齢者はネットを自在に活用するスマートシニアが中心になっていくことを想定しておく必要があるのです。

■消費行動の変化

村田氏は、「私の研究の基づく予測では、2025年には83歳で要介護者とそうでない人が半々で、ネット利用率は45%に達する。10年後には後期高齢者でも日常的にネットを利用することが当たり前になると思われる」とし、「今後、高齢者の消費パワーへの注目が高まるにつれ、流通業にとってスマートシニアへの対応は重要性を増すだろう」と結んでいます。

若い世代と同様、高齢者も価格に敏感になり、ネットで商品を比較しながら購買行動を取るようになるでしょう。ネット通販を利用することも増えるに違いありません。

少子高齢化の進行にともない、今後、高齢者の単身世帯の増加、限界集落の増加が必至と予測されています。日常の買い物にも不自由するようになれば、高齢者もネット通販での購入が不可避になるでしょう。

■テレビ通販からネット通販へ

14年ほど前に私は吉田秀雄記念事業財団の助成を得て、高齢者の消費行動について調査をしたことがありました。調査の結果、高齢者はテレビで視聴したことを信じやすく、テレビを通してモノを購入することが多いことが判明しました。興味深かったのは、通常のTVCMは高齢者にはあまり効果がみられなかったことでした。15秒や30秒では短かすぎてよく認識できていなかったのでしょう。高齢者が好んでいたのは、商品を手に取って説明する、効能を詳しく説明する、タレントや権威ある人が勧める、といったような方法で商品情報を提供するスタイルのCMでした。イメージ情報ではなくしっかりと商品情報を伝える形式のCMが高齢者に訴求力を持っていました。

■スマートシニアの消費行動

調査の結果、わかったことは、高齢者は全般に商品について実用的な情報を欲していたということです。このような志向性を考えると、高齢者がネットを利用できるようになると、すぐに消費行動にネットを活かすようになるでしょう。ネットでは詳細な商品情報を入手できますし、価格を比較し、商品の評判を知ることもできます。ほとんどの高齢者が限られた収入しかない年金生活者です。合理的な消費行動によって節約も可能になることがわかれば、ネットを利用した消費行動は今後ますます増大するでしょう。

■スマートシニアが消費市場を変える?

今後、ボリュームゾーンになっていくのが、高齢者層です。スマートシニアといわれる高齢者が増えれば、市場も大きく様変わりするに違いありません。メーカーにとっては商品の質的向上、合理的な価格設定が必至となりそうです。(2014/5/1 香取淳子)

 

Googleと20%ルール

Googleと20%ルール

書店に出向き、雑誌コーナーに行くと、平積みされた雑誌の中から、「グーグルを最強にした経済理論」というキャッチコピーが目に飛び込んできました。気になって手に取ると、ビッグデータに関する記事もあります。思わず、『2014~2015年版新しい経済の教科書』を購入してしまいました。「グーグル」と「最強にした経済理論」という二つの刺激的な言葉に反応してしまったのです。

■グーグルを最強にした経済理論?

内容は、グーグルのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン氏と大阪大学准教授の安田洋祐氏との対談でした。刺激的なタイトルが付けられていたので、つい購入してしまったのですが、読んでみると、ほとんどの部分、ヴァリアン氏の来歴が語られているだけでした。

カリフォルニア州立大学の情報管理部長だったハル・ヴァリアン氏は2002年からグーグルに関わり、広告オークションの仕組み作りをしていたようです。その結果、クエリ予測モデル、広告オークション理論の構築等に関わってきたといいます。

4月20日、本日誌で、「メディアの観点から見たGoogleの決算報告」(http://katori-atsuko.com/?p=278) と題して書いたように、グーグルの2014年第1四半期の収益をみると、広告のクリック数は多いのに、それが収益につながっていませんでした。そのため発表と同時に株価が下落したぐらいです。利用者のデバイスがパソコンからスマホなどのモバイルに移ってしまっている現状で新たな課題が出てきているのです。ヴァリアン氏が理論を構築していたころとは明らかに状況が異なっています。もはや草創期に活躍したヴァリアン氏の出番はないのかもしれません。ですから、対談を読み終えても、見出しに惹かれたほどの充足感はありませんでした。

グーグルロゴ

 

■グーグルの20%ルール

むしろ、興味深かったのは、ヴァリアン氏が自分たちは20%ルールを活かしていると答えていることです。意外でした。

実は昨年、さまざまなメディアで、グーグルの20%ルールはなくなったも同然だ、というような記事が溢れていたのです。

たとえば、『WIRED』2013年8月20日号では、以下のように書かれています。

「この有名な20%ルールについて耳にすることはずっと少なくなった。「Quartz」の8月16日付の記事ではグーグルの企業文化においてこの理念は「死んだも同然」だとされている。(中略)20%ルールの本当の敵は「当たる矢が少なかった」ことだろう。同社がグーグルのサービスを何度も整理統合したり、修繕したりしているところを見ると、同社が本当に必要としているのは「焦点」なのかもしれない」

以上、詳細はこちら。http://wired.jp/2013/08/20/googles-20-percent-time-is-as-good-as-dead-because-it-doesnt-need-it-anymore/

20%ルールがグーグルを成功に導いたことは認めながらも、いまではないも同然だというわけです。このような論調の記事は多くのIT系雑誌に掲載されました。ですから、私も20%ルールはもはや機能していないのだと思っていたのです。どうやら安田氏もそのように考えていたようで、「20%ルールはなくなってきているんじゃないかという記事を読みましたが、どうでしょう」とヴァリアン氏に質問しているのです。ところが、違いました。少なくともヴァリアン氏が働くチームでは機能していたというのです。

■20%ルールはグーグルの企業文化

グーグルは20%ルールという内規を持っていました。それは、勤務時間の20%は本来の業務とは別に、自分独自のプロジェクトに使わなくてはならないというルールがあります。二村高史は著書『グーグルのすごい考え方』(2006年9月刊、三笠書房)の中で、「ここで重要なポイントは、「使ってもいい」のではなく、「使わなくてはならない」という点だ」と指摘しています。

彼は、「ある意味、これは非常に遠大な使命といっていい。考えようによっては、仕事の制約がほとんどない世界だ。あらゆることがらが仕事の対象になってしまう」と、20%ルールの背後にあるヒトを動かす仕組みに驚いています。このようなシステムの下ではヒトは突拍子もないことを考え、それを研究対象にすることができます。誰にもはばかることなく自由に発想できる環境こそがイノベーションを生み出していくのでしょう。実際、グーグルがそうです。ですから、まさに20%ルールは、自己管理、自主性を第一に考えるグーグルの企業文化の象徴だったのです。

■「Quartz」発の情報

先ほど紹介した「WIRED」の情報の元ネタは「Quartz」でした。その「Quartz」に情報提供したのはグーグル元社員だといいます。ブロガーの島田範正氏は、追随してこの件を追ったFast Company誌の記事に基づき、「会社が決めたプロジェクトだけに勤務時間の100%を使っている社員の方が評価も高く、昇給もしやすいのだとか」と書いています。

詳細はこちら。http://www.fastcompany.com/3015877/fast-feed/why-google-axed-its-20-policy

こうしてみると、グーグルの企業文化にも変化が生じている可能性が考えられます。つまり、創業時とは異なり、いまや社員53861人(2012年末)の多国籍企業です。優秀な人材を集めているとはいえ、これだけの社員を抱え、自由な企業風土を維持し続けるのは難しいのではないか、というのが浅はかな素人の見方です。グーグルが急速に発展し、さまざまな領域に進出するに伴い、社員数が激増し、いまや量が質を駆逐する域に達している可能性もないではないでしょう・・・。と思うのは、浅はかな素人の見解でしょうか。

いずれにしろ、昨年報道された「20%ルールの消滅」報道について、ヴァリアン氏は「自分のところはそうではない」と否定しました。ですから、これについての真相はわかりません。元社員がそういったからといって、真に受ける必要がないのかもしれません。元社員はグーグルで不遇だったからこそ辞職したのでしょうから。

一方、グーグルは次々と新領域を開拓し、いまやグーグル帝国ともいえるほどの力を見せつけています。20%ルールをはじめ、グーグルの企業文化がそれを支えてきたことは確かでしょう。「Quartz」のような記事が出てきたからには、内部でなんらかの変化があるのかもしれません。ですから、今後も維持できるかどうかはわかりませんが、これまでのところ、グーグルの企業文化がイノベーションを次々と生んできたといっていいでしょう。

■Googleの企業文化

グーグルには、一般常識では考えられないさまざまな企業文化があるといわれます。元はといえば、自由度が高く、研究志向の強い学生が起業した企業です。普通の企業ではないことは確かでしょう。いつの間にか、情報を軸に以下のような事業を展開しています。

グーグルがしていること

情報検索から、メール、SNS、マップ、等々、世界中のヒトが日常的にグーグルの情報サービスを利用しています。まさに、「世界中の情報を整理してみんながアクセスし便利に使えるようにする」というグーグルのミッションの成果といえます。

このようにグーグルが使命感に基づいてさまざまな事業展開を行い、次々と成功を収めていく中で、実はグーグルが意図しない巨大なパワーの保持者になってしまっているのかもしれません。そうなると今度はそのパワーのメカニズムに動かされていくようになります。やはり、今後もグーグルの動きを見逃せません(2014/4/30 香取淳子)

 

ネットはどこまで安全か:IEに脆弱性発見

IEに脆弱性発見

日経新聞は、マイクロソフト社のネット閲覧ソフト「インターネット・エクスプローラー(IE)」のバージョン6から最新版までのものに未修整の欠陥が見つかったとし、米国土安全保障省が28日、IEの使用を中止するよう警告したと報じています(日経新聞、2014年4月29日)。

IE

 

すでに米セキュリティ会社FireEyeが、この脆弱性を利用した攻撃を発見しているといいます。脆弱性自体はIE6~11に影響があるとされていますが、同社が確認している標的型攻撃ではIE9~11をターゲットにしているというのです(Internet Watch, 2014/4/28)。新しいバージョンが狙われていることがわかります。

私は日常的にIEを使って情報検索をしていますので、このニュースを知ってさっそく、Google Chromeに切り替えました。とはいえ、うっかりするとすぐIEのアイコンに手を伸ばしてしまいます。慣れているからでしょう。’お気に入り’もほとんどがIEの方に入っているので、とても不便な思いをしています。

IEはマイクロソフト社製なので、Windowsマシンには最初からこのブラウザが搭載されています。通常、搭載されているブラウザを敢えて変更することはしません。ですから、多くのヒトがこのIEを使って情報検索をしているのではないでしょうか。

■どのような攻撃なのか

いったい、どのような攻撃を受けるのでしょうか。ITメディアによると、悪用された場合、多数のユーザーが利用する正規のWebサイトを改ざんしたり、ユーザーをだましてメールなどのリンクをクリックさせたりする手口を通じて不正なコンテンツを仕込んだWebサイトを閲覧させ、リモートで任意のコードを実行される恐れがあるといいます(IT media, 2014/4/28)。

■どうすればいいのか

対策としては、IEを使うか、使わないか、選択肢は二つです。ですから、一つ目の対策としては、IE以外のブラウザ、Google ChromeやFirefoxなどを使うことになります。ただ、IEを使い続けたい場合の対策として、たとえば、以下のような方法があるようです。

①Flashプラグインを無効にする。

詳細はこちら。http://www.lifehackslite.com/hacks/2008-03/279.html

②マイクロソフトの脆弱性緩和ツールを使う。

詳細はこちら。http://news.mynavi.jp/articles/2013/11/19/emet/

ところが、サポート期間が終了したXPについては対策がないようです。以前に紹介したように、まだXPを使い続けている事業所はたくさんあります。こういうところが狙われたら、ひとたまりもありません。

マイクロソフトは5月14日に更新プログラムを提供する予定だとしていますが、それまでの期間、IEの利用者はなんらかの対策を講じなければ被害に遭う可能性が出てきています。

■ネットはどこまで安全か

インターネットの登場によって自由に時間空間を超えることができ、ヒト、モノ、情報の交流が加速しています。その一方で、何度もこのようなシステムの脆弱性をついてインターネットが悪用される案件が発生しています。その都度、更新プログラムを開発し安全性を高めていかなければなりません。ネット社会の根幹に相当するブラウザの安全が必ずしも確定してものではないことが今回の件でよくわかりました。ネットに依存した社会がどれほど不安定で、どれほどヒトを不安にさせるものであるか、改めて考えさせられました。(2014/4/29 香取淳子)

 

回転寿司とICT

おもてなしは、やはり鮨?

2014年4月23日、オバマ大統領が来日しました。安倍首相は非公式夕食会の場として、東京・銀座の鮨店「すきやばし次郎」を設定しました。日本人にとって、いざというときのおもてなしはやはり鮨なのでしょう。「すきやばし次郎」は、ミシュラン・ガイド東京版で最高の三ツ星の格付けを得ている高級鮨店です。メニューはなく、「おまかせ」で注文するシステムで、値段は一人3万円以上だそうです。

「すきやばし次郎」詳細はこちら。http://www.sushi-jiro.jp/jpn-index.html

安倍首相とオバマ大統領の約2時間半に及んだ会食は、いま懸案のTPP交渉の話題で終始したようですが、25日の共同声明では大筋合意に至りませんでした。せっかく用意した高級「鮨」の効果はなかったのでしょうか。

■回転寿司

安倍首相とオバマ大統領の鮨会食のニュースに刺激され、私も久しぶりにお鮨を食べたくなりました。とはいえ、私たち庶民にとって身近な鮨はやはり回転寿司です。たまたま神奈川県藤沢市に用事があって出かけたため、もよりの湘南台「はま寿司」に行きました。やはり家族連れが姿が目立ちましたが、土曜日だというのに客数は少なく、大丈夫かな?とちょっと不安になりました。「はま寿司」に入るのは初めてです。

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よく行く「かっぱ寿司」とは違って、注文した寿司が特急レーンで運ばれるシステムではないので、最初はまごつきました。注文した鮨もそうでない鮨も同じようにベルトコンベアに乗って流れてくるので、他人が注文した鮨を間違って取ってしまう可能性があるのです。よく見ると、注文した皿は台の上に乗っているのですが、最初はわかりません。カウンター席に座ってすぐにベルトコンベアから手に取った皿は今思えば、他人が注文した鮨だったのでしょう。大変おいしいしめさばでした。

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次に上記の注文システムを使って、おすすめの特ネタを注文しました。写真だけで判断し、なんとなくおいしそうに見えたマグロのトロを注文しました。注文した商品が届く際には、音声案内があります。同じようにベルトコンベアに乗ってきますが、注意深く確かめながら、皿を手に取りました。注文したトロですが、見ただけで時間が経っていることがわかります。表面に艶がなく乾燥しているのです。案の定、口に入れると、端の部分が乾燥して固くなっていました。吐き出しました。

これまで「かっぱ寿司」や「スシロー」などの回転寿司チェーンで何度が鮨を食べたことがありますが、一度もこのようなまずい鮨を食べたことがありませんでした。鮮度管理が徹底していたのでしょう。鮨は生ものですから、鮮度が命です。その鮮度がなく、乾燥して固くなってしまっているのですから、もはや商品とはいえません。

ですが、お店の人にクレームをつけず、そのまま他の鮨ネタに手を伸ばしました。エビ、イカ、ホタテ・・・、よく食べるネタ皿を次々と取って食べてみましたが、ホタテ以外は鮮度がよくありません。いつもは10皿は食べるのですが、お腹が空いていたので7皿は食べましたが、それ以上は食べる気がしませんでした。

支払のために会計に立ち、ふと壁側に目を向けると、以下のような表示に気づきました。

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なんと、「はま寿司のこだわり」として、ICチップを内蔵した皿を使用して鮮度管理しているというのです。だとすれば、私が注文して食べたマグロのトロは自動的にレーンから外れたものを再度、ヒトが注文皿に入れ、ベルトコンベアで流したのでしょうか。たとえICTを導入して鮮度管理をしていたとしても、ヒトがそれを戻したのではまったく意味がありません。なぜ乾燥したトロが私の席に注文皿で届いたのかわまりませんが、後味が悪く、不愉快な気分で店を出ました。

今回の件は不幸な経験でしたが、回転寿司自体はとても面白いシステムです。技術と職人技を統合しようとして日本的試みとして傑出しているのです。はたして回転寿司はどのような経過を辿って、現在の姿にまで進化してきたのでしょうか。「回転寿司の世界」vol.10から、回転寿司の歴史をざっとおさらいしてみることにしましょう。

詳細はこちら。http://www.ntt-card.com/trace_bn/vol10_201401/special/index.html

■回転寿司の黎明期

回転寿司店は、大阪の寿司職人・白石義明氏によって1958年に開設された「廻る元禄寿司1号店」が最初だといわれています。白石氏は開発の際にベルトコンベアの特許「コンベア旋回式食事台」を取得していました。ですから、当時、回転寿司市場は「元禄寿司」の独占状態だったようです。関西からやがて東日本へと発展し、仙台の屋台寿司店の江川金鐘氏が回転する中華テーブルをヒントにして回転寿司のシステムを開発していました。ところが、白石氏がすでに回転寿司の特許を取っていましたので、実用化ができず、販売契約という形を取ることになったようです。その結果、「元禄寿司」が広がっていきました。ちなみに、この「回転寿司=元禄寿司」という状況は、特許が切れる1978年まで続いたといわれています。

■大阪万博でブレイクした回転寿司

回転寿司は大阪万博で一躍、認知度を高めました。元禄寿司は万博で大阪を訪れていた多くの日本人、外国人の注目を集めました。当時、万博で出店していたのは、マクドナルド、ミスタードーナッツなどの有名外食企業でした。ところが、その中に混じって、元禄寿司はそのシステムの物珍しさから、「電気自動車」や「動く歩道」などの近未来的な展示物と同じような、未来を予感させる存在として脚光を浴びていたといわれています。ですから、万博終了後、マスコミや事業者から元禄寿司に問い合わせが殺到したそうです。

■回転寿司店の勃興

回転寿司店が次々と台頭してきたのが、1978年以降です。というのも、この年「コンベア旋回式食事台」の特許権が失効したからでした。1979年に「かっぱ寿司」、1984年に「回転寿司くら(現・くら寿司)、「すし太郎(現・スシロー)」そして、1987年に「がってん寿司」など、現在よく目にする回転寿司チェーンは実はこの時期に誕生していたのです。それぞれが起業後40年を経てもなお、事業を継続することができているのが興味深いところです。おそらく、各社それぞれ技術開発等に企業努力を怠らなかったからでしょう。

たとえば、全国的にチェーン店が増えるにつれ、寿司職人が不足するという事態が発生しました。これを契機に寿司ロボットの導入等の自動化が推進されました。安さを魅力にしている回転寿司チェーンは経費節減のため、並々ならぬ努力をしていたのです。

そればかりではありません。安全と美味しさを求め、各回転寿司店は多大な努力をしていたようです。

■回転寿司のICT戦略

いまから9年ほど前すでに酢飯はロボットが握り、仕入れや客の回転率を極限まで効率化するため、ICTが利用されていました。

スシローの場合、スシ皿にはICタグが付けられていて、センサーがそれを認識するように設定されていました。調理場で認識された後、別のセンサーで認識された際に皿がなくなっていたら、客が食べたと判断し、なくなっていなければ食べられていないことになります。いまや、スシ皿にICタグを付けるのは当たり前になっています。350メートル移動した皿は自動的に廃棄されるように設定されていたというのですが、おそらくその距離が鮮度の限界なのでしょう。

それでは、現在のスシローはどうでしょうか。

『日経情報ストラテジー』(2013年9月)によると、以下のようになっているようです。

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皿にICチップを取り付け、単品ごとに管理し、売れ筋をリアルタイムで把握し、それを需要予測に生かす。

レーンにおけるネタごとの走行距離も収集しており、ネタごとにあらかじめ決めた走行距離を過ぎれば、「鮮度が落ちた」と判断して、自動的に廃棄する仕組みも導入している。例えばまぐろであれば、350m以上が対象になる。

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7年前もこれと同様の管理が行われていました。鮮度管理の自動化は真っ先に導入しなければならないことだったからでしょう。ICタグによる管理はそのまま現在にまで引き継がれていたのです。

いまではビッグデータによってネタ毎に鮮度時間がわかっています。それに対応した機器も開発されています。ですから、以前よりも鮮度管理の仕組みが向上していることは確かです。

回転寿司はこのように技術とともに進化を遂げてきたにもかかわらず、私は乾燥しきった鮨ネタを食べる羽目になってしまいました。それは、ヒトがこの全自動技術をいっとき排除した結果だったのでしょうか、それとも、他に理由があったのでしょうか。

いずれにしても、ヒトも技術も最終的に何をしたいのかという目的が明確でなければ、この種のミスは発生しやすくなるのだという気がしました。技術が万能なのでもなく、ヒトが万能なのでもありません。ヒトが技術の支援を受けて果たそうとする目的こそが’万能’、すなわち重要なのだということを今回の件で再確認しました。(2014/4/27 香取淳子)

 

度重なるサイバー攻撃の恐れ

度重なるサイバー攻撃の恐れ

一昨日、日本企業を狙う3種類のサイバー攻撃の恐れのあることが報道されました(4月23日付日経産業新聞)。これは大変だと思っていたところ、今日(4月25日付、日経新聞)、官公庁がサイバー攻撃される恐れが出てきたと報じられています。いったい、どういうことなのでしょうか。

■企業に対する3種類の攻撃

日経産業新聞(井上英明記者)によると、日本企業は3種類のサイバー攻撃に晒されているといいます。3種類の攻撃とは、①法人向けネットバンキングから不正に送金するという攻撃、②スマートフォンを外部から操るという攻撃、③パソコンの中身を暗号化して解除の身代金をゆするという攻撃です。

法人向けのネットバンキングはIDやパスワード、電子証明書をパソコンに入力します。ウィルス「ゼウス」は取引銀行に似せた偽画面でログイン情報や電子証明書を盗み出すのだそうです。しかも、その「ゼウス」が進化してきているといいます。ウィルスに感染したコンピューターが互いにネットワーク(ボットネット)を作り、攻撃情報などを持ち合う形に進化したといわれています。

すでに日本の3万2千台のパソコンによるボットネットが確認されているのだそうです。一方、このボットネットによってスマートフォンが攻撃者に遠隔操作され、個人情報などに盗まれる可能性が出てきているといわれています。さらに、パソコンやデータをロックして身代金を要求するウィルス「ランサムウエア」日本語版が上陸しているそうです。企業の機密情報を盗み出す「標的型攻撃」を組み合わせて、企業のサーバーの機密情報を暗号化し、金銭をゆする手法が高度化していくことも考えておかなければならないのかもしれません。

この記事を担当した井上英明記者は、「姿なきサイバー攻撃者への抗戦は長期にわたり瞬発力も求められる。経営リスクとして取り組むことが欠かせない」と結んでいます。日々、便利にはなっていますが、企業も人々も目には見えない敵に日常的に怯えなければならない時代になりつつあるようです。ICTについては素人でありながら、インターネットは頻繁に使用している私など、ネットセキュリティ問題はとても深刻です。

■官公庁に対する攻撃

今日(4月25日)、報道されたのが、「ストラッツ1」にセキュリティ上の欠陥があることが判明したというものです。このソフトは、官公庁や銀行、企業などが広く利用しているもので、サポート期間は終了しているのだそうです。ですから、修正プログラムはありませんし、すでに攻撃方法がネット上で公開されているようです。ですから、早急に対策が必要だと報道されているのです。

仮に欠陥を突いてサイバー攻撃を受けた場合、サイトを動かすシステムが乗っ取られる恐れがあるのだそうです。そうなると、すべての操作ができるようになるため、情報を盗んだり、サイトを改ざん、停止したりできるようになります。ウィルスを仕掛けることで、訪問者を感染させて次の攻撃につなげることも容易になるというわけです。

ストラッツ1の欠陥による攻撃の可能性を図示すると以下のようになります。

ストラッツ1による攻撃可能性

資料:日経新聞2014年4月25日付

■指摘されていた「ストラッツ1」の欠陥

「ストラッツ1」の欠陥についての修正プログラムがないことについて、すでに2013年6月25日付日経新聞で、早急に対策を講じるよう警告が発せられていました。なぜ、それがいまごろ、改めて報道されるのでしょうか。記事をよく見ると、「攻撃の恐れ」であって、24日時点ではまだ、この欠陥を狙った不自然なアクセスは把握されていないそうです。「恐れ」があるので、警告されているのです。

■ネットユーザーはどのようにして身を守るべきか

Newsweek( April 29 & May 6, 2014)で、「ハートブリード危機に学ぶ「プログラムは穴だらけ」という記事を読みました。4月上旬に発見された暗号化プログラムの欠陥「ハートブリード」は、世界のウェブサイトの3分の2が影響を受けるとされています。深刻なセキュリティの危機が懸念されていますが、セキュリティの専門家やプログラマーは、深刻な欠陥はハートブリードだけではないと警告しているといいます。

私たちは便利で時間の節約になりますから、日常的にインターネットを使っています。ネットで買い物をし、ネットで決済をし・・、といったことを平気で行っていますが、それが実は危機に晒されているというのです。自分が被害に遭わない限り、平気でいますが、一連の記事を読む限り、薄氷の上を歩いているというのがどうやら実態のようです。ただ、私たちは専門家ではないので、どうすることもできません。たまたま被害に遭わないのはラッキーというだけなのでしょうか。

Newsweek記事の執筆者は、wifiに無防備に頼りすぎないこと、パスワードは利用するウェブサイトごとに設定し紙に書いて安全なところに保管しておく、といった注意をするだけでより安全になると書いています。とりあえずはそのような基本的なことから安全に留意するしかないのでしょう。いずれにしても、便利さと引き換えに、私たちは不安感と不信感に絶えず、さいなまれ続け、怯え続けなければならなくなるのでしょう。(2014年4月25日 香取淳子)

ICT「4つの波」の時代、到来か

2020年はICT「4つの波」の時代へ?

いつの世もメディアの開発が人々の生活に大きな変化を与え、社会を変容させてきました。ICTの進化は「ドッグイヤー」だといわれていたのが懐かしくなるほと、最近はそのスピードが速くなりました。東京五輪が開催される2020年はいったいどのような社会になっているのでしょうか。日経産業新聞(2014/4/23)は『日経コミュニケーション』2014年1月号から、2020年を予測した記事を紹介しています。

■4つのICTに席巻される市場

日経コミュニケーション編集部は、総力を結集して情報を収集し、分析した結果、2020年にはICTにおける4つの波が日本社会を大きく変容させていると結論づけています。トフラーの「第三の波」をもじったものなのでしょうか、「4つの波」とネーミングしていますが、この概念には縦断的な歴史的社会的視点が含まれていません。どうやら技術のカテゴリーを指すようですが・・・。どういうことなのか、見ていくことにしましょう。

■2020年の市場はどうなるか

日経コミュニケーション編集部は社会変革をもたらす4つのICTとして、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション」などをあげています。そして、それらのICTが2020年の市場を席巻するとしています。日経コミュニケーションが概念化した仕組みは以下のようなものになります。

図1 2020年、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション(仮想化)」の4つの波が既存マーケットを飲み込む

 

 

 

 

 

 

 

 

資料:日経新聞電子版2014年3月26日

■4つのICTとは何か

それでは、4つのICTとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

①スマートデバイスは、スマートフォン、タブレット、ウェアラブル端末など。

いまでもそうですが、利用者の可処分時間を奪ってしまうほど身体密着型のメディアです。今後、注目すべきものとしては、眼鏡型端末だとされています。グーグルをはじめ多くのICT企業がこの端末の開発に取り組んでいるようです。というのも、この種の端末が利用者の視線を完全に奪ってしまえるからだそうです。

一方、センサーの集合体ともいえるスマートデバイスは、利用者の行動を予測可能あものにしる「ビッグデータ」をも生み出します。ですから、これらのビッグデータを活用したビジネスは今後、既存市場に大きな影響を与える可能性があるというのです。

ちなみに、グーグルは以下のような眼鏡型端末を開発しています。

Google Glass with frame.jpg

資料:http://www.google.com/glass/start/

いずれにしても、この種のスマートデバイスは、クラウドと大容量で低遅延のネットワークの普及、そして、半導体のさらなる小型化、省電力化などに伴い、2020年ごろにはデバイス市場で大きな存在感をしめしているのではないかと日経コミュニケーション編集部は予測しています。

②スマートマシンとは、自律的に学習し推論する機械を指すといいます。たとえば、米IBMが開発した質疑応答システムの「ワトソン」があります。これはヒトの言葉を理解し、瞬時に的確な回答を打ち出せるといいます。このマシンは2011年に米国のクイズ番組でクイズ王を破ったほど賢いといいます。すでに医療分野やコールセンターなどでの応用が始まっているといわれています。

実際、Carl Weinschenk は、「スマートマシンは、今後、ビッグデータ活用時代になると、もっと普及するだろう」と述べています。

詳細はこちら。 http://www.itbusinessedge.com/blogs/data-and-telecom/smart-machines-becoming-more-common-in-our-data-run-world.html

スマートマシンは膨大なデータから学習し、パターン認識や推論といった側面ではすでにヒトの能力をしのぎつつあるといわれています。

ですから、スマートマシンがさらに賢くなっていけば、ヒトの定型業務は奪われてしまいかねません。ますます、ヒトは今後、どうあるべきか、教育の在り方が問われていくことになりそうです。

③ソーシャルパワーとは、利用者同士の緩やかなつながりが、社会システムに大きな影響を与えるようになった社会的動きのことを指します。

たとえば、米ベンチャー企業が開発したAir bnb など、利用者同士をマッチングさせるサービスが代表例だといいます。Air bnb は2008年にサンフランシスコで起業したベンチャー企業です。使用していない不動産などをパーティや宿泊のために賃借するオンラインプラットフォームを提供しています。2012年11月までに192カ国、3万都市、25万件の目録が登録されているようです。

サービスを利用する場合、ユーザー登録、オンラインプロフィールの作成が必須で、プロフィールには過去の貸借に関するレビューも含まれるといいます。

元々、インターネットは需要と供給のマッチングサービスに適しているといわれていましたが、このサービスなどはその典型です。

詳細はこちら。https://www.airbnb.jp/

④バーチャリゼーション(仮想化)とは、一台のハード機器を仮想的に分割したり、複数の機器を統合したりできる仮想化技術のことを指すようです。そしていま、この技術がICTのあらゆる部分で利用されるようになってきているといわれています。

たとえば、グーグルは、クラウドサービスのネットワーク仮想化基盤として「Andromeda」を米国内の2つのゾーンに投入した結果、クラウドのネットワークスルートップが向上したことを報告しています。

詳細はこちら。http://googlecloudplatform.blogspot.jp/2014/04/enter-andromeda-zone-google-cloud-platforms-latest-networking-stack.html

■「4つの波」に乗れるかいなか。

こうしてみると、仮想化技術があらゆる領域に浸透していけば、利用者の利用環境はもちろんのこt、業界の構造も変容せざるをえません。

日経コミュニケーション誌の堀越功記者は、「2020年には通信インフラやデバイスを支える要素技術は、現在から一変している安納聖が高い。いち早く変化に気づき、対策を取って動き出すプレイヤーがチャンスをつかみ取れる。座して待つだけの人には、過酷な未来が待っている」と指摘しています。

昨今の急速なICTの進化を見ていると、おそらく堀越記者が指摘するような変化が2020年には訪れているのでしょう。ただ、技術は技術だけで進化はできません。利用者がいて初めて技術が進化し、ヒトの生活を変容させていくのだと思います。ですから、ICTの4つの波は先導的な役割を果たすことは確かだと思いますが、むしろ、社会変革のキーになるのは、どれほど利用者が使いやすいデバイスの開発がされるのか、サービスの開発がされるのかが重要だと思っています。

それにしても、この領域でもグーグルは最先端を走っていました。追っかけを止めるわけにはいかなくなりました。(2014/4/24 香取淳子)

 

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

日経産業新聞(2014年4月23日付)を読んでいて、興味深い記事を見つけました。”「次の10億人」巡り空中戦”、”グーグルvs. フェイスブック”という見出しの記事です。

日本の中だけにいるとよく見えてこないのですが、いま、ネット企業による利用者の争奪戦が展開されています。記事はグーグルとフェイスブックの戦いに焦点を当てて報告されていますが、これがなかなか面白いのです。

■グーグル vs. フェイスブック

シリコンバレーから日経産業新聞の小川義也記者は、以下のように伝えています。

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米グーグルと米フェイスブックが無人機を使って、空からインターネット接続サービスを提供する計画を相次いで打ち出した。両雄が狙うのは「ネクスト・ビリオン(次の10億人)」と呼ばれる発展途上国の中間層。ネットの覇権を懸けた巨人同士の争奪戦は、大空を舞台に新たな局面に入ろうとしている。

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フェイスブックはすでに2011年末に「その他」地域が北米、欧州、アジアを抜いています。また、グーグルは2013年、「その他」地域の売上が米国を抜きました。両社にとって「その他」地域に向けたサービスの開発は必然なのです。

ちなみに英オックスフォード大学インターネット研究所は国別にもっともよく使われているウェブサイトをマッピングした地図を公表しました。

■オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づく世界地図

下図は、オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づきマッピングした世界地図です。

A map of the most visited website, by country.

上の図は、”Age of Internet Empires: One Map With Each Country’s Favorite Website”というタイトルの記事の中で使用されていたものです。2013年10月4日付の記事で、筆者はRobinson Meyer 氏、The Atlantic誌の編集次長です。彼は英オックスフォード大学インターネット研究所が発表した世界地図を紹介し、グーグルは欧米を中心に63か国で首位、フェイスブックは中南米や中東を中心に50か国で首位だったと報告しています。

詳細はこちら。http://www.theatlantic.com/technology/archive/2013/10/age-of-internet-empires-one-map-with-each-countrys-favorite-website/280287/

私などはこの地図を見て、中国は百度(Baidu)、日本はYahooなど、ウェブサイトの利用にも国別の違いがあることに目が向いてしまいますが、世界的観点からいうと、やはり注目すべきはグーグルとフェイスブックなのでしょう。その二強が無人機を使って、通信網の整備が遅れている地域でネット接続サービスを提供するというのです。

そして、小川記者は、「グーグルとフェイスブックの空中戦の最大の舞台になりそうなのが、国内に強いプレイヤーがいないアフリカだ」と書いています。

■インターネット帝国の時代?

インターネットのウェブサイトを通し、国境を越えて情報が流通しています。おそらく、世界認識、価値観、美意識などもウェブサイトを通した情報によって形成されるようになっているのでしょう。当然、政治、経済、社会、すべてに大きな影響を与えています。

どのウェブサイトがよく利用されているのか、それが大きな意味を持つようになってきているのです。だからこそ、英オックスフォード大学インターネット研究所が研究を開始したのでしょう。すでに、利用者を巡る争奪戦がネット企業間で展開されています。まさにインターネット帝国時代の到来といっていいでしょう。

■グーグルの野望

インターネットを制覇するため、グーグルやフェイスブックなどネット企業は次世代のボリュームゾーンに向けて、食指を伸ばしています。次の主要なターゲットは発展途上国の中産階級だというわけで、彼らに向けた空からのネット接続サービスのための技術開発、関連企業の買収に動いています。

SNSを主軸にしたフェイスブックとは違って、検索エンジン、クラウド・コンピューティングを主軸に事業を拡大してきたグーグルは目に見えない力を行使するようになっていることがわかります。ますますグーグルの動きから目が離せなくなってきました。(2014/4/23 香取淳子)