ヒト、メディア、社会を考える

プロパガンダ

再び、メディア・プロパガンダの時代到来か?

■外務省の内部文書

2014年5月4日、産経新聞は外務省の内部文書に基づき、中韓が「官民一体」で重層的に情報戦略を行っていると報じています。中国は国際機関や主要メディアを積極的に活用し、韓国は地方から展開するといった特徴がみられると分析しているのです。中国にしても韓国にしても政権が交代してからとくに、歴史問題を盾に日本の評価を低下させるような情報戦略が激しくなっています。

外務省の内部文書では、「中韓は官民一体での一致団結した活動を完璧に行っている」としているのに対し、「日本の場合、官民一体には程遠い」という現状認識を示しています。ですから、この記事が第1面で取り上げられたことの背景には、これまでのような日本の対応でいいのかどうか、各方面から疑問が持ち上がってきているからではないかと考えられます。

安倍政権は、26年度の内閣府の広報関連予算や外務省の領土保全対策費を増額しました。日本の対外情報戦略をこのまま放置するのではなく、なんらかの対策を講じようとする姿勢を打ち出しているのです。ただ、予算を増額しただけで、この問題に対応できるのかどうか、疑問です。外務省の内部文書が指摘しているように、中国はメディア戦略、韓国はヒト戦略によって、内外ともに強烈な日本攻撃を展開しているからです。

韓国はヒト戦略によって、慰安婦像を各地で建立させています。米豪欧に移住した韓国人が各地で積極的なロビー活動を展開し、地方政治を動かしているからです。また、中国は内外のメディア戦略によって反日感情あるいは歴史認識の修正を迫ろうとしています。その結果、中国に進出した日本企業が大きな被害を受けたのはまだ記憶に新しいところです。

■中国のメディア戦略

外務省内部文書は、中国が「国際機関や主要メディアを積極的に活用」していると指摘しているといいます。国連総会や首脳会談といった国際会議のを活用、海外メディアやシンクタンクを通じてプロパガンダを展開、といった具合です。さらに、欧米などには、「政府よりも学者、有識者、記者による発信」を積極的に利用した結果、「中国の発信に刺激を受けた報道がある」といいます。そして、国営中国中央テレビ(CCTV)の多言語チャンネルや世界120カ国で1086校に及ぶ中国語・文化教育拠点「孔子学院」が「独自の主張を重層的に発信している」ともいいます。いってみれば、メディアと言語・文化教育によって自国の主張を広めようとしているのです。

CCTV本社ビル

上記はCCTV新本社ビルです。

■今後、日本が取るべき戦略は?

この記事を執筆した是永桂一氏は、外務省幹部の意見として、「政府が前面に出る情報発信は先進民主国として世界の共感が得られない。相手の土俵に乗らないことだ」という見解を紹介しています。たしかに、官民一体で情報戦略を推進する韓国、政府主導の堅固な情報戦略を内外で展開する中国を見ていると、日本が同じ土俵で勝負しても勝ち目はないと思います。

逆に、日本が誠実な態度を固持し続け、それを見える形で内外に情報発信し続ければ、やがては日本に対する内外からの信頼や尊敬が醸成されるようになるでしょう。そうなると、中国や韓国の中から、政府の態度はどうであれ、過去は過去、現在は現在と割り切って考える人々が出てくるに違いありません。つまり、中韓が展開する反日的な情報戦略に惑わされず、日本が誠実に対応をし続けていれば、中韓の人々はやがて自分の政府を疑いはじめるようになるのではないでしょうか。

実際、日本を激しく攻撃していた韓国の大統領はいま、公共交通機関の相次ぐ事故で信頼は失墜し、国民から謝罪要求までされています。ネット世論を見ていると、政府の態度とは別に、中国、韓国とも反日的な態度のヒトばかりではないことがよくわかります。ですから、日本は相手国を直接貶めるような情報戦略はすべきではないと思います。

■適切な対外広報戦略を

中国や韓国の国家主導型の情報戦略は強烈で、即効性に富んでいます。ですから、日本の対外広報戦略がお話にならないほど下手に見えてしまいますし、日本はこれまで必要な広報さえしてこなかったのではないかと思えてしまいます。ですから、今後、対外広報戦略を改善し、充実させていくことは重要です。

国が豊かになればなったで、諸外国からの嫉妬を回避する上で対外情報戦略は必要ですし、超高齢社会になればなったで、今度はそれでも日本に対する関心を失ってもらわないための対外情報戦略は必要です。その点で中国のメディア戦略は秀逸だと思います。学べる点はたくさんあると思います。

たとえば、CCTVが展開している多言語チャンネル。日本では国際対応といえば、英語放送しか思い浮かべませんが、中国は英語、スペイン語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、アラビア語、等々、使用人口の高い言語にはすべて対応し、それぞれの言語で中国のニュース、文化、等々の情報を毎日発信しています。

また、孔子学院を各地の大学に併設し、語学・文化の浸透を図っていますが、これは、フランスが日仏学院、イギリスがブリティッシュ・カウンシル、アメリカがアメリカンセンターを設置したのと同様、対外文化戦略の一つなのです。経済的に豊かであったとき、日本はそれをしませんでした。そう考えると、日本がこれまで対外情報戦略をしてこなかったせいで、不要なトラブルを引き起こしてきた可能性が高かったのではないかと思えてなりません。

安倍政権は成長戦略の一つとして、アニメや日本食を取り上げ、クールジャパン戦略を展開しようとしていますが、もっと根幹的なところで日本文化・日本語を世界に広めるという情報戦略があってもいいのではないかと思います。

中韓の情報戦略を知るにつけ、日本の情報戦略の下手さ加減、あるいは、適切な情報戦略をしてこなかったことのツケの大きさが思い知らされます。再び訪れようとしているメディア・プロパガンダの時代に日本はすでに乗り遅れてしまっているのではないか・・・。産経新聞の記事を読み終えたいま、そのことの恐さをひしひしと感じています。(2014/5/4/ 香取淳子)