■開幕式の開催
2018年7月31日午後2時から中国文化センターで「「アニメ・マンガから見る戯曲の記憶」展の開幕式が開催されました。来賓の挨拶の後、テープカットが行われました。
日中のアニメーションやマンガの関係者が一堂に会し、和気あいあいの雰囲気の中、開幕式が行われたのです。笑顔で語らい合う人々を見ていると、いまさらながら文化交流の大切さを思い知らされました。
■「戯曲百選」プロジェクト
来賓としてまず、中国美術学院教授の常虹氏が挨拶されました。今回の展示および上映作品の背景となる「戯曲百選」プロジェクトを紹介され、2005年の構想に基づき、2006年から開始されたこのプロジェクトは現在、質量ともに、当初の予定をはるかに上回る結果を残していると説明されました。
そういえば、会場でいただいたチラシにプロジェクトの概略と出品作品の一部が掲載されていました。
雰囲気を知っていただくために、まず、作品の一端をご紹介しておきましょう。
こちら →
https://www.ccctok.com/wp-content/uploads/2018/07/ecdbe38391f7261f15354720302617df.pdf
チラシにはごく一部しか掲載されていませんが、会場には中国美術学院の挿絵・漫画コースの教員および学生の作品約40点が展示されています。多様で多彩な挿絵やマンガの世界に驚いてしまいました。
後で具体的にいくつか作品をご紹介していきますが、この展覧会では、挿絵やマンガ以外に、期間中に短編アニメーションも24作品上映されるそうです。上映会は8月2日と9日、いずれも15:00から開催されます。ただし、こちらは事前に中国文化センターまで申し込みが必要です。
…、と書いてきて、うっかり、この展覧会の開催期間を記すのを忘れていたことを思い出しました。開催期間は7月31日から8月10日、開催時間は10:30~17:30(ただし初日は14:00~、最終日は15:00まで)です。
さて、「戯曲百選」プロジェクトは、中国の伝統文化である水墨画や戯曲をアニメーションと結合させて表現していくというもので、これまでにない斬新な企画です。それが時を経て、いつの間にか、内外で高い評価を得るようになっていると常虹氏がいわれたとき、私はふと、最近、読んだ記事を思い出しました。
中国人自身、これまでと違って、国産アニメを評価するようになっているという内容の記事でした。文化的背景を踏まえたストーリーの構築、キャラクターの設計や造形といったような部分で、中国文化の魅力をうまく取り込めるようになってきているのかもしれません。
この「戯曲百選」プロジェクトには、制作者が中国文化の魅力を再発見するための効果もあったのでしょう。会場に展示されていた挿絵やマンガを見ていると、その豊かな表現に驚かされました。40点ほどの作品の中にはさまざまな観点から中国文化を見つめなおす姿勢が感じられたのです。
それでは、作品をいくつかご紹介していきましょう。
■展示作品
素晴らしい作品が多く、驚いてしまいましたが、ここでは、わずか数点、印象に残った作品だけを簡単にご紹介します。タイトルと作者名等がわかるように撮影したため、全般に作品サイズが小さくなってしまいました。
・「祖父のカバンの中は何?」(学生)
これは挿絵なのでしょうか、女の子とお爺さんの交流が描かれています。とてもほのぼのとした絵柄と色調が印象的でした。いつまでも見入っていたいと思わせる温かさがあります。
・「華家垫」(学生)
この作品は日本的感覚からすれば、とてもマンガとはいえません。絵画といった方がしっくりくるのですが、この4つのカットがすべて、とても繊細で幻想的な画風で、惹きつけられます。画面から豊かな詩情が匂い立っているのが感じられます。
・「wonderland」(学生)
白黒の世界ながら、複雑な現代社会の諸相が感じられます。その中でどんなストーリーが紡がれているのでしょうか、硬質の魅力があります。精緻な筆力に圧倒されます。
・「多重イメージ」(学生)
先ほどの作品と似たような趣がありますが、こちらは自然の中で木々とたわむれる子どものシーンがピックアップされて描かれており、ヒトと自然の原初的な関係が連想されます。これもやはり筆力に圧倒されました。
・「気ままにタイ」(教員)
タイの建物をモチーフにした作品ですが、複雑なモチーフを丁寧に、そして、情感豊かにモチーフの内に込められた力を引き出しています。建物なのに、生きているような動きとリズムが感じられます。そ撃感じさせる筆力、色彩、構図に惹かれました。素晴らしいとしかいいようがありません。
■伝統と革新
常虹氏が挨拶で述べられたことが印象に残っています。伝統的な文化をどう活かしていくか、それが現代アニメーションに課せられた課題であり、美術教育に携わる我々にはその責務があると述べられたのです。そして、中国美術学院の動画コースの教員らが総力を結集して立ち上げたプロジェクトが紹介されました。
プロジェクトの一環として制作された、挿絵とマンガの一部を簡単にご紹介しましたが、いずれも個性豊かに表現されており、目を奪われてしまいました。伝統文化を見つめ、表現方法を模索した結果なのでしょうか。
中国に代々、伝わってきた水墨画や戯曲という表現芸術は、いま生きている世代が受け継ぎ、次の世代に伝えていかなければ、途絶えてしまいます。そのためには、新しい技法を組み込み、表現しなおす必要があります。それが革新であり、伝統は革新の連続によってようやく生き続けられるものなのでしょう。
まだ、アニメーションを見ていませんが、展示されていた「挿絵とマンガ」を見ただけで、伝統と革新が結合したからこそ得られる強さが感じられました。ひょっとしたら、それは、このプロジェクトだからこそ持ちえたエネルギーなのかもしれません。
実はこの展覧会のタイトルに「中国美術学院の挑戦」というサブタイトルが付いていました。展示されていた作品を観ていると、中国美術学院が推進してきた「戯曲百選」プロジェクトはまさに、創作者の表現活動への挑戦であり、絶えざる革新こそが創作の源泉だという気がしてきました。とてもいい刺激を受けました。(2018/7/31 香取淳子)