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SNS事業者の社会的責務は?

SNS事業者の社会的責務は?

■「青少年ネット利用環境整備協議会」の発足
 2017年7月26日、「青少年ネット利用環境整備協議会」が発足しました。この協議会にはグリーやサイバーエージェント、DeNA、フェイスブック、ミクシィなど、サイト事業者15社が参加しました。競争関係にあるサイト事業者がともに手を携え、利用者の被害防止に立ち上がったのです。おそらく、SNSサイトによる被害が増えているのでしょう。2016年にサイト別でもっとも被害が多かったツィッターも参加する意向を示しているといいます。

 私はあまりよく知らなかったのですが、SNSの利用がきっかけで被害にあった子どもは年々増え続けており、2016年には過去最高を更新したそうです。ですから、まずは子どもの被害を防止する方策を練り上げていくことが必要です。この協議会では、情報を共有して被害防止に努めるだけではなく、有識者を交え、調査研究も行っていくといいます。被害の実態を踏まえ、より科学的で効果的な対応を試行していくのでしょう。

こちら →http://www.news24.jp/articles/2017/04/20/07359464.html

 警察庁によると、2016年にSNSを利用して犯罪の被害にあった18歳未満の子どもは1736年に達し、過去最高だった2015年をさらに更新したといいます。16歳と17歳が全体の約半数を占めていますが、9歳の女子児童が被害にあるケースもあったそうです。数字で示される被害者の年齢をみてもわかるように、被害内容は淫行、児童ポルノ、児童買春などです。

 夏休みを控えた6月27日、国家公安委員会委員長と文部科学大臣が以下のような共同メッセージを出しました。

こちら →http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/kyoudoumessage.pdf

 これを読むと、被害はかなり深刻です。サイト事業者が共同で子どもの被害防止のために立ち上がったことの理由がわかりました。先ほどの記事では、ツィッターもこの協議会に参加する意向を示しているといいます。実は2016年、被害を最も多く出したサイト事業者がツィッターだったのです。

 警察庁の調べでは、SNS別に被害をみると、ツィッターが446人で最多だったそうです。2015年に比べほぼ倍増したといいますから、ツィッターもこの協議会に参加する意向を示しているという記事を読み、ほっとしました。

 コントロールの効かないネットの世界で、どれほどの成果をあげられるのかわかりませんが、有識者の支援を得て、効果が期待できる防止策の開発にかかわってもらいたいと思います。

 ちなみに総務省は以下のように、SNS利用上の注意点を示し、利用者に注意を促しています。

こちら →http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/enduser/security02/05.html

■SNSサイト別にみた日本の月間アクティブユーザー数
警察庁は2016年、ツィッターでの犯罪被害が多かったと報告していますが、実際の利用動向はどうなっているのでしょうか。2016年末時点のデータを見ると、日本でもっとも多いのはライン、次いでツィッター、そして、フェイスブック、インスタグラムという順になっています。

こちら →
(http://media.looops.net/news/2017/02/17/2016q4_facebook_instagram_twitter_line/より。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、前年比で伸び率の高かったのはインスタグラムで174%、次いでツィッターの114%、ラインとフェイスブックは108%と同じです。2016年はツィッターの利用者数が伸び得たことが犯罪被害の増加と関連しているのかもしれません。

 世界に目を向ければ、圧倒的に利用者が多いのはフェイスブックでした。明らかに日本の動向とは異なります。

こちら →
(http://media.looops.net/news/2017/02/17/2016q4_facebook_instagram_twitter_line/より。図をクリックすると、拡大します)

 
 地域別に見ていくと、フェイスブックは月間アクティブ利用者が18.6億人で前年比104%と、順調に伸びています。もっとも伸び率が高いのがアジア太平洋地域で107%、比較的低調の北米の101%以外の地域も順調に利用者が増えています。

 一方、ツィッターは101%、ラインは99%の伸び率でした。日本では上位のSNSサイトも世界的にみると、伸び率は低調なのです。

 そのフェイスブックが7月26日、2017年4~6月期決算を発表しました。それによると、売上高は前年同月比45%増で93億2100万ドル(約1兆300億円)、純利益が71%増の38億9400万ドルでした。いずれも過去最高を更新したといいます。

こちら →http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN27H10_X20C17A7000000/

 2017年6月末時点での月間利用者数は20億6000万人で、前年同月比17%増を記録しました。毎日利用する人は13億2500万人にも達しています。世界人口は現在、72億7552万人といわれていますから、どれほど多くのヒトがフェイスブックを利用しているかがわかります。米国の調査会社e-Marketerは2017年7月17日、世界のSNS利用者人口(2016-2021)を発表しました。

こちら →
(https://www.emarketer.com/Articles/Print.aspx?R=1016178より。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、2017年にSNS利用者は世界人口の3分の1を占めるようになり、今後さらに増加していくと予測されています。フェイスブックに代表されるSNSが国境を越えたメディアとして大きな影響力を発揮しはじめていることがわかります。いつの間にか、国籍や土地、職業、年齢などに捉われないさまざまなコミュニティが形成されているのです。サイト事業者が社会的責任を問われるようになるのは当然のことでしょう。

■フェイスブック
 フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグは2016年6月22日にシカゴで開催した「Facebook Community Summit」でこれまでのミッションの変更を発表しました。

こちら →http://www.refinery29.com/2017/06/160364/facebook-communities-summit-2017

 これまでの10年間、Facebookは世界をよりオープンにし、つなげていることをミッションにしてきましたが、今後は、コミュニティを構築し、世界をより密接なつながりを持てるようにするというのです。

 マーク・ザッカーバーグのこのような考えは、すでに2017年2月16日、「Building Global Community」というタイトルの長文のメッセージをFacebook上でコミュニティメンバー宛に発信していました。

こちら →
https://www.facebook.com/notes/mark-zuckerberg/building-global-community/10154544292806634

 SNSサイト事業者として世界最大の利用者をもつフェイスブックだからこそ、マーク・ザッカーバーグにはその利点も欠点もよく見えていたのでしょう。人々をつなげるだけでは不十分で、人々がコミュニティを構築し、世界をより親密なつながりを持てる力をつけていくことが重要だと認識を変えていったのです。

 その背後にはSNSを通して犯罪が増えてきたという現実があるのかもしれません。創設者のマーク・ザッカーバーグが切に、利用者が有意義なコミュニティに参加し、人生を豊かなものにしていくことを願っていることがわかります。

■SNS疲れ?
 SNS利用者が増えるにつて、さまざまな調査が行われるようになりました。たとえば、LINEと博報堂は共同で2017年7月上旬、10代から60代の男女3705人に対し、LINE上でフェイクニュースに関する調査を実施しました。その結果、友人がフェイクニュースをシェアしていても、約8割は何も指摘せず放置する傾向が見られました。その理由の約半数は「面倒くさい」からだというのです。

こちら →https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170721-00000008-withnews-sci

 具体的には「トラブルにまきこまれたくない」、「ニュースがフェイクかどうか確定が面倒」というようなものでした。

 さきほど、Facebookのマーク・ザッカーバーグが「密なつながりをもてるよう」ミッションを変更したといいましたが、日本で行われた調査の結果からは、「密なつながり」を拒むような傾向が見られるのです。

 そこで日本での実態をさらに見ていくと、たとえば、東京新聞の細川暁子氏は、さまざまな利用者に取材をし、2017年3月27日、同紙で次のような報告をしています。

 大学時代にフェイスブックを始めた女性はいま、400人とつながっています。彼女は「心の中で、どうでもいいと思った投稿にも、義務的に”いいね”ボタンを押す」といいます。反応を示すことで友人関係を保っているといいながらも、フェイスブックをやめるつもりはありません。「自分だけじょうほうに乗り遅れたり、つながりが切れるのが怖い」というのです。

 これ以外にもつながりが切れるのを恐れ、無理をしてSNSに参加している利用者が次々と紹介されます。この報告からは、主体的にコミュニティに参加するというより、仲間外れになることを恐れ、あるいは、悪口をいわれることを恐れ、無理してSNSを続けている人々の姿が浮き彫りにされています。
 
 これについて、2015年に日本人の情報行動について調査を実施した東京大学大学院・橋元良明教授は、「SNS疲れを感じている人は多いと思う」と指摘し、「仲間外れや無視を恐れ、強迫観念的にSNSでつながりを求めていると、”いい人”を装う自分と、本来の自分らしさとの境界線が分からなくなるのでは」と分析しています。

 新しいメディアが登場するたび、ヒトはを手に入れ、適応しようとします。時に負担を感じながらも、仲間外れになることを恐れ、利用をやめることはありません。もちろん、好んで利用し続けるヒトもいるでしょう。こうして自発的にせよ、義務感からにせよ、多くの利用者は他者とのつながりを求めてSNSを利用し続けることになります。

 一方、サイト事業者にはSNSを通したデータが刻々と蓄積されていきます。蓄積されたデータが増えれば、行動を予測することも容易になります。はたしてそれがどのような結果を生むのでしょうか。

■SNSが掌握するビッグデータ
 2017年7月、米アマゾンの元チーフ・サイエンティストのアンドレアス・ワイガンドの訳書『アマゾノミクス』(原題:Data for The People)が刊行されました。私はまだ手にしていないので、日本アマゾンに2017年7月29日に投稿されたカスタマー評価をみると、2(「データとの付き合い方について、触りだけ知りたい方にはちょうどいいかもしれないが、全体的には薄い内容に感じられました。」)でした。投稿者が期待したほどの内容ではなかったのでしょう。
 
 内容紹介を見ると、「インターネット上での検索や位置情報サービスの利用、フェイスブックでの「いいね!」やインスタグラムへの写真の投稿など、意識的、無意識的に残すデジタル痕跡を通じて、あなたがいつ、どこに行ったのか、どんな人とどれだけ親密につきあい、何に関心を持っているかがデータ会社に把握されている」と書かれています。

 たしかに、パソコンを開くと私が欲しくなるような商品の広告が自動的に現れます。過去の購入歴に従って、私が購入しそうな商品の広告が掲載されるのでしょう。当初はなぜ私の好きなものがわかるのか、気持ち悪くなっていましたが、今ではもう慣れてしまいました。私が無意識のうちにネット上に残したデジタルデータが集積され、より購入可能性の高い消費者だと判断されて、広告が発信されたのでしょう。

 私はネットでモノを購入する際、最近は、事前に対象商品の評価をチェックするようになりました。時にはその評価に騙されることがあります。実際に商品を手にしてみて、評価が大幅に異なっている場合、次から購入しませんし、よほどひどい場合は購入先にコメントを寄せることもあります。それらがフィードバックされていきますから、仮に偽情報が混じっていたとしても、情報量が膨大になれば、評価の正確さの度合いは高まっていくのでしょう。量が質の変換を促してくのです。

 こうしてみてくると、SNSが自動的に集積したデータ、警察庁が収集したデータなど、できるだけ多くの関連情報を総合的に分析すれば、SNSを通した犯罪被害を防止することもできるようになるのではないかという気がしてきました。

 今回、SNS事業者によって設立された協議会が有識者を交え、積極的に調査研究を行っていけば、効果的な対策が生み出されることも不可能ではないと思います。成果が期待されます。(2017/7/30 香取淳子)

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