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アニメ

アニー賞にノミネートされた「食物連鎖」が示すもの

■「食物連鎖」がアニー賞にノミネート
湯浅政明氏とチェ・ウニョン氏が監督する「食物連鎖-Food Chain-」がアニー賞にノミネートされました。アニー賞は1972年に国際アニメーション協会によって開始され、映画部門とテレビ部門が設けられています。2013年の映画部門では世界各国で大量動員を誇ったあの『アナと雪の女王』が受賞しました。アニメのアカデミー賞といわれるだけあって、ノミネートされただけで大きな話題となる権威ある賞なのです。

「食物連鎖-Food Chain-」は、米テレビアニメ『アドベンチャー・タイム』の第80話として制作された作品で、湯浅政明氏は監督、脚本、絵コンテを担当したそうです。

■1月3日に日本で初放送
日本では1月3日にCSのCartoon Networkで初めて放送されました。私はオンタイムで視聴することができなかったので、インターネットで見ました。

こちら→ http://matome.naver.jp/odai/2139694387605609901/2141162540722627803

 子どもには難しいかな?と思われるテーマですが、食物連鎖の仕組みがひとつずつ丁寧に描かれています。しかも、二人の主人公がそれを体験するという展開になっています。絵柄もとても素直で見ていて快さが残ります。日本のテレビアニメと違って、視聴者に媚びるところがないのです。ちょっと驚きでした。

アメリカにはこのような作品が評価される文化的土壌があるのでしょう。だからこそ、子どもに媚びることなく、子どもに見せたいと思える作品を制作する環境が保持されているのかもしれません。

■子ども向けアニメに要求されるものは?
 興味深かったのは、湯浅政明氏へのインタビュー記事でした。彼は『クレヨンしんちゃん』の制作にも関わった経験があるようです。それを踏まえ、インタビュアーが「子どもをターゲットとしたアニメで気をつけていることはありますか」と質問したところ、湯浅氏は以下のように答えているのです。

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日本よりも海外のほうが子どもに見せてはいけないものはハッキリと決まっていて、「食物連鎖」というテーマで「宇宙人のうんちを食べなければ生き残れない」みたいな話にしようかと思ったら「うんちはダメ」だと(笑) あとは、ものを噛んだ時にニョロッと虫が出てくるシーンがあって、それが内臓に見えてダメだから色を変えようとか、そういうことはありましたね。

こちら→http://animeanime.jp/article/2015/01/01/21440.html

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 日本のアニメであれば子どもに受けるために要求される下ネタが、アメリカではむしろカットされるというのです。それは制作者としての倫理観から生まれた基準があるからなのでしょうし、そのような目に見えない基準を制作者に堅持させる社会風土があるからなのでしょう。

■子どもを巡る情報環境
いま、子どもたちは生まれたときから、さまざまなメディアからの情報の渦に巻き込まれて育ちます。善悪の基準も美醜の基準もまだ培われていない段階から、いまの日本の子どもたちは「ウケ狙い」の情報に曝されています。それはよくないと誰もが思っていたとしても、テレビは視聴率が取れなければオンエアを許されず、出版物は販売部数が伸びなければ廃刊の憂き目にあってしまいます。素晴らしい企画が持ち込まれたとしても、視聴者へのキャッチの部分がなければ、作品として世に出ることはないでしょう。

社会全体が「ウケ狙い」を当然視している風潮をどうすれば、変えることができるのでしょうか。ひょっとしたら、保護者が、子どもたちを情報環境から保護する姿勢で臨まない限り、変えることができないのかもしれません。そう考えると暗澹たる気持ちになってしまいます。

■アニメ「食物連鎖-Food Chain-」が示す、子どもとの向き合い方
 「食物連鎖-Food Chain-」を視聴した上で、湯浅監督のインタビュー記事を読み、とても考えさせられました。アメリカの子どもたちもおそらくは下ネタが好きでしょう。でも、制作者がそれに乗らないのです。子どもたちを手っ取り早く引き付けることができるとわかっていても、あえて、そうしない・・・。そのような凛とした姿勢を日本の制作者に望みたいと思います。

一方、制作者が凛とした姿勢を取るためには、良心的な作品に対しては社会で支援し、積極的に推進していくようなシステムを教育の一環として作っていく必要があるのかもしれません。(2015/01/04 香取淳子)