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Googleと20%ルール

Googleと20%ルール

書店に出向き、雑誌コーナーに行くと、平積みされた雑誌の中から、「グーグルを最強にした経済理論」というキャッチコピーが目に飛び込んできました。気になって手に取ると、ビッグデータに関する記事もあります。思わず、『2014~2015年版新しい経済の教科書』を購入してしまいました。「グーグル」と「最強にした経済理論」という二つの刺激的な言葉に反応してしまったのです。

■グーグルを最強にした経済理論?

内容は、グーグルのチーフエコノミスト、ハル・ヴァリアン氏と大阪大学准教授の安田洋祐氏との対談でした。刺激的なタイトルが付けられていたので、つい購入してしまったのですが、読んでみると、ほとんどの部分、ヴァリアン氏の来歴が語られているだけでした。

カリフォルニア州立大学の情報管理部長だったハル・ヴァリアン氏は2002年からグーグルに関わり、広告オークションの仕組み作りをしていたようです。その結果、クエリ予測モデル、広告オークション理論の構築等に関わってきたといいます。

4月20日、本日誌で、「メディアの観点から見たGoogleの決算報告」(http://katori-atsuko.com/?p=278) と題して書いたように、グーグルの2014年第1四半期の収益をみると、広告のクリック数は多いのに、それが収益につながっていませんでした。そのため発表と同時に株価が下落したぐらいです。利用者のデバイスがパソコンからスマホなどのモバイルに移ってしまっている現状で新たな課題が出てきているのです。ヴァリアン氏が理論を構築していたころとは明らかに状況が異なっています。もはや草創期に活躍したヴァリアン氏の出番はないのかもしれません。ですから、対談を読み終えても、見出しに惹かれたほどの充足感はありませんでした。

グーグルロゴ

 

■グーグルの20%ルール

むしろ、興味深かったのは、ヴァリアン氏が自分たちは20%ルールを活かしていると答えていることです。意外でした。

実は昨年、さまざまなメディアで、グーグルの20%ルールはなくなったも同然だ、というような記事が溢れていたのです。

たとえば、『WIRED』2013年8月20日号では、以下のように書かれています。

「この有名な20%ルールについて耳にすることはずっと少なくなった。「Quartz」の8月16日付の記事ではグーグルの企業文化においてこの理念は「死んだも同然」だとされている。(中略)20%ルールの本当の敵は「当たる矢が少なかった」ことだろう。同社がグーグルのサービスを何度も整理統合したり、修繕したりしているところを見ると、同社が本当に必要としているのは「焦点」なのかもしれない」

以上、詳細はこちら。http://wired.jp/2013/08/20/googles-20-percent-time-is-as-good-as-dead-because-it-doesnt-need-it-anymore/

20%ルールがグーグルを成功に導いたことは認めながらも、いまではないも同然だというわけです。このような論調の記事は多くのIT系雑誌に掲載されました。ですから、私も20%ルールはもはや機能していないのだと思っていたのです。どうやら安田氏もそのように考えていたようで、「20%ルールはなくなってきているんじゃないかという記事を読みましたが、どうでしょう」とヴァリアン氏に質問しているのです。ところが、違いました。少なくともヴァリアン氏が働くチームでは機能していたというのです。

■20%ルールはグーグルの企業文化

グーグルは20%ルールという内規を持っていました。それは、勤務時間の20%は本来の業務とは別に、自分独自のプロジェクトに使わなくてはならないというルールがあります。二村高史は著書『グーグルのすごい考え方』(2006年9月刊、三笠書房)の中で、「ここで重要なポイントは、「使ってもいい」のではなく、「使わなくてはならない」という点だ」と指摘しています。

彼は、「ある意味、これは非常に遠大な使命といっていい。考えようによっては、仕事の制約がほとんどない世界だ。あらゆることがらが仕事の対象になってしまう」と、20%ルールの背後にあるヒトを動かす仕組みに驚いています。このようなシステムの下ではヒトは突拍子もないことを考え、それを研究対象にすることができます。誰にもはばかることなく自由に発想できる環境こそがイノベーションを生み出していくのでしょう。実際、グーグルがそうです。ですから、まさに20%ルールは、自己管理、自主性を第一に考えるグーグルの企業文化の象徴だったのです。

■「Quartz」発の情報

先ほど紹介した「WIRED」の情報の元ネタは「Quartz」でした。その「Quartz」に情報提供したのはグーグル元社員だといいます。ブロガーの島田範正氏は、追随してこの件を追ったFast Company誌の記事に基づき、「会社が決めたプロジェクトだけに勤務時間の100%を使っている社員の方が評価も高く、昇給もしやすいのだとか」と書いています。

詳細はこちら。http://www.fastcompany.com/3015877/fast-feed/why-google-axed-its-20-policy

こうしてみると、グーグルの企業文化にも変化が生じている可能性が考えられます。つまり、創業時とは異なり、いまや社員53861人(2012年末)の多国籍企業です。優秀な人材を集めているとはいえ、これだけの社員を抱え、自由な企業風土を維持し続けるのは難しいのではないか、というのが浅はかな素人の見方です。グーグルが急速に発展し、さまざまな領域に進出するに伴い、社員数が激増し、いまや量が質を駆逐する域に達している可能性もないではないでしょう・・・。と思うのは、浅はかな素人の見解でしょうか。

いずれにしろ、昨年報道された「20%ルールの消滅」報道について、ヴァリアン氏は「自分のところはそうではない」と否定しました。ですから、これについての真相はわかりません。元社員がそういったからといって、真に受ける必要がないのかもしれません。元社員はグーグルで不遇だったからこそ辞職したのでしょうから。

一方、グーグルは次々と新領域を開拓し、いまやグーグル帝国ともいえるほどの力を見せつけています。20%ルールをはじめ、グーグルの企業文化がそれを支えてきたことは確かでしょう。「Quartz」のような記事が出てきたからには、内部でなんらかの変化があるのかもしれません。ですから、今後も維持できるかどうかはわかりませんが、これまでのところ、グーグルの企業文化がイノベーションを次々と生んできたといっていいでしょう。

■Googleの企業文化

グーグルには、一般常識では考えられないさまざまな企業文化があるといわれます。元はといえば、自由度が高く、研究志向の強い学生が起業した企業です。普通の企業ではないことは確かでしょう。いつの間にか、情報を軸に以下のような事業を展開しています。

グーグルがしていること

情報検索から、メール、SNS、マップ、等々、世界中のヒトが日常的にグーグルの情報サービスを利用しています。まさに、「世界中の情報を整理してみんながアクセスし便利に使えるようにする」というグーグルのミッションの成果といえます。

このようにグーグルが使命感に基づいてさまざまな事業展開を行い、次々と成功を収めていく中で、実はグーグルが意図しない巨大なパワーの保持者になってしまっているのかもしれません。そうなると今度はそのパワーのメカニズムに動かされていくようになります。やはり、今後もグーグルの動きを見逃せません(2014/4/30 香取淳子)

 

ネットはどこまで安全か:IEに脆弱性発見

IEに脆弱性発見

日経新聞は、マイクロソフト社のネット閲覧ソフト「インターネット・エクスプローラー(IE)」のバージョン6から最新版までのものに未修整の欠陥が見つかったとし、米国土安全保障省が28日、IEの使用を中止するよう警告したと報じています(日経新聞、2014年4月29日)。

IE

 

すでに米セキュリティ会社FireEyeが、この脆弱性を利用した攻撃を発見しているといいます。脆弱性自体はIE6~11に影響があるとされていますが、同社が確認している標的型攻撃ではIE9~11をターゲットにしているというのです(Internet Watch, 2014/4/28)。新しいバージョンが狙われていることがわかります。

私は日常的にIEを使って情報検索をしていますので、このニュースを知ってさっそく、Google Chromeに切り替えました。とはいえ、うっかりするとすぐIEのアイコンに手を伸ばしてしまいます。慣れているからでしょう。’お気に入り’もほとんどがIEの方に入っているので、とても不便な思いをしています。

IEはマイクロソフト社製なので、Windowsマシンには最初からこのブラウザが搭載されています。通常、搭載されているブラウザを敢えて変更することはしません。ですから、多くのヒトがこのIEを使って情報検索をしているのではないでしょうか。

■どのような攻撃なのか

いったい、どのような攻撃を受けるのでしょうか。ITメディアによると、悪用された場合、多数のユーザーが利用する正規のWebサイトを改ざんしたり、ユーザーをだましてメールなどのリンクをクリックさせたりする手口を通じて不正なコンテンツを仕込んだWebサイトを閲覧させ、リモートで任意のコードを実行される恐れがあるといいます(IT media, 2014/4/28)。

■どうすればいいのか

対策としては、IEを使うか、使わないか、選択肢は二つです。ですから、一つ目の対策としては、IE以外のブラウザ、Google ChromeやFirefoxなどを使うことになります。ただ、IEを使い続けたい場合の対策として、たとえば、以下のような方法があるようです。

①Flashプラグインを無効にする。

詳細はこちら。http://www.lifehackslite.com/hacks/2008-03/279.html

②マイクロソフトの脆弱性緩和ツールを使う。

詳細はこちら。http://news.mynavi.jp/articles/2013/11/19/emet/

ところが、サポート期間が終了したXPについては対策がないようです。以前に紹介したように、まだXPを使い続けている事業所はたくさんあります。こういうところが狙われたら、ひとたまりもありません。

マイクロソフトは5月14日に更新プログラムを提供する予定だとしていますが、それまでの期間、IEの利用者はなんらかの対策を講じなければ被害に遭う可能性が出てきています。

■ネットはどこまで安全か

インターネットの登場によって自由に時間空間を超えることができ、ヒト、モノ、情報の交流が加速しています。その一方で、何度もこのようなシステムの脆弱性をついてインターネットが悪用される案件が発生しています。その都度、更新プログラムを開発し安全性を高めていかなければなりません。ネット社会の根幹に相当するブラウザの安全が必ずしも確定してものではないことが今回の件でよくわかりました。ネットに依存した社会がどれほど不安定で、どれほどヒトを不安にさせるものであるか、改めて考えさせられました。(2014/4/29 香取淳子)

 

回転寿司とICT

おもてなしは、やはり鮨?

2014年4月23日、オバマ大統領が来日しました。安倍首相は非公式夕食会の場として、東京・銀座の鮨店「すきやばし次郎」を設定しました。日本人にとって、いざというときのおもてなしはやはり鮨なのでしょう。「すきやばし次郎」は、ミシュラン・ガイド東京版で最高の三ツ星の格付けを得ている高級鮨店です。メニューはなく、「おまかせ」で注文するシステムで、値段は一人3万円以上だそうです。

「すきやばし次郎」詳細はこちら。http://www.sushi-jiro.jp/jpn-index.html

安倍首相とオバマ大統領の約2時間半に及んだ会食は、いま懸案のTPP交渉の話題で終始したようですが、25日の共同声明では大筋合意に至りませんでした。せっかく用意した高級「鮨」の効果はなかったのでしょうか。

■回転寿司

安倍首相とオバマ大統領の鮨会食のニュースに刺激され、私も久しぶりにお鮨を食べたくなりました。とはいえ、私たち庶民にとって身近な鮨はやはり回転寿司です。たまたま神奈川県藤沢市に用事があって出かけたため、もよりの湘南台「はま寿司」に行きました。やはり家族連れが姿が目立ちましたが、土曜日だというのに客数は少なく、大丈夫かな?とちょっと不安になりました。「はま寿司」に入るのは初めてです。

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よく行く「かっぱ寿司」とは違って、注文した寿司が特急レーンで運ばれるシステムではないので、最初はまごつきました。注文した鮨もそうでない鮨も同じようにベルトコンベアに乗って流れてくるので、他人が注文した鮨を間違って取ってしまう可能性があるのです。よく見ると、注文した皿は台の上に乗っているのですが、最初はわかりません。カウンター席に座ってすぐにベルトコンベアから手に取った皿は今思えば、他人が注文した鮨だったのでしょう。大変おいしいしめさばでした。

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次に上記の注文システムを使って、おすすめの特ネタを注文しました。写真だけで判断し、なんとなくおいしそうに見えたマグロのトロを注文しました。注文した商品が届く際には、音声案内があります。同じようにベルトコンベアに乗ってきますが、注意深く確かめながら、皿を手に取りました。注文したトロですが、見ただけで時間が経っていることがわかります。表面に艶がなく乾燥しているのです。案の定、口に入れると、端の部分が乾燥して固くなっていました。吐き出しました。

これまで「かっぱ寿司」や「スシロー」などの回転寿司チェーンで何度が鮨を食べたことがありますが、一度もこのようなまずい鮨を食べたことがありませんでした。鮮度管理が徹底していたのでしょう。鮨は生ものですから、鮮度が命です。その鮮度がなく、乾燥して固くなってしまっているのですから、もはや商品とはいえません。

ですが、お店の人にクレームをつけず、そのまま他の鮨ネタに手を伸ばしました。エビ、イカ、ホタテ・・・、よく食べるネタ皿を次々と取って食べてみましたが、ホタテ以外は鮮度がよくありません。いつもは10皿は食べるのですが、お腹が空いていたので7皿は食べましたが、それ以上は食べる気がしませんでした。

支払のために会計に立ち、ふと壁側に目を向けると、以下のような表示に気づきました。

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なんと、「はま寿司のこだわり」として、ICチップを内蔵した皿を使用して鮮度管理しているというのです。だとすれば、私が注文して食べたマグロのトロは自動的にレーンから外れたものを再度、ヒトが注文皿に入れ、ベルトコンベアで流したのでしょうか。たとえICTを導入して鮮度管理をしていたとしても、ヒトがそれを戻したのではまったく意味がありません。なぜ乾燥したトロが私の席に注文皿で届いたのかわまりませんが、後味が悪く、不愉快な気分で店を出ました。

今回の件は不幸な経験でしたが、回転寿司自体はとても面白いシステムです。技術と職人技を統合しようとして日本的試みとして傑出しているのです。はたして回転寿司はどのような経過を辿って、現在の姿にまで進化してきたのでしょうか。「回転寿司の世界」vol.10から、回転寿司の歴史をざっとおさらいしてみることにしましょう。

詳細はこちら。http://www.ntt-card.com/trace_bn/vol10_201401/special/index.html

■回転寿司の黎明期

回転寿司店は、大阪の寿司職人・白石義明氏によって1958年に開設された「廻る元禄寿司1号店」が最初だといわれています。白石氏は開発の際にベルトコンベアの特許「コンベア旋回式食事台」を取得していました。ですから、当時、回転寿司市場は「元禄寿司」の独占状態だったようです。関西からやがて東日本へと発展し、仙台の屋台寿司店の江川金鐘氏が回転する中華テーブルをヒントにして回転寿司のシステムを開発していました。ところが、白石氏がすでに回転寿司の特許を取っていましたので、実用化ができず、販売契約という形を取ることになったようです。その結果、「元禄寿司」が広がっていきました。ちなみに、この「回転寿司=元禄寿司」という状況は、特許が切れる1978年まで続いたといわれています。

■大阪万博でブレイクした回転寿司

回転寿司は大阪万博で一躍、認知度を高めました。元禄寿司は万博で大阪を訪れていた多くの日本人、外国人の注目を集めました。当時、万博で出店していたのは、マクドナルド、ミスタードーナッツなどの有名外食企業でした。ところが、その中に混じって、元禄寿司はそのシステムの物珍しさから、「電気自動車」や「動く歩道」などの近未来的な展示物と同じような、未来を予感させる存在として脚光を浴びていたといわれています。ですから、万博終了後、マスコミや事業者から元禄寿司に問い合わせが殺到したそうです。

■回転寿司店の勃興

回転寿司店が次々と台頭してきたのが、1978年以降です。というのも、この年「コンベア旋回式食事台」の特許権が失効したからでした。1979年に「かっぱ寿司」、1984年に「回転寿司くら(現・くら寿司)、「すし太郎(現・スシロー)」そして、1987年に「がってん寿司」など、現在よく目にする回転寿司チェーンは実はこの時期に誕生していたのです。それぞれが起業後40年を経てもなお、事業を継続することができているのが興味深いところです。おそらく、各社それぞれ技術開発等に企業努力を怠らなかったからでしょう。

たとえば、全国的にチェーン店が増えるにつれ、寿司職人が不足するという事態が発生しました。これを契機に寿司ロボットの導入等の自動化が推進されました。安さを魅力にしている回転寿司チェーンは経費節減のため、並々ならぬ努力をしていたのです。

そればかりではありません。安全と美味しさを求め、各回転寿司店は多大な努力をしていたようです。

■回転寿司のICT戦略

いまから9年ほど前すでに酢飯はロボットが握り、仕入れや客の回転率を極限まで効率化するため、ICTが利用されていました。

スシローの場合、スシ皿にはICタグが付けられていて、センサーがそれを認識するように設定されていました。調理場で認識された後、別のセンサーで認識された際に皿がなくなっていたら、客が食べたと判断し、なくなっていなければ食べられていないことになります。いまや、スシ皿にICタグを付けるのは当たり前になっています。350メートル移動した皿は自動的に廃棄されるように設定されていたというのですが、おそらくその距離が鮮度の限界なのでしょう。

それでは、現在のスシローはどうでしょうか。

『日経情報ストラテジー』(2013年9月)によると、以下のようになっているようです。

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皿にICチップを取り付け、単品ごとに管理し、売れ筋をリアルタイムで把握し、それを需要予測に生かす。

レーンにおけるネタごとの走行距離も収集しており、ネタごとにあらかじめ決めた走行距離を過ぎれば、「鮮度が落ちた」と判断して、自動的に廃棄する仕組みも導入している。例えばまぐろであれば、350m以上が対象になる。

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7年前もこれと同様の管理が行われていました。鮮度管理の自動化は真っ先に導入しなければならないことだったからでしょう。ICタグによる管理はそのまま現在にまで引き継がれていたのです。

いまではビッグデータによってネタ毎に鮮度時間がわかっています。それに対応した機器も開発されています。ですから、以前よりも鮮度管理の仕組みが向上していることは確かです。

回転寿司はこのように技術とともに進化を遂げてきたにもかかわらず、私は乾燥しきった鮨ネタを食べる羽目になってしまいました。それは、ヒトがこの全自動技術をいっとき排除した結果だったのでしょうか、それとも、他に理由があったのでしょうか。

いずれにしても、ヒトも技術も最終的に何をしたいのかという目的が明確でなければ、この種のミスは発生しやすくなるのだという気がしました。技術が万能なのでもなく、ヒトが万能なのでもありません。ヒトが技術の支援を受けて果たそうとする目的こそが’万能’、すなわち重要なのだということを今回の件で再確認しました。(2014/4/27 香取淳子)

 

度重なるサイバー攻撃の恐れ

度重なるサイバー攻撃の恐れ

一昨日、日本企業を狙う3種類のサイバー攻撃の恐れのあることが報道されました(4月23日付日経産業新聞)。これは大変だと思っていたところ、今日(4月25日付、日経新聞)、官公庁がサイバー攻撃される恐れが出てきたと報じられています。いったい、どういうことなのでしょうか。

■企業に対する3種類の攻撃

日経産業新聞(井上英明記者)によると、日本企業は3種類のサイバー攻撃に晒されているといいます。3種類の攻撃とは、①法人向けネットバンキングから不正に送金するという攻撃、②スマートフォンを外部から操るという攻撃、③パソコンの中身を暗号化して解除の身代金をゆするという攻撃です。

法人向けのネットバンキングはIDやパスワード、電子証明書をパソコンに入力します。ウィルス「ゼウス」は取引銀行に似せた偽画面でログイン情報や電子証明書を盗み出すのだそうです。しかも、その「ゼウス」が進化してきているといいます。ウィルスに感染したコンピューターが互いにネットワーク(ボットネット)を作り、攻撃情報などを持ち合う形に進化したといわれています。

すでに日本の3万2千台のパソコンによるボットネットが確認されているのだそうです。一方、このボットネットによってスマートフォンが攻撃者に遠隔操作され、個人情報などに盗まれる可能性が出てきているといわれています。さらに、パソコンやデータをロックして身代金を要求するウィルス「ランサムウエア」日本語版が上陸しているそうです。企業の機密情報を盗み出す「標的型攻撃」を組み合わせて、企業のサーバーの機密情報を暗号化し、金銭をゆする手法が高度化していくことも考えておかなければならないのかもしれません。

この記事を担当した井上英明記者は、「姿なきサイバー攻撃者への抗戦は長期にわたり瞬発力も求められる。経営リスクとして取り組むことが欠かせない」と結んでいます。日々、便利にはなっていますが、企業も人々も目には見えない敵に日常的に怯えなければならない時代になりつつあるようです。ICTについては素人でありながら、インターネットは頻繁に使用している私など、ネットセキュリティ問題はとても深刻です。

■官公庁に対する攻撃

今日(4月25日)、報道されたのが、「ストラッツ1」にセキュリティ上の欠陥があることが判明したというものです。このソフトは、官公庁や銀行、企業などが広く利用しているもので、サポート期間は終了しているのだそうです。ですから、修正プログラムはありませんし、すでに攻撃方法がネット上で公開されているようです。ですから、早急に対策が必要だと報道されているのです。

仮に欠陥を突いてサイバー攻撃を受けた場合、サイトを動かすシステムが乗っ取られる恐れがあるのだそうです。そうなると、すべての操作ができるようになるため、情報を盗んだり、サイトを改ざん、停止したりできるようになります。ウィルスを仕掛けることで、訪問者を感染させて次の攻撃につなげることも容易になるというわけです。

ストラッツ1の欠陥による攻撃の可能性を図示すると以下のようになります。

ストラッツ1による攻撃可能性

資料:日経新聞2014年4月25日付

■指摘されていた「ストラッツ1」の欠陥

「ストラッツ1」の欠陥についての修正プログラムがないことについて、すでに2013年6月25日付日経新聞で、早急に対策を講じるよう警告が発せられていました。なぜ、それがいまごろ、改めて報道されるのでしょうか。記事をよく見ると、「攻撃の恐れ」であって、24日時点ではまだ、この欠陥を狙った不自然なアクセスは把握されていないそうです。「恐れ」があるので、警告されているのです。

■ネットユーザーはどのようにして身を守るべきか

Newsweek( April 29 & May 6, 2014)で、「ハートブリード危機に学ぶ「プログラムは穴だらけ」という記事を読みました。4月上旬に発見された暗号化プログラムの欠陥「ハートブリード」は、世界のウェブサイトの3分の2が影響を受けるとされています。深刻なセキュリティの危機が懸念されていますが、セキュリティの専門家やプログラマーは、深刻な欠陥はハートブリードだけではないと警告しているといいます。

私たちは便利で時間の節約になりますから、日常的にインターネットを使っています。ネットで買い物をし、ネットで決済をし・・、といったことを平気で行っていますが、それが実は危機に晒されているというのです。自分が被害に遭わない限り、平気でいますが、一連の記事を読む限り、薄氷の上を歩いているというのがどうやら実態のようです。ただ、私たちは専門家ではないので、どうすることもできません。たまたま被害に遭わないのはラッキーというだけなのでしょうか。

Newsweek記事の執筆者は、wifiに無防備に頼りすぎないこと、パスワードは利用するウェブサイトごとに設定し紙に書いて安全なところに保管しておく、といった注意をするだけでより安全になると書いています。とりあえずはそのような基本的なことから安全に留意するしかないのでしょう。いずれにしても、便利さと引き換えに、私たちは不安感と不信感に絶えず、さいなまれ続け、怯え続けなければならなくなるのでしょう。(2014年4月25日 香取淳子)

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

インターネット帝国の時代?:グーグルの野望

日経産業新聞(2014年4月23日付)を読んでいて、興味深い記事を見つけました。”「次の10億人」巡り空中戦”、”グーグルvs. フェイスブック”という見出しの記事です。

日本の中だけにいるとよく見えてこないのですが、いま、ネット企業による利用者の争奪戦が展開されています。記事はグーグルとフェイスブックの戦いに焦点を当てて報告されていますが、これがなかなか面白いのです。

■グーグル vs. フェイスブック

シリコンバレーから日経産業新聞の小川義也記者は、以下のように伝えています。

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米グーグルと米フェイスブックが無人機を使って、空からインターネット接続サービスを提供する計画を相次いで打ち出した。両雄が狙うのは「ネクスト・ビリオン(次の10億人)」と呼ばれる発展途上国の中間層。ネットの覇権を懸けた巨人同士の争奪戦は、大空を舞台に新たな局面に入ろうとしている。

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フェイスブックはすでに2011年末に「その他」地域が北米、欧州、アジアを抜いています。また、グーグルは2013年、「その他」地域の売上が米国を抜きました。両社にとって「その他」地域に向けたサービスの開発は必然なのです。

ちなみに英オックスフォード大学インターネット研究所は国別にもっともよく使われているウェブサイトをマッピングした地図を公表しました。

■オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づく世界地図

下図は、オックスフォード大学インターネット研究所のデータに基づきマッピングした世界地図です。

A map of the most visited website, by country.

上の図は、”Age of Internet Empires: One Map With Each Country’s Favorite Website”というタイトルの記事の中で使用されていたものです。2013年10月4日付の記事で、筆者はRobinson Meyer 氏、The Atlantic誌の編集次長です。彼は英オックスフォード大学インターネット研究所が発表した世界地図を紹介し、グーグルは欧米を中心に63か国で首位、フェイスブックは中南米や中東を中心に50か国で首位だったと報告しています。

詳細はこちら。http://www.theatlantic.com/technology/archive/2013/10/age-of-internet-empires-one-map-with-each-countrys-favorite-website/280287/

私などはこの地図を見て、中国は百度(Baidu)、日本はYahooなど、ウェブサイトの利用にも国別の違いがあることに目が向いてしまいますが、世界的観点からいうと、やはり注目すべきはグーグルとフェイスブックなのでしょう。その二強が無人機を使って、通信網の整備が遅れている地域でネット接続サービスを提供するというのです。

そして、小川記者は、「グーグルとフェイスブックの空中戦の最大の舞台になりそうなのが、国内に強いプレイヤーがいないアフリカだ」と書いています。

■インターネット帝国の時代?

インターネットのウェブサイトを通し、国境を越えて情報が流通しています。おそらく、世界認識、価値観、美意識などもウェブサイトを通した情報によって形成されるようになっているのでしょう。当然、政治、経済、社会、すべてに大きな影響を与えています。

どのウェブサイトがよく利用されているのか、それが大きな意味を持つようになってきているのです。だからこそ、英オックスフォード大学インターネット研究所が研究を開始したのでしょう。すでに、利用者を巡る争奪戦がネット企業間で展開されています。まさにインターネット帝国時代の到来といっていいでしょう。

■グーグルの野望

インターネットを制覇するため、グーグルやフェイスブックなどネット企業は次世代のボリュームゾーンに向けて、食指を伸ばしています。次の主要なターゲットは発展途上国の中産階級だというわけで、彼らに向けた空からのネット接続サービスのための技術開発、関連企業の買収に動いています。

SNSを主軸にしたフェイスブックとは違って、検索エンジン、クラウド・コンピューティングを主軸に事業を拡大してきたグーグルは目に見えない力を行使するようになっていることがわかります。ますますグーグルの動きから目が離せなくなってきました。(2014/4/23 香取淳子)

 

Googleはイノベーションを促進するか?

Googleはイノベーションを促進するか?

安倍政権は成長戦略の一つとして、起業の開業率を現在の5%弱から倍に引き上げることを目標にしています。とはいえ、閉鎖的な日本の企業風土を見ると、それが可能なのかどうか、はなはだ心もとないといわざるをえません。これまでに何度か若手起業家が華々しくデビューしたことがありましたが、すぐに潰れてしまいました。日本には起業家を育てる風土はなく、志を持った人々にとって起業しやすい環境とはいえないのが実情です。そんな中、米グーグル出身の若手日本人が次々と起業をしているというのです。

■Google出身の若手起業家、次々と誕生

日経新聞(2014年4月18日付)は米グーグルの日本法人出身の起業家が増えていると報じていました。美容院やヨガ教室を対象に、スマホで予約を受けて管理するサービスを始めたクービック社長の倉岡寛氏、クラウド・コンピューティングを活用した会計サービスを展開するfreee CEOの佐々木大輔氏、広告関連技術のフリークアクト設立した佐藤祐介氏、ネットを通じだチケット販売・イベント管理サービスを手掛けるイベントレジストCEOの平山幸介氏、等々(下図、参照)。29歳から40歳の若手です。いったい、なぜ、グーグルはこれだけの人材を輩出することができたのでしょうか?

 

上記資料:日経新聞(2014年4月18日)より

 

■起業はGoogleの企業文化が生み出した?

この記事を書いた日経新聞の奥山和行記者は、グーグルでは起業が身近だったことに加え、グーグルの企業文化が新たな事業を興すことを後押ししたと分析しています。グーグルには、技術者が働きやすく、彼らの意欲を喚起する仕組みに大きなコストと時間を費やす企業文化があったというのです。さらに、規模の急拡大や海外対応に備えたサービスの開発がいわば前提となっているのが、グーグルの特徴だったといいます。たとえば、クービックはサービス開始直後から日本語に加え、英語と韓国語に対応していますし、イベントレジストは当初からインドネシア語を含む5か国語に対応しているようです。

■Google出身起業家の特徴

上図をみてもわかるように、グーグル出身の起業家が立ち上げているのはインターネットをベースに海外展開を目指す企業だという点に特徴があります。そもそもグーグル自体が、検索エンジンやクラウド・コンピューティング、ソフトウエア、オンライン広告などのインターネット関連のサービスや商品を提供する米の多国籍企業ですから、そこから巣立った彼らがそのような志向性を持つのも当然といえば当然のことです。そして、そのような彼らが起業したビジネスで成功を収める確率が高いということは、彼らが持つ能力や価値観、視点がいまの時代にきわめて適合的だということを示しています。

■デジタルエコノミー時代の競争

2014年3月14日、国際シンポジウム「デジタルエコノミーにおける競争政策」が開催されました。登壇者からの指摘が興味深く、考えさせられました。印象に残ったところをかいつまんで紹介することにしましょう。

たとえば、仏トゥルーズ大学のクレメール教授は「デジタルエコノミーでは起業の規模が大きくなると効率も大幅に向上する」と述べています。また、米ボストン大学のライスマン教授は「デジタル産業に移行したことで、規模の経済が働きやすくなり技術革新も激しくなった」と述べています。両者とも、デジタルエコノミーの時代には規模の経済が大きく働くようになるといっているのです。ですから、米グーグル出身の起業家たちはいずれも規模の急拡大に耐えるシステム、多言語に対応したサービスを構築したのでしょう。

クレメール教授はデジタルエコノミーでは技術革新が激しく、企業の独占はあまり長く続かないと述べ、AOLの例をあげています。私もAOLメールを使っていたことがありましたが、一時、AOLが市場を独占していたことは確かです。ところが、その後の技術革新の波に乗り切れず、独占的地位を失ってしまいました。このようにデジタルエコノミーの時代では、企業が安定して独占的な地位を占めることは難しく、競争が熾烈なものになっていくのは必至なようです。

■日本の国際競争力は?

IMD(経営開発国際研究所)の2013年世界競争力年鑑によると、日本の総合評価は24位でした。それ以前も、22位(2008年)、17位(2009年)、27位(2010年)、26位(2011年)、27位(2012年)といった具合で、予想していたよりはるかに低いものでした。(以上のデータは http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_6019129_po_074406.pdf?contentNo=1 )日本の科学技術力は世界のトップレベルだと思っていただけに、ちょっとショックでした。

ところが、研究開発投資や人材などの科学インフラの項目では日本は2位にランクされているといいます。ですから、かなり改善の余地があることは事実でしょう。とくに、企業の大学教育への評価、起業家精神などについては順位が低いといわれていますから、日本の強みを生かせるようにきめ細かく対応していく必要があるのでしょう。

■世の中のニーズとのマッチング

気になるのは、東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏の指摘です。彼は日経新聞(2014/4/18付)で「日本には今、技術がないのに、あるかのようなイリュージョンをみんなが持っている」と指摘しています。個々の技術はあるが、世の中の要求に対応する技術がないというのです。日経新聞編集委員の賀川雅人氏は中国などの追い上げ等を踏まえ、「日本の強みを生かせないままの失速が懸念される」とし、「日本は産学連携を強化してきたが依然不十分で、一層加速する必要がある」と結論づけています。

個別にみると、日本の科学技術に優れた側面はありますが、総合的な競争力という点では評価が落ちるのです。ニーズに対応しようとする姿勢が希薄なのでしょう。その点で、米グーグル出身の起業家たちは世の中のニーズを踏まえているだけではなく、さらに、急拡大への対応、多言語への対応なども基本要素としてサービスの構築を考えています。ビジネスとして成功するのも当然だという気がします。

■世界のベンチャーに目を向けるGoogle

グーグルは自身の体質を強化するために、世界のベンチャーに目を向けているようです。イスラエルのベンチャー企業Wazeを買収しました。この企業はスマホ向け地図アプリなどを開発しています。グーグルはこの企業が開発したアプリ利用者が提供するデータに基づき、渋滞情報などを効率的に更新していく技術に自社との親和性を感じたからだといわれています。

Peter CohanはグーグルがWazeを買収した理由を四つあげています。すなわち、①Waze利用者の参加、②フェイスブックやアップルからWazeの囲い込み、③グーグルマップにはない特色がWazeにはある、④グーグルマップの代替としてWazeを利用、等々です。

 

FAIRFAX, CA - DECEMBER 13:  The Google Maps ap...

上記の写真:http://www.forbes.com/sites/petercohan/2013/06/11/four-reasons-for-google-to-buy-waze/

■グローバルな競争時代に生き残るための次世代技術

時代の潮流に乗っているグーグルは、競争力を維持するために世界に目を向けています。自社に必要な技術をもつベンチャー企業を買収するだけではなく、次世代につながる技術にまで手を伸ばそうとしているのです。なんとグーグルは2013年末にかけて8社のロボットベンチャーを買収したというのです(日刊工業新聞2014/4/18)。ロボットが次世代技術だとみなしているからでしょう。検索エンジンでスタートしたグーグルですが、時代の流れに沿って、次々と技術を手に入れ、商品化してきたことがわかります。

ロボットは情報端末でもあります。ですから、インターネット経由で家電製品にリンクし、掃除機に掃除させたり、洗濯機に洗濯させることができます。使用履歴から個人の情報を集約することもできます。このようにしてロボットが消費者からデータを収集できれば、さらなるサービスを生み出すことができるでしょう。つまり、グーグルは次世代技術をベンチャー企業から次々と買収することによって、対応しようとしているのです。

グローバルな競争時代に生き残るためにグーグルは、複層的な手段を講じています。一つは自由で新しいアイデアを創出しやすく、それを事業化しやすい企業文化を醸成していることです。実際、そのような企業風土の中からベンチャービジネスを立ち上げ、成功している人々がいます。さらには、自社内では創出できないようなビジネスについては世界中に張り巡らした探索網を通してキャッチし、買収しています。科学技術に強く、製品化に長けているだけでは不十分であることがわかります。グーグルやアマゾンなどのやり方を見ていると、英語圏であり、インターネットを開発したアメリカの強さを感じずにはいられません。(2014/4/19 香取淳子)

 

Google :日本の大学教育に参入

Google :日本の大学教育に参入

このブログでは今月に入ってから、次々とGoogleが様々なレベルで日本の教育に参入していることを報告してきました。就学前児童に対するもの、義務教育レベルの子どもたちに対するもの、通信制高校レベルの生徒に対するもの、いずれも、クラウド・コンピューティングシステムを使って、オンライン教育を実施するものでした。

「iPadとアプリゼミ」(4月11日)、「学びのイノベーション」(4月14日)、「Google:日本のICT教育支援」(4月15日)、「Google Appsで全面ネット制高校」(4月16日)、等々。

まだ始まったばかりなので、どのような結果を生むのかはわかりませんが、子どもについて実証研究を行ったところ、子どもたちが自発的に授業に参加している、楽しみながら学習に取り組んでいる、等々のpositiveな反応、国語については施行後の成績が上昇したという結果が得られています。

この流れでいえば、大学教育に取り込まれるのは時間の問題でしたが、案の定、今年の4月から京都大学でGoogleが関与するedXを使ったシステムでオンライン教育が行われました。

■MOOC と大学教育

いわゆるMOOC (Massive Open Online Courses) と呼ばれるオンライン教育システムの中で大学教育を対象にしたものとしては、Coursera や edX があります。大学講義系のMOOCは、大学としてプラットフォームに参加し、プログラムを提供しているので、基本的に教授が自分でコースを開設することは難しいといわれています。

日本の大学でMOOCに最初に参画したのは東京大学で、Courseraのプラットフォームで行いました。2013年9月に第一弾として「From the Big Bang to Dark Energy」、その後、第二弾として「Conditions of War and Peace」が提供されました。

東京大学によると、このオンライン授業は、「世界150ヵ国以上から8万人以上が登録し、約5400人が修了」したということでした。2014年度はさらに、経済学分野、情報学分野の2講座を新規に設定し、Courseraで開講する予定なのだそうです。

この記者発表ではさらに、東大では、このMOOC提供の取り組みを進展させるために、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(以下MIT)が出資して設立されたMOOCプラットフォームのedXと配信協定を締結し、2014年秋から提供することを伝えています。

詳細はこちら。 http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_260218_j.html

この記者発表では東大が2014年からedXでオンライン授業を開始することが明らかになりました。2013年に東大はCourseraでオンライン授業を開始したにもかかわらず、2014年からはedXでも始めるというのです。

■京都大学で始まったMOOC:edX

2014年4月10日から京都大学で生命科学のオンライン講義が開始されました。edXをプラットフォームにしたオンライン講義は日本ではこれが初めてです。提供されるのは、京大の上杉志成教授による「生命の科学」という授業でした。

講義の詳細はこちら。

https://www.edx.org/course/kyotoux/kyotoux-001x-chemistry-life-858#.U1D2rSyKDuh

英語を聞き取りにくい学生のために字幕付き、速度調節といった補助機能も装備されていたようです。そのせいか、受講学生の反応もよく、「How exciting!」 とツィッターで書いているほどです。

このedXは、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学が設立した非営利組織が運営するものです。米カリフォルニア大学バークレー校、米ジョージタウン大学がすでに講義を提供していますが、アジアでは京都大学、北京大学、精華大学、ソウル大学などが参加しています。

大学教育に向けたMOOCのプラットファームとしては、Coursera と edX があります。これらがどのように違うのか、見てみることにしましょう。

■Coursera と edX

北海道大学の重田准教授によると、Courseraの受講者が400万人以上、 edXの受講生は120万人だそうです。設立されて間もないにもかかわらず、大規模な人数の参加がみられます。なぜ、急激に普及してきたのでしょうか。

Kisobiファウンダーの浦部洋一氏はその原因を以下のように考察しています。

*********

・大学の授業内容を、誰でも受講可能にしている。

・基本的いん、無料で受講できる(修了認定証などは有料の場合がある)

・講義画面を公開するだけではなく、レポートを提出したり、コミュニティで議論したり、実際のクラスに近い仕組みを提供している。

・多くの大学が参加しており、講義の種類と量が増えている。

・インターネットの高速通信や、ノートPC、タブレット端末の普及、などオンライン学習に適したインフラが整ってきた。

・クラウドなどのIT技術の進化により、動画の配信やWebサイト運営のコストが大幅に下がった。

・MOOCsベンチャーをVCが支援しており、各社サービスが充実している。

*********  以上。 詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

このように利点は多いのですが、浦部氏は次のようにMOOCsの課題を指摘しています。

********

①ビジネスとして成立するのか?

②MOOCsの授業の学習効果は低いのではないか?

******* 以上。   詳細はこちら。 http://kisobi.jp/online-learning/3604

まだまだ始まったばかりのMOOCsであるが、世界の著名大学がこの方向で動いているので、日本の大学もこの流れに乗らざるをえなくなると思います。日本でもまずは東大、京大といったトップ校から開始されています。

京都大学の授業に対する学生の反応から明らかになったように、字幕や速度調節など、英語を聞き取りにくい学生のための補助装置が装備されているようです。ですから、今後、この流れは加速していく可能性があります。

デジタル教材の無料公開、デジタル教材を使った教育環境、等々が教育の機会均等に大きく貢献することは確かです。しかも、これはグローバルな展開が可能です。環境整備が整えば、意欲の有無が学習機会の多寡にこれまで以上に大きく影響してくるでしょう。いよいよ大学教育のグローバル化の時代を迎えたのです。(2014/4/18 香取淳子)

 

Google : 日本のICT教育支援

Google : 日本のICT教育支援

情報機器の進化に合わせ、社会が大きく変化しています。それに対応して、教育内容、方法、教材も変えていこうというのが、最近の文科省をはじめとする一連の動きです。今回はNPO法人CANVASのプログラムを紹介することにしましょう。

■PEG、東京大学でキックオフイベント開催

2014年2月8日、東京大学でPEGのキックオフイベントが開催されました。PEGとは、Programming Education Gatheringの略で、6歳から15歳の子どもを対象にプログラミング学習を普及させていくことを目的にしたプロジェクトです。その主体は子ども向け参加型創造・表現活動の全国普及・国際交流を 推進するNPO法人CANVAS です。CANVASがGoogleと連携し、「コンピュータに親しもうプログラム」を立ち上げたのです。

詳細はこちら。 http://www.canvas.ws/programming/event.html

ちなみにGoogle はこの2013年10月29日、日本のICT教育を支援するため、「コンピュータに親しもう」プロジェクトを開始すると発表しています。GoogleがRaspberry Piを5000台提供し、CANVASと協力して1年で2万5000人以上の児童・生徒の参加を目指すというのです。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20131029/514542/

■Raspberry Pi

ここでは、Raspberry Pi や Scratch を使ったワークショップが中心になっています。義務教育の場である小中学校にはパソコンが配備されているというのに、なぜ、パソコンではなく、小型のPCボードであるRaspberry Pi を使うのでしょうか。

Raspberry Pi - Wikipedia

上の写真がRaspberry Piです。非常にシンプルなカード・サイズのコンピューターで、誰でも簡単にプログラムすることができるといわれています。それにしてもなぜ、すでにパソコンが配備されているのに、Raspberry Piなのでしょうか。

■なぜ、Raspberry Pi なのか

このPEGのワークショップを監修している阿部和弘氏に対するインタビューをみてみることにしましょう。

阿部氏はこれまでにRaspberry Pi 上でScratchを動かすワークショップを数多く実施してきたそうです。その阿部氏が経験を踏まえ、子どもたちがプログラミングを継続して学習するには、現状ではRaspberry Pi が最も適していると判断しているというのです。

彼はその理由として以下の5点を挙げています。

**********

①コスト:Raspberry Pi は他のデジタル機器に比べ非常に安価。高機能版でも3000円代から入手可能。

②基盤むき出しで提供されている:基盤がむき出しになっているので、教育向き。

③地デジ対応TVに接続して使用可能:家庭の地デジに接続可能なので、学校だけではなく、家庭でも使用できる。

④Raspberry Pi にはGPIO(汎用入出力)があること:GPIOはきわめて原始的な入出力端子なので、LED(発光ダイオード)、センサー、スイッチなどをつないで電子工作が容易にできる。

⑤自らプログラムを書けること:Raspberry Pi では子ども自身がプログラムを書いて何かを作り出す環境が整っている。Scratchなどが用意されており、それらを使ってモノ作りを体験できる。

****** 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

■主体的に学ぶとは?

たしかに、これまでの情報機器は与えられたアプリケーションを消費するだけでした。義務教育の段階で、自分でプログラムを作る機会が与えられれば、子どもたちは能動的に情報機器を活用するようになるでしょう。それこそが情報社会に適応していくための教育といえます。

阿部氏はこうも述べています。

**********

Raspberry Pi のように子どもたちが主体的に扱えるデバイスを使えることが大事だと考えている。

理想的には一人一台ということが重要だ。自分のものになれば、だれにもじゃまされずに使えるし、愛着もわく。自分のRaspberry Pi を使って何かを作ろうというモチベーションになる。

子どもにRaspberry Pi を与えるというのはLinuxワークステーションを与えることと同じであり、スキルさえあれば何でもできる。

ネットにつながってなんでもできるRaspberry Pi をもらうということは、自由を得るだけではなく相応の責任を負うことにもなる。

だからこそ、はじめは保護者やファシリテーターの目の届くところで使ってもらう必要がある。危険なものを子どもから取り上げるのではなく、その扱い方をきちんと身につけてもらおうとしている。

********* 以上。

詳細はこちら。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140304/541114/

このように阿部氏は、Raspberry Pi を教育で活用することの意義を説明したうえで、これを提供する先は、「Raspberry Pi を使って何かできないだろうか」という意欲を持った組織だと言明しています。

■情報(情報機器等)を生産することを学ぶ

21世紀に入って早14年目になってしまいました。この間の情報革命は驚くほどの勢いです。使い勝手がいい状況で消費者の前に登場してくるので、その仕組みがわからないまま、日々、私たちはスマホやタブレットに接触しています。

いまや仕組みがわからないまま使っていることにさほど危機感を覚えず、新しい機器の操作に慣れようとしています。はたして、それでいいのでしょうか。それこそ、情報(情報機器等を含む)を生産できる側と、ただ消費するだけの側とに分離してしまっているように思えます。

それがおそらく新たな格差の根源になっていくのでしょう。だとすれば、それこそ義務教育の段階から情報(情報機器等を含む)を生産できる能力を養うことが重要なのではないかと思います。(2014/4/15 香取淳子)

学びのイノベーション:授業の電子化

学びのイノベーション:授業の電子化

知らない間に教育現場のICT化が進んでいるようです。日経新聞(2014年4月12日付)は、「タブレットや電子黒板活用」「授業分かった、9割」との見出しをつけて文科省が出した報告書の内容を紹介しています。はたしてどのような内容だったのか、文科省のホームページを参照しながら、概観してみることにしましょう。

■実証研究の報告書

4月11日、文部科学省は電子教材を使って授業する実証研究についての報告書を出しました。今回の実証研究は教育のICT化に関するもので、2011~2013年度に、小中学校の児童・生徒約5700人を対象に実施されました。この3年間に文科省は、ICTを活用した教育の効果・影響についての検証、指導方法の開発、デジタル教科書・教材の開発などを行ってきましたが、その結果についての報告です。

たとえば、ICTを活用した指導方法の開発についてはどうなのか、報告書の概要からその一端を紹介しましょう。

■ICTを活用した指導方法の開発

これについては学習場面ごとにICTの活用を類型化し、実証実験を行っているようです。

①従来型の一斉学習については、教材、教具の電子化により、わかりやすい授業が試行されています。

②個別学習については、ⅰ習熟度に応じた個別学習、ⅱ調査活動を通し、ネットでの情報収集、写真や動画による記録、ⅲシミュレーションなどのデジタル教材を活用し、思考を深める学習、ⅳマルチメディアを活用し、資料や作品の制作、ⅴ情報端末の持ち帰りによる家庭学習、などが試行されています。

③協働学習については、ⅰグループや学級全体での発表や話し合い、ⅱ複数の意見や考えを議論して、意見を整理、ⅲグループでの分担、協働による作品の制作、ⅳ遠隔地や海外の学校等との交流授業、などが試行されています。

これはほんの一端ですが、文科省は、以上のように授業のイノベーションを通して教育改革を行い、次世代を担う人材を育成しようとしているのです。内容を見ると、これまでにいわれてきたこととそれほど大きく変わることはありませんが、「思考を深める学習」が取り上げられているのは興味深いことです。

産業化社会としてくくられることの多かった20世紀とは明らかに社会の在り方が異なってきています。学びの多様性を実現するために、教育改革、とくに、指導方法の開発は重要です。

子どもたちが今後どのような社会で生きるようになるのか、それを踏まえた上での基礎学力、教養、処理能力の育成が行われなければなりません。下図は先導的な教育ICTシステムです。

■先導的な教育ICTシステム

 

上の図は、http://www.japet.or.jp/Top/Cabinet/?action=cabinet_action_main_download&block_id=12&room_id=66&cabinet_id=1&file_id=287&upload_id=1270

図にしっかりとクラウドが示されているように、このような教育システムはクラウド・コンピューティングの技術によって支えられています。クラウドなど最先端技術によって、学校間、学校と家庭などで情報を共有し、垣根の障壁を超え、シームレスに交流できるような教育体制が構想されています。

3年間にわたる実証研究の結果、授業のICT化によりとくに国語の成績の悪い層の割合が10ポイント減少されたと報告されています。子どもたちに関心をもってもられるような授業内容にすることによって、とくに国語で効果が見られたというのです。

情報技術やメディアの発達によって、今後ますます複雑で多様な社会になっていくのだろうと思われます。それだけに、社会変容に見合った教育が必要です。教育現場では実証実験をし、その結果の検証作業を繰り返しながら、より適切な内容のものに組み替えられていくのでしょう。

どうすれば、子どもたちが社会の中で自分の居場所を見つけ、自分の能力を存分に発揮して生きていくことができるようになるのか、その基盤となる能力を養成する教育システムの重要性はますます高まってくると思います。慎重で積極的、かつ的確な教育改革を望みます。(2014/4/14 香取淳子)

 

Google:情報社会のリスク

Google:情報社会のリスク

■相次ぐ情報流失

4月10日に引き続き、4月11日にはJR東京駅やJR新大阪駅の平面図も誰もが閲覧できる状態になっていたことが判明しました。誤って非公開にしておかなければならない情報を、グーグル社員らが公開していたからだとされています。

■Googleの革新

Gメールはこの10年間で利用者数が5億人を超えたようです。私もGメールの登場までは他のメールサービスを利用していたのですが、Gメールの利点を知ってから切り替えました。一番の理由は、検索機能が優れているからです。

受送信したメールは自動的に保存され、キーワードを入れるだけで膨大な量のメールの中から該当するメールを探し出してきてくれます。しかも、最近は、受信メールを自動的に、メイン、ソーシャル、プロモーションの3種に振り分けてくれるので、大量のメールを手際よくチェックすることができます。その上、保存量が多い。これも重宝している理由の一つです。

それ以外にもさまざまな機能があります。Gメールにはいったん利用すると手放せなくなってしまう利便性があるのです。だからこそ、世界最大のメールサービスを提供するようになったのでしょう。とはいえ、はたして利便性だけでGメールを重宝がっていていいものか、という問いかけがCNN電子版(2014/4/1)に掲載されています。

「Gmail at 10:How Google dominated e-mail」というタイトルの記事です。

詳細はこちら。http://money.cnn.com/2014/04/01/technology/gmail/

この記事では、グーグルがこの10年間でさまざまなイノベーションを行ってきたことを評価しています。また、グーグルが行ってきたイノベーションは必ずしも利用者に受け入れられたわけではありませんが、グーグルがイノベーションを続ける姿勢を崩さないことも評価しています。

■プライバシー侵害

ただ、プライバシーについては、たとえば、グーグルが2010年2月から提供しはじめたソーシャルネットワークであるGoogle Buzzの例をあげ、みじめな結果に終わったとしています。Google BuzzはGmailと連動させて利用促進を図っていたサービスでした。そのため、サービス開始当初から個人情報の流出が危惧されていたようです。このサービスは、プライバシーに疑義が生まれたせいで、ほどなく終了し、今ではGoogle+に一本化されています。ストリートビューもまた大きな論議を呼びました。

New Logo Gmail.svg

 

■信頼性、安全性

信頼性に関しては記事は、グーグルがGメールからどんな情報を集め、それに基づき、どのように利用者に広告を提供しているかについては明らかにしようとしてきたと述べています。

Gメールの場合、受信したメールは自動的に解析され、内容に関連する文字の広告が表示されるようになっています。つまり、勝手にメールが覗き見されているのです。ですから、それが利用者を不快にさせていることも事実です。ところが、これについてGoogleは、電子メールの自動スキャンはプライバシーの侵害には当たらないという態度のようです。私もそれがわかっていながら、結局、Gメールは利便性が高いので使っています。

■フリーメールの安全性とリスク

私のように、グーグルによって受信メールがスキャンされていることがわかっていても、利便性の方を優先させてしまっているヒトは多いのではないでしょうか。無料であり、利便性が高いのであれば、プライバシー等のリスクは見逃してしまうというような・・・。

もっとも、電子メール自体、その信頼性は非常の脆いのだそうです。さらに、Gメールの信頼性、安全性については次のような指摘もあります。

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Gmailというシステムは、そのメールというプロトコル自体の脆弱さを抜きにすれば、セキュリティとしては個人が利用できるものではほぼ最高峰に近い。

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詳細はこちら。http://blogos.com/article/68266/

■情報社会のリスク

いまでは誰もが日常的に電子メールを利用しています。そして、メールは専門家、秘匿しなければならない部門の人びとも利用します。ですから、空港の情報流失等にみられるように、情報社会になると情報流失のリスクが高まってくることになります。いかにそのリスクを回避するか、一連の情報流失事件をみると、そのためのシステム構築の重要性がさらに高まってきたと思います。(2014/4/13 香取淳子)