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08月

「大阪、関西万博2025」⑤:「大屋根リング盆踊り」と「河内家菊水丸」が世界をつなぐ

■万博会場で開催された盆踊り大会

 もはや過去のものだと思っていた盆踊りが、「EXPO2025 真夏の陣」の一環として、開催されました。7月25日から28日までの間、万博会場では三種の盆踊り大会が企画されていたのです。

 その一方で、27と28日は、大阪府内各所で、地域に根付いた盆踊り大会が行われていました。参加者の属性や開催地の特性を踏まえ、きめ細かく盆踊り大会がスケジュールされていました。

こちら → https://www.expo-osaka2025.com/osakaweek/summer/

 メニューを見ると、なんとも粋な計らいだということがわかります。万博でのライブ・パフォーマンスだということを意識していたからか、ローカルとグローバルを組み合わせた絶妙なメニューになっているのです。

 果たして、どのような企画内容だったのか、7月25日から28までの間に開催された盆踊りについて、開催日順に、その概略をみておくことにしたいと思います。

●7月25日に開催されたのが、オープニング・イベントの「マツケンサンバ@EXPO2025」でした。申し込みおよび開催概要は次の通りです。

こちら → https://www.expo-osaka2025.com/osakaweek/news/news_0016.html

 この盆踊り大会は、EXPOアリーナ「Matsuri」で行われ、約6000人が参加したといわれています。タイトル通り、松平健氏を迎え、マツケンサンバが披露されました。

●翌7月26日は、「盆踊りギネス世界記録挑戦」という企画の下、盆踊りが開催されました。参加申し込みおよび開催概要は次の通りです。

こちら → https://www.expo-osaka2025.com/osakaweek/summer/guinness.html

 こちらもEXPOアリーナ「Matsuri」で行われました。挑戦曲は、万博のテーマソング、『この地球(ほし)の続きを』です。万博テーマに合わせた唄で、盆踊り大会のギネス記録に挑戦するという企画でした。

 ギネス記録を達成するには、参加者数、国籍数を競うだけでなく、参加者の90%以上が、挑戦曲に合わせ、振付通りに5分以上踊らなければならないという条件がありました。審査員によって踊り方がチェックされるという課題があったのです。

 もちろん、振付通りにはなかなか踊れないという人もいました。そういう人のためには、振り付けの練習動画が用意されていました。

 HP上に、「日本語レクチャー編」、「日本語フルバーション編」、「英語レクチャー編」、「英語フルバーション編」が掲載されています。日本人であれ、外国人であれ、誰もが気軽に盆踊りに参加できるよう、配慮されていました。

 さらにHP画面を下にスクロールしていくと、事前練習会まで準備されていることがわかりました。5月9日から7月18日までの11日間、対面の練習会が開催される一方、オンライン練習会も、初級、中級、上級とレベルに合わせて開催されていたのです。

 服装等については、「浴衣に草履などの伝統的な衣装、民族衣装でのご参加を推奨しますが、衣装は自由です。安全上、かかとの高い靴は避けていただき、動きやすい履物でお越しください」という注意書きが記されていました。

 参加者が浴衣を着ていたり、民族衣装を着用したりしていれば、会場が華やかになります。そして、一目で参加者の多様性を把握することもできます。ギネス記録を達成するためだけでなく、見た目の訴求力にも配慮した方策が取られていたことがわかります。

●7月28日は、「大屋根リング盆踊り」が開催されました。開催場所を、それまでのEXPOアリーナから大屋根リングのスカイウォークに移し、「大阪から世界をつなぐ」という大会コンセプトの下で行われました。

 参加申し込みおよび開催概要は次の通りです。

こちら → https://www.expo-osaka2025.com/osakaweek/summer/ring.html

  こちらも練習用動画が用意されていました。

こちら → https://youtu.be/PYfjs4utlQ4

(※ CMはスキップして視聴してください)

 河内家菊水丸氏の音頭取りによって、振付を練習できるようになっています。振付を担当するのは、河内家菊舞丸氏です。振付については、菊水丸氏が逐次、説明をしていましたから、この練習用ビデオは、伝統芸能である河内音頭を見せる場の一つにもなっているといえます。

●7月27日と28日は、万博会場ではなく、大阪府内各地で、「交流盆踊り大会」が開催されました。

こちら → https://www.expo-osaka2025.com/osakaweek/assets/files/summer/schedule.pdf

 27日はゲストの菊水丸氏のステージの後、15:00から府内14か所で、盆踊りが開催されています。そして、28日は、やはり菊水丸氏をゲストに14:55から、府内13か所で開催されました。

 この二日間はもっぱら大阪府内の各地で、盆踊り大会が行われていたことになります。府内各所で行われた盆踊りは、まさに地域の伝統行事であり、地域の絆を深め、地域アイデンティを確認するためのものでもあったのでしょう。

 以上、見てきたように、「EXPO2025 真夏の陣」として企画されていたのが、万博会場での盆踊り大会三種と、大阪府内27か所で開催された盆踊り大会でした。まさに大阪を起点に、盆踊りを介して大阪府の内外に盆踊りの情熱を伝えるという企画でした。

 それでは、一連の盆踊り大会が実際にどのようなものであったのか、そこから何が伝わってきたのか、万博会場で行われた三種の盆踊りを撮影した動画を取り上げ、考えてみることにしましょう。

■動画が捉えた万博会場での盆踊り

●7月25日、マツケンサンバ

 25日はオープニング・イベントとして、マツケンサンバが行われました。EXPOアリーナでの開催です。その時の様子を収めた動画がありますので、ご紹介しましょう。

こちら → https://youtu.be/E–TvECP-DQ

(※ CMはスキップして視聴してください)

 松平健氏が、マツケンサンバ音頭を歌い演じて10分10秒を過ぎたころに、吉村知事、横山市長、河内家菊水丸氏が登場します。トークがはずみ賑やかになったところで、松平氏は金色の衣装に着替え、マツケンサンバⅡが始まります。


(※ ユーチューブ映像より)

 やぐらのトップに立って歌い演じる松平健氏が映し出され、その下の段で踊る知事や市長の姿が捉えられます。そして、やぐらを取り囲み、踊る人々・・・、みな、開放感にあふれ、楽しそうです。

 この盆踊りには、6000人の人々が参加したそうです。

 カメラが捉えた人々のしぐさや表情を見ていると、踊りが上手だとか、下手だとかは関係なく、参加することにこそ意義があるのだと思わせてくれます。

●7月26日、万博会場の屋外アリーナで開催された、ギネス盆踊り

 26日に企画されていたのが、ギネスへの挑戦です。こちらは、同時に盆踊りを踊った「人数」と「国籍数」を競います。参加者の人数と国籍数で、ギネス世界記録に挑戦するイベントでした。


(※ ユーチューブ映像より)

 共同通信がまとめた1分45秒ほどの動画がありますので、ご紹介しましょう。

こちら → https://youtu.be/e1trPR_nTRI

(※ CMはスキップして視聴してください)

 参加者は、万博テーマソング「この地球(ほし)の続きを」に合わせ、踊りを披露しました。もちろん、どんな踊りでもいいというわけではありません。先ほどもいいましたが、ギネス記録を達成するには、参加者の9割以上が、決められた振り付け通りに、5分以上、正確に踊ることが条件になっています。

 参加者はオンラインや対面で練習を重ね、ギネス盆踊り大会に参加しました。その結果、ギネス公式認定員の発表によると、参加者数は3946人、国籍数は62カ国で、無事、記録達成となりました。約4000人が参加したのです。

 さらに参加人数が増えたのが、大屋根リングでの盆踊りです。

●7月28日、大屋根リングのスカイウォークで開催された盆踊り

 こちらは「大屋根リング盆踊り」と称され、「大阪から世界をつなぐ」とサブタイトルが付けられています。河内音頭の家元である河内家菊水丸氏が、音頭取りをした盆踊りです。これについては、5分33秒にまとめた動画がありますので、ご紹介しましょう。

こちら → https://youtu.be/myuL7qSJ6wc

(※ CMはスキップして視聴してください)

 河内音頭の継承者、河内家菊水丸氏が音頭取りを務め、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に添った、「いのち輝く未来社会音頭」で、盆踊りが展開されました。大屋根リングの上には、国内外から約8000人が参加しており、圧巻でした。

 この動画のコメント欄には、次のような意見が寄せられていました。

 「大屋根リングで、家族みんなで踊ってきました! 最高でした!」

「素敵な思い出沢山できました!」

「やっぱり市長も知事も若手だと、街は活性化されるし、みんなが活き活きするア大屋根リング いいね 、大活用や 」

「大勢の人が1つになれる大屋根リング  グッドジョブです」

 参加者は口々に、感動を伝えています。大屋根リングという大舞台で、皆と一緒に盆踊りをしたことが、何にも代えがたい喜びとなり、感動したことが綴られているのです。

 大勢の人々が一つの場所に集い、音頭に合わせて踊ることこそが、一体感を生み、感動させるのだと実感させられました。盆踊りが、参加型のライブ・パフォーマンスであることが、参加者の距離感を失わせ、一体感を生んだのではないかという気がします。

■吉村知事、横山市長

 興味深いのは、オープニングの「マツケンサンバ盆踊り」、そして、「ギネス盆踊り」、フィナーレの「大屋根リング盆踊り」、万博会場で開催された大会にはすべて吉村知事と横山市長が登場していたことでした。

 しかも、「ギネス盆踊り」以外、知事と市長は浴衣姿で登場しています。彼らは櫓の上に立って、スターゲストの松平健氏や河内家菊水丸氏とトークしながら、会場を盛り上げていたのです。


(※ ユーチューブ映像より)

 吉村知事が、軽いジョークを交え、観衆を沸かせながら会場を盛り上げていく様子を見ていると、ちょっとした芸人に見えてきます。横山市長も同様です。会場に違和感なく溶け込んでいるのです。まさに大阪府知事であり、大阪市長だと妙に納得させられました。

 そもそも政治は大勢の人々が参加する祭りであり、人々の同意を得ながら推進させるべきものなのでしょう。

 浴衣を着た吉村知事と横山市長が、櫓の上で菊水丸氏と談笑し、その櫓の周りを多数の参加者が取り囲んでいます。菊水丸氏の音頭取りで盆踊りが始まると、日本人であれ、外国人であれ、手をかざし、脚を出し、踊りながら、歩み出します。

 国籍を超え、人種を超えて、参加者が一つになっていった瞬間でした。

 約8000人もの参加者たちが、河内音頭に合わせて踊り、大屋根リングのスカイウォークの上を動いていきます。それが大きな輪となって、大屋根リングを覆っています。まさに、「大阪から世界をつなぐ」というコンセプトそのものの光景でした。

■盆踊り大会を通して、何が見えてきたのか?

 盆踊りはかつて、日本の夏を彩る風物詩の一つでした。お盆の時期になれば、各地で櫓が組まれ、笛や太鼓、音頭取りの歌唱に合わせ、地元の人々が輪になって踊っていたものでした。

 
 そもそも盆踊りは、ご先祖様の霊を供養するための行事でした。ところが、宗教的意味合いはいつしか薄れ、地域社会の娯楽になっていました。娯楽の少ない時代に、盆踊りは人々に娯楽を提供し、村落共同体の結束を強める機能を果たしてきたのです。

 地域共同体が廃れていくにつれ、次第に、盆踊り大会はみられなくなっていきました。担い手がいなくなってしまったのです。現在でも行われているものは、おそらく、商店街主催、あるいは、自治体主催の盆踊り大会ぐらいでしょう。

 ところが、万博会場では「EXPO2025 真夏の陣」と称し、三種の盆踊り大会が開催されたのです。動画でご紹介したように、万博会場で行われた盆踊り大会はそれぞれ、多数の参加者を熱気と感動の渦に巻き込んでいました。

 一連の盆踊り大会を通して見えてきたのは、まず、盆踊りが熱気と感動、そして、一体感を生み出すということでした。

●会場に充満する熱気と感動、一体感

 ギネス盆踊り大会には、日本人と多数の外国人が参加していました。次の写真は、その光景を捉えた一コマです。


(※ ユーチューブ映像より)

 浴衣を着用した人々が、テーマソングを口ずさみながら、一斉に手を突き出しています。参加者が、振付に忠実に踊っている様子が映し出されていました。

 こんな光景もありました。


(※ ユーチューブ映像より)

 これも、ギネス盆踊り大会の一コマです。右下に「東エリア8」と書かれた赤い色の表示が見え、その左側に民族衣装を着た人々が手を高く挙げている姿が見えます。参加者たちは、国籍毎に分けられ、開会を待っているのです。

 大勢の参加者たちが夕日を浴び、開会を待っている様子が映し出されています。ひしめきあうように集っている人々の中に、所々、黄色の識別表示が見えます。


(※ ユーチューブ映像より)

 猛暑の中、これだけ大勢の人々が、このギネス盆踊りのために参集しているのです。それは、ギネス企画の魅力でしょうか、それとも、盆踊りの魅力でしょうか。

 結局、この日の盆踊りには62ヵ国、3946人が参加しました。事前に練習に励んでいたせいか、参加者たちは、5分間以上、振付通りに踊るという基準を易々と達成しました。世界に向けた企画が目標を達成したのです。ギネス記録への登録が果たされ、「大阪、関西万博2025」の認知度はさらに高まることになるでしょう。

 そして、「EXPO2025 真夏の陣」は、28日開催の「大屋根リング盆踊り」で、大団円を迎えました。

 これら三種の盆踊り大会を通して、見えてきたのは、参加者たちの熱気と感動、そして、一体感でした。赤く染まった夕焼け空の下、参加者たちはごく自然の一つの輪になっていたのです。

●河内音頭で、大阪から世界をつなぐ

 さて、「大屋根リング盆踊り」では、菊水丸の河内音頭が使われました。河内音頭は、大阪八尾市を中心とした河内地方に普及している盆踊り唄です。大阪のご当地音頭で、日本人であると、外国人であるとを問わず、参加者たちは盆踊りに参加していたのです。


(※ ユーチューブ映像より)

 大屋根リングの上で踊っていたのは、なんと約8000人にも及んでいました。見渡すかぎり、人、人、人の渦です。動画を見ていると、下の方から河内音頭が聞こえてきます。浪曲のようであり、民謡のようであり、また、ラップのようにも聞こえる唄でした。

 伝統芸能でありながら、現代的な民衆性を備えた音楽のようにも思えます。

 一連の万博盆踊りに登場していたのが、河内家菊水丸氏です。独自に開発した「新聞詠み」で有名になったといわれています。折々のニュースを題材として、節をつけ、音頭に詠み込んでいくという手法で制作されていました。

 たとえば、グリコ森永事件、豊田商事事件、リクルート事件など世間を騒がせた事件を、題材として取り上げ、音頭に詠み込むのです。観衆の誰もが知っている事件を取り上げ、唄に詠み込んで披露すれば、共感を得られやすいからでした。

 大衆の興味関心に沿って、誇張して制作するという点では、ワイドショーの制作手法に似ているともいえます。

 その後は、事件ばかりではなく、社会的課題なども題材として取り上げるようになりました。そのような題材でも、菊水丸氏の唄には、言葉遊びの要素があり、時に過激な表現やウケ狙いの表現もあって、大衆受けするものでした。

こちら → https://www.nikkansports.com/premium/entertainment/news/202507080000895.html

 おかげで、河内地方だけで踊られていた河内音頭が、いまでは全国的に認知され、広まっています。とくに盛んなのは、東京錦糸町の盆踊りで、1985年以来、毎年、「錦糸町河内音頭」が開催されています。

こちら → https://www.kinshicho-kawachiondo.jp/

 今年も開催されており、2日間で3万人もが参加する大盛況ぶりでした。参加型の娯楽だからでしょうか、その動員力には目を見張るものがあります。人々を熱狂させ、一体感を醸成しやすいことがわかります。それだけに、江戸時代には、幕府が開催場所や時間を規制するほど、危険視されていたといわれています。

 盆踊りには、誰でも参加できる気軽さと親近感があります。しかも、ライブ・パフォーマンスとしての開放感があり、日ごろのストレスを発散させる機能もあります。それだけに、参加者を高揚させ、熱狂させ、周囲と一体化させる力も強いのでしょう。

 振り返ってみて、あらためて、「EXPO2025 真夏の陣」の企画は素晴らしいと思いました。盆踊りというローカル文化が、万博会場というを舞台から、参加者を巻き込みながら、グローバルに発信されていたのです。

 オープニングからフィナーレの「大屋根リング盆踊り」まで、三幕構成でつなげたところに参加者を引き込み、盛り上げながら展開していく流れがありました。

 まずは、日本国内で認知度の高いマツケンサンバを1幕目に設定して、参加者の目を引き、2幕目は、海外に向けて、意表を突く恰好で、ギネス記録への挑戦、そして、3幕目は、地元大阪の河内音頭で、約8000人が大屋根リングの上で踊るという趣向でした。

 メリハリのある構成で三種の盆踊りが組み立てられていたからこそ、「大阪から世界をつなぐ」というメッセージがしっかりと発信されていたように思います。

(2025/8/9 香取淳子)