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兵庫県知事選にみる、市民の目覚め(1)

兵庫県知事選にみる、市民の目覚め(1)

■前代未聞の選挙結果

 斎藤元彦前知事(47)の失職に伴う兵庫県知事選が11月17日投開票され、無所属で出馬した斎藤氏が、元尼崎市長の稲村和美氏(52)や前参院議員の清水貴之氏(50)らを破り再選を決めました。

 斎藤氏が111万3911票、稲村氏が97万6637票、清水氏が25万8388票という結果でした。失職したのが9月30日、その直後、たった一人でJR須磨駅の前で辻立ちをし、住民に折り目正しくお辞儀をしている斎藤氏を捉えた写真が、印象に残っています。文字通り、孤立無援の出発でした。

 それからわずか47日、再び、知事に選ばれたのです。前代未聞の出来事でした。

 優勢だといわれていたのが、稲村氏でした。無所蔵とはいいながら、自民党、立憲民主党、国民民主党など政党からの支持がありましたし、兵庫県職員労働組合、連合兵庫など、大きな組織もまた、稲村氏の支持に回っていました。

 さらに、終盤になると、22名の市長が稲村氏の支持を訴えました。記者会見の席上でテーブルを叩いて、斎藤氏を否定した市長もいました。29の市長のうち、ほとんどが稲村氏支持を強く表明していたのです。

 稲村氏に対する組織的な支援は盤石でした。尼崎市長であった実績が評価され、兵庫県知事として最適任だと喧伝されていたのです。
 
 もちろん、マスメディアは斎藤氏を否定する側でした。それまでの斎藤バッシングの報道をみれば、当然の流れでした。

■兵庫県知事選挙に至る経緯

 3月12日に当時西播磨県民局長だった男性が、報道機関等に告発文書を送付しました。それを発端に、連日、斎藤氏の「パワハラ」、「おねだり」が報道されるようになりました。

 この告発文書について、斎藤氏は「嘘八百」だとし、県民局長を、停職3か月の懲戒処分にしました。今となれば、当然の措置でしたが、県議会はこの件を問題視し、百条委員会を設置しました。

 ところが、証人喚問の直前に、この県民局長は自ら命を絶ちました。弁明の場を与えられたというのに、それをせず、命を絶ったため、斎藤氏への攻撃は一層激しくなりました。

 マスコミはそれまでの「パワハラ」「おねだり」に、「人殺し」まで加え、一方的に、斎藤氏を誹謗中傷し続けました。斎藤氏の説明を聞くこともなく、罵詈雑言を浴びせ続けた結果、県議会は、百条委員会が終了していないにもかかわらず、全員一致で知事への不信任決議を可決してしまいました。

 斎藤氏に与えられた選択肢は、県議会の解散か失職でした。不当な攻撃を受けていたにもかかわらず、斎藤氏は県議会議会の解散を要求せず、自ら失職する道を選びました。

 選挙戦に至る経緯をまとめると、次のようになります。

こちら →
(※ 日経新聞 2024年11月18日、図をクリックすると、拡大します)

 上の表をみればわかるように、斎藤氏は、約半年間にわたって、マスメディアからバッシングされ続けていました。おそらく、誰もが県議会が可決した不信任決議を信じ、斎藤氏がそのまま職を退くだろうと思っていたでしょう。

 ところが、斎藤氏は、出直し選挙に挑みました。おそらく、勝算もないまま、理念に基づいて行動したのでしょう。

 知事選には過去最多の7人が立候補しました。結果は先ほどお知らせしたとおりですが、投票率は55.65%で、2021年の前回(41.1%)を大幅に上回っていました。浮動票が大きく動いたのです。

■斎藤氏はなぜ、再び、知事に返り咲くことができたのか

 斎藤氏は、なぜ再選されたかを問われ、組織や政党の支援がないなか、SNSが一番大事なツールだった」と述べています(※ 2024年11月18日付、毎日新聞)。

 孤立無援でスタートした彼は、SNSでの発信と、県民に直接語りかける街頭活動が、普段、選挙に行かない人々を動かし、大きな得票に結び付いたと認識していました。

 もちろん、他の候補者たちも同様の戦術を展開していました。現代の選挙戦でSNSは欠くことのできない戦術の一つになっています。どの候補者もSNSを駆使した選挙活動を展開するのは当然でした。

 ところが、斎藤氏がもっとも大量に得票し、組織票をバックに優勢といわれた稲村氏を抜いて勝利しました。なぜ半年間もマスコミから非難され続けた斎藤氏が、これほど多くの票を獲得できたのでしょうか?

 私がもっとも興味を抱いたのが、この点でした。

 当時、マスコミも世論もともに、斎藤氏は辞職すべきだという論調でした。

■斎藤氏は本当に「パワハラ」「おねだり」をしていたのか?

 兵庫県議会が全会一致で不信任議決を可決した段階で、「おかしい」と思った人物がいました。NHK党の参議院議員、浜田聡氏です。まだ誰もが斎藤氏が悪い、知事を辞職すべきだと思っていた時期に、彼はYouTubeで、「兵庫県知事は悪なのかっ!?」というタイトルの情報を発信していました。

こちら → https://www.youtube.com/watch?v=7qes_4kQDvw
(CMは適宜、カットして視聴してください)

 当時、私は浜田議員のYouTubeを見て、それまで感じていた違和感が整理され、言語化されたような気がしたことを思い出します。そもそも議員が86人もいる県議会が、全会一致で不信任案を可決したということ自体が不自然でした。

 何かが隠されていると考えるのが合理的なのかもしれません。

 コメント欄にも、同様の見解が多数寄せられていました。コメントを一つ、ご紹介しておきましょう。

 「マスコミ総がかりでの針小棒大な知事攻撃に、兵庫県議会で反対する方がただの1人もいなかったとは恐ろしいです。自殺された理由も良く分かっていないのに、知事が原因であると決めつけつるし上げる恐ろしいマスコミにあえて異論を唱える浜田先生、義を見てせざるは勇無きなりとは正にこのことです。応援しております」

 浜田氏のYouTubeにはこのような見解がつづられていたのです。おそらく、この動画を見て、一部の県民が、目を覚まし始めたのでしょう。これはほんの一例ですが、連日のマスコミ報道に晒されながらも、違和感を覚え、疑念をもつ県民が少なからずいたのです。

 県民の一部は、「何か変なことが起こっている」と思い始めていました。とはいえ、それが何なのか、よくわかりません。県政に関する情報がないのです。実際は何があったのか、本当のことを知りたいという欲求が次第に、県民の間で広がっていきました。

 県政を伝えるマスコミも、県議会もあまりにも表層的な情報を繰り返し、斎藤氏をバッシングすることに終始していました。真実を知りたいという県民の思いに応える機能はありませんでした。

 そんな折、彗星のように登場してきたのが、NHK党の党首立花孝志氏でした。立花孝志は政治家であり、ユーチューバーでもあります。

■立花孝志氏、真実解明のために立候補

 立花孝志氏は、一通りの候補が出揃ってから、知事選候補者として正式に名乗りを上げました。候補者になれば、発言の機会を与えられますから、知りえた真相を話すことができます。関係者からも情報を得ることができるでしょうから、より精緻な背景分析をすることができます。

 立候補しましたが、立花氏自らが当選することを目的としていませんでした。兵庫県政に絡む闇を暴き、真実を明らかにするには、知事選に立候補するのが最適の方法でした。

 候補者になれば、政見放送に出ることができますし、県民に向けて演説することもできます。合法的に意見陳述する場を持てるのです。

 それまでマスコミ報道や県議会の報告しか目にしたことのない県民に、さまざまな事実を伝え、総合的に真実を判断してもらえる機会を提供することができるのです。県政を理解し、その実情を知った上で、候補者の政策を聞き、投票するというのが、民主主義国家の国民に与えられた権利です。

 マスコミによって覆い隠され、偏向された情報ではなく、さまざまな情報を知った上で、政治家を選ぶというのは当然の権利であり、そうすることによって、よりよい政治家を選出することができます。まずは、兵庫県政についての真実を伝えたいというのが、立花氏の立候補の理由でした。

 斎藤氏が嵌められているとわかっていたからにほかなりません。

 立花氏は、国政調査権を行使できるNHK党の国会議員の浜田氏や斎藤氏から、斎藤氏が失職せざるをえなくなった状況を把握していました。おそらく県民が知りえない情報を把握していたのでしょう。当然のことながら、兵庫県政の闇、マスコミの闇に気づいていました。

 どうすれば、この事実を県民に知らせることができるか、立花氏なりに戦略を練っていたのでしょう。兵庫県の政界、行政、経済界、マスコミが癒着し、長年の間、覆い隠してきた闇を暴くのは並大抵のことではできません。

 並大抵の政治家ができるものではありません。既得権益層と闘うには、押しつぶされるのは覚悟の上、場合によっては襲撃され、危害を加えられるかもしれないのです。闇の勢力と闘うには、知力、気力、腕力、胆力のある政治家しか対峙できません。

 立花氏は適任でした。次々と奇策を思いついては実行し、その都度、現在進行形の状態で県民に状況説明を行いました。

 立候補以来、日々、頻繁にYouTubeに動画をアップしました。その都度、県民の意識は変化していたでしょうが、それでも、マスコミ報道によって植え付けられた斎藤氏に対する固定観念を覆すのは容易なことではありませんでした。

■ポスターに見る立花孝志の見解

 10月末から11月10日まで、私は神戸に滞在していました。ちょうど兵庫県知事選挙期間中だったので、現地で掲示板を見ました。 そこには候補者のポスターが5枚貼られていました。No.3に斎藤氏、No.6が立花孝志氏のポスターです。

こちら →
(※ 11月6日撮影、図をクリックすると、拡大します)

 立花氏のポスターは少し変わっていました。通常の候補者のポスターとは大幅に異なっており、文字主体で構成されていました。一応、写真も掲載されていますが、とても小さく、候補者をアピールするといえるものではありません。部分はほとんどないといっていいのです。それでは、立花氏のポスターの部分を拡大してみることにしましょう。

こちら →
(※ 前掲。一部、図をクリックすると、拡大します)

 最も目立っているのは、「前明石市長のパワーハラスメントを忘れるな」というスローガンです。その後に13行の小さな文字の文章が続き、「本当に前知事は悪人だったのでしょうか?」という一文で終わります。

 右下の角に、立花氏の顔写真が掲載されていますが、申し訳程度の大きさです。このポスターが自分をアピールするためのポスターではないのは明らかでした。

 さて、「前明石市長のパワーハラスメントを忘れるな」というスローガンは秀逸でした。

 パワハラで失職した前明石市長が、選挙で再選された事例を引き合いに、斎藤氏を再び返り咲かせ、県政を任せようというメッセージでした。誰もが知っている前明石市長のエピソードを踏まえたところに、立花氏のセンスが感じられます。

 その下に小さな文字で書かれた文章では、内部告発制度が元県民局長によって悪用され、捏造情報が外部に向けて発信された結果、斎藤氏がバッシングされ続け、挙句の果ては失職することになったことが綴られています。

 実は、立花氏自身、20年間働いたNHKの不正経理を内部告発した経験がありました。それだけに、内部告発制度が悪用されてはならないと主張しているのです。そして、県民に向けては、テレビ情報に惑わされず、ネットやその他の媒体で情報を検証し、何が本当なのか、自分で調べてください、と呼び掛けています。

 ポスターの最後には、「前知事は本当に悪い人なのか?」と記され、詳しいことは立花孝志のYouTubeを見てください、とし、QRコードが添えられています。このポスターは、候補者立花氏から県民に向けた大きな問いかけでした。

 選挙の際には様々な情報をうのみにせず、クリティカルに判断し、自身で考え、結論を出すようにいっているのです。立花氏は、選挙を本来の姿に戻そうとしているように思えます。

 立花氏のやり方はやや荒っぽいやり方ですが、そうでもしなければ、「第4の権力」といわれたマスコミがミスリードし、社会を歪めてしまいかねない深刻な状況に今、なっているのです。

■「斎藤さん、ごめんなさい」、「立花さん、ありがとう」コール

 多くの県民は立花氏のこの呼びかけに応えました。テレビや新聞を見るだけではなく、YouTubeやXなども見るようになりました。さまざまな情報を収集して照合し、何が正しいのか正しくないのか、自分なりに判断するようになった結果、斎藤氏の街頭演説に出かけるようになりました。

 街頭演説で斎藤氏の政策を具体的に知ると、家に帰ってさらに調べ、知識が深まってくるにつけ、県の財政がいかに逼迫した状態なのか、県立高校の設備がいかに劣悪なのか、県庁舎の建て替えが無駄に高額なのか、というようなことがわかってきたのです。

 県議会が全員一致で不信任を突きつけた斎藤氏こそ、実は、兵庫県が失ってはならない人物なのではないかと気づき始めたのです。思い返すのは、連日テレビ報道された斎藤バッシングです。県民の間から、誰が言うともなく、「斎藤さん、ごめんなさい」という声が立ち上がるようになってきました。

 その声はやがて大きくなり、「立花さん、ありがとう」コールを伴って、さらに大きなうねりとなっていきました。

■「いじわるに負けるな」、「正義は勝つ」、子どもたちのコール

 11月9日夕方、尼崎中央商店街で斎藤氏が練り歩きをしたときの様子をビデオでご覧いただきましょう。

こちら →https://www.youtube.com/watch?v=0GNGP7Twtwk

 ひしめき合うように人々が押し寄せています。「がんばれ!」という声が飛び、女性の声で、「兵庫県の宝!」という声も響き渡ります。やがて、手拍子とともに、「さいとう、頑張れ!」の声が次第に大きくなっていきます。

 老若男女を問わず、県民がこの商店街に集い、斎藤氏を応援している様子がカメラに捉えられているのです。

こんなシーンもありました。

こちら →
(※ YouTube映像より、図をクリックすると、拡大します)

 斎藤氏の練り歩きの途中、反斎藤のグループがやじったり、貶したりした時、思いもよらず、子どもが声をあげ、「いじわるに負けるな!」といったのです。すると、子どもたちが続いて何人も、「いじわるに負けるな!」と大声をだし、アンチを規制しました。

 反斎藤グループがやじると、お母さんたちが、「兵庫県の宝!」と声をはりあげ、アンチの声を打ち消していきます。

 アンチも執念深く、ヤジを飛ばし続けます。斎藤氏がかすんでしまうほどの勢いでヤジが飛ぶと、子どもたちがまた、「正義が勝つぞ!」と声を張りあげます。それに合わせて、お母さんたちが、「さいとうさんは、兵庫県の宝!」と叫びます。

こちら →
(※ YouTube映像より、図をクリックすると、拡大します)

 高齢者に執拗に絡むアンチもいました。どうなることかとハラハラしてみていました。高齢者は気丈に対応し、周囲もその様子を見守りながら、練り歩きを続けていたので安心しました。まさに老若男女が身体を張って、斎藤氏を応援していたのです。

 中盤以降、斎藤氏が出かける先々で、このような現象が起きるようになりました。加古川では、こんなに人がいたのかと驚かれるほど、大勢の人が押しかけていました。姫路、三宮、神戸なども同様です。将棋倒しが心配されるほどのフィーバーぶりでした。
 
 各地の熱狂的な様子をYouTubeで見ていた私は、斎藤氏が圧勝するのではないかと思っていました。それほど県民の熱量が尋常ではありませんでした。

 ところが、投票日直前まで、稲村氏優位と報道されていました。

 県民の自由意志による投票とは違って、稲村氏には、兵庫県の政財界、マスコミ、自治労等大手の組合などの組織票がついていたからでした。しかも、兵庫県内29市のうち22市長が直前に会見を開き、稲村氏を支援すると表明したのです。

 彼らはなぜ、それほどまでに斎藤氏を知事の座に就かせたくなかったのでしょうか。これについては次回、取り上げていきたいと思います。
(2024/11/30 香取淳子)

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