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大学入試に情報科目

大学入試に「情報科目」導入、学びの現場はどうなるか。

■「第9回教育ITソリューションEXPO、第1回学校施設・サービス展」の開催
 2018年5月16日から18日まで、東京ビッグサイトの西ホールで、「第9回教育ITソリューションEXPO、第1回学校施設・サービス展」が開催されました。

 激変する社会状況の中で、未来の教育はどうあるべきか。喫緊の課題を巡って、教育業界、関連機器業界の人々が集い、交流する場が設けられたのです。会場では次世代の教育に向けた機器やサービスが種々、展示されており、それらについて説明を聞くこともできれば、体験することもできます。貴重な機会だと思いました。

 私は事前に、主催者からVIP招待状を送付されていました。案内リーフレットにざっと目を通し、教育を巡る最新動向を知るには、絶好のチャンスだと思いました。そこで、興味のあるセミナーに申し込みをし、16日の午後と17日の午後、セミナーと展示会に参加しました。

 16日昼頃、ゆりかもめの国際展示場正門前で下車すると、人々は続々とビッグサイトに向かっていきます。

こちら →
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 会場に入ると、すでに受け付け前には参加者が多数、並んでいました。受付を済ませると、カテゴリー別の入場バッジを首からぶら下げます。そのバッジは所属あるいは関心領域に従って色別されており、名刺を入れられるようになっていました。

 参加者が首からぶら下げた入場バッジは、小中高、大学、事務局、各種学校、塾・予備校、自治体、教材・教育コンテンツ、ICT機器といった具合に、色別にカテゴライズされた所属や関心領域が表示されていますから、おおよその目的が一目で判別できます。

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 展示会場に入ると、どのブースもヒトでひしめき合っていました。確かに、いま、教育現場はどこも悩みを抱えています。子どもの人口減少に加え、教育内容の向上、未来社会に適応した人材育成、等々。さまざまな課題へのソリューションが求められています。

 人材育成という点では、学校だけではなく、さまざまな組織でも同様の悩みが発生しています。いまや、あらゆる領域で、AI主導で激変する社会に適合した、人材育成に努めなければならなくなっているのです。

 人手が足りず、資金も足りない中、AIを活用したシステムを導入していかざるをえなくなっているせいでしょうか、どのブースも、ニーズに適したICT機器、あるいは、AIを組み込んだサービスを探し求めるヒトで溢れかえっていました。

 展示会場には、学校やその他の組織が抱える課題を解決するための、さまざまなICT機器やAIを組み込んだサービスが展示されていました。主催者によれば、教育関連企業の約700社が出展したといいます。

■学びNEXTゾーン
 私が興味を覚えたのは、「学びNEXT」とネーミングされたゾーンでした。そこで見聞きしたいくつかのサービスをご紹介しましょう。

〇アーティック社
このゾーンに入ってすぐ、アーテック(ArTec)という会社のブースで、ワークショップが行われているのを目にしました。

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 参加者たちはパソコンを前に、ブロック仕様の部品を使って、プログラミング演習をしていました。おそらく小学校の先生たちなのでしょう。

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 講師の指示に従って、参加者たちはブロック仕様の部品を動かし、わからなくなれば随時、講師に質問をしていました。それぞれ真剣な面持ちで取り組んでいたのがとても印象的でした。

 そういえば、2020年には小学校課程でプログラミング教育が導入されます。先生たちも新たに学んだり、学び直していく必要に迫られているのでしょう。

 調べてみると、アーティックは2018年、ロボットプログラミングの推進によって、経済産業省から「ものづくり日本大賞特別賞」人材育成部門で受賞していました。

こちら →http://www.monodzukuri.meti.go.jp/backnumber/07/03_05_01.html

 若年層へのロボット教育へのハードルを下げ、小学校低学年から取り組める教材を開発したことが評価され、受賞したのです。

 すでに2万人もの生徒がこのロボットプログラミングを体験しており、来年も採用したいとする教師は98%、そして、生徒の授業への満足度は100%だったそうです。この結果からは、教師からも、生徒からも満足度の高い教育支援サービスだといえます。

こちら →http://www.artec-kk.co.jp/artecrobo/edu/
 
 ブロック型のプログラミングロボットなので、短時間で自由に組み立てられるだけではなく、子どもたちの独創性を活かせるところが、このサービスの利点といえます。しかも、アーティック社は、段階に応じた指導カリキュラムを開発し、プログラミング教室を開校しています。

 経産省は、こうした一連の業務をプログラミング教育の推進に寄与すると判断したのでしょう。「第4次産業革命を牽引する次世代人材の育成に貢献」として、アーティック社を高く評価しています。

 次に話を聞いたのが、ジンジャー・アップ社でした。

〇ジンジャー・アップ社
 このブースの前で目にした、「学びの未来の可視化」というキャッチコピーが気になって、立ち寄ってみたのが、ジンジャー・アップ社でした。「学びの可視化」とは一体、どういうことなのでしょうか。

 担当者に聞くと、「これまでのシステムとは違って、学習過程の履歴を蓄積できるので、どこで躓いたのかがわかる」、それが「学びの可視化」だということでした。

 ジンジャー社が提供する「学びの可視化」によって、学習者がこれまでの学習過程のどこで躓いたのかが具体的にわかるようになります。そうなれば、より適切に学習内容を改善することができますから、結果の向上につなげることができるというのです。すでに、いくつかの大学や官公庁、企業などで採用実績があるといいます。

こちら →http://www.gingerapp.co.jp/case/
 
 担当者から説明を聞いているときはよくわからなかったのですが、帰宅して調べてみると、ジンジャー社が提供しているサービスは、米国ADL(Advanced Distributed Learning)社が2013年4月に公開した新規格(xAPI=Experience API)に基づき、同社が開発した独自のシステムによって、運用されています。

 具体的にいえば、ジンジャー・アップ社はxAPI に基づき、LRS(Learning Record Store)を開発しました。xAPIというのは、これまでのeラーニングの世界標準規格(SCORM)の次世代規格です。新規格xAPIに基づいて、新たにジンジャー・アップ社が開発したのが、LRS(Learning Record Store)でした。

 LRSはさまざまなデバイスに対応しており、結果だけではなく学習履歴を詳細に記録することができます。トレーニングのトラッキングが可能なばかりではなく、複数のLSM間で履歴データの移行ができます。しかも、最新のwebテクノロジーが利用できるようになりますから、さまざまな教育関連の履歴を取得し、分析することができます。担当者は、データの関連づけによる新たな分析にも対応できるといいます。

こちら →https://xapi.co.jp/xapi-lrs/

 これまでの世界標準規格であるSCORMに基づくeラーニングでは、パソコンを使ってeラーニング教材の履歴管理をするぐらいのことしかできませんでした。ところが、xAPIに基づくLRSでは、さまざまなデバイスに対応していますし、複数のLRS間のデータ移行ができるようになりますから、さらにきめ細かなサービスを展開できるようになると担当者はいいます。

 こうしてみてくると、このシステムは、単に学校現場での利用に限らず、官公庁、企業での利用も可能だということがわかります。同社は、LRSを組入れたさまざまなサービスを展開しようとしていますが、導入実績が増えれば、データの蓄積もできます。分析の精度が上がりますから、さらに多様な展開も可能になるでしょう。場合によっては、人材不足が深刻になりつつある日本に必須の次世代サービスになるかもしれません。

 さて、お馴染みのペッパーを見つけ、思わず足を止めてしまったのが、ソフトバンクグループのブースでした。

〇ソフトバンク
 人型ロボット、ペッパーによるプログラミング教育を提唱しているのが、ソフトバンクでした。

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 ペッパーを使って、子どもたちに親しまれやすく、わかりやすく、プログラミング教育を行っていこうというのがこのブースの謳い文句でした。小中学校282校へ2000台、3年間にわたって貸出し、9.1万人が受講予定だといいます。ソフトバンクは社会貢献事業の一つとしてこのプログラムを推進しています。

こちら →https://www.softbank.jp/robot/education/social/social02/

 ペッパーは身長121㎝、ちょうど小学校低学年の子どもの背丈です。子どもたちにとっては親しみやすく、話しかければ、応えてくれます。対面でコミュニケーションができる人型ロボットだからこそ提供できる機能を、ソフトバンクは強調しています。

こちら →
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 人型ロボットを操る面白さ、思いついたことは何でもペッパーを使ってやってみる気軽さ、そのような属性と機能は、子どもたちから主体的で積極的な学びを引き出してくれるかもしれません。しかも、このサービスでは、あらゆる科目に適合した教育内容を提供できるといいますから、どんな嗜好性を持った子どもにも対応できそうです。

こちら →
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 文科省はプログラミング教育を通して、対話的な学び、主体的な学び、深い学びを習得させようとしています。それら一連の学習過程を、このサービスではペッパーを通して実践できると担当者はいうのです。教科横断的なカリキュラムも提示されていました。

 もちろん、ペッパーをどのように授業に組み込んでいくか、具体的に示した教師用指導書も作成されています。

こちら →
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 この教師用指導書は、World Robot Summitジュニア競技委員であり、相模女子大学小学部副校長の川原田康文氏が監修しています。

こちら →https://www.softbank.jp/robot/education/social/curriculum/

 川原田氏は、人型ロボットのペッパーを使ったプログラミング教育では、子どもたちが対面でコミュニケーションをしているつもりで授業に臨むことができるといいます。おそらく、そのことが利点になっているのでしょう。実際にペッパーを使ってプログラミング教育をしている中学校では、「授業が楽しい」と回答した生徒が87%にも上ったそうです。

 今回、展示会場に来てみて、改めて、2020年から小学校で始まるプログラミング教育に向けて、さまざまな取り組みが考えられ、実践されていることがわかりました。

 それでは、その背景となる社会的課題とは一体、何なのでしょうか。同時開催されたセミナーの一端をご紹介することにしましょう。

■セミナー
 関連セミナーに私は、16日午後に二つ、17日午後に一つ参加しました。いずれも会議棟7階で行われました。順にご紹介していきましょう。

〇「人工知能で教育はどう変わるのか?」
 5月16日13:00~14:00まで、国立情報学研究所コンテンツ科学研究系の山田誠二教授による、「人工知能で教育はどう変わるのか? ~教育xAIの現状と今後の展望~」というタイトルの講演が行われました。

 山田氏はAIについて全般的なお話をされましたが、私が興味を抱いたのは、最初にスクリーンに映し出された図でした。会場では文字が小さく、よく見えませんでしたので、帰宅してから、「2017年 日本のハイプサイクル」という言葉を手掛かりに調べてみたところ、会場で見たのと同じ図を見つけることができました。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します。https://gartner.co.jp/press/html/pr20171003-01.htmlより)

 会場でこの図を見ただけでは、なんのことかわかりませんでしたが、ネットで調べてみたようやく理解することができました。ハイプサイクルとは、市場に新しく登場した技術が成長し、成熟し、衰退、あるいは市場に定着するまでの過程を、横軸に「時間経過」、縦軸に「市場からの期待」を置いて各種デジタル・テクノロジーを図示したものでした。

 そもそも、ガートナーのハイプサイクルは、企業があるテクノロジーを採用するか否かを判断する際の参考指標として開発されたものだといいます。

 かつてガートナーは、2012年には「モバイル」「ソーシャル」「クラウド」「インフォーメーション(アナリティクス)」の4つを緊密でかつ複合的に連携することが、デジタル・ビジネスの推進力になると指摘してきました。時を経てみれば、実際、その通りになっていますから、ガートナーの将来予測についてはある程度信頼してもいいのでしょう。

 さて、上図のハイプサイクルから今後のデジタル・テクノロジーを予測すると、いま騒がれているブロックチェーンや人工知能は5年から10年で成熟期に入っていきます。そして、ビッグデータは10年以上先には幻滅期に入るとされていますから、その後はあまり騒がれずに定着に向かっていくのでしょう。

 山田氏は、いまはデジタル・テクノロジーの端境期にあるといわれましたが、この図をみると、たしかにそうなのだということがわかります。

 さらに調べてみると、ガートナーは2018年3月27日、「2020年までに企業の75%はI&Oのスキル・ギャップにより目に見える形でビジネスの破壊的変化を経験する」という見解を発表していました。(https://www.gartner.com/newsroom/id/3869879

 最新のデジタル・テクノロジーに基づくI&O(Infrastructure Operations)を採用しなければ、大多数の企業がビジネス・チャンスを失ってしまうというわけです。当然のことながら、今後はビジネスの態様も変容していかざるをえず、AIに取って代わられる職域もでてくるでしょう。

 オックスフォード大学の准教授マイケル・A・オズボーン氏らは2014年、今後、現在の職業の約半分が消滅してしまうという内容の論文を発表して、大きな反響を呼びました。ところが、ガートナーは最近、最新のインフラを導入し運用していかなければ、企業の75%は大きなダメージを受けるという報告を発表したのです。

 さて、山田氏の講演でもっとも興味を喚起させられたのが、ハイプサイクルというデジタル・テクノロジーの捉え方でした。各デジタル・テクノロジーには固有のライフサイクルがあるのだとすれば、事業体はそれを見極めて導入する姿勢が必要になってくるのでしょう。

 もう一つ、興味深かったのが、人間にとって簡単なことがAIには難しく、AIには常識的な社会性を持たせることが難しいと述べられたことでした。AIの導入に際しては、ヒトが行う認識と機械が行う認識とは異なるということに留意し、対処しなければならないことがわかりました。

 最後に、ITS(Intelligent Tutoring Systems)については、研究レベルではまだこれからだということでした。今後の可能性としては、学生モデルを導入し、学習者より少しレベルの高いAIを導入し、「一緒に勉強したら、楽しいな」という学習者のポジティブな感情を喚起しながら進めるのがいいといわれました。

 今後は、ヒトにできること、できないこと、AIにできること、できないこと、この見極めが大切になってくるのでしょう。
 
 次に行政からの見解をご紹介しましょう。

〇「情報活用能力におけるプログラミング教育」
 5月16日15:00~16:00まで、文科省 生涯学習制作局 情報教育課 情報教育振興室 室長の安彦広斉氏による「情報活用能力におけるプログラミング教育」というタイトルの講演が行われました。

 ここではまず、平成28年12月の中教審答申で決定された教科書改訂の背景について、説明されました。

 2011年に小学校に入学した子どもにとって、将来、現在の職業の65%が存在しない、あるいは、今後10年から20年で半数近くの仕事が自動化される、さらには、2045年には人工知能が人類を超えるシンギュラリティに達する、そういった未来予測に基づけば、自ずと教育内容を変えていかなければならない、という理由からでした。

 安彦氏は、第4次産業革命といわれる今、IT人材の需要が高まっているにもかかわらず、質量ともに足りないといいます。特にデータサイエンティストが足りないのが深刻で、Society5.0に向けた人材育成を推進していくことが喫緊の課題になっていると指摘します。つまり、2020年から小学校で導入されるプログラミング教育は必須なのです。

 いま、世界的に教育改革が推進されています。知識や情報を活用する能力、テクノロジーを活用する能力、言語・シンボル・テキストを活用する能力、等々が重要になってきているからでしょう。

 AIやICT主導で激変する社会環境に適応していこうとすれば、情報教育の質の向上を目指さざるをえず、情報活用能力の育成、教科指導におけるICT活用、校務の情報化、といった教育現場全体の改革が必要になっているのです。

 安彦氏によれば、学習指導要領に「情報活用能力」が規定されたのは今回が初めてだそうですし、小学校の指導要領に「プログラミング」が盛り込まれたにも初めてだそうです。初めて尽くしの中で、小学校では文字入力などの基本的操作を習得し、プログラミング的思考を育成していくことを目的とし、情報基礎力を養っていこうとしています。

 安彦氏はさらに、小学校で導入されるプログラミング教育については、どの教科で、どのような取り組みをしていくか、先生たちの不安をなくす必要があるといいます。そのため、文科省等は下記のサイトを設け、プログラミング教育の狙いと位置づけについて説明するとともに、さまざまな事例を紹介しています。

こちら →https://miraino-manabi.jp/

 最後に、教育現場からの見解をご紹介することにしましょう。

〇「灘校が実践する、個々の能力を引き出す教育 ~アクティブラーニングってなんだろう~」
 5月17日13:00~14:00まで、灘中学校・高等学校校長の和田孫博氏による「灘校が実践する、個々の能力を引き出す教育 ~アクティブラーニングってなんだろう~」というタイトルの講演が行われました。

 和田氏は、ITネイティブの時代には、スマホ、タブレットを使いこなし、ロボットやAIを駆使できる人材が必要だといいます。

 それには、①課題にいち早く気づくこと、これには好奇心、発想力が大切、②普遍的知識や技能を習得し活用すること、これには初等・中等教育が大切、③皆で力を合わせて課題に対処すること、これには協働性が大切、④解決法を編み出すこと、これには応用力、粘り強さが大切、といった具合に、AI時代に必要とされる課題と対応能力、そして、それらを涵養する時期や精神について述べられたのが印象的でした。

 いずれも納得できるものでしたが、とくに、初等・中等教育では、「普遍的知識や技能を習得し活用すること」を課題として挙げられたのが興味深く思えました。和田氏は言葉を継いで、専門化細分化された特殊な知識や技能は汎用性が少ないといい、ITネイティブの時代だからこそ、初等、中等教育が大切だと述べられたのです。

 言われてみれば確かに、専門化細分化されすぎた知識や技能は汎用性が少ないといえるかもしれません。次々と新しい技術が開発されては消えていく現状をみていると、多様な展開を期待できる確かな基礎力こそ重要なのだという気がしてきます。

 さて、AIが進化すると、さらにグローバル化が進みますが、そうなると、異文化コミュニケーション力が大切になってきます。それには他国の社会や文化はもちろんのこと、自国の社会や文化に対する認識を深めていかなければなりません。その基本となるのが、中等教育での教養です。

 こうしてみてくると、和田氏が指摘するように、ともすれば高等教育への通過点として捉えられがちな初等・中等教育の充実を図ることこそ、ITネイティブの時代には重要なことなのかもしれません。

 そして、灘校での事例を紹介してくださいました。その中で印象に残っているのが、中勘助の自伝的小説『銀の匙』を題材にした教育法です。ある教員はこの小説を教材に、生徒たちに3年かけて、言葉を調べさせ、文化や生活を徹底的に調べさせ、学習を自発的に深化させていきました。具体的にいえば、「銀の匙研究ノート」を使って、生徒たちに予習を促し、その積み重ねとして、アクティブに学習に取り組む姿勢を養うことができたのです。教員が編み出した独自の教育法でした。

 このようなユニークな指導ができるのは、灘校が教員の自由や独自性を尊重し、教材や指導法一切が自由だからでしょう。誰もが模倣できるものではありませんが、ITネイティブの時代だからこそ必要な教育法なのかもしれないと思いました。

■大学入試に「情報科目」導入、学びの現場はどうなるか。
 2018年5月18日、政府が大学入試にプログラミングなどの情報科目を導入する検討に入ったと新聞で報じられました(産経新聞)

こちら →https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180518-00000070-san-bus_all

 17日に開催された未来投資会議で、安倍首相は「人工知能、ビッグデータなどIT技術、情報処理の素養はこれからの時代の”読み書きそろばん”だ」と述べたというのです。

 これまでみてきたように、2020年から小学校課程にプログラミング教育が導入されることはすでに決まっています。

 ですから、この記事の力点は、高等教育での情報教育の必要性に置かれており、それには、大学入試に「情報科目」を導入するのが一番だということにあります。すでに米中など、世界の主要諸国では情報教育の高度化に取り組んでいます。この流れに出遅れては、AI主導で進むSociety5.0に取り残されてしまうという危機感から示された見解だとみるべきでしょう。

 いずれにしても小学校でのプログラミング教育の導入は決定されていますので、今後はいかに現場で混乱なくスムーズに展開できるか、生徒が着実に習得できるか、工夫していく必要があるでしょう。

 今回、私は3つのセミナーに参加しましたが、立場の違う演者の3人とも、冒頭で、AIやICTの進化による社会変化に触れられました。未来社会についての認識が共通だったのです。

 たしかに、今後20年~30年後の日本を概観すると、少子高齢化によって減少した労働人口を補うために、外国人、AI、ロボットに依存するようになっているでしょう。そして、そのころ世界は、人工知能が人類の頭脳を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に達しているに違いありません。

 これまでは2045年といわれていましたが、最近は16年も早まり2029年にはシンギュラリティに達しているといわれています。

こちら →http://tocana.jp/2017/03/post_12665_entry.html

 グーグル者の技術ディレクターでもある未来学者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏は、「機械のおかげで我々はより賢くなる」とし、「2030年には思考を司る大脳新皮質をクラウドネットワークに接続するつもり」だといっています。シンギュラリティを迎えた暁には機械を人間の脳に取り込むことによって「超人」が誕生するというのです。

 いずれにしても、情報技術は進化し続け、社会が今後さらに、ドラスティックな変容を迫られるのは必至でしょう。これまで繰り返しいってきたように、やがて、これまでのヒトの仕事の半数が無くなり、ビジネスの様態も大幅に変化してしまうのです。そうなれば、どのような人材が必要なのか、どのような教育体制を取るべきなのか、といったことが喫緊の課題になってきます。あらゆる人々がこの問題に目を向け、考えを巡らせていく必要があるでしょう。

 展示会場を訪れてみて、AI、あるいはICTを活用したさまざまなサービスが考案されているのを知りました。今回、ご紹介したのは3つの事業者のサービスでしたが、いずれもAIやICTを高度に活用した技術が使われていました。気になるのは、AIにはヒトが持っているものが欠けている、ということです。今後はおそらく、両者の欠けた領域を補い合った新技術が出てくるでしょう。

 展示会のブースで、丁寧に説明してくれた人々には、切磋琢磨して情報技術を高めていこうとする気概が感じられました。知識と技能を武器に戦っている人々が開発した新しいデジタル・テクノロジーやサービスを目にすることができ、とても刺激的で興味深い展示会でした。(2018/5/20 香取淳子)