ヒト、メディア、社会を考える

第49回練馬区民美術展が開催されています。

第49回練馬区民美術展が開催されています。

■第49回練馬区民美術展の開催
 2018年2月3日(土)から2月11日(日)まで、練馬区立美術館で、第49回練馬区民美術展が開催されています。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 出品作品は、洋画Ⅰ(油絵)、洋画Ⅱ(油絵以外)、日本画、彫刻・工芸の4部門に分類され、約260点余が展示されています。私も油絵部門に出品しましたので、講評会が開催された2月4日(日)、練馬区立美術館に行ってきました。

 ざっと見て回ったのですが、今回、目を引く作品が少なかったような気がします。コンペではないので、仕方がないのかもしれませんが、題材もありきたりなら、表現方法にも工夫が感じられず、さっと通り過ぎてしまうような作品が多かったように思いました。

 もちろん、中には光る作品もあります。ご紹介していきましょう。

■黒田依莉子氏の作品:「kasumi」
 もっとも印象に残ったのが、黒田依莉子氏の「kasumi」という作品です。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 海底に生息する魚類、ヒトデ、海草のようなものが画面の下半分にぎっしりと描かれています。これらの生物群がタイトルの「kasumi」とどのように関連しているのかはわかりませんが、この作品の前を通りかかったとき、思わず立ち止まって、見入ってしまいました。色調といい、モチーフの形態といい、その配置といい、すぐにはその場を立ち去りがたい不思議な魅力が放たれていたのです。

 さらに、画面の右上には海底トンネルのような建造物が描かれており、よく見ると、その暗闇の中にも生物が小さく描かれています。それらが何を指しているのかはわかりませんが、明らかに生物だとわかる動きが表現されていました。

 一つは明らかに鳥の形をしています。海猫でしょうか、それともカモメでしょうか。大きく羽を広げて、飛翔しようとしています。上空を目指す鳥の形態をみていると、このトンネルの中の暗闇が夜空に見えてきます。無数に散らばる白い点は星なのでしょうか。中には流れ星のような動きを見せているものもあります。

 もう一つはさらに小さく描かれていますが、これもまた生物だと認識することができます。何本もの透明の足のようなものをなびかせていますから、ひょっとしたら、クラゲでしょうか。こちらはゆっくりと波の動きに合わせて遊泳しているようです。この生物を注視した後、トンネルの暗闇を見渡すと、そこはまさしく海の中であり、無数に散らばる白い点はプランクトンに見えてきます。

 この作品には絵画でしか表現できない、見る者を捉えて離さない不思議な魅力がありました。画面の下半分は明らかに海底の生物群が描かれているのに、画面上右のトンネルの中は、海の上(空)のように見えるし、海の中(海中)のようにも見えます。多様な解釈を引き出す力がありました。

 興味深いことに、いったん、このトンネルの中の暗闇を覗いてしまうと、見る者がその深みに深くはまってしまうような仕掛けがこの作品にはあったのです。考え抜かれて構想されたに違いありません。とても知的な作品だと思いました。

 この作品は練馬区教育委員会賞を受賞しています。

■岸部純子氏の作品:「薔薇」
 会場をざっと見たときは通り過ぎ、見過ごしてしまったのですが、再度、丁寧に見て回って気づいたのが、岸部純子氏の「薔薇」という作品です。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 庭に咲き誇るバラが描かれています。バラの葉陰に柵が見え、遠方に早緑色の木々の葉が見えます。ご自宅の庭なのでしょうか、新緑のころの幸せが画面全体から伝わってきます。あたり一面、バラの香りが馥郁と漂っているようで、絵を見ているといつの間にか、ささやかな幸せを感じさせられていきます。

 ありふれた日常生活の中でふと、目を止める瞬間があるとすれば、それはおそらく、この作品を見たときに感じた美に近いものを発見するからでしょう。何の変哲もない日常生活の中にも美しさはあり、心を打たれる瞬間があります。そのようなありふれたものの中に美しさを発見し、岸部氏は作品としてまとめ上げたのです。

 多数の展示品の中では、つい、見過ごしてしまうような作品です。火花の散るような瞬間が捉えられているわけではありませんし、技法上も目立ったものはありません。ただ見慣れた日常の風景が描かれているだけです。だからこそ、ヒトの目には留まりにくいのでしょう。それだけに、ありふれたものの中に美を見出し、ごく普通の画法で作品化した岸部氏の創作態度に共感を覚えました。

 残念ながら、この作品は受賞しませんでした。

■佐藤幸光氏の作品:「Sometime Ago」
 会場を見渡している中、吸い寄せられるように足をとどめたのが、佐藤幸光氏の「Sometime Ago」でした。どちらかといえば凡庸な作品が多い中で、異彩を放っており、迫力がありました。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 この作品の前で私はしばらく佇んで見ていました。「Sometime Ago」というタイトルですが、タイトルにマッチしたモチーフなのかどうかもわかりません。ただ、シャープで洗練された色彩感覚に惹かれました。

 よく見ていくと、色彩はモチーフの形状、面積、配置に関連づけ、微妙に使い分けられていました。黒い無数の線で描かれたモチーフには主に、水色や青、群青色など寒色系のグラデーションが施されていました。中心は黒い線の集合体のような大きな円状の不定形です。ここには時の堆積が表現されているのでしょうか。

 そのうえに鮮やかな赤、鈍い褐色、そして、赤とオレンジの不定形のモノが配置されています。何か特別のことがあった時の記憶の表象なのでしょうか。時の流れに身をまかせるのではなく、ちょっと立ち止まってみたとき、見えてくる世界なのかもしれません。印象深い作品でした。

 この作品は第47回油絵部門で区長賞を受賞した佐藤幸光氏の作品でした。佐藤氏は第47回練馬区民美術展で「space in space 1507」という作品で受賞しています。

■コーナーに配置された作品
 私が出品した絵はコーナーの端に展示されていました。左側の女性像を描いた絵が私の作品です。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 今回、私は「嵐の日」というタイトルの絵を出品しました。サイズは15号Fです。このところ、この女性像をモチーフにいくつか描いていますが、そのうちの一つです。女性像には博多人形のようなもろく、はかなく、繊細な質感を持たせ、背後の洞窟壁面には頑強で堅固な質感を持たせたいと思いました。

 「嵐」という過酷な状況の中で、メインモチーフと背景との質感の対比を狙いました。さらに、女性像には安らかで安定感のある表情を施し、「嵐」との対比を試みたのですが、残念ながら、受賞しませんでした。

■第49回練馬区民美術展、油絵部門の受賞者
 第49回練馬区民美術展では4つの部門に分かれ、それぞれ5つの賞が設定されていました。私が出品した油絵部門の受賞者は、区長賞1名、教育委員会賞1名、美術館長賞2名、奨励賞3名、努力賞7名が受賞しました。

 このように多数の受賞者が選ばれたのですが、私がざっと見渡して、印象に残ったのはこれまで紹介してきた3作品です。このうち受賞作品は、教育委員会賞を受賞した黒田氏だけで、岸部氏は受賞せず、さらに佐藤氏は第47回区長賞の受賞者でした。こうしてみてくると、改めて評価基準の多様性を感じずにはいられません。

 とはいえ、誰が見ても納得する「いい絵」の必須要件はあるはずです。黒田氏や佐藤氏の作品を見ていると、その必須要件が何かがわかってくるような気がします。それはおそらく、画力という言葉で表現できるものではないでしょうか。今回、会場を巡ってみて、さまざまなことを感じさせられました。(2018/2/7 香取淳子)

« »