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Henry Lauは現代版モーツァルトか?①卓越した技能

Henry Lauは現代版モーツァルトか?①卓越した技能

■Henryに夢中
 
 最近ユーチューブを見ることが多いのですが、ふとした偶然でHenry Lauに出会って以来、ほとんど毎日、見るようになってしまいました。それでも、まったく見飽きることがありません。完全にはまってしまったのです。

 なぜかしら?と考えてみたのですが、二つほど理由が考えられます。一つには、その面影が今はいない下の弟に似ているせいかもしれません。弟も音楽が大好きで演奏会を開き、ファンのような人に付きまとわれたりしたこともありました。Henry のように細面でハンサム、身長は183㎝ありました。目はHenryよりもう少し大きく、どこにいても人目を引く存在だったのです。

 そして、もう一つは、Henry の有り余るほどの才能です。多分、音楽の才能だけではないでしょう。語学の才能、全体状況を瞬時に把握し、最適の行動を選択できる能力、切れ味のいいダンスなど、身体能力の高さ・・・、Henryは全般に右脳の働きが優れている人なのかもしれません。非凡な人だけが放つ輝くようなオーラに、私は惹かれました。

2020年9月号の“Forbes”韓国版では、Henryが表紙を飾りました。

こちら →
(図をクリックすると、拡大します)

 オールラウンドなエンターテナーとして、“2020 Korea Power YouTuber”の一人に選ばれ、表紙を飾ることになったのです。てっきり、トップ10に入っていると思ったのですが、そうではありませんでした。

こちら → https://10mag.com/top-10-korean-youtubers-of-2020/

 トップ10に入っていたのは、お笑い系、食べ物系、子ども向け、化粧系、バラエティ系などでした。日本でも同様です。一般の人々にはやはりそのような内容が好まれるのでしょう。

 Henryが評価されたのは、ユーチューブチャンネルを開設して5カ月間で100万人の登録者を獲得しただけではなく、質の高い内容の音楽番組を提供していることが評価されたようです。

 “2020 Korea Power YouTuber”のリストは、フォーブスコリアが米国のフォーブス本社と協議してまとめられました。選考過程でアメリカ人の視点が入ったからこそ、アーティストとして、人々にポジティブな影響を与えていることが重視されたのかもしれません。

 私が見始めたのも、質の高さに驚いたからでした。それでは、Henryの音楽をみていくことにしましょう。まず、私が偶然、目にして驚いた映像からご紹介します。

■Henry & Shin Jiho(ピアノとバイオリンの協奏)
 
 Henryと若手ピアニストShin Jihoとが共演している映像で、2014年12月27日に公開されました。4分32秒の映像です。これは約786万回視聴されています。

こちら → https://youtu.be/SdzliZRtEo8
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 私はまず、深みのあるバイオリンの音色に引き込まれました。ピアノの伴奏ともぴったり呼吸があっており、久々に快いクラシック音楽を聴いたような気がしました。

 ところが、途中から曲調が変わり、現代ポップスのようになりました。途端に、Henryはバイオリンを横に抱え、まるでウクレレを弾いているかのようにリズムを取りながら、指でつま弾き始めたのです。

 観客は湧きました。ひと段落して落ち着きが戻ったかと思うと、今度はバイオリンでポップスを弾き始めます。観客は思わず笑顔になり、身体でリズムを取り始めます。すると、Henryは立ち上がり、バイオリンを弾きながら、足芸を見せるのです。マイケルジャクソンのような、床を擦るような動き方です。

 観客は手を叩いて、喜びます。

 頃合いを見て、Henryはエンディングに入ります。そして、ピアノのJihoと呼吸を合わせて、鮮やかに終わります。

 わずか4分32秒の映像でしたが、緻密で緩急自在の構成に驚いてしまいました。

 Henryはまさに卓越したバイオリニストであり、パフォーマーであり、なによりも観客を喜ばせるエンターテナーでした。どの観客も幸せそうに顔をほころばせているのが、とても印象的でした。質のいいエンターテイメントを見た思いです。

 実は、Henryはピアノも弾けるのです。

Jiho × Henry piano battle(ピアノの競演)
 
 先ほどはバイオリンとピアノの協奏でしたが、今度はJihoと Henryがピアノで競演するという企画です。2021年5月1日に公開され、38251回視聴されています。6分26秒の映像です。

こちら → https://youtu.be/8Y6kdg6I0Fg
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 最初から演出過剰かなという気がしました。二人とも実力がありますから、演奏だけで十分観客を引き付けられるのにと、ちょっと不満でした。冒頭の芝居がかった演出、Henryのラフな服装など、せっかくの演奏を台無しにすると思いました。

 ところが、そんなことを思ったのも最初だけで、すぐ二人の演奏に引き込まれていきました。しっかりとしたタッチで深い音色が快く、ピアノの音がこれほど豊かな響きを持っていたのかと驚かされました。

 とくに印象的だったのが、単純な音だけで二人が絡み合うところです。息がぴったり合っていて、音の応酬が面白く、まるで二人が会話をしているように思えました。連弾ではなく、音の絡み合い、つまり、相互作用が快活に二人の間で、展開されていたのです。

 ひょっとしたら、若い二人がピアノ演奏の新しい地平を切り開こうとしていたのかもしれません。

 日本人ピアニストとの共演もありました。
 
Henry × Yiruma Collaboration ‘River Flows in You’(日本人との共演)
 
 これは日本人ピアニストとの共演です。2014年8月1日公開に公開され、約425万回視聴されています。

こちら → https://youtu.be/wR_nfACHXw4
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 これまでとは違って、劇的な要素は少なかったですが、互いの呼吸を合わせながら、丁寧に弾いている姿勢が好ましく思えました。優しい曲を丁寧に弾いていくことで、音への気配りが感じられます。音の柔らかさに気づかいながらも、しっかりと音が出ていました。

 テンポの速い部分になっても、Henryは軽々と、音を飛ばさず流していきます。とくに速い箇所になると、Henryの安定したタッチ、音の切れといったようなものが強く印象づけられます。

’Faded’ on 2 piano live(イントロを一人で2台のピアノを演奏)
 
 Henryが一人で、2台のピアノでFaded’を弾いています。これはイントロですが、とてもインパクトがあります。この映像は2019年11月11日に公開され、約472万回視聴されています。

こちら → https://youtu.be/iVOH8tZZhws
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 まるでマジシャンのように2台のピアノを演奏しています。Henryは最初、左手でメロディだけを弾きます。主旋律を弾き終えると、今度は振り返って、もう一つのピアノに向かい、右手で伴奏をつけます。やがて、2台のピアノで右手と左手でメロディと伴奏を同時に弾いていきます。

 人間技とは思えないほど器用に、Henryは2台のピアノを扱っているのです。驚いてしまいました。しかも、これほど難しい弾き方をしているのに、不思議なぐらい、音がぶれることはありませんでした。

 左手でメロディ、右手で伴奏を2台のピアノで別々に弾いて、音が合っているのですから、驚きました。一種のパフォーマンスだと思いますが、これほどの芸当ができるのはHenry以外にいるでしょうか。

 次第に強く、速く、劇的に展開していきます。そして、歌い始めるといった展開です。舞台の中央にくるとダンサーが踊り、歌が中心になります。

 この時の演出はとても良かったと思います。舞台全体が白黒で統一されており、メカニックな印象でした。それだけに冒頭のピアノの単純なメロディが心に刺さります。Henryの服装も白黒、ダンサーは白か黒のどちらかに統一されていました。

 会場は幾何学的な視覚印象を与えるように設営されており、観客を異次元に誘い込む工夫が随所に見られました。そのせいか、Henry が2台のピアノを使って、メロディと伴奏を弾きわける技がことさらに素晴らしく見え、パフォーマーとしての演出が冴えていると思いました。演奏する行為そのものがショーアップされていたのです。(2021年6月30日 香取淳子)

 以下、次回に続く。

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