ヒト、メディア、社会を考える

04日

拡大するアニメ市場、いま必要なものは何か。

■「放送文化基金研究報告会2018」への参加
 2018年3月2日、ホテルルポール麹町の2F「サファイア」で、「放送文化基金研究報告会2018」が開催されました。報告は2件、①技術開発部門で平成27年度助成を受けた藤田欣裕氏(愛媛大学大学院理工学研究科教授)、②人文社会・文化部門で平成26,27年度助成を受けた小泉真理子氏(京都精華大学マンガ学部准教授)のお二人でした。

 私は小泉氏の発表に興味がありましたので、第2の報告「日本アニメーション現地化の現状と課題 ~文化ビジネスの発展のために~」が始まるころから出席しました。小泉氏の発表時間は20分でしたが、パワーポイントを使ってわかりやすく調査研究の報告をされました。

■ローカライゼーションの現状と課題
 小泉氏はまず、図を示しながら、これまで文化と経済は別物であったという認識を示されました。

 たとえば、伝統実演芸術、美術館などは経済的な自立が困難で、政府などからの資金援助がなければ存続できません。文化を経済として語ることはできなかったのです。ところが、映画や放送番組、ゲームのように、複製技術による商業化が可能になると、文化も経済的に自立することができます。こうして、いまや、文化は産業の一つのセクターとして位置づけられるようになっています。その一つが海外で人気の高い日本のアニメ産業です。

 小泉氏は、1990年から2010年までの日経平均株価の推移とアニメ産業の市場規模の推移を比較し、日本経済が低迷していた時期でも、日本のアニメ産業の市場規模は拡大し続けたと指摘されました。実体経済に左右されずに収益を得ることができるのがアニメ産業だというわけです。

 ところが、日本のアニメは海外で高い人気を誇っていながら、それに応じた収益を上げるに至っていません。そこで、小泉氏は、「コンテンツビジネスのフレームワークを提示すること」を目的に、ローカライゼーションの現状を把握することに着手されました。

 日本アニメのビジネス環境を整備するため、まずは、ローカライゼーションの現状と課題を明らかにし、日本アニメの輸出に必要なコンテンツビジネスのフレームワークを提示するというのです。米国を事例に、関係者へのインタビュー、関連映像の視聴分析、関連データの分析等々を踏まえ、実態把握が行われました。

 その結果、①ローカライゼーション体制としては、1.全世界を視野に入れた効率的なローカライゼーション体制の構築、2.制作段階からローカライゼーションを視野に入れた手法の確立、②ローカライゼーションのための改変としては、1.ストーリーを理解するための字幕や吹き替え、2.文化の違いによる摩擦を回避するための改変、3.作品の質を高めるための改変、③ローカライゼーションにおける留意点としては、1.オリジナル作品の魅力を維持する配慮が必要、等々が示されました。

 そして、今後のローカライゼーション研究に期待するとともに、的確なローカライゼーションを踏まえたビジネス基盤の整備に向けた努力が必要だと結んでいます。とても有意義な研究内容だと思いました。

 以上、概略をご紹介しただけですので、詳細をお知りになりたい場合、下記をご参照ください。

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小泉真理子、「コンテンツのローカライゼーション・フレームワークに関する研究―米国の日本アニメビジネスを基にー」、『文化経済学』第14巻第2号、2017年9月。
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 小泉氏の報告に興味を覚え、帰宅してから、ちょっと調べてみました。日本動画協会の2017年版報告書によると、小泉氏が調査されたころに比べ、日本のアニメ市場は、海外市場で大幅に売り上げを伸ばしていました。

■日本アニメ、海外市場の拡大
 「アニメ産業レポート2017」を読むと、2016年のアニメ産業市場は4年連続で売上を更新しており、前年比109.9%も上昇していました。総額はなんと2兆9億円、2兆円を突破していたのです。

 そこで、アニメ市場をジャンル別でみると、前年比で増加したのが、「映画、配信、音楽、海外、ライブエンタテイメント」の5つです。それに反し、減少したのが、「TV、ビデオ、商品化権、遊興」の4つでした。とても興味深い結果です。

 この結果を見ただけで、アニメの領域でも、明らかにメディアの新旧交代が起こっていることがわかります。

 そこで、過去4年間の売上推移を国内、国外でみると、国内市場は、1.19兆円(2013年)、1.30兆円(2014年)、1.24兆円(2015年)、1.23兆円(2016年)でした。それほど大きな変化はありません。

 一方、海外市場は、2823億円(2013年)、3265億円(2014年)、5823億円(2015年)、7676億円(2016年)といった具合で、大きく伸びているのがわかります。明らかに、海外市場が牽引する格好で、日本アニメの市場規模が拡大していたのです。

 メディアもこのことを大きく報じました。以下は、FNNニュースの一画面です。

こちら →
(http://www.sekainohatemade.com/archives/52003より。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、さらに興味深いことがわかります。総売上に占める金額でもっとも多いのが、海外での売上で7676億円、以下、アニメグッズの5627億円、その他の2829億円、パチンコ・パチスロの2818億円、そして、テレビ局番組の1059億円の順でした。国内のさまざまなアニメ関連ジャンルの売上よりもはるかに海外売上の方が多いのです。これを見ても、海外市場の拡大によって、日本アニメ市場が拡大していることを確認することができます。

 具体例を見てみることにしましょう。

■テレビ東京の場合
 アニメに力を入れているテレビ東京の場合、2017年第3四半期のアニメ事業売上は前年同期比24.2%増の128億円、そのうち粗利益は20.0%増の47億円でした。

こちら →
(http://gamebiz.jp/?p=177948より。図をクリックすると、拡大します)

 テレビ東京によると、アニメ事業については、前年度国内で好調だった「妖怪ウォッチ」の商品化の取り扱いが減少する一方で、海外市場で、「NARUTO」と「BEACH」が、いずれもゲームや配信で売上が増加したといいます。

 テレビ東京の直近のデータを見ても、海外市場と新媒体でアニメ市場が拡大していることがわかります。こうしてみてくると、海外市場をさらに拡大していくには、ローカライゼーション体制の整備だけではなく、新メディアに向けた迅速な対応が求められていることがわかります。

 日本動画協会は、今後アニメビジネスを成長させるエンジンとして、スマートフォンを中心に展開されているアプリゲームだという認識を示しています。実際、「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」は中国向けにローカライズされて大きくヒットしたといいます。

 何もアニメに限りません。きめ細かなスマートフォン対策はどの領域でも不可欠になってくるでしょうし、巨大な市場である中国に向けたローカライゼーションも考えていく必要があるでしょう。

■拡大するアニメ市場、いま、何が求められているのか。
さて、2017年10月24日、「アニメ産業市場規模初めて2兆円超え」というニュースについて、慶應義塾大学大学院教授の中村伊知哉氏は、以下のようにコメントしています。

「2兆円届きました!10%の拡大。このうちTV・映画・DVDなど国内コンテンツはわずか3000億円。海外が32%増の7700億円となり、政策の後押しもあっての海外シフトが鮮明になりました。グッズなどの商品化ビジネスも5800億円。アニメはコンテンツ「を」売るから、コンテンツ「で」稼ぐビジネスになっています。」
(https://newspicks.com/news/2577790/より)

 たしかに、2013年から2015年にかけては、ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援助成金」(略称:J-LOP)はそれなりの役割を果たしてきたと思います。

海外展開に必要な 「ローカライズ」(字幕や吹替えなど)や「プロモーション」(国際見本市への出展やPRイベント実施など)への支援等に助成金が出されてきました。実際、アニメ関連でも事業者がこの制度の支援を得ていることがわかります。

こちら →https://www.vipo.or.jp/j-lop-case/

 ですから、日本アニメの海外市場拡大についてもなんらかの影響があったのかもしれません。ただ、このページをざっと見た限り、「ドラえもん」など、既存アニメに依存している傾向が感じられます。

 すでにコアな日本アニメファンが世界中に散らばっているのだとすれば、既存コンテンツの新規市場の開拓よりもむしろ、新規コンテンツの開発を目指す必要があるのではないかと思いました。

 日本アニメの海外市場が拡大しているいまこそ、魅力的なコンテンツを継続的に提供していくために、いま、何が必要なのか、考えていく必要があるのではないかと思いました。そのためには、日本アニメのどの側面が海外市場で支持されているのか、ファン層別、国別、文化圏別に、さらにきめ細かな研究が必要になってくるでしょう。(2018/3/4 香取淳子)