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5G時代の到来:社会的課題の最適解をサービスとして提供しうるか。

5G時代の到来:社会的課題の最適解をサービスとして提供しうるか。

■通信4社に5Gの電波割り当て
 2019年4月10日、総務省は通信4社に対し、次世代通信規格5Gに必要な電波を割り当てました。各社に割り当てられた帯域は以下の通りです。

こちら →
(総務省より。図をクリックすると、拡大します)

上図で示されているように、NTTドコモ(以下、ドコモ)、KDDIと沖縄セルラー電話(以下、KDDI)、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に5Gの電波が割り当てられました。これまで5G絡みで、未来社会の夢がさまざまに語られてきましたが、これでようやく各社は2020年内に商用サービスを開始できるようになりました。5G時代の幕が開かれたのです。

 興味深いのは、割り当てられた帯域の枠数が、社によって異なることです。28GHz帯は各社1枠ですが、3.75 GHz帯及び4.5 GHz帯はドコモとKDDIが2枠でソフトバンクと楽天が1枠でした。これは一体、どういうことなのでしょうか。

 調べてみると、総務省は電波の割り当てに際し、申込者に条件を課していたことがわかりました。すなわち、全国を10㎞四方の4500区画に分け、その50%以上に、5年以内に基地局を設置することを最低基準にしていたのです。

 この条件からは、総務省が、全国津々浦々、人々が5Gの電波の恩恵を受けられるよう、配慮していたことがわかります。その結果、先ほどの図で明らかにされたように、3.75 GHz帯及び4.5 GHz帯で、ドコモとKDDIに2枠の電波が割り当てられました。

 019年4月11日の産経新聞は、各社の全国カバー率、基地局数、サービス開始時期、設備投資額を整理し、表にまとめています。

こちら →
(産経新聞2019年4月11日より。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、全国カバー率は、ドコモが97%、KDDIが93.2%、ソフトバンクが64%、楽天モバイルが56.1%でした。ドコモとKDDIが90%以上を占めています。全国満遍なく5Gのサービスを早期に開始できるか、多様なサービスを提供できるか、等々を考えれば、カバー率の高い申込者であるドコモとKDDIが3.75 GHz帯及び4.5 GHz帯で2枠を割り当てられたのは当然です。

■5Gサービスとは?
 先ほどの表を見ると、カバー率の高さに比例し、設備等への投資額も高額になっています。もっとも多額を出資するのがドコモですが、一体、どのようなサービスが予定されているのでしょうか。

 ドコモが総務省に提出した5Gサービスの展開イメージを見ると、以下のように示されています。

こちら →http://www.soumu.go.jp/main_content/000549664.pdf

 ここではまず、5Gの導入意義について、①増加するパケットトラフィックへの対応、②5Gの特徴を活かし、様々な業界とのコラボレーションによる新産業の創出、などの2点が挙げられ、説明されています。

 いずれも、5Gの特徴である、①高速・大容量、②低遅延、③多数の端末との接続などを活かしたサービスによって、対応が可能になるということです。具体的には、下図をイメージするとわかりやすいかもしれません。

こちら →
(「5Gサービス展開イメージ」(NTT dokomo、平成30年4月27日)より。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、大都市中心部、都市圏、地方など、トラフィック量が大幅に異なる地域でも5Gで対応できることが示されています。それだけではありません。電波の遅延が低く、多数のデバイスと同時に接続できるので、さまざまなサービスを利用できるようになるようです。

 たとえば、ドローンによる配送、自動運転、遠隔医療をはじめ、工場や農業での安全で効率のいい生産などが、5Gのサービスによって可能になります。さらには、効率がよく、利便性が高く、ヒトとヒトがつながりあえる環境も整備されやすくなりますから、人々のニーズにマッチしたサービスが可能になることが示されています。

 それでは、海外ではどうなのでしょうか。

■海外の動向
 すでにアメリカと韓国は2019年4月3日、5Gのスマホ向けサービスを始めています。日本では4月10日にようやく5G電波の割り当てが発表されたばかりだというのに、米韓はすでにスマホ向け5Gのサービスを始めているのです。ですから、日本は出遅れたと一部から指摘されているようです。

 興味深い記事がありました。

 佐藤ゆかり総務副大臣は、ロイターのインタビューを受けた際、「開始時期よりも5Gサービスを受けられるネットワークの整備が重要だ」とし、「出遅れとは感じていない」と強調し、その一方で、「運用面で世界トップを目指していく」(ロイター、2019年4月10日)と語ったというのです。

 佐藤副大臣はなぜ、そのような返答をしたのでしょうか。確かに、私も「開始時期よりも5Gサービスを受けられるネットワークの整備が重要だ」と思います。とはいえ、実際、米韓は日本よりも早く5Gサービスを開始していますから、私は、「出遅れとは感じていない」という返答に、いささか違和感を持ちました。

 ただ、NHKのWebニュースを読んで、その理由がわかり、納得しました。

 実は、4月3日、米韓の事業者が競い合うように、相次いでスマホ向け5Gサービスを開始していたというのです。

 2018年10月1日から5Gサービスを開始した米ベライゾンは、2019年4月11日に予定していたスマホ向け5Gサービスを前倒しし、2019年4月3日に開始しました。その一方、韓国のSK、LGU+、KTの大手3社は4月3日午後11時、5Gサービスを開始しました。こちらは5日に開始予定だったものを2日前倒しし、芸能人やスポーツ選手など一部を対象にしたといいます。一般向けのサービスは当初の予定通り、4月5日に開始されました(NHK NEWS WEB、2019年4月4日)。

 双方とも当初の予定を変更し、開始時期を巡って争っていたのです。おそらく、このことを念頭に置いていたのでしょう。佐藤副大臣は「出遅れとは感じていない」と強調し、開始時期よりも5Gサービスを受けられるネットワークの整備が重要だ」と語りました。

 米国ではモトローラ、韓国ではサムソンのスマホで5Gサービスが開始されましたが、サムソンでは不備が出ているといわれています。このような状況を見ると、改めて、開始時期よりも、5Gサービスを受けられるネットワークの整備こそ、肝要だということがわかります。

 そもそも5Gサービスは世界各国で、2020年の実現を目指し、取り組まれています。世界の動向からいえば、一部で主導権争いをしていますが、全体でいえば、まだ緒についていないのです。

 世界の携帯電話事業者による業界団体(GSM Association、以下、GSMA)が実施した調査結果があります。5Gの動向を把握するため、それを見てみることにしましょう。

■GSMAによる調査
 GSMAは、調査の結果を踏まえ、2020年以降の世界の5G回線数は、約5年で11億回線、世界人口に対するカバー率は約3割に達すると予測しています。開始後の予測カバー率推移を図示したのが、以下のグラフです。

こちら →
(総務省より。図をクリックすると、拡大します)

 驚いたことに、わずか5年弱で人口カバー率30%近くまで達することが予想されています。技術力、基地局設置等への投資など、数々の課題を抱えながらも、多くの国は5Gの利用に向けて優先的に取り組んでいることがわかります。カバー率の推移を示すこの図を見ていると、5Gのサービスが社会インフラとして機能し始めることが容易に理解できます。

 あらゆるモノが繋がる社会になれば、その基盤となる通信ネットワークの重要性はさらに高まります。これをインフラとして整備できない国はそれこそ、社会の進展から出遅れてしまうでしょう。

 興味深い資料を見つけました。ロシア及び独立国家共同体諸国の最新市場動向レポート「The Mobile Economy: Russia & CIS 2018」(2018年10月30日発表)です。これによると、ロシアでは2020年に開始予定の5Gサービスは、2025年には国内人口の81%をカバーすると報告されています。

こちら →
(「日経×TECH」、2018年11月7日より。図をクリックすると、拡大します)

そこで、原著を見てみると、ロシアがまず取り組みたいのはeMBB(enhanced mobile broadband)だと書かれています。なぜかといえば、ロシアでは、固定ブロードバンドはすでに成熟し競争力のある市場になっているのに、IoTとエンタープライズソリューションは出遅れているからです。ですから、5Gを導入しても、2020年以降の初期段階では、都市部と既存のホットスポットに集中することになり、5Gは主に、ネットワークの輻輳を緩和し、高速で大容量の通信を提供するためのオフロードソリューションになるというのです。

 こうしてみてくると、これまでのインフラの延長線上に、5Gのインフラが構築されることがわかります。それぞれの国情を踏まえた展開をせざるをえないのです。開始時期争いをすることにそれほど意味はないといえるでしょう。

 ちなみに、先ほどご紹介したロシアの報告では、5Gの主導権争いが中国、米国、韓国で展開されていると指摘されていました。そこに日本という文字はなく、トップグループに日本が入っていないことは明らかでした。

■5Gが牽引するIoT時代
 モバイル無線技術はこれまで1Gから4Gまで、もっぱら高速と大容量を求めて技術が進化してきました。単なる電話機能からメールやネット接続、写真や音楽配信、動画配信やSNS、といった具合に、技術の進化に伴い、サービス内容も多様化していました。今回の5Gには「高速で大容量」に加え、「超低遅延」、「多数同時接続」、といった特徴があるといわれています。それでは、どのようなサービスが可能になるのでしょうか。

 総務省は、平成30年版『情報通信白書』の中で、4Gまでが人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、5Gはあらゆるモノ、人などが繋がるIoT時代の新たなコミュニケーションツールとしての役割を果たすことになると説明しています。

こちら →
(総務省、平成30年版『情報通信白書』より)

 上図では3段階に分けて、5Gの特徴と機能が示されています。まず、1Gから4Gまでの高速・大容量技術があり、それに加え、超低遅延の技術、多数同時接続の技術が統合されたのが5Gとなります。そして、その5G全般の特徴を活かしたさまざまなサービスが具体的に示されています。

 まず、これまでの技術を拡張した「高速・大容量」を活用したサービスで、エンターテイメント領域が大幅に変化します。5Gになれば、2時間の映画も3秒でダウンロードできるようになるといいますし、スポーツ観戦の楽しみ方も大幅に変わってくるでしょう。

 さらに、これまでのモバイル無線技術にはなかった「超低遅延」と「多数同時接続」を活かしたサービスが示されています。これらが、今後の社会に大きなインパクトを与えるようになることは確かです。

 たとえば、自動運転のように、リアルタイムで安全性の高い通信状況が求められる場合、遅延が極めて低い「超低遅延」技術は不可欠です。ロボット遠隔制御についても、遠隔医療についてもこの技術は欠かせません。

 さらに、倉庫に保管された多数の物品の位置や中身の把握する場合、多数のデバイスを同時に接続して利用できる「多数同時接続」の技術が効力を発揮します。この技術は医療にもエンターテイメントにも行政にも活用することができ、これまで以上にきめ細かなサービスが可能になります。

 総務省等の情報に基づき、5Gの機能とそのサービス内容を見てきました。現時点ではまだ構想にすぎないとはいえ、これまで以上に多様なニーズにマッチしたサービスが可能になることがわかります。すでにいくつものプロジェクトが実用に向けて、実装実験を繰り返しているようです。

 サービスを享受する側としては、果たして、5Gが牽引するIoT時代に必要な人材がどれほどいるのか、気になります。

■人材育成はどうなっているのか。
 さまざまなニーズを発掘するヒト、ニーズに沿ったサービスを考案するヒト、5Gの電波を利用してサービスを提供できる仕組みを創り出すヒト、5Gのサービスを展開するにはさまざまな過程に対応できる人材が必要です。そのような人材が今、果たしてどれほどいるのでしょうか。

 総務省のHPを見ると、5Gの利活用については、アイデアコンテストを実施し、その結果も2019年1月11日に発表されていました。

こちら →http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000369.html

 これを見ると、さまざまな地域、組織から、多様なアイデアが寄せられていることがわかります。いずれも、人々の生活向上に寄与しうるサービスといえるでしょう。

 2019年1月29日‐30日、東京国際交流館プラザ平成で、「5G国際シンポジウム2019」が開催されていたようです。私は全く知りませんでしたが、展示概要は以下の通りです。

こちら →
https://5gmf.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/5g-international-symposium-2019-3.pdf

 そして、2019年4月10日の日経新聞には、総務省が電波利用の専門人材の育成に乗り出すという記事が出ていました。2019年度に初めて中核拠点(COE)を公募し、大学や高等専門学校と企業の若手が共同研究に取り組む体制を構築するというのです。

 この「電波COE」は全国から1機関選出し、総務省が所管する競争的研究資金から年間最大4億円を最長4年間にわたって拠出するといいます。電波のより効率的な利用法、周波数を共同利用する技術などを研究テーマとし、30歳代までの若手を中心に、大学や企業が連携して取り組むことが前提になっています。

こちら →
http://www.soumu.go.jp/main_content/000603070.pdf#search=’%E9%9B%BB%E6%B3%A2COE’

 日経新聞の記事を読み、そして、総務省の資料を見ると、行政側の取り組みの一端がわかります。ただ、素人ながら、果たして、これだけで5Gに向けた人材を育成できるのかという不安が胸をよぎります。

 先ほどご紹介したロシアの報告書では、アメリカ、中国、韓国は5Gで主導権争いをしていると書かれていました。そこに日本という文字はなく、主導権争いをするトップグループに入っていないことを思い出しました。

 政府主導で5Gの整備に動く中国、これまでの実績を踏まえ、民間の力と力を合わせ5Gの推進を重視するアメリカ・・・、米中とも人材も資金も豊富です。一方の日本は果たしてどうなのか、民間企業の力が推進力になっていくとすれば、5Gをめぐる米中の争いの狭間でなんとか日本なりの立ち位置を確保できるのかもしれませんが・・・。

■少子高齢社会のニーズに対応した5Gサービスは?
 これまで見てきたように、ヒトがこれまで経験したことのない社会が5Gによって生み出されようとしています。現在はまだ、可能性の段階のサービスです。ですから、実際にサービスが導入される過程でいろいろと問題が出てくるでしょうが、様々な問題点をその都度、克服していけば、やがては現実のものになっていくでしょう。まずは課題を発見し、それに対応できるサービスを考えていくことでしょう。

 少子高齢化に伴う課題、過疎化に伴う課題をはじめ、現在、日本社会には緊急に取り組まなければならない社会的課題がいくつかあります。

 たとえば、『平成30年版高齢社会白書』によると、現在、日本の高齢化率は27.7%(総人口に占める65歳以上の人口)ですが、その比率は今後さらに伸びると推計されています(下図)。

こちら →
(『平成30年版高齢社会白書』より。図をクリックすると、拡大します)

 上図を見ると、75歳以上の人口も増え続けますから、介護を必要とする人、生活行動全般に援助を必要とする人が増えてきます。しかも、独居世帯が増えており、これまでのように家族が高齢者を支えていくことが難しくなってきています。できるだけ自立して生きられる期間を長くすることが大切になってきているのです。

 モバイル端末が、その他のデバイスと同時に多数、接続できるようになると、それこそ、独居高齢者の運動状況、摂食状況、健康状態のチェックなどができ、最適の予防措置を取ることができます。そして、高速大容量、超低遅延の通信が可能になると、それこそ遠隔医療も身近なものになっていくでしょう。

 このように、健康寿命を延ばすための多様な5Gサービスが創案され、実用化されていけば、超高齢社会の日本が、後続する高齢社会に最適のサービスを提供することもできます。これはほんの一例です。社会的課題を5Gサービスによって解決していくことができれば、5Gが普及していく時代の世界に通用するサービスモデルとして機能するようになるかもしれません。このようにみてくると、今回の5G電波の割当は、社会的課題が通信技術によって解決されていく社会の幕開けだといえるでしょう。(2019年4月15日 香取淳子)

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