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JICAホームタウン事業は、IOM由来の構想か?

JICAホームタウン事業は、IOM由来の構想か?

■日本企業の関心を高めたTICAD9

 2025年8月20日から22日まで、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が横浜市で開催されました。TICADとは、日本が主催するアフリカの開発をテーマとする国際会議です。今回は、セミナー開催やブース展示への企業からの応募が多く、早々に募集を締め切ったといわれています。

 日本企業のアフリカに対する関心は、飛躍的に高まってきているのです。

 第1回アフリカ開発会議(TICAD1)が開催された1993年、当時のアフリカの人口は7億人でしたが、2025年には倍増し、名目GDPも4.5倍になりました。今後も、人口増加、経済成長が続く見込みです。

 当初は開発や援助を目的に始まったTICADでしたが、徐々にビジネスにも注目されるようになり、いまや数多くの日本企業が関連イベントに参画するようになっています。ジェトロはTICAD9期間中に、テーマ別イベントとして「TICAD Business Expo & Conference」を開催しました。「Africa Lounge」では、アフリカ各国が自国の投資環境やビジネス機会を紹介し、「Japan Fair」には過去最多となる約200社・団体(うち中小企業107社)の日本企業が参加しました。新たな試みとして、ポップカルチャーのテーマ展示も行っています。(※ https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2025/0601/367cee2c7426309d.html

 2024年のTICAD閣僚会合および第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)のパートナー事業は以下の通りです。

こちら → https://www.mofa.go.jp/mofaj/af/af1/pagew_000001_00685.html

 2024年6月18日から2025年12月7日までの事業内容を見ると、多種多様なビジネスに関わる企画で、セミナーやイベントが開催されていることがわかります。

 TICAD9期間中には、アフリカから49カ国の代表、国際機関の代表などが、これに参加しました。本会合では、アフリカ連合(AU)議長国アンゴラのジョアン・ロウレンソ大統領と石破茂首相が共同議長を務め、「革新的な課題解決の共創、アフリカと共に」というテーマの下、官民連携や若者・女性のエンパワーメント、地域統合・連結性などについて議論しました。
(※ https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/d5aea3529df13834.html
 
 TICAD9期間中に石破総理大臣は、アフリカ各国首脳や地域機関・国際機関の代表等と計34件の会談を実施し、岩屋毅外務大臣は、アフリカ各国の閣僚や地域機関・国際機関の代表等と計30件の会談を実施しました。

 TICAD9が政財官をはじめ、大学、企業、各種団体を巻き込む大きなイベントだったことがわかります。日本のアフリカへの期待がそれほど大きいものだったともいえます。

 ちなみに、2025年は、日本主催のTICADばかりか、大阪・関西万博が開催される貴重な年です。アフリカの政財界から要人が来日し、併せて開催されたビジネスフォーラムや投資セミナーには、アフリカのビジネスパーソンが多数参加しました。アフリカビジネスに関心を持つ日本企業にとって絶好の機会になっています。

 大阪には、ナショナルデーに合わせて、各国の要人が来日しました。その機会を捉え、万博会場でもビジネスフォーラムやセミナーが開催されました。日本とアフリカの経済交流が促進され、この1年は日本企業のアフリカビジネス拡大に向けた取り組みが充実することでしょう。
(※ https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/3cce223b9cc3eb1f.html

 それでは、アフリカでのビジネスの現状はどうなのでしょうか。

■アフリカに進出した日本企業の現状

 ジェトロが2024年12月に発表した「2024年度進出日系企業実態調査(アフリカ編)」によると、アフリカに拠点を構える日系企業のうち、黒字を見込む企業はアフリカ全体で前年比1.4ポイント増の59.8%で、比較可能な2013年以降の最高を更新したことが報告されています。

 この調査結果は、「営業黒字の比率が過去最高」、「投資環境に課題も」、「事業拡大意欲は高い」といったキャッチーな見出しの下、以下のように要約されています。

こちら →
(※ 『2024年度海外進出日系企業実態調査|アフリカ編』、2024年12月12日、p.2、図をクリックすると、拡大します)

 TICAD9で注目を集めた「投資」については、投資環境の魅力として、「所在国の市場規模と成長性」があげられ、課題として「規制・法令の整備、運用」がそれぞれ増加し、最多になっています。

 市場規模やその成長性などが魅力だとしながらも、まだ、制度整備が整っておらず、課題もあるという認識です。

 具体的には次のようにまとめられています。

こちら →
(※ 前掲。p.31、図をクリックすると、拡大します)

 投資環境面での課題として、「規制・法令の整備、運用」の面では、「行政手続きの煩雑さ」が前年と同様、最大の73.7%でした。まだ制度整備が改善されていないということになります。

 「財政・金融・為替面」の面では、前年と同様、「不安定な為替」が約7割でトップでした。さらに、「不安定な政治・社会情勢」でも、前年と同様、「政治リスク」と「治安」が多いと認識されていました。イスラエル・ハマスの衝突やフーシ派の攻撃の影響などが不安材料として数多く挙げられていました。

 企業活動に関する環境については、具体的に次のようにまとめられていました。

こちら →
(※ 前掲。p.32、図をクリックすると、拡大します)

 たとえば、「インフラの未整備」では、前年と同様「電力」が最大で81.7%、「雇用・労働の問題」でも、前年と同様「人材の確保」が69.3%で最大でした。現地で企業活動を展開するには、基本となる電力の安定供給や人材の確保に大きな問題があるようです。

 そればかりではありません。通関に関する制度整備がまだ整っていないようです。「貿易制度面」については、「通関等諸手続きが煩雑」が61.1%、次いで「通関に時間を要する」が59.7%でした。

こうしてみてくると、アフリカは最後のフロンティアといわれながら、実際に現地で企業活動を展開するには、まだ整備されていない部分があることを認識しておかなければならないことがわかります。

 日本企業が危惧しているのは、治安リスクです。

こちら →
(※ 前掲。p.37、図をクリックすると、拡大します)

 多くの日本企業が、アフリカに地政学上の課題を感じていることがわかります。企業活動に、「大いに影響がある」と「やや影響がある」の合計は86.4%にも達していました。

 政治的対立や紛争にも危惧を覚えていました。とくに、イスラエルとハマスの衝突や紅海でのフーシ派の攻撃を心配した企業が多くみられました。その一方で、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響があると回答した企業も多く、改めて、アフリカには地政学的課題が多いことが思い知らされます。

 たしかに私もこれまで、アフリカには、貧困や紛争、未開といったイメージが強く、よほどの冒険家でもない限り、あまり関心を抱くことはないだろうと思っていました。ところが、ジェトロの報告を読んでいくと、多くの日本企業がアフリカに商機を見出していることがわかりました。

日本企業が今後も生き延びていくために、地理的にも心理的にも遠いアフリカに、進出せざるをえなくなっているのです。

■市場としてのアフリカ

 アフリカで最も人口の多いのがナイジェリアで、すでに2億2000万人を超えています。25年後には現在の1.6倍に増えてアメリカを抜き、インド、中国に次ぐ世界第三の人口大国になると予測されています。

こちら →
(※ 2024年8月26日、日経新聞より。図をクリックすると、拡大します)

 人口規模からいえば、世界の4分の1を占める巨大な市場になるのです。しかも、若年人口の層がきわめて厚く、2025年の年齢中央値が19.3歳です。若くて体力のある年齢層が、労働力の中心になっていくのです。となれば、社会が活性化し、若者によって消費が促進されるのは必然でしょう。

 労働力不足や消費の低迷にあえぐ日本企業が、このナイジェリアをはじめとするアフリカ市場に活路を見出そうとするのは当然のことでした。

 たとえば、日本企業約200社と団体が、TICAD Business Expo & Conference (TBEC)に出展しました。これらの企業はTICAD9を契機に、日本の技術やサービスこそアフリカの発展に貢献できるとアピールし、ビジネスチャンスにつなげようとしていました。

 その結果、日本企業とアフリカとの間で、過去最大の324件の署名文書が交わされました。前回のTICAD8時の92件を大きく上回るものでした。
(※ https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250822001/20250822001-2.pdf

 改めて、日本企業が大きく動きはじめていることがわかります。膨大な若い労働力と豊富な鉱物資源に支えられた、アフリカ市場の潜在力に反応しつつあるのです。アフリカの経済成長力と鉱物資源は、日本の経済安全保障上も揺るがせにできないものでした。

 とはいえ、手放しでアフリカ市場に期待していいものなのでしょうか。

 ふと思い出したのが、さきほどご紹介したように、アフリカに進出した企業の約7割が、今後の課題として「人材確保」を挙げていたことでした(※ 前掲。p.32)。現地で雇用しようと思っても、必要な人材を確保できないのです。

 若い人口が多いとはいえ、果たして日本企業が求める要件を満たしているのかどうかは疑問なのです。

■アフリカの人口事情

 “The Economist”によると、大陸外に暮らすアフリカ出身の移民は少なくとも2000万人に達し、1990年の3倍に増加したそうです。この数は、インド人や中国人の移民の人数を上回っているといいます。(※ 日経新聞、2025年5月6日)

こちら →
(※ 前掲。図をクリックすると、拡大します)

 アフリカ系移民のおよそ半数は欧州に住んでいますが、90年以降、移民に対する反発を受けて低下し、米国、中国、サウジアラビア、トルコなどでアフリカ系移民の数が急増しています。

 一般に、先進国では労働年齢人口(15歳から64歳)が減少し、労働力不足が深刻化すると予測されています。その一方で、これまで「労働力輸出国」と見なされてきたメキシコやフィリピンでも、人口が高齢化し、所得水準が上がるにつれ、国外移住する人の割合が小さくなっています。

 いまやアフリカだけが、2050年までに労働年齢人口が約7億人も増加すると予測されているのです。

 多くのアフリカ諸国では、人々はいまだに貧しく、海外への移住を望んでいます。アフリカ諸国では、労働人口は増えていますが、彼らを受け入れるだけの雇用の場がなく、必要な数のわずか約5分の1しか就労できないからです。

 つまり、アフリカでは、労働年齢人口が激増しているにもかかわらず、国内に雇用の場がなく、生きていくには海外に出ていかざるを得ないというのが現状なのです。若くて才覚があり、渡航費を負担できる人々はすでに外国に移住していました。

 残されたのは、若くても才覚がなく資力もないような人々でした。ジェトロの調査によると、アフリカに進出した日本企業が課題として挙げていたのが、「人材の確保」でした。アフリカには確かに若い労働力が多いのですが、彼らのほとんどは日本企業が求める要件を満たすような人材ではなかったのです。

 気になるのは、国際移住機関(IOM)のエイミー・ポープ事務局長の発言です。

■IOMエイミー・ポープ事務局長、アフリカからの移民を推奨

 TICAD9に出席するため来日したIOM(the International Organization for Migration、国際移住機関)のエイミー・ポープ(Ms. Amy E. Pope)事務局長は、8月20日、横浜市内で毎日新聞の取材に応じ、次のような発言をしています。

 「少子高齢化と深刻な労働力不足に直面する日本のニーズと、若年層の雇用創出が課題のアフリカ諸国のニーズとは合致している」と述べ、「働き手の公正な待遇と報酬を確保し、コミュニティーの一員として参加できる環境を整えることが不可欠だ」と訴えていました(※ 毎日新聞、2025年8月21日)。

 驚いたことに、IOMの事務局長が、日本の労働力不足対策として、アフリカからの移民を押し付けてきているのです。それも、単にアフリカは人口が増加し、日本は逆に人口が減少しているといった現象だけを踏まえ、ただ数字合わせをしたにすぎないような対策です。

 しかも、「働き手の公正な待遇と報酬を確保し、コミュニティーの一員として参加できる環境を整えることが不可欠だ」と受け入れ条件にまで言及しています。まるでJICAのアフリカ・ホームタウン事業を彷彿させるような内容の提言をしているのです。

 日本が労働力不足に陥っていることは確かですが、その不足分をアフリカからの移民で補えるとは考えられません。実際、アフリカに進出した日本企業の多くが、アフリカでの「人材獲得」には課題があると指摘していました。単なる数合わせで労働力不足は解決できないことは歴然としているのです。

 ところが、国連機関の一部であるIOMの事務局長エイミー・ポープ氏は、日本の労働力不足はアフリカからの移民によって補うべきだといい、乱暴にも日本の社会政策に介入してきているのです。

 毎日新聞のインタビューに答えた翌8月21日、ポープ氏はIOM主催でJICA共催のイベント、「人の移動がつなぐ、アフリカ人財と日本企業がともに拓く未来」に参加し、基調講演を行いました。

こちら →
(※ IOMよりXへの投稿。図をクリックすると、拡大します)

■「人の移動がつなぐ、アフリカ人財と日本企業がともに拓く未来」

 このシンポジウムの前提として、次のような見解が示されています。

 まず、「日本における外国人労働者は230万人で過去最高を記録しているが、2040年には、現在日本で暮らす外国人住民数のほぼ倍の688万人の外国人労働者が必要になる(JICA緒方貞子平和開発研究所の推計)。国籍別の移住労働者の数は、アジア諸国が上位を占め、日本におけるアフリカからの人材活用は、非常に限られている」と述べています。彼女の日本についての現状認識です。

 次いで、「アフリカ大陸は今後人口増加が見込まれる唯一の地域であり、若い才能にあふれている。近年では、アフリカ人によるスタートアップ企業の創設も増加しており、アフリカの成長への注目が世界的に増している」と述べ、アフリカの今後に対する展望が示されています。

 そして、「日本が長年にわたり続けてきた、アフリカ地域への産業人材育成の経験を活かし、アフリカにとっても日本にとってもウィン・ウィンとなるような人の移動や人材への投資の可能性は大きい」と日本からの投資を奨励しています。

 シンポジウムの登壇者は、カーフア・トーファス(駐日ウガンダ共和国大使)、メリエム ボウホウト(横河電機株式会社アフリカビジネス推進センター事業開発マネージャー)、宍戸健一(JICA理事長特別補佐)、宮城勇也(株式会社NINAITE取締役事業本部長)、椿 進(Asia Africa Investment and Consulting(AAIC)ファウンダー/代表パートナー)など、アフリカの政府、日本の企業、JICA、JICA傘下のNGO団体、シンガポールの金融コンサルタントです。

 シンポジウムは、日本企業がアフリカ人を雇用することによって、日本にとっては経済が活性化するメリットがあり、アフリカには、①日本で雇用されたアフリカ人が稼いだお金を母国へ送金することによる経済効果、②日本で培った経験やスキルをアフリカで利活用し、社会経済の発展につなげる、③アフリカと日本を「環流」する人々を通して、アフリカの持続的な開発に貢献できる、④日本での雇用経験が、人材育成に寄与し、アフリカの将来を担う人材の向上を図る、などのメリットがあるという観点で構成されていました。

 アフリカ人労働者の権利保護や、共生社会への実現にむけた日本社会の変容、円滑な統合を進める上での課題についても考えていく必要があるとしています。
(※ https://japan.iom.int/event/TICAD9_sympodium

 シンポジウムの内容は、このように日本企業の労働力不足の現状を踏まえ、日本企業がアフリカ人を雇用することによる双方のメリットをアピールするものでした。パネリストの人選もその内容に見合っています。

 基調講演を行った後、ポープ事務局長は、岩屋毅外務大臣と会談しています。岩屋大臣が、世界の人道状況の改善に、IOMと共に取り組んでいきたいと述べると、これまでの日本の協力を感謝しており、人道危機への対応において今後も引き続き協力を求めていると応答しています。その後、行われたのが、アフリカの各地と日本の民間セクターとの連携についての意見交換でした。
(※ https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_02615.html

 このような経緯をみると、岩谷大臣とポープ事務局長との対談は予め、セッティングされていたように思えます。TICAD9開催の前に、日本政府とIOMのポープ氏はおそらく、日本企業によるアフリカ移民の受け入れについて話し合い、何らかの約束をしていたのでしょう。

 果たして、エイミー・ポープ氏とはどういう人物なのでしょうか。

■米民主党政権下で要職を務め、女性初のIOM事務局長へ

 調べてみると、ポープ氏は2023年10月、女性として初めてIOMの事務局長に就任した人物でした。IOMに着任する前は、バイデン米国大統領の下で移民問題担当上級顧問、オバマ大統領の下では国土安全保障担当副大統領補佐官を務めていました。民主党政権下で要職に就いていたのです。

 ホワイトハウスでの在任中、ポープ氏は移民問題に対処するための包括的な戦略を策定し、実施してきました。移民問題の専門家として学術論文を執筆したり、チャタムハウス(Chatham House、イギリスのシンクタンク)で活動したり、世界の移民問題に関する課題に取り組んできました。また、米国司法省や米国上院で役職を務め、ロンドンに拠点を置く法律事務所シリングスのパートナーを務めたこともあります。

 このような経歴をみると、彼女は確かに移民問題の専門家であり、その知見を活かして米国の行政にかかわるようになったことがわかります。そのようなキャリアを経て、いまや国際移住機関の事務局長として、他国に介入して移民政策を奨励するまでになっているのです。

 ところが、日本ではいま、移民に対する抗議行動が高まり、JICAはアフリカ・ホームタウン事業を撤回せざるを得なくなってしまいました。ポープ氏のプランが座礁しかかっているのです。

 ポープ氏は、再び、日本企業にアフリカ移民の受け入れを迫っています。

■競争政策の一環として、移民の受け入れを

 国連機関のひとつであるIOMは、これまで一貫して、合法的な移民を推進してきました。TICAD9に参加したポープ氏は、シンポジウムで基調講演を行い、岩屋外務大臣とも面談してきました。首尾よく日本企業や政府を取り込み、日本のアフリカ移民の受け入れは万全だと思ったことでしょう。

 ところが、アフリカ・ホームタウン事業への抗議行動が高まり、収拾がつかなくなりました。JICAは結局、9月25日にはこの企画の撤回を発表しました。ポープ氏にとっては予想もしない出来事だったにちがいありません。

 2025年10月2日、日経新聞は次のようなポープ氏の見解を紹介しています。

 「日本はまさに人口動態上の課題に直面している。急速に高齢化している。同時に、日本がこれまで競争力を培ってきたあらゆる分野において需要を満たす労働力がなければ、日本は競争力を失う。外国人材の受け入れへの国民の支持を失うリスクとは、今後数年間における日本の経済的優位性を損なう可能性があるということだ」

 アフリカ移民を受け入れなければ、日本は早晩、経済的優位性を失うと警告しているのです。

 そして、「TICAD9では高技能者、低技能者、その中間の技能者など、あらゆるレベルのアフリカ人労働者を採用する必要があるという日本企業の声を何度も耳にした」と述べる一方、「アフリカでは雇用機会が不足しており、現地には非常に高い教育を受けた若者層が存在する。こうした若者が日本で働ける方法を見つけることは賢明な投資だ」と日本企業の支援を要請しています。

 アフリカには高学歴の若者が多数いることを強調し、日本企業の懸念を払しょくしようとしているのです。

■JICAホームタウン事業は、IOM由来の構想か?

 ポープ氏は、これまで移民の受け入れに関してはもっぱらメリットを強調していましたが、この記事では、移民の受け入れに伴うデメリットにも触れています。

 「カナダやオーストラリアなど移民大国で大きな問題となったのは住宅だ」といい、「日本の成長に必要な外国人材の受け入れを拡大するには、言語や文化の相互理解ばかりでなく、住宅への対応が必要」と述べているのです。

カナダはこれまで、経済成長と人手不足対策として移民に依存してきました。まさに、IOM事務局長のポープ氏にとっては理想的な国でした。

 1970年代初頭以来、カナダは移民を擁護し、「多文化主義」を推進してきました。ところが、移民が急増すると、家賃が高騰し、医療などのサービスが逼迫してきて、デメリットが目立つようになりました。その結果、「国民感情は悪化し、次の選挙で勝機が脅かされかねない状況」となり、移民受け入れにブレーキをかけざるをえなくなりました。(※ Steven Scheer、トムソン・ロイター、2024年2月23日)

 世論調査の支持は大幅に下がり、2025年1月6日、カナダのトルドー首相は、自由党の党首と首相の職を辞任すると表明しました。9年間にわたって国を率いてきましたが、退陣を求める声が与党内で大きくなり、辞任せざるをえなくなったのです。(※ https://www.bbc.com/japanese/articles/c89x4pq2glqo)

 ポープ氏は、このようなカナダのケースを踏まえ、移民を受け入れるには住宅対策が必要だと述べているのですが、ロイターやBBCの報道を見ると、事態は深刻でした。

 カナダは移民を大量に受け入れてきた結果、家賃や住宅価格の高騰を招いたばかりか、医療など基本的なサービスが悪化し、政権が崩壊してしまったのです。トルドー前首相はこれまでの移民政策は失敗だったと認めています。

 移民政策そのものに問題があったのではないかと思われますが、ポープ氏は、移民の受け入れに必要な住宅対策を怠ったからだと認識しています。

 彼女は、国連加盟国、民間セクター、市民社会組織、すべての関係者との連携が、移民の力を活用する鍵であると強く信じています。その一方で、社会体制は現実の社会に適応する必要があると認識し、移民のニーズを優先する包括的な解決策を支援してきました。(※ https://jp.weforum.org/stories/authors/amy-pope/

 だからこそ、日本に対しても、「言語や文化の相互理解といったソフト面だけでなく、住宅などハード面の対応も必要」だと提言するのです。

 JICAがアフリカのホームタウンに認定したのは、地方の4つの市でした。人口が減り、高齢者の比重が高くなっている地域です。これらの地域では、今後さらに人口が減って、住宅価格が低下するのも目に見えていました。

 小さな地方の自治体の不安につけ込むように、アフリカ・ホームタウン事業が立ち上げられました。

 JICAは、「ホームタウン」というネーミングでアフリカの若者立ちの関心を呼ぶ一方、受け入れ側には人口減の穴埋め、労働力不足の解消といったメリットをアピールしていたのでしょう。

 「ホームタウン」という言葉の持つ実質的価値、機能的価値、そして、シンボリックな価値が渾然一体となって、双方の人々の気持ちに刺さりました。訴求力が強すぎた結果、アフリカ・ホームタウン事業は撤回せざるをえませんでしたが、そもそものアイデアはIOMのポープ氏の考え方に基づいたものではなかったかという気がしています。
(2025/10/4 香取淳子)

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