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ライトアップされた東寺の境内

ライトアップされた東寺の境内

■東寺の境内
 2020年10月31日から12月13日まで、京都市南区にある真言宗総本山の東寺で、「境内ライトアップ」が開催されています。

こちら → https://toji.or.jp/exhibition/2020_autumn/

 私が訪れたのは10月31日で、イベント開催の初日でした。滞在していたホテルでたまたま手にしたチラシを見た途端、興味を覚え、行ってみる気になったのです。

 これまで東寺といえば、五重塔を新幹線の窓越しに見たことがあるぐらいでした。世界文化遺産に登録されているほどの名所なのに、まだ一度も境内に入ったことはありませんでした。

 チラシには、ライトアップされた境内を鑑賞するだけでなく、金堂・講堂・立体曼荼羅なども夜間特別拝観できると書かれていました。これを見た瞬間、言ってみる価値はあると判断したのです。

 10月末の夕刻、そろそろ寒さが忍び寄ってこようとしている頃、東寺に出かけました。バスを降り、しばらく歩くと、東門が見えてきました。

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(東門の受付)

 ちょっとぼやけていますが、これが当日の受付の様子です。開催時間が夜間(17:15~21:30)なので、東門(慶賀門)だけで受付が行われていました。日が沈み始める中、人々が次々と境内に吸い込まれていきます・・・・・。

 あれからほぼ一カ月が経ってしまいました。

 関西からは11月5日に帰京しました。あの時の感動を忘れないうちに、すぐにも書こうとおもっていたのに、なにかと忙しく、つい、書きそびれてしまいました。もうこれ以上は引き延ばせません。

 それにしても、時間はなんと素早く過ぎ去っていくものなのでしょう。つい先日、関西に出かけたばかりなのに、もう師走を迎えようとしています。そして、今年もあと一か月ほどで終わってしまうのです。

 歳をとると、時間の過ぎるのが早く感じられるといいますが、今回、改めて、残された時間の短いことに気づかされました。

 実は、毎年のように、11月の終わりごろになると、そう思うのですが、今年は、10月末から11月初旬にかけて関西旅行をしただけに、とくに、日々、大切に過ごさなければならないという気持ちになりました。

 それでは、当時を思い起こしながら、ライトアップされた東寺の境内を振り返ってみましょう。

■ライトアップされた木々
 受付を経て、境内に一歩、足を踏み入れると、そこには異次元の世界が広がっていました。

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(ライトアップされた木々。図をクリックすると、拡大します)

 ライトアップされた木々が水面に反映し、まぶしいほど幻想的な光景が創り出されていました。

 夜空を背景に、明るく照らし出された木々には、それだけで吸い込まれてしまいそうな妖しさがあります。ところが、それらが水面に映し出されると、今度は、美しさが倍加された光景が生み出されるのです。

 水面を介すれば、上下対称の妙味が醸し出されます。つまり、ライトアップによる効果と水面の鏡面効果が絡み合って、得難い美しさが生み出されるのです。

 これまで、夜景を鑑賞することもなく過ごしてきただけに、私は初めて見る光景に感動し、ひたすら木々に見入っていました。

 ふと、周囲から歓声があがっているのに気づきました。おそらく、私と同じような思いに駆られた人が大勢いたのでしょう。私は見知らぬ人々の中でいっとき、不思議な一体感を覚えました。

 その後も同じような光景が続きます。私は人の流れに沿って歩いていましたが、しばらくすると、木々の背後に五重塔が見えてきました。

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(片隅に見える五重塔。図をクリックすると、拡大します)

 絶景です。

 五重塔がもう少しはっきりと見える角度で写してみましょう。

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(縦方向で見た五重塔。図をクリックすると、拡大します)

 左側にライトアップされた木々、中ほど奥に五重塔、そして、右側にライトアップされたさまざまな高さの木々が並んでいます。それらがいずれも水面に反映され、暗い夜空と水面を背景に、見事な景観が創り出されていました。

 ライトアップされた東寺の境内を美しく見せているのは水面でした。

 受付で手渡されたパンフレットを見ると、木々や五重塔をショーアップして見せているのは瓢箪池だということがわかりました。

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(東寺パンフレットより。図をクリックすると、拡大します)

 この池のおかげで、ライトアップされた地上の木々や五重塔の美しさが強調され、それらが反映された水面が、幻想的な世界を創り出していたのです。暗い夜空だけがライトアップ効果を高めていたわけではなかったのです。

 いま、このマップを見ると、当時、散策していたのは、緑色で塗られた箇所だということがわかります。夜間、境内の中にいると水面としか認識できなかったのですが、マップには瓢箪池以外に二つの池が記されていました。

 これまで見てきたように、水面こそが、ライトアップされた美を増幅させる装置でした。つまり、瓢箪池やその他の池は、周辺の木々や五重塔を華麗に見せる舞台装置として機能していたことがわかります。

 もちろん、境内の美しさを創り出す中心になっていたのは、ライトアップ技術です。

 木々をライトアップするだけで、これだけ華やかさを演出することができるのですから、もはや魔法の技術といっていいのかもしれません。

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(様々な木々。図をクリックすると、拡大します)

 これを見ると、水面にその姿が反映されていなくても、ただ、下方から照らし出されるだけで、木々は妖しくその姿を変貌させることがわかります。

 こんな光景もありました。

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(整列した木々。図をクリックすると、拡大します)

 丸く刈り取られた木々が整列している背後に、ライトアップされた背の高い木々が立ち並んでいます。昼間見れば、なんの変哲もない光景なのでしょうが、ライトアップされると、途端に、木々はこれだけ豊かな表情を見せるようになります。

 もちろん、五重塔も境内の外から見たときとは違った輝きを見せていました。

■ライトアップされた五重塔
 木々の背後にライトアップされた五重塔が見えました。

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(ライトアップされた五重塔。図をクリックすると、拡大します)

 暗闇の中に浮きあがって見える姿が華麗で、しかも、優雅です。

 近づくと、五重塔の色合いまで異なって見えます。左上にぼんやりと浮かぶ月が、なんともいえず風雅な雰囲気を醸し出しています。

 さらに近づくと、精巧に構築された五重塔が視界に入り、圧倒されてしまいます。

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(五重塔近景。図をクリックすると、拡大します)

 写真を見て、気づいたのですが、五重塔の威容の背後で、月が小さく青白い光を放っています。小さくでも鋭い光を見ていると、まるでヒトの営為の背後には必ず自然の働きがあることを示唆してくれているに思えました。

■東寺の五重塔
 東寺の五重塔は木造建築としては日本で一番高く、55mにも及ぶそうです。いかに巨大な建造物であるか、今回、境内に入ってみて初めて、実感することができました。これだけ巨大だからこそ、新幹線からも見え、京都に着いたことを実感できるのでしょう。東寺が京都のシンボルであることは確かです。

さて、空海は、講堂を建設した後、五重塔の創建に着手したそうです。ところが、これまでに4度も焼失し、現在のものは寛永21年(1644年)に再建されたといいます。

こちら → https://toji.or.jp/guide/gojunoto/

 東寺のホームページで五重塔の解説を読むと、初層内部は、極彩色で彩られた密教空間が広がっているそうです。

 各層を貫いている心柱は大日如来とし、その周囲を四尊の如来と八尊の菩薩が囲み、四方の柱には金剛界曼荼羅が描かれているといいます。

 今回、金堂・講堂に入ってみて、立体曼荼羅も見たのですが、写真撮影が禁止されていましたので、ここでご紹介することはできません。ただ、仏像の顔がこれまで私が見てきたのとは違い、とても人間的な表情だったことが印象に残っています。

 超然と悟りを開いた姿ではなく、煩悩を残し、さまざまな情感を残し、哀惜を残した姿だったことに、私は親近感を覚えました。

 空海はいまなお生きているとされますが、とても人間くさい仏像の表情を見ていると、ひょっとしたら・・・?という気がしないでもありません。思わす、そんな想像をしてしまうほど、ライトアップされた東寺の境内は幻想的でした。(2020/11/30 香取淳子)
 

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