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Henry Lauは現代版モーツァルトか?⑤ 音を知って、音楽を生む

Henry Lauは現代版モーツァルトか?⑤ 音を知って、音楽を生む

 ユーチューブを見ていて、興味深い動画に出会いました。Henry Lauが一人で、人のいない建設現場のような広い空間で、ドラム缶やピアノを叩いている姿です。クラシック音楽の素養があり、K-POPでスターとして活躍してきた彼が、なぜ、そんなことをしているのか、興味があったので、見てみました。

■音をチェックする

●「Believer」

 殺風景な建設現場のような広い空間で、Henryが一人、ドラム缶をバチで叩き、電気ドリルの電源を入れて音を出しています。ピアノの鍵盤を叩くこともあれば、フタを叩いてみたり、音の響きや反応をチェックしたりしています。

こちら → https://youtu.be/EU_JGT55vN0
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 とくに興味深かったのが、楽器ではない、さまざまなものの音をチェックしていることでした。建設現場のようなところで演奏するのはありうることだと思いますが、そこらへんにあるさまざまなものを叩いて音を出して見ているというのが、意外でした。

 ところが、Henryは真剣な表情でそれぞれの音を吟味していました。

 ドラム缶と言わず、板切れといわず、さまざまなものの傍にはマイクが設置されており、音が収録されています。これらの音がやがて、ミックスされ、音楽として組み立てられていくのでしょう。

 この動画では、「Believer」というタイトルの曲が歌われていました。この曲が始まる前に、Henryはさまざまな音を検証していたのです。

 興味深いのは、電気ドリルの場合でした。電源を入れても、それほど大きな音がでるわけではないので、マイクの傍で音を出し、収録しています。


(上記ユーチューブ動画より)

 すぐ傍にマイクが映っています。

 真剣に取り組むHenryの姿を見て、ちょっと意外でしたが、音楽の原点に触れたような気がしましたし、創作の原点を見たような気がしました。

 音楽活動は音作りから始まるのでしょう。音を作るには、それぞれの音の特性をしらなければなりません。Henryはそれを建設現場でやっていたのです。日常生活の中にはない音を発見することができるでしょう。

 さらに、似たような試みの動画がないかと探してみました。

 すると、韓国のバラエティ番組の中で、Henryが自分のスタジオでの音作りの一端を紹介している動画がありました。

●「Bad Guy」

 ここでは、さまざまな生活音をチェックしています。

こちら → https://www.youtube.com/watch?v=hQvUmr7-Nkw
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 ガラスコップを箸で叩いてみたり、紙をくしゃくしゃにして音をだしてみたり、椅子にゴミ箱をぶつけて音を出し、その質やリズム感などをチェックしています。

 たとえば、ガラスのコップを金属製の箸で叩いて出した音に、紙をくしゃくしゃにして出た音を重ね合わせると、思いもかけない音響が生まれます。


(上記ユーチューブ動画より)

 生活音を音楽に組み込むなど、考えてみたこともありませんでした。この動画を見て、多様な音を知ることこそが、音楽活動のスタート地点なのかもしれないと思ったほどです。

 スタジオには、どこにでもマイクが置かれており、出した音が逐一、収録されています。それらがデータとして取り込まれ、それぞれの音が分析され、やがては、音楽として組み立てられていくのでしょう。Henryが取り組んでいることは、先駆者ならではの試みであり、新しい音の開拓なのだと思いました。

 ここでは、「Bad Guy」という曲が歌われていました。

 生活音だけではありません。人が指を鳴らしたり、手拍子を採ったりするのも、一種の音楽活動といえるのでしょう。

■音、音楽による一体感

 戸外での演奏でも、Henryのグループは、楽器以外の音、とくに、人が手指を使って出す音を活用していました。

●「Dance Monkey」

 たとえば、指鳴らしです。親指と中指で音を出す、いわゆるパッチンを使って、音楽に新鮮味を加えていました。

こちら → https://www.youtube.com/watch?v=q8BrbdPv2D8
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 指鳴らしでイントロを行い、Henryが歌い始めると、観客も同じように指を鳴らし、同じようなパフォーマンスをしながら、音楽に参加していました。もちろん、お得意のヴァイオリンは披露されます。

 楽器以外の音を音楽に組み込むことによって、これまでわからなかった音の属性に気づかせてくれます。ここで歌われていたのは、「Dance Monkey」でした。

 素朴な音を組み込んだことで、観客の気持ちが緩んだのでしょうか、プレイヤーに倣って、リズムを取り、ちょっとしたパフォーマンスをはじめていました。観客とプレイヤーが一体となって、音楽を楽しんでいたのです。動画を見ているだけで、観客との一体感が感じられます。

●「Savage Love」

 やはり、戸外での演奏シーンです。

こちら → https://www.youtube.com/watch?v=HFeQWTvA8PI
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 ここでは、電子オルガン、ドラム、ギター、ヴァイオリンなどの楽器はもちろん、楽器以外の音としては、手拍子が使われていました。これもごく自然に観客が手拍子をはじめているのです。ドラム担当のスタッフはなんとバチで叩くのではなく、手で叩き、原始的な音を出していました。これも新しい音の発見といえるでしょう。

 観客も笑みを浮かべて、手拍子を合わせ、パフォーマンスを共鳴させて、プレイヤーと一体化した時間が創出されていました。

 観客との一体化といえば、海外での演奏の方が向いているのかもしれません。

●「Havana」

 イタリアでの路上演奏の動画がありました。

こちら →
https://youtu.be/sAtzFsnVjgU?list=RDGMEMQ1dJ7wXfLlqCjwV0xfSNbAVMsAtzFsnVjgU
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 Henryはここでは、電子ピアノやヴァイオリンを弾いていました。曲のイントロ部分を盛り上げて、女性ボーカルがしっとりとした声で歌い始めると、彼らを取り巻いて見ていた観客は老いも若きもみな、顔をほころばせ、身体をゆすっていました。プレイヤーと一体化して手拍子をし、腰を振り、言葉は通じなくても、一体化した時間を楽しんでいたのです。

 とても幸せな時間が流れているように見えました。音楽が持つ力でしょう。

 歌われていたのは「Havana」でした。女性ボーカル2人のハーモニーも素晴らしいものでした。

■Henry、ポッピングとヴァイオリンはどう組み合わせるのか

 珍しい動画を見つけました。Henryが自宅でパフォーマンスとヴァイオリンの組み合わせを解説している動画です。とても興味深いので、ご紹介しましょう。5分8秒の動画です。

こちら → https://www.youtube.com/watch?v=FF7TZDPjRIc
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 ポッピングだけでも大変なのに、それをヴァイオリン演奏と組み合わせるのです。タイミングをどう計り、見せ場をどう作るか緻密に考えなければ成立しないでしょう。

 Henryはヴァイオリンを演奏しては、ポッピングを実演し、この二つの質の違う活動をどのようにつなぎ、どのように見せ場をつくるのかを解説していました。


(上記ユーチューブ動画より)

 これを見て、音楽活動とダンスは、実は、親和性が高いのではないかという気がしました。音楽を聴いて、自然に身体を揺らしたり、手拍子を取ったり、指鳴らしをしてしまうのは、同じような神経が刺激されるからではないかと思ったのです。

 イタリアの街頭演奏でわかったように、言葉が違っていて、意味がわからなくても、観客は歌を聞いて、ハミングし、演奏を聞いて、身体をゆすっていました。

 今回、Henryに関する一連の動画を見て、身体性の復権というか、身体性への回帰というか、言葉や数字以前の表現への再評価が起こりつつあるのではないかと思いました。ひょっとしたら、それは、言葉や数字に拘束されることへの反発からきているかもしれませんが・・・。(2022/8/31 香取淳子)

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