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Idemitsu Art Award 2022展:リアルとファンタジーの合間に

Idemitsu Art Award 2022展:リアルとファンタジーの合間に

■Idemitsu Art Award 2022展の開催

 国立新美術館で今、「Idemitsu Art Award 2022展」が開催されています。開催期間は2022年12月14日から12月26日まで、開催時間は10:00-18:00(入場は17:30まで)です。

 これまで「シェル美術賞」をして知られていた美術賞が、2022年4月に改称され、「Idemitsu Art Award」となりました。名称が変わっても、次代を担う若手作家を奨励するという目的に変わりはありません。

 これまで通り、40歳までの若手作家を対象に作品募集され、その結果を反映した展覧会、「Idemitsu Art Award 2022展」が今回、実施されました。

 実施概要は以下の通りです。

こちら → https://www.idemitsu.com/jp/news/2022/220603.html

 改称された「Idemitsu Art Award 2022展」には、650名の作家から応募があったといいます。昨年と比べ、作家は142名増え、応募作品は128点増えて860点にも上っているのです。

 これまでと違って、グランプリの賞金が300万円に増額(これまでは100万円)され、25歳以下の出品が無料(1点まで無料、2点目以降は有料)に改良されていたからでしょう。若手作家がこの好機を見逃すはずはありません。改良によって、若手の応募意欲が高まっていたことは明らかでした。

 さて、審査員は上記URLに示された5名ですが、そのうち2名が、今回、新たに審査員に加わりました。福岡市美術館学芸員の正路佐知子氏と、とシェル美術賞2010年度の審査員賞を受賞した画家の青木恵美子氏です。

 新たな視点を加えて審査された結果、グランプリを含む8点の受賞作品、46点の入賞作品が選出されました。今回、展示されていたのは、これら54点の作品です。全般に、優しい色遣いの作品が多いように思えました。

 それでは、会場に入って、鑑賞することにしましょう。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 40歳以下を対象にした公募展のせいか、会場で見かける観客も若い人が多かったような気がします。

 2022年度のグ受賞作品は8点で、作者および作品概要は以下の通りです。

こちら → https://www.idemitsu.com/jp/enjoy/culture_art/art/2022/winners.html

 それでは、まず、これらの受賞作品の中から、印象に残った作品を何点か、ご紹介していくことにしましょう。

■印象に残った作品

●グランプリ作品:《せんたくものかごのなかで踊る》

 グランプリに選ばれたのが、竹下麻衣氏の、《せんたくものかごのなかで踊る》という作品です。

こちら →
(岩絵具、水干絵具、膠、箔、カンヴァス、162×140㎝、2022年、図をクリックすると、拡大します)

 会場でこの作品を見た時、何が描かれているのか、すぐにはわかりませんでした。

 得体の知れないものが重なり合い、波打つように、画面を覆っています。形からも、色からも、これらのモチーフが一体、何なのか、推し測ることすらできませんでした。なにしろ、モチーフとモチーフが重なり合って、認識の根拠となる形が崩れてしまっているのです。

 しかも、色と色が溶け合って、境界線すら曖昧です。曖昧模糊とした画面の中で、かろうじてモノとして認識できるのが、細い黒の線で描かれたワイヤーでした。

 もっとも、ワイヤーだということはわかっても、それが「せんたくものかご」だという認識には至りません。作品のタイトルを見て、ようやく、このワイヤーが「せんたくものかご」だとわかった次第です。

 認識の盲点を突かれたような気がしました。

 この作品を見た時、タイトルも見ていたはずなのに、漢字で書かれた「踊る」という言葉に強く印象づけられ、平仮名で書かれた他の言葉を認識していなかったのです。タイトルの中の、「せんたくもの」、「かご」、「なかで」という言葉は、平仮名で書かれていました。そのせいで、すっかり認識のフィルターから洩れてしまっていたのです。

 象形文字から派生した漢字は表意文字なので、一目でその意味を理解できます。ところが、平仮名は表音文字なので、見ただけでは意味を理解できません。

 そのような漢字(表意文字)と平仮名(表音文字)の特性の違いに着目し、作者はタイトルの表記に工夫を凝らしたのかもしれません。タイトルのほとんどは平仮名表記にされていました。そうすることによって、観客がすぐにも理解してしまうことを阻む一方、唯一、漢字表記された「踊る」という言葉を強く印象づける効果があったのです。

 さて、このワイヤーが、「せんたくものかご」なら、奇妙なモチーフの群れは、洗濯物かごに投げ込まれた衣類だということになります。これで、ようやく、描かれているモチーフが、洗濯物かごに入れられた布類だということがわかりました。

 なんと、日常生活の中で、ともすれば見落とされがちな洗濯物が、この作品の画題だったのです。

 このような画題の選び方もまた、観客の認識の盲点を突く要素の一つだったと思います。とくに、作品の中に何らかの意味、あるいは、メッセージを見出そうとする観客にとっては、意表を突かれる画題だったでしょう。

 観客には一般に、作品化される画題は、作者にとって何らかの価値があるはずだという思い込みがあります。それもまた、認識の盲点を突く要素になっていたと思います。

 タイトルにしても、画題にしても、この作品には認識の盲点を突くようなところがありました。何が描かれているのか、すぐにはわからなかったのもそのせいだという気がします。

 さらに、ワイヤーかご以外に、具体的なモノとして同定できるモチーフはありませんでした。色彩についても形状についても、ワイヤー以外はすべて、曖昧模糊としています。

 画面は淡いベージュとグレーを基調として色構成されていました。そんな中、得体の知れない黒い塊が3か所、上から順に適度な間隔を空けて配置されています。これもまた、何か具体的なものと同定することはできません。

 黒い塊は、乱雑に動き出そうとする不定形のモチーフを抑え込む役割を果たしているように思えます。同様に、下方には茶色の塊が配置されており、はみ出そうとしているモチーフをどうにか抑えているように見えます。つまり、濃い色を使って描かれたこれらの物体は、ワイヤーとは別に、秩序のない画面を引き締めていたといえます。

 容積を超えて、ワイヤーかごに投げ込まれた洗濯物は、元の姿を変え、得体の知れない物体に変化せざるをえないのでしょう。確かに、うず高く積み上がった高みからワイヤーかごを大きくはみ出し、床に達してしまったものがあれば、ワイヤーの隙間からはみ出そうとしているものもありました。

 一方、上方には、緑の濃淡で曲線がいくつか、ランダムに描かれています。衣類の模様にも見えますが、乱雑な中にも、そこから軽やかな動きが生み出されていました。下方には、ドット模様の衣類がワイヤーからはみ出し、襞を作っています。さらに、画面の左には、ワイヤーから大きくはみ出し、うねるような格好で、床に達している大きな衣類が描かれています。

 そのような洗濯物の様相を、作者は「踊っている」と捉えました。洗濯物に人格を与え、「踊る」と形容したところに、作者の若い感性が感じられます。

 誰からも見向きもされないような洗濯物を擬人化して、言葉を与え、価値づけようとしている気がしたのです。

 洗濯物に着目し、それらを放埓な様相で表現し、「踊る」と捉えて作品化した作者の着眼点が面白いと思いました。ありふれた日常のものを作品化しようとする試み、それを、認識の盲点を突くような形で表現し、観客に訴求しょうとする意欲に若さが感じられました。

 この作品と似たような雰囲気を感じたのが、《bathroom 1》です。

●鷲田めるう審査員賞:《bathroom 1》

 鷲田めるう審査員賞に選ばれたのが、石川ひかる氏の《bathroom 1》です。

こちら →
(油彩、木炭、パステル、カンヴァス、130.3×162㎝、2022年、図をクリックすると、拡大します)

 タイル壁に沿って、バスタブ、シャワーヘッド、排水口、ブラシなどが描かれています。それらを見ると、浴室内が描かれていることは明らかなのですが、全体にぼんやりとしています。すべてがまるで水蒸気の漂う空間に閉じ込められているかのように見えます。

 ほとんどのモチーフはぼんやりと淡いグレーで描かれ、オフホワイトで覆われた画面の中に封じ込められています。それだけに、色彩のあるモチーフはことさらに強く印象づけられますが、その形状や描かれ方が不自然でした。

 たとえば、バスタブと排水栓をつなぐ線が赤で描かれています。あまりにも細くて、うっかりすると、見落としてしまいそうになります。この赤い線の一方の端は、バスタブに張られた湯の中に深く沈み込んでしますが、片方の端は水栓を経由して、バスタブに固定されているのです。それが不自然で、違和感を覚えました。

 さらに、バスタブ内の湯は、群青色と水色とに分けて表現されています。風呂の湯なのに、なぜ二色に分けて描かれているのかわかりませんが、いずれも海水の色で描かれています。しかも、表面には無数のさざ波が立ち、波打っています。当然のことながら、海を連想させられますが、やはり、不自然で、違和感を覚えさせられます。

 描かれているものがどれも不自然で、稚拙に見えます。

 たとえば、タイル壁の目地なのに、線がまっすぐに引かれておらず、間隔も不揃いです。バスタブの形状も水道栓も、シャワーヘッドも何もかも、リアリティに欠け、バランスに欠け、稚拙としかいいようのない描き方なのです。

 ところが、やや引いて見ると、水蒸気の立ち込めた浴室の様相が、見事に描き出されていることに気づきます。

 稚拙に見えていた浴室内の光景ですが、引いて見てみると、逆に、蒸気のこもった浴室のむっとした空気、バスタブから人が出た後の湯の揺らぎといったものが巧みに表現されているように思えてきたのです。

 それにしても奇妙なのは、群青色と水色で描かれたバスタブの湯でした。まるで陸に近い海と遠い海とを描き分けているようにも思えます。群青色パート、水色パートのどちらにも表面に波頭が立ち、うねっているように描かれています。

 浴室という狭い密室空間が描かれているにもかかわらず、ごく自然に、波立つ海を連想させられてしまいました。

 水面が波立っているのは、ひょっとしたら、誰かがバスタブから立ち去った後だからかもしれません。あるいは、強風が海面を撫ぜ、さっと通り過ぎた後だったのかもしれません。

 誰もいない浴室内の光景が描かれているだけなのに、ヒトの気配が感じられ、海が連想されました。リアルとファンタジーが混在した世界に迷い込んだような気分になっていたのです。

 なんとも不思議な作品でした。

 この作品には、観客の気持ちをアクティブにするための仕掛けが潜んでいたように思います。どのように表現すれば、どのような効果が得られるのか、作者は熟慮を重ねて制作したのではないかという気がするのです。

 たとえば、総てのモチーフは、ぼんやりと曖昧に描かれるだけではなく、不自然な形態で捉えられていました。稚拙に見える表現でしたが、逆に、観客の想像力は限りなく刺激されます。

 それは、おそらく、稚拙で、不自然に描かれた作品を見ると、観客は半ば条件反射的に、欠損部分を補おうとし、そのための想像力を働かせるからでしょう。

 こうしてみてくると、観客が、作品とアクティブに関わらざるをえないような仕掛けを、作者は用意していたのではないかと思えてきます。すなわち、稚拙で、不自然にモチーフを表現するという戦略です。

 画面の不完全さが、観客を刺激し、無意識のうちに、作品への関与度を高めていくのではないかという気がします。その結果、画面には描かれていない世界までも頭の中で創り出し、想像の世界を堪能するようになるのではないかと思いました。

 それでは、次に、色彩の美しさが印象に残った作品をご紹介しましょう。

●桝田倫弘審査員賞:《プランツとプラネット》

 桝田倫弘審査員賞に選ばれたのが、檜垣春帆氏の《プランツとプラネット》です。

こちら →
(油彩、ペンキ、アクリル、パステル、木炭、カンヴァス、162×130.3㎝、2022年、図をクリックすると、拡大します)

 会場でこの作品を見た時、まず、画面の色調が艶やかで、美しいのが印象的でした。とはいえ、これまで取り上げてきた作品と同様、この作品も、何が描かれているのか、すぐにはわかりませんでした。

 画面の7割ほどが、オフホワイトと淡いベージュで構成された巨大な空間で占められています。その淡い枯れ葉色の上に、濃い枯草が散乱し、辺り一帯を覆っています。風が吹いて、枯れ葉や枯草が砕けて飛散していったのでしょう、周辺にはその残骸が散っていました。

 興味深いことに、いくつもの光線が、その巨大な空間の中を、自由自在に弧を描きながら、縦横無尽に駆け巡っています。まるで散乱する枯れ葉を繋ぎ留めようとしているかのように見えます。

 裏側にいくつか光源があるのでしょうか、背後から輝いています。そして、下方の群青色の空間との繋ぎ目辺りに、発光体のようなものがいくつか描かれており、画面全体に華やぎが感じられます。

 画面の3割ほどを占める下方の空間は、まるで夜空のようでした。群青色の空間が広がり、星が点々と煌めいています。

 上方の黄色をベースとした空間と、下方の群青色をベースとした空間は、ほぼ補色関係になっていて、互いの色を際立たせています。これまでご紹介してきた作品とは違って、配色のコントラストが明確で、しかも艶がありました。ワクワクするような色の刺激があります。

 ちなみに、この作品のタイトルは、《プランツとプラネット》です。

 まず、通常は仰ぎ見ている宇宙が、この作品では下方に配置されています。しかも、その形状が、まるで宇宙から見た地球のように、プラネットとして描かれているのです。

 一方、そのプラネットと接するようにして描かれたのが、枯れ葉や枯草が舞い散る空間でした。プランツが浮遊する空間が、まるで無限に広がる宇宙のように表現されているのです。私たちが認識しているプラネット(宇宙)とプランツ(地上に生息)との位置関係が真逆に表現されていたのです。

 それにしても、なんと奇妙な空間なのでしょう。

 通常、「プランツ」と聞いて連想するのは、緑色の葉や草、大地に根を張った木々ですが、ここで描かれているのは枯れ葉や枯草でした。枯れて、大地に戻る寸前の植物が、巨大なエネルギーによって放散され、うねりながら、無限の巨大空間の中で舞い散っている様子が描かれていました。

 プランツといいながら、緑色の葉や草(生)ではなく、枯れ葉や枯草(死)が飛散する様子が描かれていました。そして、プランツとして表現されている空間には、いくつもの光線が弧を描きながら、上下左右を巡っています。

 アースカラーで覆われ、黄昏を感じさせる広大な空間に、光の環や発光体のようなものが随所に描かれていたのです。それは、まるで枯草(死)を蘇らせ、プランツ(生)として、プラネット(地球)に送り返そうとするエネルギーのように見えました。

 まさに、輪廻転生の現象のように思えました。

 枯れ葉や枯草は、巨大な宇宙空間で舞い散って、砕け、やがて、下方のプラネットに落下して新たなプランツとして誕生するというメッセージが込められているように思えたのです。

 最初、この作品を見た時、ワクワクするような高揚感を覚えました。この作品の色調に、静かで落ち着いていながら、華やかな煌めきがあったからです。

 そして、どういうわけか、その煌めきの中に、生と死の繰り返しの円環現象を支える永遠のエネルギーと、そこから放たれる美が感じられたからでした。

 以上、受賞作品の中から印象に残ったものをご紹介してきました。次に、入選作品の中から1点、ご紹介しておきましょう。

 入選作品は46作品でした。

こちら → https://www.idemitsu.com/jp/enjoy/culture_art/art/2022/list.html

 これら入選作品の中から印象に残った作品を1点、ご紹介しておきましょう。

●桝田倫弘審査員の推薦:《集合住宅》

 桝田倫弘審査員に推薦されて、入選したのが、アルト・クサカベ氏の《集合住宅》です。

こちら →
(アクリル、岩絵具、パネル、和紙、130.4×162.1㎝、2022年、図をクリックすると、拡大します)

 この作品を見た瞬間、軽やかで都会的な色遣いに、強く印象づけられました。とくに惹かれたのが、繊細な空の色です。黄色や橙色など暖色系の淡い色に、白やセルリアンブルーを程よく加えた色調に、ほのかな陽光の輝きが感じられました。

 ぎらぎらと照りつけるわけではなく、どんよりと曇っているわけでもなく、心地よい明るさと陰りをもたらしているこの色遣いに、都会的な軽やかさと繊細さが表現されていました。

 その空を背景に、建物の設計図のようなものが、赤や黒、グリーンなどの細い線で描かれています。骨組みを示す線の細さが、空の色の繊細さを巧みに引き出していました。線描きならではの簡潔さが、周囲の色を引き立てる効果を生み出していたのです。

 重量感のあるコンクリートの建物が、輪郭線だけで表現されています。それも、赤、黒、青、緑などのごく細い線で、建物の構造がきわめてシンプルに示されていたのです。無駄なものが削ぎ落されていたせいか、画面からは、洗練された切れ味と都会的なセンスが感じられました。

 透けた建物の背後には林が見え、池が見えます。さらに、得体の知れない三角形、あるいは、長方形の造形物も見えます。このように、自然の中に幾何学的なモチーフをはめ込むことによって、人工的で現代的なテイストが加えられていました。

 手前には、建物を支えるコンクリートの杭が数本、立っています。通常、一直線に並べられるはずですが、ここでは、そうではなく、不揃いで、間隔も不均等です。そこに、堅固さの中に柔軟性があり、粗雑さも感じられます。なんともいえない人間臭さが醸し出されていたのです。

 現代的で都会的でありながら、田園の味わいがあり、人がいないのに、その気配が感じられます。そして、暖色系を交えて描かれた背後の空は、幻想的でありながら、リアリティがありました。

 不思議な空間が創出されていました。

 風も空気も通さないコンクリートの厚い壁を描かず、透明にし、背後の林や池が見えています。都会を象徴する建物の中に田園風景を取り込むことによって、風通しの良さと爽やかさを表現することができていました。

 背後に描かれた空は、朝とも午後とも夕刻ともつかない、暖色と寒色の入り混じった色で描かれていました。想像力をかき立てられる一方、ほどよいリアリティが感じられ、気持ちが和む作品でした。

■リアルとファンタジーの合間に

 展示作品の中から、印象に残った作品を4点、ご紹介してきました。いずれも、リアルとファンタジーの合間に作品世界が表現されていたのが、特徴です。

 その中でも理解しにくかったのが、《せんたくものかごのなかで踊る》と《bathroom 1》でした。どちらも、一見しただけでは、何が描かれているのか、作者が何をいおうとしているのか、皆目、わかりませんでした。

 モチーフの形状が曖昧で、モチーフとモチーフ、モチーフと背景との境界も判然としていません。しかも、画面の大半がオフホワイトに近い、淡いアースカラーで覆われていました。そのせいか、ファンタジックで幻想的な空間が描き出されていました。

 画面の色調はやさしく、モチーフの形態もぼんやりとしており、観客を和やかな気持ちにさせてくれます。その一方で、まるで解釈を拒否するかのような奇妙な空間でもありました。作品世界を解釈するための手がかりが欠けていたのです。

 ただ、《せんたくものかごのなかで踊る》には、タイトルの付け方にヒントがあり、《bathroom 1》には、稚拙で不自然に見える描き方にヒントがありました。安直な解釈を回避し、観客の想像力を駆使させるような仕掛けが込められていたのです。

 一方、《プランツとプラネット》と《集合住宅》には、まず、色彩に惹きつけられました。深い色合いに関心を覚えて画面を見ているうちに、ごく自然に、それぞれの作品世界に到達することができたのです。色彩が手掛かりとなり、モチーフの断片がヒントとなって、画面を解釈し、作品世界を堪能することができました。

 今回、若手の作品を何点か見てきて、改めて、リアルとファンタジーの合間にこそ、表現の真実が潜んでいるのではないかという気がしてきました。(2022/12/27 香取淳子)

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