■ケネディを厚生長官に指名
2025年1月20日、再び、トランプ大統領が誕生しました。アメリカを偉大な国にするための人事が物議をかもしています。昨年11月14日以来、医療、製薬業界から強い反発を受けているのが、ロバート・ケネディ・ジュニアの厚生長官指名でした。
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(※ https://www.bbc.com/japanese/articles/c1dpknq45xqoより。図をクリックすると、拡大します)
2024年11月14日、アメリカ大統領に決まったトランプは、さっそく、弁護士のロバート・ケネディ・ジュニアを厚生長官に指名すると発表しました。厚生省は、疾病対策センター(CDC)、食品医薬局(FDA)、国立衛生研究所(NIH)などを管轄する重要な政府機関です。米国人の健康や食全般を管理する組織の長官として、トランプはケネディを指名したのです。
発表するやいなや、トランプは、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル(”Truth Social”)」で、「アメリカ人は長い間、公衆衛生の欺瞞、誤報、偽情報を拡散してきた食品産業複合体と製薬会社に押しつぶされてきた」とぶち上げました。
そして、ケネディが長官に就任すれば、「厚生省は、アメリカで圧倒的な健康危機の一因となっている有害な化学物質、汚染物質、農薬、医薬品、食品添加物からすべての人々を確実に守る上で、大きな役割を果たすだろう」と述べました。
(※ 前掲。URL)
いきなり食品業界、製薬業界を攻撃した上で、改善できるのはケネディだとアピールしたのです。いかにもトランプらしい派手なパフォーマンスでした。もちろん、トランプは、ロバート・ケネディ・ジュニアが公衆衛生行政を取り仕切ることによって、「米国は再び健康になる!」と自身のキーフレーズをもじって、アピールすることも忘れません。
ロバート・ケネディ・ジュニアは、実は、民主党員でした。ところが、大統領選には無所属で立候補し、環境保護や薬物問題への取り組みを訴えてきました。それが高く評価され、それなりに支持を集めていました。
ところが、大統領選に勝利するには程遠く、8月には選挙戦から撤退することを表明しました。以後、トランプを全面的に支持する側に回ってきました。
トランプは選挙活動を共にするうち、ロバート・ケネディ・ジュニアの考え方、価値観、世界観などを把握したのでしょう。自分と志を一つにして、アメリカの健康行政を任せられると判断し、当選すると早々に、彼を厚生長官に指名しました。
もちろん、トランプ大統領から指名されたといっても、上院の承認がなければ、就任することはできません。なんといっても、厚生長官は重要なポストです。政権人事にはそれだけのチェック機能が働くよう制度化されているのです。
それでは、ロバート・ケネディ・ジュニアがどういう人物なのか、彼の来歴、考え方、世界観などについて簡単に振り返っておきましょう。
■ロバート・ケネディ・ジュニアとは?
まず、ロバート・ケネディ・ジュニアは、あの有名なケネディ一族のメンバーだということを言っておく必要があるでしょう。彼が9歳の時に、叔父であるジョン・F・ケネディ大統領が、ダラスでパレード中に暗殺されました。1863年のことでした。
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また、彼が14歳だった1968年、父親であるロバート・ケネディ元司法長官が、ロサンゼルスで大統領選のキャンペーン中に暗殺されました。
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(※ Wikipedia。図をクリックすると、拡大します)
現職の大統領、現職の上院議員官が、公衆の面前で暗殺されたのです。両事件ともとりあえず、犯人は逮捕されましたが、真相はわからないまま、数十年が過ぎました。多感な時期に叔父と父親を銃撃されたロバート・ケネディ・ジュニアは、政治の世界がいかに厳しく、苛酷で、魑魅魍魎なものなのか、よく知っているはずでした。
多くの人々の面前で暗殺が行われ、いまだに誰もが納得できる事件の解釈ができないでいます。何十年というもの、大勢の人々が調べあげ、推測しようとしても、なかなか真相にはたどり着けませんでした。というのも、長い間、事件の記録が伏せられてきたからでした。
トランプ大統領は就任してまもない1月23日、ジョン・F・ケネディ元大統領の暗殺事件に関する記録の全面公開を担当部署に命じました。未公開となっている記録を機密解除する大統領令に署名したのです。
米国立公文書記録管理局によると、元大統領暗殺の記録は約500万ページにも及ぶそうです。2022年12月時点で97%以上が公開されましたが、安全保障上の理由などで未公開のものもあるといいます。
逮捕後に射殺された犯人リー・ハーベイ・オズワルドの単独犯とアメリカ政府は断定していますが、あまりにも不自然です。当時の映像を照合しても、辻褄が合わないのです。中央情報局(CIA)や旧ソ連、キューバなどの関与しているのではないかという説は今なお消え去っていません。
また、1968年に暗殺された元大統領の実弟ロバート・ケネディ元司法長官とマーティン・ルーサー・キング牧師の記録も機密解除されました。
トランプ大統領のおかげで、これら謎の多い暗殺事件についての機密がとりあえず解除されたのです。この時、ホワイトハウスに集まった記者団に向かって、「大きな一歩だ。多くの人が長い間待っていた」とトランプ大統領は語ったといいます。
トランプ大統領の就任後の一連の行動を見ると、これまでアメリカ社会が抱えてきた闇を一つずつ暴いていこうとしているかのように思えます。
そして、残念なことに、闇は今なお、アメリカ社会を覆い、混乱させているように見えます。
今期のトランプ大統領は、アメリカ社会に巣くってきた闇を次々と暴き、透明性のある社会に再構築していこうとしているように思えます。ロバート・ケネディ・ジュニアを厚生長官に指名したのも、おそらく、彼なりの課題解決の一環なのでしょう。
それでは、ロバート・ケネディ・ジュニアの価値観、世界観はどのようなものなのでしょうか。
■ロバート・ケネディ・ジュニアの問題意識
民主党員のロバート・ケネディ・ジュニアは、無所属で2024年の大統領選に出馬しました。ワクチンや環境問題など、見るに見かねない政治状況が進行し、悪化していました。アメリカ社会はすでに分断され、解決の方法もないような状態になっていました。
ケネディは著書を出し、人々に警告を発してきましたが、それには限界があります。影響力も少なく、現状を変えることはできませんでした。そこで、いっそ大統領になって、制度を変えるべきだと考えたのでしょう。
ところが、こちらはさらに闘う相手が巨大すぎました。当選の見込みがないことが明らかになった8月に、大統領選から撤退し、トランプ氏が大統領の支持に回りました。
ケネディ氏が関心を抱いていたのは、ワクチン行政や食品行政でした。コロナワクチンについては、「すべてのワクチンは安全ではなく、効果もない」と発言しており、著書では、「ファウチ医療顧問や、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツはパンデミックを利用し、民主主義へのクーデタを起こした」というような主張もしています。
ロバート・ケネディ・ジュニアがなぜ、大統領選に出馬したのか、その理由を推し量ることのできる著書があります。
“The Real Anthony Fauci: Bill Gates, Big Pharma, and the Global War on Democracy and Public Health”という本で、2023年2月14日に“Skyhorse”から出版されました。
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(※ Amazon English version。図をクリックすると、拡大します)
■“The Real Anthony Fauci: Bill Gates, Big Pharma, and the Global War on Democracy and Public Health”の概要
アマゾンのページを見ると、53人からのコメントがつき、4.8の高い評価がついています。まず、ここで紹介されているこの本の概要を見てみることにしましょう。以下の文章はおそらく出版社の担当者が書いたものなのでしょう。
『The Real Anthony Fauci』では、ファウチが初期のエイズ危機の際、製薬会社と提携してエイズの安全で効果的な特許切れの治療法を妨害し、「アメリカの医師」としてそのキャリアをスタートさせた経歴を明らかにしています。
また、ファウチは不正な研究を画策し、その後、エイズに効果がないことを知っていたにもかかわらず、米国食品医薬品局(FDA)の規制当局に致命的な化学療法を承認するよう圧力をかけました。
このようにファウチは、連邦法を繰り返し違反し、製薬会社のパートナーが貧困層の黒人の子供たちを有毒なエイズやがんの化学療法の治験の対象とすることを許可しました。
さらに2000年初頭、ファウチはシアトルにあるゲイツ氏の邸宅の書斎でビル・ゲイツ氏と握手し、無限の成長可能性のあるワクチン事業を掌握することを目指し、パートナーシップを固めました。
こうして世界的な資金力と、国家元首や主要メディア、ソーシャルメディア機関との間に培われた関係を通じて、製薬会社、ファウチ、ゲイツの同盟は結成され、世界の保健政策を支配するようになりました。
つまり、『The Real Anthony Fauci』では、ファウチ、ゲイツ、その関係者たちが、メディア、科学雑誌、主要な政府機関および準政府機関、世界諜報機関や影響力のある科学者や医師に対する支配力を利用して、COVID-19の毒性と病因に関する恐怖のプロパガンダを大衆に流し、議論を封じ込め、反対意見を容赦なく検閲する様子が詳細に解説されているのです。
そのようなことが可能になったのは、ファウチが、国立アレルギー感染症研究所 (NIAID) の所長として、納税者から提供される年間 61 億ドルの資金を科学研究に配分し、世界中の科学的健康研究の主題、内容、結果を決定できる権限を与えられていたからでした。
ファウチは、自由に使える莫大な資金力を利用して、病院、大学、ジャーナル、そして何千人もの影響力のある医師や科学者に並外れた影響力を行使することができました。彼らのキャリアや所属機関を台無しにしたり、昇進させたり、報奨を与えたりする力を使ったのです。
(以上、アマゾン英語版より)
ファウチ(Anthony Stephen Fauci, 1940年12月24日 – )に焦点を当て、アメリカの医学界、政府、メディア、製薬業界などが一体化して、ワクチン行政を進めてきたことを明らかにしています。それでは、この本に対するレビューをいくつかご紹介しましょう。
■レビュー
「ヨーゼフ・ゲッベルス博士は『一度ついた嘘は嘘のままだが、千回ついた嘘は真実になる』と書いています。人類にとって悲劇的なことに、ファウチ博士とその手下たちから発せられる嘘は数え切れないほどあります。RFKジュニアは何十年にもわたる嘘を暴露しています。」
—Luc Montagnier, Nobel laureate
「ボビー・ケネディは私が今まで出会った中で最も勇敢で、妥協を許さない誠実な人物の一人です。いつか彼はその功績を認められるでしょう。それまでの間、この本を読んでください。」、「あらゆる嘘にもかかわらず、あるいはその反動として、ボビーは正真正銘の民衆の英雄になりつつあります。私はいつもその言葉を耳にします。」
—Tucker Carlson
「ロバート・F・ケネディ・ジュニアは、法廷弁護士として、世界有数の大企業を相手に、人々や環境に害を与えた責任を追及してきました。これらの企業は不正行為を否定しましたが、裁判官や陪審員は何度もケネディの立場が正しいと納得しました。ケネディの情報は常に考慮されるべきであり、賛成か反対かにかかわらず、私たちは皆、彼の話を聞くことで学びます。」
—Tony Robbins, New York Times bestselling author
「ボビー・ケネディと私は、新型コロナウイルスとワクチンをめぐる現在の議論の多くの側面で意見が一致しないことで有名です。ファウチ博士についても意見が一致しません。しかし、ボビーの意見を読んだり聞いたりすると、いつも学ぶことがあります。だから、この本を読んで、その結論に異議を唱えてください。」
—Alan Dershowitz, Felix Frankfurter Professor of Law, Emeritus, at Harvard Law School; author of The Case for Vaccine Mandates
(以上、アマゾン英語版より。投稿者の名前は太字で示しています)
この本については評価も高く、好意的な意見が多いですが、実際にケネディが厚生長官に指名された時、多くの人々が反対しました。利害関係がある人々は当然、反対表明をし、ケネディ就任に決定権を持つ上院議員に働きかけを行っています。
上院の承認を得なければ承認されないので、上院議員に対し、関係する各界から次々と、ケネディの就任に対する反対意見や署名、手紙などが送られました。
■反対表明
関係業界からさまざまな反対表明が代表的なものをいくつか、ご紹介しましょう。
●ケネディ就任に警戒する製薬業界
ケネディはかねてから、ワクチンに対して懐疑的な立場をとっていました。一応、「米国民からワクチンを取り上げるつもりはない」と発言していますが、実は、「ワクチンには大きな欠陥がある」とし、「科学的な研究を確実にし、人々が情報を基に選択できるようにする」ことが必要だと述べています(※ Bloomberg, 2024/11/15)。
さらに、製薬業界の改革を政治目標として掲げており、業界への規制強化や料金制度の見直しを主張していました。
それだけに、トランプ大統領がケネディを厚生長官に指名したことが発表されると、ワクチンメーカーの株が軒並み下がりました。モデルナは5.6%安、ファイザーは2.6%安、ビオンティックとノババックスは7%安といった具合です。
一方、メディア側は、「医療や公衆衛生の分野の専門教育を受けたことがなく、環境問題を専門にする弁護士であるケネディは、保健福祉省という巨大官庁のトップとしては異例の人選だ」としています(※ Wired, 2024/12/9)。
確かに、厚生省の傘下には、食品医薬品局(FDA)、疾病予防管理センター(CDC)、国立衛生研究所(NIH)、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)などの大きな組織があります。高度な専門家集団を抱えているのです。
だからこそ、関連業界でのキャリアのないケネディが、厚生長官を務めるには不適格だというのですが、ケネディは、これまで過剰な加工食品の取り締まりや予防医療の推進など、党派を超えて支持される提言をしてきました。狭い専門知識に毒されていないからこそ、医療行政、食品行政を多面的に捉えることができる利点も見過ごせないでしょう。
トランプ大統領がケネディのメリットとして捉えた特性を、彼らはデメリットとして制限をかけているのです。
●反対表明するノーベル賞受賞者たち
興味深いのは、77人のノーベル賞受賞者らが、米上院宛てに12月9日付けの書簡を送りつけたことでした。彼らは、ケネディが厚生長官に就任すれば、アメリカの公衆衛生を危険にさらし、「健康科学における米国の世界的リーダーシップを損なう」ことになると警告し、上院議員らにケネディの指名を拒否するよう求めました。
この書簡に署名した著名なノーベル賞受賞者の中には、2024年の経済学賞受賞者であるサイモン・ジョンソンとダロン・アセモグル、2024年の医学賞受賞者であるビクター・アンブロスとゲイリー・ラブカン、2023年に新型コロナワクチンの1つを開発した功績で医学賞を受賞した免疫学者のドリュー・ワイスマンらが含まれていました。
ノーベル賞受賞者という権威をもって脅しをかけているのです。
トランプの政権移行チームの広報担当者はこれに対し、「米国民は、エリートたちからあれこれ指図されることにうんざりしている。この国の医療システムは壊れている。ケネディは、トランプ大統領のアジェンダを実行し、医療の信頼性を取り戻し、アメリカを再び健康にする」とコメントしています。
また、元ニューヨーク市長で、公衆衛生プログラムへの大口寄付者であるマイケル・ブルームバーグは、トランプ大統領にケネディの起用を再考するよう呼びかけました。彼は、ワクチンの懐疑論を流布するケネディを任命することが、「大規模な医療過誤」に等しい指摘し、「上院には、ケネディという極めて危険な指名を阻止する義務がある」と述べています。
(※ https://forbesjapan.com/articles/detail/75770)
こうしてみてくると、反対意見の多くは医療関係者、研究者、科学者などでした。後で述べますが、一般の人々はどちらかといえば、ケネディの指名をいい選択だと答えていたのです。これが何を意味するかを理解するには、先ほどご紹介したロバート・ケネディ・ジュニアの著作を深く読み込む必要があるのでしょう。
興味深いのは、親族からの強烈な反対表明でした。
●キャロライン・ケネディ
トランプ大統領から厚生長官に指名されたといっても、ロバート・ケネディ・ジュニアの就任には上院の承認が必要でした。そのための公聴会が、投票に先立ち1月29日に開かれることになっていました。
その前日の28日、従妹で元駐日大使のキャロライン・ケネディは、ロバート・ケネディ・ジュニアの厚生長官就任に反対を求める書簡を上院議員に送りました。この書簡の中で、彼女は、ロバート・ケネディ・ジュニアが自身の利益のためにワクチンを接種しないよう呼びかけたのだと述べ、彼には厚生省を率いるだけの医療、財務、行政の経験がないと強く訴えました。
それだけでは物足りなかったのか、キャロラインはXに動画を投稿し、上院議員に宛てた手紙を読み上げながら、ロバートは、「今日に至るまでの人生で偽り、うそをつき、ごまかし続けている」などと批判しました。
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(※ 共同通信、2025年1月29日。図をクリックすると、拡大します)
このような批判に対し、ロバート・ケネディ・ジュニアは、上院財政委員会の書面証言で、自分は「反ワクチン」でも「反産業」でもなく、「ワクチンは医療で極めて重要な役割を担っている」と確信しているとし、自身の子どもも予防接種を受けていると主張しました。
(※ https://jp.reuters.com/world/us/PLN4MWELNVNZFCHSVRUU4E4ZVQ-2025-01-29/)
■世論調査では高評価
11月19日から22日にかけて、CBSニュースとYouGovが共同で、米国の成人2232人を対象に調査を実施しました。その結果、米国人の過半数はトランプ次期大統領の政権移行を支持しており、彼が指名した重要ポストの人選についても多くが賛成していることが明らかになりました。
最も肯定的な評価を受けたのは、ロバート・ケネディ・ジュニアで、回答者の47%が彼の厚生長官への指名を「良い選択」だと回答し、「良くない」と答えたのは34%、「よく知らない」は19%でした。
(※ https://forbesjapan.com/articles/detail/75383)
もっとも、ロバート・ケネディ・ジュニアがトランプの指名通りに就任できるかどうかは、上院の議決次第です。上院では共和党が53名、民主党が47名ですが、共和党の中で明らかにケネディに反対票を投じると思われる議員が二人いるといわれています。
共和党の方が議席数が多いとはいえ、議員たちはこれから行われる公聴会でのやり取りを参考に最終決定をします。ですから、ケネディが就任できるのかどうかはまだわからないのです。
それでは、実際の公聴会はどうだったのでしょうか。
■上院財務委員会での公聴会
1月29日、ケネディは上院財務委員会に呼ばれて質問を受けました。共和党の上院議員ロン・ジョンソンはケネディに対し、まず、「あなたが民主党を敵に回し、ケネディ家を敵に回して長官職を受けいれてくれたことに感謝したい」と述べました。
確かに、ロバート・ケネディ・ジュニアはこれまで、民主党に席を置いていました。大統領選には無所属で出馬し、その後、共和党のトランプを支持する側に転向していました。当然のことながら、民主党からはさまざまな嫌がらせやデマを流され続けたことでしょう。
また、代々、民主党の家系であったケネディ一族からは疎遠にされました。これも当然のことですが、従妹のキャロライン・ケネディからは長官承認に反対してほしいという手紙が上院に提出されました。
このように、ロバート・ケネディ・ジュニアは、古巣である民主党やケネディ家を敵に回すことになりましたが、それでも、彼はこの困難な仕事を引き受けたのです。
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(※ You tube映像より。図をクリックすると、拡大します)
その辺りの事情がよくわかっているロン・ジョン上院議員は、ケネディがどれほど大きな代償を支払ってこの仕事を引き受けたか、そのことに感謝したいと述べているのです。
彼がなぜ感謝するかと言えば、アメリカは今大きく分断されてしまっており、国としての体を成さなくなってきているからでした。とくにひどいのは、医療行政、食品行政に対する人々の不満でした。
結果として政府への不信が募り、さらに分断が進んでいるのが現在の状態なのです。だからこそ、ケネディに厚生長官としてこれらの行政を担当してもらい、アメリカを一つにするため、尽力してもらいたいと述べているのです。
ケネディはそれに答え、「子どもには民主党も共和党もない。みんな、私たちの子どもです。子どもたちの66%が何らかの病で苦しんでいます」と現状を訴えています。
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素晴らしいシーンでした。現状をこのように認識しているケネディだからこそ、きっと子どもや国民に向き合った医療行政、食品行政を行ってくれるでしょう。厚生長官に就任すれば、目標に向かって果敢に政策を遂行し、アメリカ人の健康を取り戻してくれるだろうという気にさせられます。
ひょっとしたら、ケネディが厚生長官に就任したら、アメリカだけではなく、アメリカの医薬行政の影響下にある世界の人々の健康をも取り戻せるのではないかという気になってしまいそうでした。
ロン・ジョンソン議員は席上で、「全米6万3000人の医師たちのケネディ支持を表明した署名入り手紙を受け取った」といい、その手紙をカメラに向けて見せました。
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(※ You tube映像より。図をクリックすると、拡大します)
現場の医師の多くがケネディの就任を支持しているというのです。このことからは、どれほど多くの医師たちが、現在の医療行政、食品行政に不信感を抱いているかがわかります。
もちろん、民主党上院議員からの質問も中継されていました。
こちらは流されている映像をみるかぎり、ケネディに対し、最初から偏見と誤解に基づく質問をしているだけでした。「あなたは、陰謀論者ではないか」とか「医療業界からお金を受け取るか」など、公聴会での質問とは思えないほどレベルの低いものでした。
この動画が公開されると、たちまち401万回のビューがつき、コメント欄には民主党はひどいといった意見が相次いだようです。確かに動画を見ていると、そういいたくなる理由がわかるような気がします。
最後に、ロン・ジョンソン議員から、「今のアメリカの保険・医療行政は信頼を失っている。信頼を回復するには透明性が必要だが、あなたは約束できますか?」と問われたケネディは、「約束する」と答えていました。これを見ていたアメリカ人はどう思ったでしょうか。
念を押すように尋ねるロン・ジョンソンの態度には、これまで政府の医療行政を批判してきたケネディに託すしかないという気持ちが透けて見えます。というのも、腐敗した医療行政を立ち直らせるには、なによりも透明性が不可欠だからです。今期の厚生長官は、まさにケネディのように忖度のない人物でしか、担当できない仕事なのです。
●厚生教育労働年金委員会での公聴会
指名される前、ケネディは、新型コロナワクチンを、「人類に対する犯罪」と非難していました。ところが、上院厚生教育労働年金委員会では、「私はどちらにも反対ではない。安全に賛成なだけだ」と表明し、「私の子どもたちはみな、ワクチン接種を受けた。ワクチンは医療において極めて重要な役割を果たすと考える」と答えていました。
また、ケネディは新型コロナの治療として、専門家が否定しているイベルメクチンやヒドロキシクロロキンを推奨していたといいます。さらに、銃乱射事件が増加したのは、プロザックなどの抗うつ薬の使用が原因だとも主張していました。
だから、医師と医療従事者で構成する医療保護委員会は、ケネディは信用できないとし、同氏の就任に反対する医師の署名を1万5000人分集めたのです。
(※ https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-01-28/SQTDGHT1UM0W00)
こうしてみてくると、ケネディの言動に危なっかしさが感じられないわけでもありません。ただ、トランプが本気で医療行政、食品行政を大幅に改革したいと考えているなら、ケネディほど適した人物はいないともいえます。
これまでケネディが取り組んできたことを振り返れば、政府の腐敗、医療業界、製薬業界の堕落に対峙するには恰好の人物です。忖度することなく批判し、攻撃し、しかも対案を提示することができるのですから・・・。
もっとも、公聴会でのケネディの対応を見ていると、これまでの過激な言動を控えめにしている様子がうかがえます。指名後、何があったのかはわかりませんが、公聴会での応答を見る限り、少なくとも反対勢力から相当な圧力がかけられていたことは間違いないでしょう。
とにかく、厚生長官として正式に承認されるには、上院本会議での採決が必要です。上院は共和党が53人で、民主党は47人で6議席上回っています。とはいえ、共和党で明らかにケネディに反対する議員がすでに2人いるといわれています。さらに批判的な議員がいるかもしれませんので、厚生長官に就任できるかどうか、まだわかりません。
それでも、もし、上院委員会でケネディの就任が可決されれば、前代未聞の任命になるでしょう。何年にもわたって健康行政を批判してきた人物が政権内部に入り、管轄する省のトップになるのです。
改めて、ロバート・ケネディ・ジュニアを指名したトランプ大統領に慧眼に敬服せざるをえません。腐敗しきった行政を立ち直らせるには、能力のある対極にいる人物を長に据えるしか手段はないのです。
ケネディが厚生長官になれば、政権内部に医療行政や食品行政への反対意見が直接、届きます。そして、そこでのやり取りを公開するのです。そうすれば、「体制の腐敗 vs 透明性」という構図を取ることができ、人々に納得してもらうことができます。
逆にいえば、ケネディを起用しなければならないほど、アメリカの医療行政、食品行政は腐敗しきっているということにもなります。
公聴会はまだ残っています。
果たして、どういう結果になるのか、興味津々です。この人事が世界の健康医療行政に与える影響も計り知れないでしょう。今期のトランプ政権は、閉塞感の漂う世界を大きく変えていくのではないかという気がしてなりません。(2025/1/31 香取淳子)