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ビル管理システムにサイバー攻撃の可能性?

■ビル管理システムへの不審な通信

読売新聞(2014/5/1朝刊)は、「無防備ビルが狙われる」という見出しの記事を掲載しています。編集委員の若江雅子氏によって書かれた記事で、リード部分は以下の通りです。

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ビル管理システムの「穴」を探すようなインターネット上の不審な通信が3月以降、警視庁で検知されている。何者かがサイバー攻撃の「下見」をしている可能性があるという。ビルへの攻撃は社会を混乱に陥れるテロにもなりうるが、業界の対応は遅れている。

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この記事に限らず、最近、ネットのセキュリティに関するニュースが相次いでいますが、いったい、何があったのでしょうか。今回はそのことを考えていきたいと思います。

そもそも警視庁では不正アクセスの傾向を調べるため、全国の警察施設のインターネット接続点にセンサーを設置しています。ところが、そのセンサーが3月中旬から4月にかけて不審な通信をキャッチしたというのです。ビル管理で使われているシステムにターゲットを絞って通信を試みるような動きだったのだそうです。

そのため、警視庁は4月4日、ホームページ上で注意喚起を行っています。

詳細はこちら。https://www.npa.go.jp/cyberpolice/detect/pdf/20140404.pdf

警視庁の定点観測システムでは、宛先ポート 47808/UDP に対するアクセスを検知したといいます。しかも、この47808/UDP は、ビル管理システムで使用される通信プロトコル用標準規格「BACnet」で定義されているポートなのだそうです。ですから、このアクセスは、BACnet に基づいて
構成されたシステム(BACnet システム)を探索している可能性があるというのです。

さらに、この文書によりますと、適切な対策を施さずにビル管理システムをインターネットに接続していると、攻撃者に進入され、システムを任意に操作される恐れがあるといいます。大変な事態を引き起こしかねないのです。ですから、警視庁は4月4日、ビルの管理者に注意喚起を促し、以下のような対策を実施することを推奨したのです。

(1) 使用製品の最新セキュリティ情報の確認

(2) インターネットへの不要な公開の停止

(3) ネットワークセキュリティの確認

■マンションでの経験

昨年12月、火の気もないのに突然、マンションの火災報知器が鳴りだし、止めようとしても止まらず鳴り続けたので、困ったことがあります。報知器が誤作動を起こしたのですが、これまでに一度もこのような経験をしたことがなく、茫然としてしまいました。セキュリティ会社から警備員が飛んできましたが、その警備員もなすすべもなく、結局は強制的に電源を落とすことによって、ようやく警報音を消し止めることができました。その後、火災報知器のメーカーの技術者が来て検査しましたが、機器に異常は認められず、原因はわからないままです。

このような経験をして初めて、私の住んでいるマンションがセキュリティ会社によって遠隔管理されていることを知りました。火災報知器が鳴ると自動的にセキュリティ会社に連絡が行くようになっており、対応するというシステムです。

■多摩地区で起こった停電

そういえば、4月27日夜8時ごろ、東京都八王子市、多摩市、町田市、日野市で停電が発生しました。約31万軒が停電の被害に遭いました。交差点では信号が消え、電車は停まりました。発電所でトラブルが発生した可能性があるといい、東京電力が原因を調べているといいますが、発電所へのサイバー攻撃だった可能性はないのでしょうか。とても気になります。

事件の詳細はこちら。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140427/dst14042721210012-n1.htm

■経産省がCSSCの演習を実施

経済産業省は2014年1月17日、電力・ガス・ビル・化学分野のサイバーセキュリティ演習を順次実施することを発表しました。CSSCとはControl System Security Centerの略で、「技術研究組合制御システムセキュリティセンター」のことを指しています。

以上の写真はCSSC本部

経産省は1月21から計5回、CSSC本部で演習を実施すると発表しました。なぜ、このような演習をするのかといえば、近年、重要なインフラや工場プラントの制御システムを狙ったサイバー攻撃が、世界的に多数出現しているからでした。

CSSC本部

CSSCについて詳細はこちら。http://www.rbbtoday.com/article/2014/01/17/115937.html

■ビル管理システム等が危険に晒される可能性

読売新聞編集委員の若江雅子氏は5月1日の紙面で、「ビル、電気、ガス、工場などの制御システムはかつては外部のネットワークから隔離して運営されることが多く、サイバー攻撃は想定されてこなかった。その後、保守や生産管理を効率的に行うために外部とつなぐケースは増えたが、関係者の意識は変化になかなか追いつかないのが現状だ」と書いています。

インフラの保守、管理業務はこれまでネットワークにつながずに行われてきました。ところが、効率的に業務を遂行するため、近年はネットワークにつなぐケースが増えているといいます。そうすると管理システムそのものがサイバー攻撃される可能性が出てくるのです。ところが、若江氏によると、実際に業務に関わる人々にはその危険性に対する認識が低いようなのです。

経産省が2014年初から数回にわたって実施したCSSCの演習はまさに、そのような実態への警告の意味があったのかもしれません。

若江編集委員はさらに記事の中で、「そもそもビル管理システムを導入しているビルが国内にどのぐらいあり、どのような管理がされているのか、国内のいずれの機関でも把握はされていない」と書いています。経産省が先導して作ったCSSCもその現状を把握できていないようです。

米国のセキュリティ会社が日本のビルシステムへの接続を試みたところ、わずか数時間の作業で40件以上ものビルシステムに接続できたといいます。その最高責任者は、「接続できれば、照明でも温度でも何でも好きなように操れる。いつ攻撃者に狙われてもおかしくない」と指摘したといいます。日本のビル管理システムがあまりにも無防備であることが明らかになったのです。

■生活インフラのセキュリテイは?

このような事態に際し、CSSCは早々にビル管理業界にも保守点検などで外部に接続する際のルール作りを求めるといっているそうです。ルール作りも当然ですが、セキュリティ部門の強化を図り、さまざまな観点からサイバー攻撃からの防御を図る必要があるのではないかと私は思います。とくに生活インフラに関しては最新のセキュリティを施してもらいたいと思います。

たとえば、日本各地でスマートシティの実現に向けた取り組みが行われています。オバマ大統領がグリーン・ニューディル政策を打ち上げて以来、日本でも積極的にプロジェクトが推進されはじめています。資源を有効活用し、環境に配慮した街づくりの理念は素晴らしいと思います。次世代に向けたプロジェクトとして大変有意義なのですが、これがITによるコントロール下に置かれているのです。

スマートシティの概念図は以下のようなものです。

スマートシティ概念図

出所:http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/service/newsletter/i_02_71_1.html

図に示されたように、スマートシティの概念は、電力や交通などをはじめ、都市の生活インフラの最適化をITで制御するというものです。この考え自体は環境に優しい画期的なものですが、生活の中にITによる制御システムが入り込むことになります。ですから、いつ外部からの侵略を受け、インフラが誤作動を起こさないとも限りません。その安全性を確実なものにしていくための対策を講じる必要があります。

ITを活用し、さまざまな生活サービスが事業として展開されています。その最たるものが、生活インフラの効率化に関わるものだといえます。精巧に組み立てられたシステムはいざ誤作動を起こすと、大変なことになります。仕組みがわからず、対処の仕方も知らされていないので、そこで生活しているヒトは何もできないのです。

そのような事態が外部の何者かに故意に引き起こされたのものだとしたら・・・・?私のささやかな経験からしても、ビル管理システムへのサイバー攻撃は、ヒトを限りなく不安に陥れることは確かだと思います。ですから、外部の何者かが日本社会を攪乱させようとする場合、もっとも低コストで効果的な方法がビル管理システムへの攻撃だということがわかります。早急に全国規模で安全対策を講じる必要があります。(2014/5/1 香取淳子)

 

Googleと20%ルール

Googleと20%ルール

書店に出向き、雑誌コーナーに行くと、平積みされた雑誌の中から、「グーグルを最強にした経済理論」というキャッチコピーが目に飛び込んできました。気になって手に取ると、ビッグデータに関する記事もあります。思わず、『2014~2015年版新しい経済の教科書』を購入してしまいました。「グーグル」と「最強にした経済理論」という二つの刺激的な言葉に反応してしまったのです。

■グーグルを最強にした経済理論?

内容は、グーグルのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン氏と大阪大学准教授の安田洋祐氏との対談でした。刺激的なタイトルが付けられていたので、つい購入してしまったのですが、読んでみると、ほとんどの部分、ヴァリアン氏の来歴が語られているだけでした。

カリフォルニア州立大学の情報管理部長だったハル・ヴァリアン氏は2002年からグーグルに関わり、広告オークションの仕組み作りをしていたようです。その結果、クエリ予測モデル、広告オークション理論の構築等に関わってきたといいます。

4月20日、本日誌で、「メディアの観点から見たGoogleの決算報告」(http://katori-atsuko.com/?p=278) と題して書いたように、グーグルの2014年第1四半期の収益をみると、広告のクリック数は多いのに、それが収益につながっていませんでした。そのため発表と同時に株価が下落したぐらいです。利用者のデバイスがパソコンからスマホなどのモバイルに移ってしまっている現状で新たな課題が出てきているのです。ヴァリアン氏が理論を構築していたころとは明らかに状況が異なっています。もはや草創期に活躍したヴァリアン氏の出番はないのかもしれません。ですから、対談を読み終えても、見出しに惹かれたほどの充足感はありませんでした。

グーグルロゴ

 

■グーグルの20%ルール

むしろ、興味深かったのは、ヴァリアン氏が自分たちは20%ルールを活かしていると答えていることです。意外でした。

実は昨年、さまざまなメディアで、グーグルの20%ルールはなくなったも同然だ、というような記事が溢れていたのです。

たとえば、『WIRED』2013年8月20日号では、以下のように書かれています。

「この有名な20%ルールについて耳にすることはずっと少なくなった。「Quartz」の8月16日付の記事ではグーグルの企業文化においてこの理念は「死んだも同然」だとされている。(中略)20%ルールの本当の敵は「当たる矢が少なかった」ことだろう。同社がグーグルのサービスを何度も整理統合したり、修繕したりしているところを見ると、同社が本当に必要としているのは「焦点」なのかもしれない」

以上、詳細はこちら。http://wired.jp/2013/08/20/googles-20-percent-time-is-as-good-as-dead-because-it-doesnt-need-it-anymore/

20%ルールがグーグルを成功に導いたことは認めながらも、いまではないも同然だというわけです。このような論調の記事は多くのIT系雑誌に掲載されました。ですから、私も20%ルールはもはや機能していないのだと思っていたのです。どうやら安田氏もそのように考えていたようで、「20%ルールはなくなってきているんじゃないかという記事を読みましたが、どうでしょう」とヴァリアン氏に質問しているのです。ところが、違いました。少なくともヴァリアン氏が働くチームでは機能していたというのです。

■20%ルールはグーグルの企業文化

グーグルは20%ルールという内規を持っていました。それは、勤務時間の20%は本来の業務とは別に、自分独自のプロジェクトに使わなくてはならないというルールがあります。二村高史は著書『グーグルのすごい考え方』(2006年9月刊、三笠書房)の中で、「ここで重要なポイントは、「使ってもいい」のではなく、「使わなくてはならない」という点だ」と指摘しています。

彼は、「ある意味、これは非常に遠大な使命といっていい。考えようによっては、仕事の制約がほとんどない世界だ。あらゆることがらが仕事の対象になってしまう」と、20%ルールの背後にあるヒトを動かす仕組みに驚いています。このようなシステムの下ではヒトは突拍子もないことを考え、それを研究対象にすることができます。誰にもはばかることなく自由に発想できる環境こそがイノベーションを生み出していくのでしょう。実際、グーグルがそうです。ですから、まさに20%ルールは、自己管理、自主性を第一に考えるグーグルの企業文化の象徴だったのです。

■「Quartz」発の情報

先ほど紹介した「WIRED」の情報の元ネタは「Quartz」でした。その「Quartz」に情報提供したのはグーグル元社員だといいます。ブロガーの島田範正氏は、追随してこの件を追ったFast Company誌の記事に基づき、「会社が決めたプロジェクトだけに勤務時間の100%を使っている社員の方が評価も高く、昇給もしやすいのだとか」と書いています。

詳細はこちら。http://www.fastcompany.com/3015877/fast-feed/why-google-axed-its-20-policy

こうしてみると、グーグルの企業文化にも変化が生じている可能性が考えられます。つまり、創業時とは異なり、いまや社員53861人(2012年末)の多国籍企業です。優秀な人材を集めているとはいえ、これだけの社員を抱え、自由な企業風土を維持し続けるのは難しいのではないか、というのが浅はかな素人の見方です。グーグルが急速に発展し、さまざまな領域に進出するに伴い、社員数が激増し、いまや量が質を駆逐する域に達している可能性もないではないでしょう・・・。と思うのは、浅はかな素人の見解でしょうか。

いずれにしろ、昨年報道された「20%ルールの消滅」報道について、ヴァリアン氏は「自分のところはそうではない」と否定しました。ですから、これについての真相はわかりません。元社員がそういったからといって、真に受ける必要がないのかもしれません。元社員はグーグルで不遇だったからこそ辞職したのでしょうから。

一方、グーグルは次々と新領域を開拓し、いまやグーグル帝国ともいえるほどの力を見せつけています。20%ルールをはじめ、グーグルの企業文化がそれを支えてきたことは確かでしょう。「Quartz」のような記事が出てきたからには、内部でなんらかの変化があるのかもしれません。ですから、今後も維持できるかどうかはわかりませんが、これまでのところ、グーグルの企業文化がイノベーションを次々と生んできたといっていいでしょう。

■Googleの企業文化

グーグルには、一般常識では考えられないさまざまな企業文化があるといわれます。元はといえば、自由度が高く、研究志向の強い学生が起業した企業です。普通の企業ではないことは確かでしょう。いつの間にか、情報を軸に以下のような事業を展開しています。

グーグルがしていること

情報検索から、メール、SNS、マップ、等々、世界中のヒトが日常的にグーグルの情報サービスを利用しています。まさに、「世界中の情報を整理してみんながアクセスし便利に使えるようにする」というグーグルのミッションの成果といえます。

このようにグーグルが使命感に基づいてさまざまな事業展開を行い、次々と成功を収めていく中で、実はグーグルが意図しない巨大なパワーの保持者になってしまっているのかもしれません。そうなると今度はそのパワーのメカニズムに動かされていくようになります。やはり、今後もグーグルの動きを見逃せません(2014/4/30 香取淳子)

 

ICT「4つの波」の時代、到来か

2020年はICT「4つの波」の時代へ?

いつの世もメディアの開発が人々の生活に大きな変化を与え、社会を変容させてきました。ICTの進化は「ドッグイヤー」だといわれていたのが懐かしくなるほと、最近はそのスピードが速くなりました。東京五輪が開催される2020年はいったいどのような社会になっているのでしょうか。日経産業新聞(2014/4/23)は『日経コミュニケーション』2014年1月号から、2020年を予測した記事を紹介しています。

■4つのICTに席巻される市場

日経コミュニケーション編集部は、総力を結集して情報を収集し、分析した結果、2020年にはICTにおける4つの波が日本社会を大きく変容させていると結論づけています。トフラーの「第三の波」をもじったものなのでしょうか、「4つの波」とネーミングしていますが、この概念には縦断的な歴史的社会的視点が含まれていません。どうやら技術のカテゴリーを指すようですが・・・。どういうことなのか、見ていくことにしましょう。

■2020年の市場はどうなるか

日経コミュニケーション編集部は社会変革をもたらす4つのICTとして、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション」などをあげています。そして、それらのICTが2020年の市場を席巻するとしています。日経コミュニケーションが概念化した仕組みは以下のようなものになります。

図1 2020年、「スマートデバイス」「スマートマシン」「ソーシャルパワー」「バーチャリゼーション(仮想化)」の4つの波が既存マーケットを飲み込む

 

 

 

 

 

 

 

 

資料:日経新聞電子版2014年3月26日

■4つのICTとは何か

それでは、4つのICTとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

①スマートデバイスは、スマートフォン、タブレット、ウェアラブル端末など。

いまでもそうですが、利用者の可処分時間を奪ってしまうほど身体密着型のメディアです。今後、注目すべきものとしては、眼鏡型端末だとされています。グーグルをはじめ多くのICT企業がこの端末の開発に取り組んでいるようです。というのも、この種の端末が利用者の視線を完全に奪ってしまえるからだそうです。

一方、センサーの集合体ともいえるスマートデバイスは、利用者の行動を予測可能あものにしる「ビッグデータ」をも生み出します。ですから、これらのビッグデータを活用したビジネスは今後、既存市場に大きな影響を与える可能性があるというのです。

ちなみに、グーグルは以下のような眼鏡型端末を開発しています。

Google Glass with frame.jpg

資料:http://www.google.com/glass/start/

いずれにしても、この種のスマートデバイスは、クラウドと大容量で低遅延のネットワークの普及、そして、半導体のさらなる小型化、省電力化などに伴い、2020年ごろにはデバイス市場で大きな存在感をしめしているのではないかと日経コミュニケーション編集部は予測しています。

②スマートマシンとは、自律的に学習し推論する機械を指すといいます。たとえば、米IBMが開発した質疑応答システムの「ワトソン」があります。これはヒトの言葉を理解し、瞬時に的確な回答を打ち出せるといいます。このマシンは2011年に米国のクイズ番組でクイズ王を破ったほど賢いといいます。すでに医療分野やコールセンターなどでの応用が始まっているといわれています。

実際、Carl Weinschenk は、「スマートマシンは、今後、ビッグデータ活用時代になると、もっと普及するだろう」と述べています。

詳細はこちら。 http://www.itbusinessedge.com/blogs/data-and-telecom/smart-machines-becoming-more-common-in-our-data-run-world.html

スマートマシンは膨大なデータから学習し、パターン認識や推論といった側面ではすでにヒトの能力をしのぎつつあるといわれています。

ですから、スマートマシンがさらに賢くなっていけば、ヒトの定型業務は奪われてしまいかねません。ますます、ヒトは今後、どうあるべきか、教育の在り方が問われていくことになりそうです。

③ソーシャルパワーとは、利用者同士の緩やかなつながりが、社会システムに大きな影響を与えるようになった社会的動きのことを指します。

たとえば、米ベンチャー企業が開発したAir bnb など、利用者同士をマッチングさせるサービスが代表例だといいます。Air bnb は2008年にサンフランシスコで起業したベンチャー企業です。使用していない不動産などをパーティや宿泊のために賃借するオンラインプラットフォームを提供しています。2012年11月までに192カ国、3万都市、25万件の目録が登録されているようです。

サービスを利用する場合、ユーザー登録、オンラインプロフィールの作成が必須で、プロフィールには過去の貸借に関するレビューも含まれるといいます。

元々、インターネットは需要と供給のマッチングサービスに適しているといわれていましたが、このサービスなどはその典型です。

詳細はこちら。https://www.airbnb.jp/

④バーチャリゼーション(仮想化)とは、一台のハード機器を仮想的に分割したり、複数の機器を統合したりできる仮想化技術のことを指すようです。そしていま、この技術がICTのあらゆる部分で利用されるようになってきているといわれています。

たとえば、グーグルは、クラウドサービスのネットワーク仮想化基盤として「Andromeda」を米国内の2つのゾーンに投入した結果、クラウドのネットワークスルートップが向上したことを報告しています。

詳細はこちら。http://googlecloudplatform.blogspot.jp/2014/04/enter-andromeda-zone-google-cloud-platforms-latest-networking-stack.html

■「4つの波」に乗れるかいなか。

こうしてみると、仮想化技術があらゆる領域に浸透していけば、利用者の利用環境はもちろんのこt、業界の構造も変容せざるをえません。

日経コミュニケーション誌の堀越功記者は、「2020年には通信インフラやデバイスを支える要素技術は、現在から一変している安納聖が高い。いち早く変化に気づき、対策を取って動き出すプレイヤーがチャンスをつかみ取れる。座して待つだけの人には、過酷な未来が待っている」と指摘しています。

昨今の急速なICTの進化を見ていると、おそらく堀越記者が指摘するような変化が2020年には訪れているのでしょう。ただ、技術は技術だけで進化はできません。利用者がいて初めて技術が進化し、ヒトの生活を変容させていくのだと思います。ですから、ICTの4つの波は先導的な役割を果たすことは確かだと思いますが、むしろ、社会変革のキーになるのは、どれほど利用者が使いやすいデバイスの開発がされるのか、サービスの開発がされるのかが重要だと思っています。

それにしても、この領域でもグーグルは最先端を走っていました。追っかけを止めるわけにはいかなくなりました。(2014/4/24 香取淳子)

 

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

日経産業新聞(2014年4月23日付)を読んでいて、興味深い記事を見つけました。”「次の10億人」巡り空中戦”、”グーグルvs. フェイスブック”という見出しの記事です。

日本の中だけにいるとよく見えてこないのですが、いま、ネット企業による利用者の争奪戦が展開されています。記事はグーグルとフェイスブックの戦いに焦点を当てて報告されていますが、これがなかなか面白いのです。

■グーグル vs. フェイスブック

シリコンバレーから日経産業新聞の小川義也記者は、以下のように伝えています。

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米グーグルと米フェイスブックが無人機を使って、空からインターネット接続サービスを提供する計画を相次いで打ち出した。両雄が狙うのは「ネクスト・ビリオン(次の10億人)」と呼ばれる発展途上国の中間層。ネットの覇権を懸けた巨人同士の争奪戦は、大空を舞台に新たな局面に入ろうとしている。

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フェイスブックはすでに2011年末に「その他」地域が北米、欧州、アジアを抜いています。また、グーグルは2013年、「その他」地域の売上が米国を抜きました。両社にとって「その他」地域に向けたサービスの開発は必然なのです。

ちなみに英オックスフォード大学インターネット研究所は国別にもっともよく使われているウェブサイトをマッピングした地図を公表しました。

■オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づく世界地図

下図は、オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づきマッピングした世界地図です。

A map of the most visited website, by country.

上の図は、”Age of Internet Empires: One Map With Each Country’s Favorite Website”というタイトルの記事の中で使用されていたものです。2013年10月4日付の記事で、筆者はRobinson Meyer 氏、The Atlantic誌の編集次長です。彼は英オックスフォード大学インターネット研究所が発表した世界地図を紹介し、グーグルは欧米を中心に63か国で首位、フェイスブックは中南米や中東を中心に50か国で首位だったと報告しています。

詳細はこちら。http://www.theatlantic.com/technology/archive/2013/10/age-of-internet-empires-one-map-with-each-countrys-favorite-website/280287/

私などはこの地図を見て、中国は百度(Baidu)、日本はYahooなど、ウェブサイトの利用にも国別の違いがあることに目が向いてしまいますが、世界的観点からいうと、やはり注目すべきはグーグルとフェイスブックなのでしょう。その二強が無人機を使って、通信網の整備が遅れている地域でネット接続サービスを提供するというのです。

そして、小川記者は、「グーグルとフェイスブックの空中戦の最大の舞台になりそうなのが、国内に強いプレイヤーがいないアフリカだ」と書いています。

■インターネット帝国の時代?

インターネットのウェブサイトを通し、国境を越えて情報が流通しています。おそらく、世界認識、価値観、美意識などもウェブサイトを通した情報によって形成されるようになっているのでしょう。当然、政治、経済、社会、すべてに大きな影響を与えています。

どのウェブサイトがよく利用されているのか、それが大きな意味を持つようになってきているのです。だからこそ、英オックスフォード大学インターネット研究所が研究を開始したのでしょう。すでに、利用者を巡る争奪戦がネット企業間で展開されています。まさにインターネット帝国時代の到来といっていいでしょう。

■グーグルの野望

インターネットを制覇するため、グーグルやフェイスブックなどネット企業は次世代のボリュームゾーンに向けて、食指を伸ばしています。次の主要なターゲットは発展途上国の中産階級だというわけで、彼らに向けた空からのネット接続サービスのための技術開発、関連企業の買収に動いています。

SNSを主軸にしたフェイスブックとは違って、検索エンジン、クラウド・コンピューティングを主軸に事業を拡大してきたグーグルは目に見えない力を行使するようになっていることがわかります。ますますグーグルの動きから目が離せなくなってきました。(2014/4/23 香取淳子)

 

小保方氏ファッションが放つメッセージ

ファッションが放つメッセージ

春のサンクスフェア開催の案内ハガキが届きました。100個限定販売の指輪とペンダントが対象です。輝かしいデザインを見ていて、ふと、小保方氏の指輪を思い出しました。そこで、今日は小保方氏の論文発表時のファッションを読み解いてみたいと思います。

■当初から違和感があった「STAP細胞」案件

STAP細胞案件については発表当初から違和感がありましたので、一般紙の記事を読んだぐらいで深追いはしませんでした。割烹着、イヤリング、指輪、バッチリメーク、巻き毛の女性研究者など見たことがなかったからです。仮にこの日限りのデモンストレーション、マスコミ向けのファッションだったのだとしても、なぜ、小保方氏は同意したのでしょうか。このようなファッションで論文内容の発表をすることに抵抗を示さなかった小保方氏に研究者としての’うさんくささ’を感じていました。ですから、2月末ごろまでは興味の対象外でした。

■論文発表時の小保方氏ファッションへの違和感

正確にいうと、別の意味ではこの日のファッションには興味をそそられました。あまりにもちぐはぐでしたから、いったい誰がこのファッションを企画したのか、ということには関心が向きました。

意表を突かれた割烹着姿は、秋葉原のメイド喫茶で見受けられる「メイド服」のオジサン版ともいえます。ところが、ややカラーリングした巻き毛、バッチリメークは「メイド服」にぴったりです。そして、極めつけは、ヴィヴィアンウェストウッド(Vivienne Westwood)の指輪です。小保方氏の記者発表以来、注目を集めていますが、このファッションブランドは1970年代に前衛的な若者の間でブレークしたそうです。

■Vivienne Westwood指輪の持つ意味

このVivienne Westwoodは、1941年英ダービーシャーで生まれたヴィヴィアン・イザベル・スウィアが作ったファッション・ブランドで、前衛的なバンク好きにはカリスマ的な存在だったそうです。そして、填めていた指輪はNew Orb Poison Ring(下図)といわれるものだそうですが、その原型であるPoison Ringは、中に薬や毒を入れられるようになっている指輪で、16世紀のヨーロッパで流行し、敵に毒を盛ったり、捕虜になった際、自害するために用いたといわれています。

poison ring

 

2年前に販売終了しているこの指輪を小保方氏は填めていました。この指輪の原型であるPoison Ringには毒という名がついていますから、それなりの物語があります。専門店によると、「そのリングの中に毒を隠し持ち、もし恋人に不慮の死が訪れた際には、自分もその指輪に隠し持った毒を持ってすぐに死を選択し、恋人のもとへ旅立つ」という恋人への決意、誓いを込めて作られたという物語があるそうです。

出典:リング指輪 アンティークジュエリー専門店http://www.antique-i.net/catalog/ring/R0131V.html

■違和感の背後にある中高年男性の美意識、価値観

論文発表時の小保方氏のファッションに私は違和感を覚え、ちょっとした不快感を覚えてしまいました。おそらく、その背後に中高年男性の美意識、価値観が見え隠れしていたのを感じてしまったからだと思います。

「実験用の白衣」ではなく「割烹着」を着けた小保方氏は、「研究者」ではなく「家庭を維持する女性」を願望する男性の価値観の反映であり、バッチリメーク、カラーリングした巻き毛、ミニスカートは「セクシーな若い女性」を願望する男性の美意識の表れとみることができます。

さらに問題の指輪は、70年代のイギリスで一世風靡したファッションブランドの製品でした。3,40年ほども前の前衛的なパンクファッションの系譜を引くブランドの指輪を着用していたことからも、小保方氏のファッションには中高年男性の美意識が背後に働いていたことが推察されます。上図の形を見てもわかるように、上がとんがっており、普段は使いづらい指輪です。パーティなどで着用するにしてもよほど気をつけないと何かにひっかけてしまう恐れがあります。買っても滅多に着けることはないでしょう。ですから、若い小保方氏がはたして自分でこの指輪を購入したのかどうか疑問です。

■論文発表時のファッションが放つメッセージ

この指輪には「恋人への決意」を表すという物語がありました。そのような物語のある指輪をわざわざ論文発表時に填めていたということは、話題集め以上の大きな意味があります。この指輪を填めることが自発的なものであったにせよ、あるいは、強制されたものであったにせよ、小保方氏にとって何か問題が生じたとき、「裏切らない」「ともに死ぬ(研究者としての生命を断つ)」という決意の表明であったのでしょう。少なくともそのことを当事者たちは意識していたのではないでしょうか。

そう考えると、当事者たちは発表段階で、将来、何か問題が生じる可能性を想定していたともいえます。もっとも、そのことはこのファッションを企画したヒトだけが承知していたことなのかもしれません。何らかの事情で問題のある論文を発表せざるをえず、良心の呵責にかられてそのことを伝えようとし、敢えて研究者らしからぬファッションを小細工していたのかもしれません・・・。穿ち過ぎでしょうか。

ひょっとしたら、この奇妙なファッションは、心ある人は読み解いて欲しいという当事者からのメッセージだったのかもしれないのです。そうだとしたら、それこそ、この「STAP細胞」事件の背後で「大きな力」が働いていたと考えざるをえなくなります。・・・、また、気が向いたときに、新解釈をしてみたいと思います。(2014/4/21 香取淳子)

 

メディアの観点から見たGoogleの決算報告

Google第1四半期決算、メディアはどう伝えたか

2014年4月16日、グーグルの第1四半期決算が発表されました。興味深いことに、同じ決算内容なのにメディアによって力点の置き方が異なるのです。どう違っているのかを見てみることにしましょう。

■新聞

目についたものだけ、記事タイトルと発信者を拾ってみましょう。

●朝日新聞:「米グーグル、広告好調で過去最高益に 1-3月期決算」ニューヨーク=畑中徹

●日経新聞:「米グーグルの1~3月期、純利益3%増 ネット広告好調で」NQNニューヨーク=増永裕樹

●日経産業新聞:「グーグル、純利益3%増 1~3月 四半期で最高3520億円」シリコンバレー=小川義也

●読売新聞:「グーグル最高益更新もスマホ普及で広告単価下落」

日本のマスメディアが概してこの決算報告についてプラスの側面にウェイトを置いて報じていることがわかります。読売新聞だけが、マイナス面も追加していますが、こちらは発信者の名前がないので、通信社からの情報かもしれません。

それでは、ネットメディアはどうでしょうか。

■ネットメディア

●ITmedia:「Google、純利益は過去最高だが売上高は伸び悩み」 佐藤由紀子

●Reuter:「米グーグル第1四半期売上高は予想下回る、広告料低迷で」 ロイター

●THE WALL STREET JOURNAL:「グーグル第1四半期、増益もクリック単価低下‐時間外で株価下落」ROLFE WINKLER AND JOHN KELL

●Bloomberg:「米グーグル:1-3月期売上高は予想下回るー広告単価が低下」

ネットメディアも日本で目につくものだけを取り上げましたので、片寄りが大きいと思いますが、ロイターとブルームバーグはマイナス面に力点を置いた記事タイトルになっています。ITmediaとウォールストリートジャーナルはプラス面、マイナス面から捉えた記事タイトルでした。

いずれの記事も出典はGoogleが4月16日に発表した第1四半期の決算報告です。

Google Financial Tables balance sheet Q1 2014 の詳細はこちら。 http://investor.google.com/earnings/2014/Q1_google_earnings_tab0.html

同じソースからのニュースなのに、なぜ、このような違いが生まれたのでしょうか。

そこで、内容との関連を見ると、ポジティブな部分を強調した見出しは一般紙で見られ、内容量も少なかったのに対し、ネガティブな部分を強調した見出しは経済専門メディアで見られ、内容量も多いという特性が見受けられました。

経済専門メディアの場合、収支のバランスだけではなく、決算発表後の株価の下落なども取り上げていますから、そちらに引きずられてネガティブな見出しになった可能性があります。

■メディアの観点から見たグーグル決算発表

メディアという観点からグーグルの決算発表を報告していたのが、日経産業新聞(2014/4/18)とITmedia(2014/4/17)でした。

日経産業新聞は、株価の下落にも触れながら、モバイル向け広告がパソコン向けよりも広告単価が安いので、クリック数が増加しても収益力は相応に高まることはないという分析をしており、専門的でありながら、わかりやすかったです。しかも、最高事業責任者への電話取材で、モバイル機器には位置情報などパソコンにはない付加価値があるとし、中長期的にはモバイル広告の単価はパソコンよりも高くなるべきだという見解を引き出していたことは大変興味深く、考えさせられました。

ITmediaは、グーグルの四半期の売上高の推移をグラフ(下図)で示し、グーグルの躍進ぶりをわかりやすく表示しているのが特徴です。

 google

これを見ると、ネット広告、Google直営サイトからの収入、クラウドサービス等その他の事業、とも前期比減となっていることがわかります。2012年以降の流れとしてはすべての部門で収益を拡大させており、今後もこの傾向が続くことが予想されます。

■グーグルの多様な事業展開

検索エンジンサービスを展開してきたグーグルがいつの間にか、クラウド事業に基づく教育支援事業、OSの開発、等々、多様な事業を展開するようになっています。今期の決算ではモバイル機器のネット広告の収益性が問題になりましたが、それも、CEOがいうように、将来的には位置情報という付加価値をもつモバイル機器の広告優位性が高まってくるのかもしれません。いずれにしても、領域を超えた事業展開をするグーグルの動きには目が離せません。(2014/4/20 香取淳子)

 

Google :日本の大学教育に参入

Google :日本の大学教育に参入

このブログでは今月に入ってから、次々とGoogleが様々なレベルで日本の教育に参入していることを報告してきました。就学前児童に対するもの、義務教育レベルの子どもたちに対するもの、通信制高校レベルの生徒に対するもの、いずれも、クラウド・コンピューティングシステムを使って、オンライン教育を実施するものでした。

「iPadとアプリゼミ」(4月11日)、「学びのイノベーション」(4月14日)、「Google:日本のICT教育支援」(4月15日)、「Google Appsで全面ネット制高校」(4月16日)、等々。

まだ始まったばかりなので、どのような結果を生むのかはわかりませんが、子どもについて実証研究を行ったところ、子どもたちが自発的に授業に参加している、楽しみながら学習に取り組んでいる、等々のpositiveな反応、国語については施行後の成績が上昇したという結果が得られています。

この流れでいえば、大学教育に取り込まれるのは時間の問題でしたが、案の定、今年の4月から京都大学でGoogleが関与するedXを使ったシステムでオンライン教育が行われました。

■MOOC と大学教育

いわゆるMOOC (Massive Open Online Courses) と呼ばれるオンライン教育システムの中で大学教育を対象にしたものとしては、Coursera や edX があります。大学講義系のMOOCは、大学としてプラットフォームに参加し、プログラムを提供しているので、基本的に教授が自分でコースを開設することは難しいといわれています。

日本の大学でMOOCに最初に参画したのは東京大学で、Courseraのプラットフォームで行いました。2013年9月に第一弾として「From the Big Bang to Dark Energy」、その後、第二弾として「Conditions of War and Peace」が提供されました。

東京大学によると、このオンライン授業は、「世界150ヵ国以上から8万人以上が登録し、約5400人が修了」したということでした。2014年度はさらに、経済学分野、情報学分野の2講座を新規に設定し、Courseraで開講する予定なのだそうです。

この記者発表ではさらに、東大では、このMOOC提供の取り組みを進展させるために、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(以下MIT)が出資して設立されたMOOCプラットフォームのedXと配信協定を締結し、2014年秋から提供することを伝えています。

詳細はこちら。 http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_260218_j.html

この記者発表では東大が2014年からedXでオンライン授業を開始することが明らかになりました。2013年に東大はCourseraでオンライン授業を開始したにもかかわらず、2014年からはedXでも始めるというのです。

■京都大学で始まったMOOC:edX

2014年4月10日から京都大学で生命科学のオンライン講義が開始されました。edXをプラットフォームにしたオンライン講義は日本ではこれが初めてです。提供されるのは、京大の上杉志成教授による「生命の科学」という授業でした。

講義の詳細はこちら。

https://www.edx.org/course/kyotoux/kyotoux-001x-chemistry-life-858#.U1D2rSyKDuh

英語を聞き取りにくい学生のために字幕付き、速度調節といった補助機能も装備されていたようです。そのせいか、受講学生の反応もよく、「How exciting!」 とツィッターで書いているほどです。

このedXは、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学が設立した非営利組織が運営するものです。米カリフォルニア大学バークレー校、米ジョージタウン大学がすでに講義を提供していますが、アジアでは京都大学、北京大学、精華大学、ソウル大学などが参加しています。

大学教育に向けたMOOCのプラットファームとしては、Coursera と edX があります。これらがどのように違うのか、見てみることにしましょう。

■Coursera と edX

北海道大学の重田准教授によると、Courseraの受講者が400万人以上、 edXの受講生は120万人だそうです。設立されて間もないにもかかわらず、大規模な人数の参加がみられます。なぜ、急激に普及してきたのでしょうか。

Kisobiファウンダーの浦部洋一氏はその原因を以下のように考察しています。

*********

・大学の授業内容を、誰でも受講可能にしている。

・基本的いん、無料で受講できる(修了認定証などは有料の場合がある)

・講義画面を公開するだけではなく、レポートを提出したり、コミュニティで議論したり、実際のクラスに近い仕組みを提供している。

・多くの大学が参加しており、講義の種類と量が増えている。

・インターネットの高速通信や、ノートPC、タブレット端末の普及、などオンライン学習に適したインフラが整ってきた。

・クラウドなどのIT技術の進化により、動画の配信やWebサイト運営のコストが大幅に下がった。

・MOOCsベンチャーをVCが支援しており、各社サービスが充実している。

*********  以上。 詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

このように利点は多いのですが、浦部氏は次のようにMOOCsの課題を指摘しています。

********

①ビジネスとして成立するのか?

②MOOCsの授業の学習効果は低いのではないか?

******* 以上。   詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

まだまだ始まったばかりのMOOCsであるが、世界の著名大学がこの方向で動いているので、日本の大学もこの流れに乗らざるをえなくなると思います。日本でもまずは東大、京大といったトップ校から開始されています。

京都大学の授業に対する学生の反応から明らかになったように、字幕や速度調節など、英語を聞き取りにくい学生のための補助装置が装備されているようです。ですから、今後、この流れは加速していく可能性があります。

デジタル教材の無料公開、デジタル教材を使った教育環境、等々が教育の機会均等に大きく貢献することは確かです。しかも、これはグローバルな展開が可能です。環境整備が整えば、意欲の有無が学習機会の多寡にこれまで以上に大きく影響してくるでしょう。いよいよ大学教育のグローバル化の時代を迎えたのです。(2014/4/18 香取淳子)

 

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

メディアは真相に迫れるのか?②:笹井氏会見中継を見て

2014年4月16日、笹井芳樹・理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の会見中継を見ました。途中で席を立ったりしたので、すべてを見たわけではないのですが、小保方氏の会見よりははるかに専門家らしい会見になっていたと思います。記者の質問も事前によく調べられていたように思えました。

■質問力

今回はとくに女性ジャーナリストが専門領域をよく調べ、的を得た質問をしているような印象を受けました。何人かの女性ジャーナリストが要点を絞り、段階的に核心に迫れるように組み立てて質問をしていたから、そのような印象を受けたのかもしれません。いずれにしても、渦中にある専門家に対して的確な質問をするには、それなりの知識と理解力がなければならないことを今回も感じさせられました。

小保方氏の会見の時から私も、「STAP現象」という言葉が気になりはじめていました。これまで「世紀の発見 STAP細胞」といわれてきたものが、「STAP現象」「STAP細胞」「STAP幹細胞」と三つの専門用語を使い分けられるようになったような気がしていたのです。女性ジャーナリストの質問はそのあたりの違和感を突くものでした。ところが、笹井氏の回答は巧みにそれを回避するものでした。表情を変えず、あくまでも論理に訴えかけようとする笹井氏の姿勢は一貫していました。付け入る隙はありませんでした。

事前によく勉強して練り上げた質問であっても、回答者が答えたくなければ、回避できるということにこの時、気づきました。私が見ている限りにおいて、笹井氏の回答は一事が万事、理路整然としていましたが、言い逃れと自己弁明に終始していたような印象が残り、真相に迫ることはできなかったという不全感が残りました。

■実験ノート見ず、生データを見ずに論文指導

笹井氏は小保方氏の実験ノートを見ることも、生データを見ることもなく論文を指導し、論文の組み立て、執筆を行ったと回答しました。そのような杜撰なやり方でNatureに投稿したというのです。Natureは実績のある研究者が著者として名前を連ねているため、掲載に踏み切ったのでしょう。それ以前に小保方氏がNatureに投稿した時は掲載不可になったそうですから、今回の掲載に果たした笹井氏の貢献は多大なものがあったと思います。それが、自分が担当したのは最後の段階でしかなかったと弁明したのです。

■「未熟な研究者」が研究ユニットリーダー?

理研調査委員会から不正があったとされた小保方氏は理事長の野依氏から「未熟な研究者」といわれ、自分でもそのように弁明していました。論文の流用、剽窃、捏造、これまでに執筆した論文のほとんどにそのような指摘がされています。

詳細はこちら。http://stapcells.blogspot.jp/

本人が「自己流」でやったとその事実を認めています。ところが、その小保方氏の身分はいまだに理研の研究者です。検証研究に小保方氏が参加することについて、笹井氏は「小保方さんはやりたいと言っている。それは一定の理解ができる」と回答しています。文系の人間からすれば、小保方氏の研究者生命は終わっているのですが、理研ではそうは認識していないのでしょうか。

■「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文

「未熟な研究者」の「ミスの多い」論文がこのまま放置されるのであれば、日本の真面目な研究者は浮かばれないでしょう。日本の研究者の国際的評価は貶められ、信用されなくなるでしょう。理研調査委員会は小保方氏を「未熟な研究者」だとし、「ミスの多い」論文で「撤回すべき」だとしているのに、小保方氏は「撤回しない」と宣言しました。

論文を実質的に執筆した笹井氏は「論文の撤回は同意する」としていますが、「STAP細胞は有望で合理的な仮説と考える」と言明し、存在の可能性を強調しています。ところが、小保方氏同様、その根拠は挙げられていません。小保方氏よりも論理的な話し方だったので気づきにくいですが、笹井氏もまた、論拠も示さず、STAP細胞の存在可能性だけ主張だけされたのです。

■笹井氏への不信

小保方氏は「未熟な研究者」で済みます。ところが、笹井氏は理研CDB副センター長で、「未熟」どころかベテラン研究者だといわれています。その彼が、生データを見ることもせず、「ミスの多い」論文を執筆し、Natureに掲載されると、ノーベル賞級の成果だとして大々的に発表したのです。

執筆者二人の会見によって、いくつかわかってきたことがあります。それは共著者といいながら、彼らは相互に論議を交わすことなく、データの確認をすることもなく、分業作業で論文を仕上げたということです。実験の得意な研究者が実験をし、論文が何度もNatureに掲載された実績のある研究者が論文を執筆し、最終的には「未熟な研究者」を筆頭研究者に担ぎ上げました。

きわめて不自然な一連の流れの背後にいったい何があったのでしょうか。

笹井氏は論文作成にかかわっただけだとしています。しかも、それはCDBセンター長に頼まれてやったことなのだと弁明しています。自発的にかかわったわけではないと強調していますが、共同研究に必要なデータの確認、研究者間の論議、といった基本的な作業がなされていません。自発的にかかわっていないのなら、普通の手順を踏むはずなのに、今回は複数の研究者のチェックを入れることなく、実質的に論文執筆作業、必要なデータの選定等は笹井氏と小保方氏の二人でなされたようです。

笹井氏の一見、理路整然とした回答からは真相につながるものは何も出てきませんでした。

■理研ははたして研究組織といえるのか

副センター長・笹井氏の会見を見て、理研という組織が研究組織として健全に機能していたのかどうか、疑わざるをえません。「未熟な研究者」をユニットリーダーとして担ぎ上げたことはまだしも、「ミス」「捏造」が発覚しても、笹井氏や丹羽氏が口を揃えるように、「指導しきれなかった、斬鬼の念に堪えない」といっています。ユニットリーダーになるような研究者が「未熟さ」ゆえに「捏造」や「不正」が許されるということが理解できないのです。このような研究者がリーダーを務めている理研ははたして研究組織として健全なのか、といわざるをえません。

■メディアの限界

今回もまたメディアの限界があり、真相究明にはほど遠いことが判明しました。ですが、疑惑をもたれた関係者の会見があれば、少しずつ事実が明らかになっていくことは確かです。無表情に理路整然と話せば話すほど、その背後に何があるのか、ちょっとした質問に揺らぐ表情、そのようなものが真実に一片を伝えます。ですから、メディアは一回だけで真相に迫ることはできませんが、何度も角度を変えて迫れば、少しずつ、真相に近づくことができるのではないかと思います。(2014/4/17 香取淳子)

 

 

 

Google Apps で全面ネット制高校

Google: 全面ネット制高校

■全面ネット制高校の誕生

産経新聞(2014年4月15日付)は、クラウド・コンピューティングなど最新のインターネット環境を全面導入した初の通信制高校が4月下旬に授業を開始すると報じています。今月開校した通信制のコードアカデミー高等学校が、米グーグルのアプリを使ってほぼすべての学習を行うというのです。

「大好きなインターネットで未来を開く」というキャッチフレーズで生徒募集をしているコードアカデミーは、長野市にある学校法人信学会が、企業向け教育ベンチャーの協力を得て設立した広域通信制・単位制課程普通高校です。この高校では、ソフトのプログラミングが必須科目になっているといいます。

コードアカデミー高等学校の詳細はこちら。 http://www.code.ac.jp/

■Google Apps とは?

前回、取り上げたのは義務教育課程の小中学校に対するICT支援でしたが、今回取り上げるのは、通信制高校に対する支援です。

授業では、情報共有のためにグーグルのソフト「Google Apps」の教育機関版を採用するのだそうです。このソフトを使い、テキストや動画を含む教材や課題、レポート提出はもちろん、複数の生徒との質疑応答もネット上で行うといいます。テレビ会議システムを使って、ライブ授業や面接指導も行いますから、一般的な通信制高校では難しかった対面指導も可能だといわれています。

GoogleAppsはGoogleのオンラインアプリケーションパックです

上の図はGoogle Appsの概念図です。メール、カレンダー、ドライブ、ドキュメント、サイト、グループ、トークなどこれまでにグーグルが進化させてきたソフトを組み込んだ統合システムだということがわかります。クラウド・コンピューティングシステムを使って、きわめて生産性の高い仕事ができるシステムを構築しているのです。

Google Appsについての詳細はこちら。 http://www.appsupport.jp/googleapps/

■反転授業とは?

具体的な進め方としては、生徒がパソコンやタブレット端末、スマートフォンで年8回の課題を受け取り、必要に応じて教師とやり取りしながら、解答を送信します。その際、いま注目されている「反転授業」が試行されるといいます。

反転授業とは、これまでのような説明型の授業をオンライン教材にして事前学習の宿題にし、説明型の授業では授業の後で宿題にされていた演習や応用課題を教室で、対面で行う学習形態のことをいうようです。

実際の授業時間では、対面であることを活かし、個々の生徒に教師が説明をしたり、普段解けないような難しい問題に挑戦する時間にしたり、グループ学習やアクティブラーニングを行ったりするといいます。

反転授業についての詳細はこちら。http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/seminar/001.html

■新しい試みは常に周縁から

このような形態の授業を通信制高校で4月下旬から実施するというのです。画期的なことだといわざるをえません。新しいことは周縁から生まれるといいますが、この試みも長野県の学校法人が通信制高校の場で試行されるようです。チャレンジ精神のあふれた高校生が新しい形態の授業を通して、次代を担う情報技術をしっかりと身につけ、社会をリードしていってもらいたいと思います。(2014/4/16 香取淳子)

 

Google : 日本のICT教育支援

Google : 日本のICT教育支援

情報機器の進化に合わせ、社会が大きく変化しています。それに対応して、教育内容、方法、教材も変えていこうというのが、最近の文科省をはじめとする一連の動きです。今回はNPO法人CANVASのプログラムを紹介することにしましょう。

■PEG、東京大学でキックオフイベント開催

2014年2月8日、東京大学でPEGのキックオフイベントが開催されました。PEGとは、Programming Education Gatheringの略で、6歳から15歳の子どもを対象にプログラミング学習を普及させていくことを目的にしたプロジェクトです。その主体は子ども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を 推進するNPO法人CANVAS です。CANVASがGoogleと連携し、「コンピュータに親しもうプログラム」を立ち上げたのです。

詳細はこちら。 http://www.canvas.ws/programming/event.html

ちなみにGoogle はこの2013年10月29日、日本のICT教育を支援するため、「コンピュータに親しもう」プロジェクトを開始すると発表しています。GoogleがRaspberry Piを5000台提供し、CANVASと協力して1年で2万5000人以上の児童・生徒の参加を目指すというのです。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20131029/514542/

■Raspberry Pi

ここでは、Raspberry Pi や Scratch を使ったワークショップが中心になっています。義務教育の場である小中学校にはパソコンが配備されているというのに、なぜ、パソコンではなく、小型のPCボードであるRaspberry Pi を使うのでしょうか。

Raspberry Pi - Wikipedia

上の写真がRaspberry Piです。非常にシンプルなカード・サイズのコンピューターで、誰でも簡単にプログラムすることができるといわれています。それにしてもなぜ、すでにパソコンが配備されているのに、Raspberry Piなのでしょうか。

■なぜ、Raspberry Pi なのか

このPEGのワークショップを監修している阿部和弘氏に対するインタビューをみてみることにしましょう。

阿部氏はこれまでにRaspberry Pi 上でScratchを動かすワークショップを数多く実施してきたそうです。その阿部氏が経験を踏まえ、子どもたちがプログラミングを継続して学習するには、現状ではRaspberry Pi が最も適していると判断しているというのです。

彼はその理由として以下の5点を挙げています。

**********

①コスト:Raspberry Pi は他のデジタル機器に比べ非常に安価。高機能版でも3000円代から入手可能。

②基盤むき出しで提供されている:基盤がむき出しになっているので、教育向き。

③地デジ対応TVに接続して使用可能:家庭の地デジに接続可能なので、学校だけではなく、家庭でも使用できる。

④Raspberry Pi にはGPIO(汎用入出力)があること:GPIOはきわめて原始的な入出力端子なので、LED(発光ダイオード)、センサー、スイッチなどをつないで電子工作が容易にできる。

⑤自らプログラムを書けること:Raspberry Pi では子ども自身がプログラムを書いて何かを作り出す環境が整っている。Scratchなどが用意されており、それらを使ってモノ作りを体験できる。

****** 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

■主体的に学ぶとは?

たしかに、これまでの情報機器は与えられたアプリケーションを消費するだけでした。義務教育の段階で、自分でプログラムを作る機会が与えられれば、子どもたちは能動的に情報機器を活用するようになるでしょう。それこそが情報社会に適応していくための教育といえます。

阿部氏はこうも述べています。

**********

Raspberry Pi のように子どもたちが主体的に扱えるデバイスを使えることが大事だと考えている。

理想的には一人一台ということが重要だ。自分のものになれば、だれにもじゃまされずに使えるし、愛着もわく。自分のRaspberry Pi を使って何かを作ろうというモチベーションになる。

子どもにRaspberry Pi を与えるというのはLinuxワークステーションを与えることと同じであり、スキルさえあれば何でもできる。

ネットにつながってなんでもできるRaspberry Pi をもらうということは、自由を得るだけではなく相応の責任を負うことにもなる。

だからこそ、はじめは保護者やファシリテーターの目の届くところで使ってもらう必要がある。危険なものを子どもから取り上げるのではなく、その扱い方をきちんと身につけてもらおうとしている。

********* 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

このように阿部氏は、Raspberry Pi を教育で活用することの意義を説明したうえで、これを提供する先は、「Raspberry Pi を使って何かできないだろうか」という意欲を持った組織だと言明しています。

■情報(情報機器等)を生産することを学ぶ

21世紀に入って早14年目になってしまいました。この間の情報革命は驚くほどの勢いです。使い勝手がいい状況で消費者の前に登場してくるので、その仕組みがわからないまま、日々、私たちはスマホやタブレットに接触しています。

いまや仕組みがわからないまま使っていることにさほど危機感を覚えず、新しい機器の操作に慣れようとしています。はたして、それでいいのでしょうか。それこそ、情報(情報機器等を含む)を生産できる側と、ただ消費するだけの側とに分離してしまっているように思えます。

それがおそらく新たな格差の根源になっていくのでしょう。だとすれば、それこそ義務教育の段階から情報(情報機器等を含む)を生産できる能力を養うことが重要なのではないかと思います。(2014/4/15 香取淳子)