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2022年参議院選挙② 個とコミュニティが支える本格政党の誕生

2022年参議院選挙② 個とコミュニティが支える本格政党の誕生

■2022年参議院選挙の結果

 2022年7月10日午後8時から開票速報が始まりました。比較的早く、比例1議席の当確がでたのですが、その後、なかなか当確がでません。せめて2議席ぐらいは・・・という願いも空しく、結局、1議席の獲得にとどまりました。

 ユーチューブで、選挙戦終盤の勢いを見ていると、ひょっとしたら、5議席獲得するのではないかと思っていたほどですが、現実はそれほど甘くありませんでした。

 比例選挙区の候補者5人の得票数を見ると、神谷宗幣氏が159433票、武田邦彦氏が128257票、松田学氏が73672票、吉野敏明氏が25463票、赤尾由美氏が11344票でした(※ https://www.jiji.com/jc/2022san?l=hirei_094)。

こちら →
(参政党公式ツィッターより。図をクリックすると、拡大します)

 これに、政党名だけが記入された票数を合わせると、参政党は総計176万3429票を獲得しました。比例区の得票率は3.3%になります。

 獲得議席は1つでも、得票率が2%を超えたので、参政党は政党要件を満たすことができました。

 政党交付金の交付の対象となる政党は、「政治資金規正法」上の政治団体であって、(1) 所属国会議員が5人以上、あるいは、(2) 所属国会議員が1人以上、かつ、直近の国政選挙における全国を通じた得票率が2%以上のものと定められています。
(※ https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seitoujoseihou/seitoujoseihou02.html

 初めて国政選挙に打って出た参政党が、国政政党として認められ、政党交付金を得ることができる条件を満たしたのです。これでようやく、党勢を拡大し、公約を果たしていくための準備が整ったことになります。

 もっとも、私には、この結果は少々、意外でした。

 選挙期間中、私は、全国各地で、数多くの有権者が参政党候補者の街頭演説に集まり、感涙して拍手喝采する姿をユーチューブで見ていました。それだけに、5議席は簡単に獲得できるのではないかと思っていたのです。

 たとえば、投票日前日、芝公園で行われたマイク納めの街頭演説には、1万500人もの有権者が集結しました。

■1万500人が集まった芝公園

 この街頭演説のフィナーレを、360度カメラで撮影した1分28秒の動画があります。見ていただくことにしましょう。

こちら → https://youtu.be/oCx9ayhZuqA
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 神谷氏の呼びかけに応え、有権者たちが気持ちを合わせて、「1、2、参政党!」とコールする声が、いつまでも夜空に響いています。

 気迫あふれる演説に、どれだけ多くの有権者が歓声をあげ、心から拍手喝采していたことか・・・。ニュース映像で見る限り、これだけのフィーバーぶりを他の政党では見ることはありませんでした。

 日本を取り戻そうという神谷氏の熱い思いが、有権者の気持ちを捉え、各地を熱狂の渦に巻き込んでいました。候補者と有権者がいっとき、心を合わせ、誇れる日本を取り戻そうという思いに駆られ、気持ちを一つにしていたのです。

 何も最終日の芝公園だけではありません。参政党を取り巻くこのような光景は、全国各地で見られました。その様子をユーチューバーたちが動画で、次から次へと伝えてくれました。

 有権者の視点で撮影された動画には、現場の熱気が余すところなく、反映されていました。素朴なアングルがとても新鮮でした。画面を見ていると、ふと、これこそ、報道の原点ではないかと思えてきました。

 それがなぜ、得票数に繋がらなかったのでしょうか。

 ネットをチェックしていると、興味深い動画がアップされていることに気づきました。参政党選挙区から立候補した野中しんすけ氏の動画です。この疑問に答えてくれそうです。

■既存政党の圧倒的な組織力

 野中氏は、実際に戦ってみて、どういうことに気づいたのでしょうか。福岡選挙区から立候補した候補者がアップした動画を、ご紹介することにしましょう。

こちら → https://youtu.be/7qXgn0ve3VE
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 今回、初めて選挙に出馬し、気づいたことを3点、野中氏は話してくれました。

 選挙期間中、警察から警告を受け、ビラ配りを中断させられたことがあったというのです。歩道で配っており、違反をしているわけではないのに、ビラを配っているのが気に入らず、ある政党の党員が警察に通報したからでした。やって来た警察官は、違反ではないことを確認して去っていったといいます。

 また、ある時、歩道でビラ配りをしているのに、誰の許可を得て、ビラ配りをしてるんだと凄まれたことがありました。恐怖心を覚えるほどだったといいます。これはある団体の関係者でした。

 いずれの場合も、候補者の意欲を少しでも削ごうとする他陣営の悪意が感じられます。選挙妨害に相当する出来事だといっていいでしょう。

 候補者や支援者の気持ちを萎えさせるような行為が他陣営から仕掛けられる一方、弱小政党ならではの悲哀もあったようです。

 福岡の民放テレビは18日間の選挙期間中、一切、報道してくれませんでした。街頭演説が終わり、既存政党の候補者に代わると、たちまち、その場に報道陣がずらりと並び、撮影していたというのです。諸派といわれる候補者たちは露骨なまでに、完全無視されていたそうです。

 SNSの時代になったとはいえ、認知効果という点で、いまだに大きな威力を発揮しているのがテレビです。地元テレビで一切、取り上げられないのは、候補者として存在しないのも同然でした。

 放送されなければ、有権者に幅広く認知されることは難しく、県民に幅広くアピールすることはできません。大きな損失でした。このようなメディアの対応に、新しく立ち上がろうとしている候補者は完全に不利な状況に置かれていることに気づいたと野中氏は言います。

 例えば、互角の戦いができるかなと思っていた他の候補者は、連合や団体が支持に回っていたので、圧倒的に有利でした。個々の有権者に向け、切々と政策を訴えてきた野中氏にとって、納得のいかない選挙の実状でした。

 既存政党といい、支持団体といい、メディアの対応といい、既存政党からの候補者に有利な仕組みに出来上がっていることを今回、選挙に出てみて、わかったと野中氏はいいます。

 民主主義を支える制度としての選挙制度は、民意をくみ上げるシステムとして機能しているのかどうか、疑問に思えてきます。

 個々の有権者ではなく、団体に支持されただけで当選した候補者は、国会でどんな働きをしているのでしょうか。そのような政治家を国会に送り込んで、日本が衰退していくことに、支持団体はどう責任を取るのでしょうか。結局は投票して終わりという団体と候補者の関係の中からは、日本をよくするための政治ができるわけがありません。

 これを聞いて思い出したのが、自民党の東京選挙区から立候補した生稲晃子氏です。

■自民党の候補者、政治見識なくても楽々、当選

 自民党公認を受け参院選に東京選挙区から立候補した生稲晃子候補(54)は、元おニャン子クラブのアイドルでした。その後、なんらかの社会活動あるいは、政治活動していたと聞いたこともなく、とうてい、政治家としての資質があるとは思えません。

 まず問題となったのが、NHKによるアンケートに対する不誠実な態度でした。全26問の質問のうち、生稲候補が答えたのはわずか5問、残り21問については「回答しない」で済ませています。その中には「これまでの岸田総理大臣の政権運営をどの程度評価しますか」という質問もあったというのに、です。

 生稲候補の場合、回答不備が問題となっただけではなく、自民公認で東京選挙区から出馬した朝日健太郎候補との回答が、瓜二つの“コピペ”だったことも、問題視されていました。(※ 『デイリー新潮』2022年7月9日)

 この件はネット上で大きく騒がれました。

 さらに、7月6日、日刊ゲンダイは、「音楽4団体「生稲晃子氏&今井絵理子氏」支持表明に大ブーイング! 2000人超が抗議賛同」というタイトルの記事を掲載しています。

 「自民党公認で東京選挙区から元「おニャン子クラブ」の生稲晃子氏(54)、比例代表で元「SPEED」今井絵理子氏(38)が立候補しているが、音楽業界4団体(日本音楽事業者協会・日本音楽制作者連盟・コンサートプロモーターズ協会・日本音楽出版社協会)が支持を表明し、音楽関係者から反発の声が上がっている」
(※ https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/307848

 ちなみに、生稲候補は大手芸能プロダクションの「尾木プロ」、今井候補は「ライジングプロ」の所属で、いずれも音事協(日本音楽事業者協会)の中心的なプロダクションです。

 1963年に設立された音事協は最大規模の業界団体です(※ https://www.jame.or.jp/)。それが支持表明をしたのですから、音楽関係者全員が自民党とこの2人を支持しているかのような印象を与えてしまいますが、それに対し、ネットで大きな反発の声が上がったのです。

 よほど我慢しかねたのでしょう。「ムーンライダーズ」の鈴木慶一(70)はツイッターで、「私は音楽家だが支援しない」とツイートしました。“日本最古の現役バンド”として、長年、音楽業界に影響を与えてきた重鎮ともいえる鈴木氏が、このような異例の発言をしたことに、ネット上はザワついたといいます。鈴木氏のこのツイートには3万7000件以上の「いいね」が付いていたといいます。
(※ https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/307848/2

 選挙期間中、いろいろトラブルがありましたが、結果はどうかといえば、朝日健太郎氏(元バレーボール、ビーチボール選手)が92万2793票も獲得して東京選挙区でトップ、生稲晃子氏は61万9792票も獲得し、5位で当選しました。

 れいわ新撰の山本太郎党首が、古い持ちネタ「メロリンきゅー」まで披露して、ようやく56万5925票獲得したことを思えば、いかに組織票があることがいかに手堅く、票の獲得に有効かということがわかります。

 ちなみに、東京選挙区で当選したのは、得票順位上から、自民党、公明党、共産党、立憲民主党の現職、自民党の新人、そして、れいわの元職でした。

 もちろん、今井絵理子氏も14万8800票獲得し、比例区で当選しています。

■選挙は民主主義を支えているか?

 生稲氏らの件からは、大きな組織に属し、団体からの支持を得られれば、政治家としての見識、資質がなくても容易に当選できることが明らかになりました。

 生稲氏について、ネットがどう反応していたのかを少し、ご紹介しておきましょう。

 「こんなのに出馬を打診する党、こんなのに票を入れる有権者…すべてが情けない。以前ヤフーニュースに出ていた杉良太郎さんのこの意見ぜひ大きく取り上げて、そして公職選挙法を改善してほしい」

 「政治家になるための国の資格制度を作るべきです。それにパスした人が候補者として出ていくといいと思う。国会は政治の素人の研修所でも学校でもない。国会議員になれば、即、国民の税金をお給料としてもらうわけだから、即戦力でなきゃダメ。選挙の前にしっかり勉強してほしい。」

 「国会内での一票、議席が取れれば顔は誰でもいいんだろうな。 党の言いなりの方が使いやすいんだろう。 党としては変に勉強されるより、カンニングペーパー通りに回答してくれる方がありがたいはず。 数合わせのためであれば、そもそもの議員の数が多すぎるということ。自分のアタマで考えないということは他の誰かの意見に従っているわけで、一人で複数の票を持っているのと同じ。いわゆる派閥ですね。 議員定数削減、これをやらないと数合わせのお飾り議員がいなくなりませんね。 しかし自分の首をしめる改革ができるわけがない。野党が弱い今こそが、それをやるチャンスなんですけどね。」

 コメント欄を見ていると、生稲氏の件によって、若者が投票意欲を失ってしまうのではないかと心配になってくるほどでした。

 果たして、今の選挙制度は民主主義を支えるシステムとして機能しているのでしょうか。

 総務省のHPには、「日本は国民が主権を持つ民主主義国家です。選挙は、私たち国民が政治に参加し、主権者としてその意思を政治に反映させることのできる最も重要かつ基本的な機会です」(※https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo01.html )と書かれています。

 投票行動は、国民の意思を政治に反映させることのできる機会のはずですが、強力な団体の支持が、国民の意向を歪曲してしまう可能性のあることが、今回の件で、わかりました。団体の持つ数の力によって、個々の有権者の投票による意思表明は、いとも簡単に、圧し潰されてしまうのです。生稲氏の件によって、選挙制度の問題点が浮き彫りにされたといえます。

 もう一つ、総務省のHPから引用しておきましょう。

 「「人民の、人民による、人民のための政治(政府)」。民主主義の基本であるこの言葉は、私たちと政治との関係を象徴する言葉です。国民が正当に選挙を通して自分たちの代表者を選び、その代表者によって政治が行われます」と書かれています。

 理念はそうであっても、実態は必ずしもそうではなく、今回の件で、既存政党と団体との利権構造が定着していることが浮き彫りになってきました。

 一方、そのような既存の政党政治に異を唱え、民主主義の根幹に立ち戻ろうとしているのが参政党でした。

■参政党こそ、民主主義を支える政治組織か

 参政党のHPには、「先人が守って来たこの国を次の世代に引き継ぐために」という理念が掲げられ、「身近なコミュニティ活動から始める政治参加」の下、政治活動を実践していくと書かれています。(※ https://www.sanseito.jp/about/)

 そもそも、参政党は設立経緯からして、すでに他の政党とは異なっています。「仲間内の利益を優先する既存の政党政治では、私たちの祖先が守ってきたかけがえのない日本がダメになってしまう」という危機感を持った有志が集まり、「ゼロからつくった政治団体」なのです。

 参政党はその発端から、既存の政党とは異なる組織形態を考えていることがわかります。

 「特定の支援団体も資金源もありません。同じ思いをもった普通の国民が集まり、知恵やお金を出し合い、自分たちで党運営を行っていきます」

 既存政党のような利権構造を排するために、参政党は、有権者個々の力を基盤に、コミュニティをつくり、切磋琢磨し合いながら、政党を作っていくという仕組みです。情報を共有し、知恵を出し合い、お金を融通し合いながら、日本を立て直し、次世代につないでいくという志を持った人々の集まりだから、そういう仕組みが可能なのだともいえます。

 参政党は、個とコミュニティを基盤にした新型の政党としてデビューしたのです。

 そういわれてみれば、参政党の候補者のほとんどは、政治の素人でした。既存政党の候補者とは違って、企業や宗教団体などからの支援のないまま、ズブの素人の候補者たちが、今回、熾烈な参議院選を戦いぬいたのです。

 
 政党は本来、「真面目に税金を払って働いている人々のために働くもの」です。ところが、既存政党では、「縁故者や世襲の人々で党員が占められていたり、議員の選挙要員にされて」います。これでは、個々の自由意思は尊重されず、集団的投票行動が強制されざるをえません。

 ところが、参政党では、「党員活動に義務やノルマはありません」と書かれています。

 実際、HPを見ると、「身近なコミュニティ活動から始める政治参加」と書かれています。党員になると、できる範囲のことから、コミュニティ活動に参加することからスタートするようです。

 あくまでも党員の自発的な参加を求め、無理強いすることのないよう、図られていることがわかります。持続可能な組織づくりを行っているのです。

 「まずは同じ思いをもった国民が集まり、エリアやテーマごとにコミュニティをつくり、つながり合うことで新しい流れをつくっていくことを目指して」いるからでしょう。

 個々の党員の自由意思を尊重するという姿勢が貫かれているところが興味深いと思いました。まさに、個々人に支えられた草の根民主主義ともいえる形態で、初期民主主義の形態に近いものではないかと思います。

■お金のかかる選挙

 先ほどご紹介した福岡選挙区から立候補した野中氏は、選挙ポスターを例にとり、お金がないと選挙に出られない仕組みになっていることを知ったと語っています。

 福岡の場合、9000か所の掲示板に貼るポスターの印刷代に150万円、貼る人がいなければ宅急便で掲示板の住所宛てに送り、貼ってもらうようにすると540万円、ポスターを制作し、貼るだけで約700万円かかるというのです。

 さらに、供託金300万円がかかりますから、合計で1000万円用意できないと、選挙には出馬できないというのが実態でした。若い人や諸派の候補者が立候補しにくい状況に置かれているのが、わかったと野中氏は言うのです。

 こうした現状を知ったうえで、今回の選挙を振り返ると、あくまでも一つの政治団体にすぎない参政党が、比例区に5人、選挙区で45人、合計50人を出馬させたのは驚異的なことだったといわざるをえません。そのために、どのくらい費用がかかったのか、推して知るべしですが、参政党は、それを寄付や党費などで賄ったのです。

 参政党は7月7日時点で党員数が8万人を超え、7月9日時点で政治資金は4億3365万2621円に達しています。国政政党ですから、今後、政党助成金に入ってきますから、次回の選挙では、もっと多数の候補者を出馬させることができるでしょう。

 わずかな期間で、ここまで参政党の設立基盤を固めることができたのは、有権者の心をしっかりと掴むことができたからこそだといえるでしょう。党員が増え、政治資金も増え、日本を取り戻すための政治活動を展開してくれれば、日本人がもっと元気になり、積極的な考えを持てるようになると思います。

 参政党は、全国各地でフィーバーを巻き起こしていきましたが、その渦の中心は、神谷宗幣氏でした。

 神谷氏のスピーチがどのようなものであったか、その一端を覗いてみることにしましょう。

■神谷氏の投票日前のラストスピーチ

 芝公園には開始時点で、7000人が集まり、現場の様子を伝えるライブ中継は2万人以上の人々が見ていました。その後も続々と有権者が詰めかけ、最終的には1万500人にも及びました。手作りで出来上がった参政党が、18日間の選挙期間中で、ここまで有権者の注目を集める存在になっていたのです。

 投票日前のラストスピーチで、神谷氏は何を訴えようとしていたのでしょうか。

 ライトに照らされた神谷氏の表情は気迫に満ち、その言葉の一つ一つが、有権者の魂を揺さぶり、夜空に響き渡っていました。

こちら → https://youtu.be/MY2T5921NvE
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 神谷氏はまず、15年前からずっと、このままでは日本が駄目になると思ってきた。多くの人が自分のことしか考えない、お金のことしか考えていない。日本のために立ち上がりたいと言うと、「お前は右翼か」と言われる。それが今の日本だと語りかけます。

 次いで、有権者に向かって、「何故、日本人であることに誇りを持ってはいけないの?」と問いかけます。一呼吸置いて、言葉を継ぎ、「77年間、そんな教育をされてきたからでしょう、戦争に負けて、日本はアメリカにいいようにされてきたんでしょ!」と語気を強めます。

「そうだ!」と有権者は叫び、拍手喝采します。

●日本の教育を変える

 神谷氏は「参政党はまず、この日本の教育を変えたい」と切り出し、「教育を変えないと、次の日本を支える人材がいないんですよ」と訴えます。

 なぜなのか。

 「子どもを管理して枠にはめ、不登校を20万人も作って、発達障害の子どもを何十万人も作って、子どもたちを薬漬けにしているんですよ」と、子どもたちがいかに理不尽な環境に置かれているかを語ります。

 落ち着きがなく、注意力の散漫な子どもは多動性障害とされ、大人しすぎる、消極的すぎる子どもは自閉症とされて、治療の対象にされ、投薬されます。枠にはまらない、標準的ではない子どもは管理しにくく、診断名がつけられて、薬漬けにされていくというのです。

 実際、不登校の子どもたちは年々、増えています。NPO法人による報告『日本の子どもたちの今』によると、2019年に小中学校で長期欠席した子供25万2825人のうち、不登校は71.7%でした。1991年度に比べると、3倍以上も増えています(※ https://3keys.jp/)。

こちら →
(※ NPO法人3keys、『日本の子どもたちの今』より。図をクリックすると、拡大します)

 不登校になった結果、社会生活に必要な基本知識や技能、モラルや礼儀を学ばないまま、青年期を迎えてしまう若者が何と多いことでしょう。

 学ぶ機会を逸した彼らは、青年期になっても、社会に出ていくことができず、家に引きこもるか、あるいは、仮に社会に出ても適応できず、次第に、自殺に追い込まれていくのかもしれません。

 それなのに、政府は、子どもの窮状を救うために、有効な対策をなんら講じてきませんでした。

 神谷氏は怒りをあらわにして、続けます。「薬を飲みすぎて、社会に出られなくて・・・、若者の死亡原因の第1位は自殺なんですよ、この国は!」と叫び、声を荒げます。

 厚生労働省のデータを見ると、20-44歳の男性、15-34の女性の死因の1位が自殺、45-49の男性、35-49の女性の死因の2位が自殺でした。
(※ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html

 せっかく、この世に生を受けたというのに、一度も謳歌することもなく、多くの若者が自らの命を閉じてしまっているのです。なんと辛く、悲しいことでしょう。

 神谷氏は、「若者はコロナなんかで死んでいない。自分の命を自分で奪っているんですよ!そっちの方がはるかに緊急事態でしょう!」と指摘します。そして、「子どもが減っているというのに、なんで、若者が命を絶っていくのを止めないんですか」と、問いかけます。

 実際、コロナで感染死するよりも、緊急事態宣言が発せられ、飲食店やアパレルなどの閉店で、収入をなくした若者の方がはるかに多く、自殺に追い込まれました。政治家こそ、若者の死因の第1位が男性、女性とも自殺だということの背景を深く考えてみる必要があるでしょう。

 命を育む世代の自殺が多いことから、今後、さらなる少子化が懸念されます。

 働き方、働く環境といったわかりやすい要因以外にも、目を向ける必要があるでしょう。そもそも、若者たちは自立して生きていくための能力を習得していたのかというところまで遡って要因を探らなければ、有効な対策は見つかりません。

 若者の死亡要因の第1位が自殺だということは、少子化現象と連動しています。不登校に至らないまでも、社会に適応できず、生きていくだけで精一杯の子どもたちは数多くいます。そうした子どもたちが若者になっても、おそらく、結婚や家庭、子どもを持つという気持ちにはなれないでしょう。

 まずは、自立して生きていくことのできる能力を、子どものうちに涵養していくことが大切です。

 ところが、政府の少子化対策を見ると、結婚支援、出会いサポート、産前・産後のサポート、不妊治療の保険適用といった表層的で、小手先の対策に終始しています。
(※ https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/203484_1.pdf

 神谷氏は、参政党が目指す教育について、「煉獄さん(映画《鬼滅の刃》の主人公)のお母さんが言ってたように、誰でも皆、一人ひとり、力と才能があるんですよ。その力や才能を自分のためだけではなく、弱い人のため、世のため、人のために使う・・・、そういう心の教育です」と訴えます。

 子どもが自立して生きていくための能力の一つとして、メンタルの強さがあげられます。それは、自分の能力を世のため、人のために使うという気持ちから生まれると、神谷氏は考えているのです。

 神谷氏は、演説の中でよく、アニメ映画《鬼滅の刃》(無限列車編)のキャラクター煉獄さん(煉獄杏寿郎)を引き合いに出します。

■次代を担うエリートとは?

 煉獄さんは、無限列車の乗客を救うために鬼と闘い、終には、亡くなってしまうシーンがあります。そこに、神谷氏の考える強さのエッセンスが込められているように思います。1分30秒の予告動画がありましたので、ご紹介しましょう。

こちら → https://youtu.be/-ewm56D9DzY
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 煉獄さんは、戦闘相手である鬼の猗窩座(あかざ)から、「お前も鬼にならないか」と誘われ、「鬼にならなければ殺す」とまで言われますが、「俺は俺の責務を全うする」と言って、闘うことを選択します。

 ピンチで利益誘導されるのですが、それには乗らず、敢えて信念を貫き通すのです。そこに、強さがあり、「老いることも、死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ」というセリフが印象づけられます。神谷氏の人生哲学あるいは生活美学が示される箇所です。

 滅びゆく日本を救うために、試行錯誤を重ねてきた結果、神谷氏は、既存組織にはない、新たな政党を立ち上げました。煉獄さんの生き方には、その姿勢に重なるものがあります。

 また別の予告動画がありました。

こちら → https://youtu.be/EFUSUcbLHK0
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 「強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」というセリフがあります。そして、「人間の原動力は心だ、精神だ」というセリフがあります。身体が強いだけではなく、心が強いことが重要だというのですが、それは、人間の原動力が心であり、精神だからだというのです。

 ここには、煉獄さんの人間観であり、価値観が端的に表されていますが、おそらく、神谷氏の人間観、価値観でもあるのでしょう。

 神谷氏は、「私たちはもう一度、教育を考え直し、日本のリーダーを作っていくしかない」と訴えています。

 肝心の心を強くする教育がなされておらず、官僚や政治家など、偏差値エリートはこれまで日本を守って来なかったからです。

 「本当のエリートは煉獄さんみたいな人ですよ。自分の命をかけてでも弱い人を守る、正義を貫く人、そういう人が、かつては日本にいっぱいいたから、この島国は何万年も続いてきたんじゃないですか」神谷氏は語調を強めます。

 聴衆は「そうだ!」と大声をあげ、拍手します。

 神谷氏は拍手が終わるのを待って、「私たちは、その末裔なんです。誇り高き日本人なんですよ。縄文時代から続いているんです、日本は!」と叫び、「そのことを教えなくなった戦後教育に大きな問題がある」と訴えます。

 そして、我々大人は、「自分たちの国を誇りに思い、先輩に感謝し、今、与えられた命のバトンを一生懸命、守って、次の世代につたえていかないといけない」と説き、「それを皆でやっていくのが、参政党ですよ」とアピールします。

 日本を取り戻すというのは、戦後教育によって失った日本を誇りに思う気持ちを取り戻すことであり、それを後の世代に引き継ぐということを指しているのでしょう。縄文時代から脈々と受け継がれてきた日本精神の中にアイデンティティの基盤を見つけることだと言っているように思えました。

■参政党が掲げる教育政策

 参政党は大きく3つの政策を掲げていますが、教育はその第1に掲げられています。

こちら → https://www.sanseito.jp/prioritypolicy/

 「学力(テストの点数)より、学習力(自ら考え自ら学ぶ力)の高い日本人の育成」を目指し、具体的には、①探究型のフリースクールを地方自治体が作れるようにする法改正、②自ら仕事をつくり、収入を他者に依存せず、管理されない人生が設計できる公教育の実現、③国や地域、伝統を大切に思える自尊史観の教育等の政策を通して実現していくというものです。

 神谷氏は、ラストスピーチの中で、「子どもたちを社会に合わせて型にはめるのではなく、私たち大人が子どもたちに合わせて生きやすい国を作る」と言っていますが、これは、①に該当します。

 これまでの教育の他に、探求型のフリースクールを自治体が設立できるようにすることで、子どもたちの個性に合わせた学びの場を提供することができます。つまり、学びの場を選択できるようにするため、参政党は法改正をするというのです。

 多様な学びの場を作れば、基準から逸脱しているために、問題児扱いされる子どもはいなくなるでしょう。不登校が減るばかりか、子どもが探求心を抱いて学び始めるようになるかもしれません。そうして、子どもが本来の能力を発揮できるようになれば、習熟度が高まる可能性があります。

 そもそも憲法第26条には、子どもには教育を受ける権利があり、保護者は子どもに教育を受けさせる義務があると定められています。それは、子どもは誰でも、義務教育課程を修了すれば、自立して生きていけるようにするための措置でした。

 参政党は、既存の教育体系に馴染めない子どもたちのために、①を設定しています。そして、ICT主導の社会の中で、子どもが自立して生きていける能力を涵養するための計らいが、②といえるでしょう。

 そして、参政党の独自色が強いのが、③です。

 神谷氏が冒頭、語りかけていたように、戦後、日本人は長い間、日本人であることに誇りを持てず、アイデンティティの基盤を失って、生きてきました。それは、GHQによって統治されていた期間、それまでの日本を支えてきた国家体制を壊す一方、子どもの頃から、学校教育やマスメディアによって、自虐史観を植え付けられてきたからでした。

 神谷氏が、「我々は戦争に負けて、アメリカのいいようにされてきた」と言っているように、自国に誇りを持てず、対外的に何の手出しもできない植物人間のようにされてきました。

 それを覆し、日本という国や郷土、伝統を大切にし、日本人であることに誇りを持てるような教育をしたいというのが③です。

 日本を取り戻すには、日本に誇りを持てるような子どもを育てていく必要があります。参政党の政策を見る限り、①さまざまな子どもたちが排除されることなく、落ちこぼれることなく、学びの場が提供され、②自立して生きていけるような能力の涵養、さらには、③日本人として誇りを持って生きていけるようなプログラムになっています。

 神谷氏のラストスピーチの中から、とくに、教育の部分を取り出し、参政党の政策と関連づけてみてきました。既存政党がいえなかったような内容に踏み込み、日本を精神面から取り戻すための方策が練り上げられていると思いました。

 敗戦国として長い間、抑え込まれてきた日本人が、日本人としてのアイデンティティを取り戻すのは容易なことではないかもしれません。自虐史観を乗り越え、日本を肯定的に捉える「自尊史観」に移行するには、まずは、歴史を学ばなければならないでしょう。

 さらに具体的な教育政策がHPに掲載されています。

こちら → https://www.sanseito.jp/hashira04/

 ここでは、政策を実現していくための具体策、予算配分なども示されています。

 それでは、マイク納め後の全候補者の反省会を覗いてみましょう。

■候補者とスタッフの絆

 参政党候補者たちはマイク納め演説の後、全員が反省会を行いました。そのタイトルはなんと、一世を風靡したテレビ番組「8時だヨ、全員集合!」をもじって、「9時だヨ、全員集合!」でした。

こちら →
(参政党HP動画を撮影。図をクリックすると、拡大します)

 2022年7月9日、「9時だヨ、全員集合!」が始まりました。神谷氏が進行役として、候補者全員をZOOMでつなぎ、選挙期間中に起こったこと、困ったことなどを報告する会が開催され、そのまま配信されました。

こちら →
(参政党HP動画を撮影。図をクリックすると、拡大します)

 ZOOM画面では50名全員を映しきれないので、表示されている候補者が時々、入れ替わります。

 和気あいあいのうちに反省会が進められていきましたが、全員に共通していることが二つ、ありました。

 一つは、スタッフの惜しみない働きや支援に対する感謝でした。異口同音にスタッフへの熱い感謝の気持ちが語られます。選挙前から選挙期間中、さまざまなトラブルに見舞われながらも、候補者とスタッフが一丸となって、乗り切ってきたことがよくわかりました。

 日本をよくしたい、地域を守りたい、さまざまな思いを一つにして、頑張って来たことの喜びが候補者たちの日焼けした顔から感じられました。

 二つ目は、全国どこの候補者も一様に、終盤に近付くにつれ、街頭演説に集まってくる人が増えていったということでした。もう少し、選挙期間が長ければ、もっと票が取れたのかもしれません。ひょっとしたら当選も・・・、と思っている候補者も何人かいました。現場では、そう思ってしまうほどの熱気に包まれていたのでしょう。

 どの候補者も満足した表情を浮かべ、楽しそうでした。

 それこそ、「身近なコミュニティ活動から始める政治参加」を実践していたのでしょう。候補者と支えるスタッフ、地域社会の人々が、この選挙活動を通して、つながり合っていったことが感じられました。

 そして、ふと、思ったのです。

 今回、神谷氏が無理をしてでも、全国に候補者を立てたのは、このような地域社会に根付いた政治拠点を作るためだったのではないかと。残念ながら、選挙区候補者はすべて落選しましたが、候補者とスタッフ、地域社会の絆というものはしっかりと育まれ、根を張りました。

 このネットワークが全国各地にいきわたれば、これほど強固な政治組織はありません。参政党は既存組織に頼らず、団体に頼らず、党員とボランティアがすべての選挙活動を展開してきました。

 まさに、「投票したい党がないから、自分たちでゼロからつくって」いるのです。

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(選挙ドットコムより。図をクリックすると、拡大します)

 資金も選挙活動もすべて自分たちで行っているからこそ、参政党は誰からの圧力に屈することなく、正々堂々と意見を言うことができます。しがらみのない参政党のような政党でなければ、決して日本を変えていくことはできないでしょう。

 改めて、参政党は、理想的で本格的な政党だと思えてきました。日本がピンチに立たされているいま、ようやく、「国民の、国民による、国民のための政党」が誕生したのです。私たちは、ラストチャンスを掴んだといえるかもしれません。(2022/7/22 香取淳子)

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