ヒト、メディア、社会を考える

ICT

Lead Initiative 2016:挑戦する若手起業家に共通するもの

■デジタルによる破壊的変革にどう立ち向かうのか
 2016年7月21日、ANAコンチネンタルホテル東京で、IIJ(インターネットイニシアティブジャパン)主催の「Lead Initiative 2016」が開催されました。午前は、IIJ専務取締役の菊池武志氏のあいさつ、一橋大学教授の楠木建氏の基調講演に続いて、パネルディスカッションが行われ、その後ランチセッションを挟んで、午後は、A会場からF会場に分かれて24のセミナーが開催されました。いずれもICTの進展動向を踏まえ、現在から未来を展望する興味深い企画でした。

こちら →http://www.iij-lead-initiative.jp/ 

 私がとくに興味を抱いたのは、11:30~12:30の時間帯で行われたパネルディスカッションでした。「デジタルによる破壊的変革にどう立ち向かうのか」というタイトルと、NHKの元キャスター国谷裕子氏による司会だという点に惹かれたのです。

 いま、デジタル化の進行はとどまるところを知らず、ヒトの適応能力を超えるほどの勢いで進んでいます。クラウドが定着したと思えば、それを基盤に、IoT、AI、ロボティックスなどが浸透し始めているのです。

 あらゆる領域でデジタル化による大変革が起こっていますが、はたして起業の面ではどうなのか、このパネルディスカッションでは若手起業家から、立ち上げの状況や展望を聞く構成になっています。今後、企業がどのような舵取りをしていけばいいのか、おおいに参考になるでしょう。

 パネリストは、ウォンテッドリー株式会社共同創業者&CEOの仲曉子氏(1984年生まれ)、株式会社FOLIO創業者&CEOの甲斐真一郎氏(1981年生まれ)、株式会社Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏(1978年生まれ)、Qrio株式会社代表取締役の西條晋一氏(1973年生まれ)といった方々です。いずれも30代前半から40代前半の若手起業家で、「デジタルによる破壊的変革」が進行している現在、果敢に新しいビジネスの芽を育てていこうとしているヒトたちでした。

 それでは、発言順にパネリストたちをご紹介していくことにしましょう。

■起業に至る来歴とそのコンセプト
 若手起業家たちがどのような来歴を経て、起業に至ったのか、どのようなコンセプトで事業を立ち上げたのか、会場では不十分だった情報を適宜、ネット情報で補いながら、発言順に、見ていくことにしましょう。

・株式会社Cerevo
 Cerevoの岩佐琢磨氏は、パナソニックに約5年間、勤務し、2007年12月にハードウエアベンチャーの株式会社Cerevoを設立しました。ネットとソフト、ハードを融合させたユニークな製品企画、開発、販売をする会社です。

こちら →https://www.cerevo.com/ja/

 コンセプトは、「ネットと家電で生活をもっと便利に、豊かに」というもので、グローバルニッチに着目した商品開発、多品種少量生産、販売を手掛けていきます。岩佐氏は、IoTの進展によって、高品質の商品の多品種少量生産が可能になったからこそ、このような事業に着手できたといいます。

 直近では、2016年7月20日、ニッポン放送と共同で新コンセプトのラジオ「Hint」を開発しました。Hintは、クリアな音声でラジオを聞ける「ワイドFM」に対応し、無指向性のスピーカーを搭載し、スマートフォンの音をワイヤレスで再生するBluetooth機能を備え、ラジオで流れた音声に反応し、近くのスマートフォンにURLを通知できる、などの特徴があるとされています。そのメカニズムは以下のように図示されています。

こちら →bleradio-660x372
(https://info-blog.cerevo.com/2016/07/20/2503/より。図をクリックすると拡大します)

 まさにインターネットとつなぐことによって既存ラジオの機能を拡張し、新たな商品サービスを提供しようとしているのです。

・ウォンテッドリー株式会社
 次に、ウォンテッドリーの仲曉子氏は、ゴールドマンサックス証券、Facebook日本法人を経て、2010年9月に求人サイトを立ち上げました。その後、2012年2月、Facebookを活用したビジネスSNS「Wantedly」のサービスを開始しました。2013年11月に社名をウォンテッドリー株式会社に変更しています。

こちら →http://site.wantedly.com/

 コンセプトは、「シゴトでココロオドル人を増やす」ことだといいます。仲氏は、仕事について情熱をもって語れるヒトを増やしたいという気持ちから、この事業を立ち上げたのだそうです。仕事こそ自己実現の場であり、社会貢献の場であるべきだという思いからです。弾むような仲氏の話し方には勢いが溢れていました。若さと事業へのモチベーションの高さからきているのでしょう。

 興味深かったので、ネットで調べてみました。

 仲氏はFacebook日本法人に入社後、会社の文化や習慣を理解しようとし、貪欲に吸収していった結果、「世の中をよりオープンに、コネクトし、シェアさせる」というFacebookの理念に感銘するようになったそうです。そして、「個人をエンパワーメントする」というアイデアが気に入り、自分でもやってみたくなって開設したのが、SNS「Wantedly」でした。

 設立から約4年で、Wantedly Adminは急速に認知されていき、2016年1月時点で、「Wantedly」の利用企業数は14000社を突破しました。いまでは月間100万人が利用する国内最大のビジネスSNSになっているといいます。

こちら →利用企業推移
(http://sakurabaryo.com/results/post-2553/より。図をクリックすると拡大します)

 興味深いことに、パネリストの起業家たちは皆、このWantedlyから人材を採用していました。そのことからも、この会社が現在のビジネス状況にマッチした人材採用サービスを提供していることがわかります。

・Qrio株式会社
 さて、Qrioの西條晋一氏は、伊藤忠商事、サイバーエージェントを経て、2013年キャピタルWiLを創業しました。その後、2014年12月にはWiLが6割、ソニーが4割出資するIoT関連のQrio株式会社を立ち上げました。

こちら →http://qrioinc.com/
 
Qrioは、「ものづくりとインターネットの力で、家の中をもっと便利に楽しく」をコンセプトに、スマートロック製品の開発・製造・販売等及びその運営サービスを提供しています。スマートロックの概念図をご紹介しましょう。

こちら →qrio-security-image
(http://type.jp/et/feature/163より。図をクリックすると拡大します)

 Qrioのスマートロックは上図のように、安全に鍵の受け渡しができる仕組みが構築されています。西條氏は、ソニー独自の認証技術を駆使し、「秘密鍵」と「公開鍵」とに分けて暗号をやり取りできるシステムにすることによって可能になったといいます。ソニーと技術提携することによって、設立されたばかりのQrioが、量産可能な品質の製品を市場に出すことができたのです。

 考えてみれば、スマートロックの商機は訪れつつあるように思えます。オリンピックの開催に向けて民泊が推進されていますから、その需要は今後、急速に高まっていくかもしれません。すでに同様の商品を開発している事業者も登場し、ユーザーの観点から商品比較も行われています。

こちら →http://do-gugan.com/~furuta/archives/2015/09/qrioakerun.html

 社会的ニーズに対応した商品を開発し、量産できる品質にして市場に出したとしても、次は同業他社との競争が待ち受けています。この記事を読んで、起業家は常に試練に晒されているのだということを感じました。

・株式会社FOLIO
最後に、FOLIOの甲斐真一郎氏は、ゴールドマンサックス証券、バークレイズ証券を経て、2015年12月、FOLIOを創業しました。誰もが気軽に投資できるよう、投資運用サービスを提供していこうという事業です。

こちら →https://folio-sec.com/

 FOLIOは「資産運用をバリアフリーに」をコンセプトにしています。今後さらに深刻化する高齢社会を考えると、現在の年金レベルがどれほど維持されるか心配になってしまいます。やがて誰もが資産運用し、年金を補っていかなければならなくなるのかもしれません。そのような事態が不可避だとすれば、資産運用の敷居を低くし、利用者の使いやすさを重視した投資サービスへの需要は今後さらに高くなると思います。

 パネリスト紹介欄には甲斐氏について、「ロボアドバイザーなどの新しい投資サービスを有機的に結合した次世代証券プラットフォームを構築」と書いてありました。私は「ロボアドバイザー」のことがわからなかったので、後で、ネットで調べてみました。たまたま米国のロボアドバイザーについての記事を見つけたところ、その記事に仕組みについての概念図がありました。

こちら →
http://fis.nri.co.jp/ja-JP/publication/kinyu_itf/backnumber/2015/03/201503_5.html
 
 ちなみに、甲斐氏にはゴールドマンサックス証券などで10年ほどディーラーの経験があります。FOLIOでは上記のようなロボアドバイザーによる自動的処理に加え、顧客の個別状況に応じた提案もしてくれるようです。これが「有機的に結合したプラットフォーム」を指しているのでしょうか。いずれにしても、今後、資産運用に対する需要は高まってくるでしょうから、期待できる事業だと思いました。

■日本の課題
 若手起業家たちのスピーチを聞いているうちに、なんだかワクワクするような気分になってきました。軽やかに、スマートに、デジタル化の荒波に立ち向かっている姿がとても好ましく、日頃、日本社会に感じていた閉塞感がいつの間にか消えてしまったような気さえしました。

 西條氏が興味深い指摘をしていました。日本はアメリカや中国に比べ、人材の流動性が低すぎるというのです。ベンチャーと大企業、民間と官庁、国内中小企業とグローバル企業、等々の間で人材移動がないので、技術が浸透していかず、企業が生み出した成果物が一カ所にとどまっているのが現状だという指摘です。

 仲氏も幅広い海外での経験から、ビジネスマンはインドや中国に関心は抱いても、誰も日本を見ていないといいます。超高齢社会で新規事業を生み出す能力も疑問視されるようではなかなか関心を持たれないでしょう。それだけではなく、日本では能力に対する対価が低すぎるので、優秀な人材を引き留めておくことができず、海外から優秀な人材を呼び寄せることもできないというのです。これは西條氏の指摘とも関連しており、今後の課題として政府が抜本的な施策を講じる必要があるでしょう。

 西條氏は大企業の中では多くの若いヒトがクサっているといいます。だから、若くて優秀なヒトから順に大企業を辞めていくと指摘し、どうすれば優秀なヒトを大企業につなぎとめておけるかということを考えていく必要があるというのです。

 仲氏の意見で興味深かったのは、「イノベーション人材と大企業とのコラボが必要」だという指摘です。日本は素晴らしい技術を持っていながら、十分に活かされていない、それはマーケティングが下手だからだと分析し、イノベーションとマーケティングをうまくつなぎ、流通チャンネルを開拓していく必要があるといいます。たとえ素晴らしいイノベーションだったとしても、それを立ち上げただけでは世界では勝てないというのです。世界で勝つためには、幅広い流通ルートを持つ大企業との連携が必要だというわけです。

■第4次起業ブーム
 今、第4次起業ブームとまでいわれ、日本でもベンチャー企業を育む機運が高まってきているようです。

 すでに経産省は「グローバル・ベンチャー・エコシステム連携強化事業」を推進しており、平成27年から29年にかけての3年間で、IPO・M&Aの件数を1.5倍にするという目標を立てているほどです。ちなみにこのIPOとは株式上場のことで、株式を上場できるだけの成長企業ということを意味します。

こちら →http://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2016/pr/pdf/i02_sansei.pdf

 一方、日本ベンチャーキャピタル協会会長の仮屋薗聡一氏は、「ベンチャー企業の育成は国家の要請そのものだと認識している」とし、「現在は学生一人の優れたアイデアだけでは起業できなくなっている。(中略)起業は戦略的で、かつ高度な「大人の戦い」だ。同じ起業でもかつてとは中身がそうとう変わっている」といいます。そして、「かつてはベンチャーといえば、ICTだったが、今はベンチャーといえば、社会問題の解決だ」と指摘しています。(『週刊東洋経済』2016年7月23日号、p.74)

 さまざまな社会問題の解決にベンチャー企業が期待されているというのです。というのも、すでに成熟した市場で商機が見込めるのは、社会問題の解決を事業化するしかないからでしょう。そういう事業に既存企業は手を付けませんから、結局、ベンチャーが手がけることになります。

 社会問題の解決を事業化できれば、元々、ニーズが高い領域ですから、場合によってはベンチャーが手がけた事業が成長産業にもなりえます。そうすれば、効率化によって縮む一方の雇用の場をベンチャー企業が用意できるようになります。そうして雇用の場が広がっていけば、職がなく、収入が不安定なことから派生する社会不安は軽減されていくでしょう。

 そもそも経済成長がなければ雇用は生まれませんし、雇用がなければ、社会は不安定になっていきます。ところが、社会問題を事業化したベンチャー企業が成長産業になっていけば、その悪循環を絶つことができるのです。そのように考えてくると、いまや、社会問題を事業化したベンチャー企業の育成は、起業家だけではなく、国が戦略的に取り組まなければならなくなっていることがわかります。

 もちろん、銀行もこの動きに参入してきています。たとえば、三菱東京UFJ銀行はホームページに成長支援のページを設け、株式上場のグループでのサポート機能を掲げています。

こちら →http://www.bk.mufg.jp/houjin/senryaku/ipo/

 クラウドファンディングという方法もありますから、起業家にとって新規事業のための資金調達は以前より容易になっているのかもしれません。

■若手起業家に共通するもの
 わずか1時間ほどのパネルディスカッションでしたが、4人の若手起業家たちがしっかりとした戦略の下で事業展開していることを知って、おおいに元気づけられました。今後、超高齢社会になっても、このような若者がいる限り、日本はまだ大丈夫だという気がしてきたのです。

そして、この4人にはいくつか共通するものがあることに気づきました。以下、思いついたものを列記します。

① 「ゼロから1を創り出す」という気構え
② 「トップになりたい」というモチベーションの強さ
③ 有名グローバル企業での就業経験
④ 「世界で勝つ」という観点の下、「ユーザー視点でのサービスの開発」
⑤ 趣味

 興味深かったのは、仲曉子氏と甲斐真一郎氏の趣味です。仲曉子氏は漫画を描いていたことがあり、甲斐真一郎氏は一時、ボクサーでもあったようです。そういわれてみると、お二人とも誰もが羨ましがるゴールドマンサックス証券をあっさり辞め、新規事業を立ち上げています。創造性や闘争性が要求される趣味にのめり込んだ経験が、仲氏や甲斐氏を雇用される立場に満足させておかなかったのでしょう。

 いずれにしても私は、このパネルディスカッションを聞いて、どんよりした閉塞感からいっとき、解き放たれたような気がしました。若手起業家たちの果敢な挑戦にエールを送りたいと思います。(2016/7/24 香取淳子)

第2回フォーラム:超高齢社会の中で、有効に機能するmHealthを考える。

■ウェルネスライフサポート・フォーラムの開催
 2016年2月18日、東京・お茶の水のソラシティで「超高齢社会の中で、有効に機能するmHealthを考える」をテーマにフォーラムが開催されました。かつて私は高齢者とメディアについて研究していたことがあります。mHealthという語に興味をおぼえ、このフォーラムに参加することにしました。mはメディアかと早とちりしたからですが、調べてみると、mはモバイルでした。mHealthとは、モバイル技術を活用した医療・ヘルスケアサービスを指すのだそうです。
 第1回フォーラムは2015年10月26日に開催されています。

こちら →http://www.yakuji.co.jp/entry46747.html
 
 今回の第2回フォーラムでは、第1部にNPO法人高齢者健康コミュニティ・CCRC研究所代表の窪田昌行氏によるキーノートスピーチ、第2部で、4人の登壇者によるパネルディスカッションが行われました。いずれも興味深いものでしたが、ここでは、「超高齢社会の中で、有効に機能するmHealthを考える」をテーマに展開されたパネルディスカッションを取り上げたいと思います。

■超高齢社会とゼロ成長経済
 まず、東京医科歯科大名誉教授で現在、東北大学メディカル・メガバンク機構長特別補佐の田中博氏が、施設医療から生活圏中心ケアに移行せざるをえなくなった背景について説明されました。田中氏は1991年以降、経済は停滞しゼロ経済成長に、そして奇しくも、1991年以降、それまでとは2倍の速度で高齢化が進んでいるとし、1991年を機に日本社会は新しいステージに入ったと指摘されます。

 たしかに、経済成長率の推移を調べてみると、1991年以降、多少の変動はありますが、成長率の低下が続いています。

こちら →経済成長率
世界経済のネタ帳より。
図をクリックすると拡大されます。

 一方、厚生労働省のレポートを見ると、1995年以降、すでに高齢化が急速に進んでいることがわかっています。

こちら →高齢化率
厚生労働省政策レポート(2009年刊)より。
図をクリックすると拡大されます。

 このレポートでは、要介護認定された高齢者数が年々、増加していることが報告されています。

 田中氏は、経済成長期の「病院完結型医療」が日本型医療体制だったといいます。ところが、日本人の平均寿命が世界一を達成した1985年以降、その体制が崩壊の兆しを見せ始めました。高齢人口の増加に伴い、医療費が拡大する一方で、日本経済が停滞してしまったからです。もはやこれまでのように施設医療で対応するのは難しく、地域で連携して医療を行っていくシステムに変換する必要があると田中氏は指摘します。

■治療医療から予測医療へ
 統計データを見ると明らかなように、今後、人口の集中する東京圏で高齢者が大幅に増加しますから、事態は深刻です。団塊の世代がいっせいに後期高齢者になる2025年をめどに、医療体制を変換する必要が生じているのです。田中氏はそのためのパラダイムを3つ提案されました。

 ①地域医療情報の連携。これは全国展開をし、どこでも継続した医療サービスを受けられるようにするというものです。②地域包括ケア。これは地域コミュニティを創設し、生活圏を中心に医療・ヘルスケアサービスを提供していくというものです。③生涯にわたる健康医療自己マネジメント。これはICTのサポートによって人々が健康のための自己管理を行うというものです。

 以上のパラダイムいずれにもICTが大きく関与していることがわかります。超高齢社会とゼロ成長経済という日本の社会状況を考えると、今後、治療医療から予測医療へと医療体制そのものを変えていかざるをえないことがわかります。

■都市部の在宅医療
 次に報告されたのが、東京大学・高齢社会総合研究機構の山本拓真氏です。山本氏は現在、千葉県柏市をフィールドに地域社会の在り方を研究されています。柏市と都市再生機構、東京大学等の産学官民、異分野連携の共同事業で、団地の建て替えに合わせて企画された研究プロジェクトのメンバーです。

 この研究プロジェクトのキーワードは「Aging in Place」だそうです。高齢者が住み慣れた地域でいつまでも自分らしく、安心して暮らすための地域社会はどうあるべきか、研究を積み重ね、まちづくりのモデルを見出そうというものです。残念ながら、ここでお見せすることはできませんが、研究成果が集約されて示された図があります。

 それを見て興味深く思ったのは、柏モデルによる超高齢社会のまちづくりに、①高齢者のQOL(Quality of Life)、②家族のQOL(Quality of Life)、③コスト、等々の観点が導入されていることです。

 山本氏の報告では、このモデルに地域コミュニティの質(Quality of Community)が加えられていました。たしかに高齢になれば、地域コミュニティが生活の中心になっていきますし、家族がいない高齢者もいますから、地域コミュニティの質がとても重要になります。Quality of Communityは現実的で適切な概念だと思いました。

 高齢者や家族のQuality of Life、地域社会のQuality of Communityを高め、維持していくため、このプロジェクトでは、①多分野多職種連携の包括ケアシステム、②住民主導の地域交流、社会参加の場づくり、③引きこもらず人と集い楽しむコミュニティ、等々が具体的な達成目標として掲げられています。超高齢社会の課題への総合的な取り組みです。

■IBM Watson
 日本IBMビジネス開発部長の西野均氏は、「Watson」のヘルスクラウドへの取り組みについて報告されました。私はこのWatsonの存在を知りませんでした。そこで調べてみると、IBM Watsonは、自然言語処理と機械学習を通して、大量の非構造化データから洞察するためのテクノロジー・プラットフォームだということがわかりました。これについては2分14分の紹介ビデオがありますので、ご紹介しましょう。

こちら →https://youtu.be/L5QJs6byoaI

 Watsonを医療に適用し、レセプト、クレーム、検査データなどの大量の医療データから法則性を見出し、適切なケアを行っていこうとする動きがいま、アメリカで広がっているようです。IBM Watson Health Cloudによって大量のデータから疾患の進行を予測し、患者に最適の医療サービスを提供するというものです。

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 2016年2月18日、Watson日本語版が提供開始されました。

こちら →http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1602/19/news060.html

 医療の分野ではがん研究など、臨床への応用をめざした実証実験が行われているようです。

こちら →http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1601/02/news007.html

 記事をアップした後、以上のようなことを知りましたので、追記します。(2016/2/23)
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■ ヘルスケア向けウェアラブルデバイス
 東芝デジタルヘルス事業開発部の大内一成氏は、ウェアラブルデバイスの取り組みについて報告されました。環境因子、生活因子、遺伝的因子等を把握することによって、疾病の予測の精度をあげることができるとされます。

 とくに生活因子についてはウェアラブルセンサによって把握することができます。大内氏はリストバンド型のセンサを装着しておられました。東芝はすでにいくつかのウェアラブルセンサを商品化しているようです。
 
 たとえば、2014年8月に東芝が販売開始したリストバンド型活動量計「Actiband™」があります。装着しているだけで自動的にライフログが記録されるという装置です。

こちら  →ttlimg-lifelog
http://www.toshiba.co.jp/healthcare/actmonitor/より。
図をクリックすると拡大されます。

 このようなウェアラブルセンサが利用者には個人の記録として健康維持に活用され、ビッグデータとして集積されて分析されれば、生活習慣の傾向を把握することができます。この「Actiband™」利用者のデータから下記のような生活習慣が明らかになりました。

こちら →http://www.toshiba.co.jp/healthcare/actmonitor/info/report201506a.html

 これはほんの一例です。利用者の日常的な身体データが個々人のバイタルサインとして機能するだけではなく、大量の利用者データが分析されれば、日常生活のあり方と健康との関係に何らかの法則性が見いだされるかもしれません。そうなれば、生活のあり方を見直すことによって、将来の疾病予防に役立つ可能性があります。

■mHealthは有効に機能するか?
 登壇者はそれぞれの立場から現状を報告されました。いずれも大変、興味深いものでした。超高齢社会、ゼロ成長経済下ではICTを活用したヘルスケア対策は不可欠だと思いました。身体に装着して自動的に記録されたデータの利活用は想像以上に多様な成果を生む可能性があります。ライフログのビッグデータからはヘルスケアにつながる発見を期待できます。今後、mHealthを積極的に推進していく必要があるでしょう。

 とはいえ、はたしてmHealthは有効に機能するのでしょうか。

 パネルディスカッション終了後、会場から興味深い質問がありました。それは「ウェアラブルのデータを医者側は信用していないのではないか」というものでした。

 これについて大内氏は、「ウェアラブルデータと医療データの突き合わせを行い、データの信頼度を検証をしている」と回答されました。技術開発者側としては、センサの精度を高めるだけではなく、データの信頼度検証も行っているというのです。このような作業を積み重ねれば、やがて、ウェアラブルセンサによるデータを医療現場で利活用できるようにもなるでしょう。

 さらに、利用者側のmHealthへのインセンティブをどう高めていくかということも今後の課題です。利用者が継続的にデータを取ることによってはじめてビッグデータに価値が生まれるのですから、使い続けてもらうためのインセンティブ喚起のための工夫が必要でしょう。

 このフォーラムに参加して、超高齢社会の課題に向けたさまざまな取り組みを知りました。健康で長寿の社会を構築するには、医者、介護者、技術者が連携して様々な取り組みをするだけではなく、当事者である高齢者自身の意識改革が必要だと思いました。健康を維持するための食、運動、生きがい等々については、メディア研究者を含めた連携が必要になってくるかもしれません。

 かつてアメリカの研究者が、幼児に『セサミストリート』が提供されているように、高齢者にも高齢期の課題を取り扱ったテレビ番組が必要だと記していたことを思い出します。誰もが接触できるメディアを通して高齢者の健康長寿のための意識変容を図っていく必要があるかもしれません。(2016/2/23 香取淳子)

エンターテイメントはインテリジェントICT化を阻む?

■iphone6sを購入したiPad組み込み装置
 9月25日、iphone6s、iphone6s plusが売り出されました。なんと三日間で1300万台も売れたそうです。過去最高の販売数だと各種メディアが伝えていますが、どれも似たような記事でした。そんな中、私が興味深く思ったのが、AFP=時事通信の記事で、シドニーでは女性がiPadを組み込んだ装置を行列に並ばせ、最新のiphone6sを買わせたという内容のものです。

 なぜ、そんなことができたのでしょうか。

 記事によると、iPhone 6s、iPhone 6s Plus発売の27時間前に、オーストラリア・シドニーのルーシー・ケリーさんは、iPadを電動立ち乗り二輪車のような機材に取り付け、アップルの店舗前に置いたそうです。下にその写真を載せました。これを見ると、ipadはカメラを取りつける三脚の上に装着されているように見えますが、実際に取り付けられていたのは二輪車です。だから、ヒトと同じように移動できるのでしょう。そのiPadの画面にはルーシーさんの顔が映し出され、そこからルーシーさんの声も聞こえてきたそうです。

こちら →
http://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/500×400/img_efc0ba799e975ba979031ac9cda7ec2c193757.jpg
AFP=時事通信の記事より。

 この装置はルーシーさんの代わりに他の客たちと一緒に行列に並び、現地時間25日午前8時の開店時刻になると、一番乗りの一団に加わってエレベーターで上の階に移動したといいます。そして、自分の番になると、iPadの画面上のケリーさんがあらかじめ装置に挟んでおいたクレジットカードを使うようアップルの店員に伝え、購入手続きを取ったのだそうです。

 iPadと二輪車を組み合わせた装置が、職場にいるルーシーさんの代わりに行列に並び、購入手続きを取りました。まるでロボットのような働きをしたのです。ユーザーがモバイル端末iPadの機能を活用し、人工知能の役割を担わせたケースです。

 すでにスマートフォンは急速に普及しています。

こちら →n4101010
総務省資料

 今回発売のiPhone 6sやiPhone 6s PlusにはA9チップが採用されており、処理速度は以前のものに比べ70%もアップしたそうです。さらに、縦横に加え、奥行による操作が可能になっただけではなく、通信速度、カメラ機能も大幅にアップしたといいます。このような高性能のスマートフォンが販売記録を更新しているのです。個人使用だけではなくビジネス使用も大幅に増えていくでしょう。となれば、今後、社会は大きく変化せざるをえません。ICTの高度化により、大きな社会変革が起ころうとしているのです。

■消えてなくなるヒトの仕事
 オックスフォード大学のCarl Benedikt Frey 氏と Michael A. Osborne氏は2013年9月、“THE FUTURE OF EMPLOYMENT : HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?”というタイトルの論文を発表しました。ICTの高度化によって将来、どういう職業が消滅する可能性があるかを調査に基づき割り出したのです。

こちら →
http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

 702の職種を対象に、今後どれだけICTにより自動化されうるかについての確率を算出することによって、ICTの高度化が雇用に与える影響を研究したのです。その結果、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いことが明らかになりました。つまり、現在の半数近くが消滅する可能性の高い職種だというのです。もちろん、この論文は世界の産業界に大きな衝撃を与えました。

 これを受けて総務省は2015年1月23日、「インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会」を立ち上げました。情報通信、ビッグデータ、 人工知能、脳科学、認知心理学等の分野の専門家がメンバーとなり、(1)ICTインテリジェント化のもたらす可能性 (2)具体的分野における可能性 (3)社会へのインパクト (4)ビジネス展開、国際競争における展望 (5)政策課題、等々について検討が行われました。

 総務省の第一回研究会でもオックスフォード大学のこの論文の骨子は検討材料として使われています。

こちら →スクリーンショット 2015-02-11 16.31.29
総務省研究会資料。クリックすると図が拡大されます。

 この研究会は5回行われた後、2015年6月、報告書が作成されました。

こちら →http://www.soumu.go.jp/main_content/000363712.pdf

 報告書では経済や雇用への影響については、ICTの高度化は今後長く継続し、世界経済と雇用に大きく影響するという認識がしめされています。そして、雇用の代替が進む一方で、新規雇用も創出されるとされています。

 現時点ではこの程度のことしかいえないのかもしれませんが、社会の不安を最小限後に抑えるには、新規雇用できる領域を早期に開拓していかなければなりません。それにはどのような仕事内容が自動化されにくいのか、産業としてある程度の市場規模を確保できるのかというようなことを考える必要があるでしょう。

■Wearable Tech Expo2015の開催
 2015年9月7日と8日、東京ファッションタウンビル TFTホールで、Wearable Tech Expo2015が開催されました。プログラムは以下の通りです。

こちら →https://www.wearabletechjapan.com/ja/program/

 興味興味深かったのが、8日に行われた「AIとロボットのある社会、人の存在はこうなる」というタイトルのトークセッションです。登壇者はロボット開発者の林要氏、SNS会社の堀江貴文氏、脳科学者の中野信子氏で、モデレーターは湯川鶴章氏です。人工知能とロボットは人間の代替をどこまで可能にするのか、既存の産業にどのように影響するのか、等々について話し合われました。

 このトークセッションについては以下のようにまとめられていますので、ご紹介しましょう。

こちら →http://japan.cnet.com/sp/wearabletech2015/35070753/?tag=nl

 興味深いのは、ロボットが人間の労働力に置き換わった場合に生き残る産業は何かについての三者の見解です。

 堀江氏は「僕が今投資先として注目しているのは、エンターテイメント産業」といい、林氏も「“感動させることができる”っていう意味でもエンターテイメントなんだと思う。人々の無意識下に働きかけるものは何か?と考えると、五感だったりするわけで。ロボットが浸透した最後に残る人間の仕事が、エンターテイメントとかホスピタリティになるのではないか」といいます。一方、中野氏は「労働力が機械に代替されても、自己実現的な欲求を満たすことが人間には必要だ」といい、「この欲求は機械にはなかなか代替できない。もしかすると、そこを埋めるのがエンターテイメントかもしれない」といいます。

 立場や見識の異なる三者が異口同音に、今後、生き残る産業としてエンターテイメントをあげたのです。もちろん、それぞれニュアンスは異なります。

■インテリジェントICT化を阻むもの
 これまでロボットはルーティン化した作業しかできないとされてきました。ところが、ICTの高度化により、人間の知能、知性に近づいた作業ができるようになっているといわれています。インテリジェントICT化を阻むものの領域がどんどん狭くなってきているのです。その結果、さきほど紹介したように多くの職業が今後、自動化され人手を必要としなくなっていくと予想されています。

 Carl Benedikt Frey氏らは自動化が困難だとする要因として9項目を想定しました。すなわち、知覚と操作にかかわるものとして、①指の器用さ、②手先の器用さ、③狭小空間・変則的な姿勢、創造的知性として、④オリジナリティ、⑤芸術性、社会的知性として、⑥社会洞察力、⑦交渉、⑧説得、⑨他者への気遣い、等々です。これらを指標として702の職種の自動化に対する脆弱性の確率を算出したのです。

 これらの項目はルーティン化、規則性に馴染まず、臨機応変の対応力、共感性、独自性、内省化、意識下の衝動、身体的感受性の高さ、等々が見受けられます。非合理の源泉であり、感動を生み出す要素でもあります。

 こうしてみると、堀江氏ら三人がロボット時代に生き残る産業の一つとしてエンターテイメントをあげたのもなんとなく理解できます。なによりもまず、エンターテイメントはヒトの心の充足に深く作用します。ですから、表現技法としてICTを取り入れることはあっても、その内容をICTによって自動的に生み出すことはありえません。

 もちろん、作品のアイデアをネットから得ることがあるでしょうし、SNSでアイデアを洗練させていくこともあるでしょう。でも、究極的にはヒトの知性や知能、経験や認識の独自性などの複合的な作用によって作品は生み出されます。だからこそ、ヒトの心に深く訴えかけることができ、インテリジェントICT化社会になっても独自の価値を維持し続けられるのだと思います。(2015/9/30 香取淳子)

大学に押し寄せるグローバル化の波

■文科省の動き

2014年4月8日、文科省は平成26年度のスーパーグローバル大学創成支援事業を募集しました。この事業は平成24年度に始まったグローバル人材育成推進事業をフォローアップするものだそうです。

詳細はこちら。http://www.jsps.go.jp/j-gjinzai/follow-up.html

この事業のタイトルには、「経済社会の発展を牽引する グローバル人材の育成」という但し書きが付されています。ですから、これは日本の経済発展に資するための人材育成ということになります。

今回、発表された「スーパーグローバル大学創成支援事業」では、その目的について、以下のように書かれています。

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我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせ重点支援を行うことを目的としています。

******** 詳細はこちら。http://www.jsps.go.jp/j-sgu/index.html

日本の高等教育の「国際競争力」を高めるために、「海外の卓越した大学との連携」や「大学改革」によって国際化を徹底させることを具体的な目的としています。その目的を効果的に実践に移すために、それを実践できる大学に対しては制度改革を組み合わせて重点支援を行うとしているのです。

この支援政策からは、政府がトップレベルの大学、国際化を牽引できる大学等を重視し、制度改革とセットで重点的に支援していこうとしていることがわかります。つまり、エリート層の抽出とその育成に向けての支援を推進しようとしているのです。

一方、この支援政策からは、日本の大学全体の研究レベル、学生の学力レベルが低下し、結果として高等教育における国際競争力が低下しつつあることが示唆されているといえるでしょう。政府が大学の制度改革とセットで、強烈なてこ入れをしなければならないほど、日本の大学教育がひどいものになっているのかもしれません。

■高校生の頭脳流出が始まっている?

5月21日、日経産業新聞で興味深い記事を読みました。東京大学への合格者数が33年連続トップの東京の開成高校で、生徒の志望校に変化がみられるというのです。学力の高い生徒は東大を目指すのが当たり前だったのが、最近、トップ層で海外の有名大学を目指すものが出始めたというのです。開成高校で開催されたカレッジフェアには海外の有名大学10校も参加したといいます。高校生の頭脳流出の兆しが見え始めているのです。日本のエリート校に進学することが必ずしも輝かしい未来を保障してくれるわけではなくなりつつあるからでしょう。時代の流れを敏感に察知したトップレベルの学生が日本の大学で学ぶことに限界を感じ始めているのかもしれません。

もちろん、まだ、ごく一部の動きにすぎません。わずかな動きでしかないとはいえ、若くて多感な時期に海外の著名大学で学ぶという選択肢が浮上してきているのです。それも、日本の大学のレベルを問題視しているからではなく、記事を読むと、どうやら高校生や保護者が日本で学ぶことに意義を見い出しにくくなってきているようなのです。それだけ現実社会がグローバル化していることの反映でもあるのでしょう。

もちろん、海外の有名校で学んだからといって、輝かしい未来が保障されているわけではありません。日本の大学で安穏な学生生活を送るよりは海外でさまざまな経験をして、語学力や問題解決能力、人脈を身につけた方がはるかに価値があるという判断なのでしょう。

■日本人の海外留学は減少

一方で、日本人の海外留学は年々減少しているといわれます。

詳細はこちら。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/02/__icsFiles/afieldfile/2013/02/08/1330698_01.pdf

たしかに数字を見ると、年々、減少しています。ですから、今の若者は内向き志向だといわれたりもするのですが、実際には様々な要因が複合的に作用しているようです。

たとえば、これまでの留学先として選択されることの多かった米国については、授業料の高騰、危険、英語力のなさ、米国イメージの低下、企業が留学経験をあまり評価しない、等々があげられています。つまり、米国留学について情報を収集して検討した結果、メリットがなさそうなので選択しなかったという可能性があるのです。

詳細はこちら。http://matome.naver.jp/odai/2137245671555590701

サターホワイト氏による調査結果で、留学しない理由の上位にあげられていたのが、「少子化」、「日本国内の大学が増えた」、「日本国内の大学の国際化」、「ネットを使えば世界中の情報が手に入る」、「日本は豊かで居心地がいい」「就職活動が前倒しになり、留学すると不利になる」、「企業は留学経験をあまり評価しない」、「家計に余裕がなくなった」等々。

こうしてみると、どうやら若くて多感な時期に海外の大学で学び、多様な経験を積みたいという高校生がいる一方で、留学することのメリット、デメリットを比較対照し、日本で学ぶ学生もいるということなのでしょう。その判断の基準には家計や就職状況といった要素も絡んでいます。

■日本のトップ校の対応は?

東大の浜田純一総長は、「1点を争う入試も大切。それに勝ってきた東大生だからこそ別の力も必要だ」(2014/5/21 日経産業新聞)と述べています。受験競争を勝ち抜いてきた東大生の優秀さを評価しながらも、回答のない世界で困難を乗り切って活躍するタフネスの重要性も指摘しています。東大生にその要素が培われれば、さらにパワーアップできるというわけです。そのために東大では「体験活動プログラム」を2012年に開始し、24の海外活動に2013年度は160人の学生が参加したといいます。

4月からは「東京大学グローバルリーダー養成プログラム(GLP)」が始まったようです。これは東大生の中でもとくに英語力に秀でた人材を選び、リーダーを養成しようというものです。1学年3000人の中から英語成績上位者10%を対象に英語の集中講義をし、3年生に進む段階で、語学力だけではなく、リーダーシップや将来ビジョンなども見極め、さらに100人に絞りこむといいます。きわめて実践的な内容のプログラムになっています。

日本のトップ校がこれほどまでに実践的な教育プログラムを組み始めたのです。いつまでも象牙の塔として社会と隔絶して研究を行うだけでは存在しえなくなってきたのでしょう。グローバル人材育成のための実践教育はどうあるべきかを模索し始めたように見えます。

■海外で見かけた日本人学生

10年から15年ほど前に海外で何度か、日本人学生を見かけたことがありました。ロシア、オーストラリアなどの大学で、東アジア系の顔をしている学生を見かけることがありましたが、遠くからでも日本人か、そうでないかがすぐにわかりました。近づいてみると、日本語を話しているので、「やっぱり」と思ったものです。

中国人や韓国人の学生は、日本人と同じような顔、似たような体型をしているのですが、どこか違うのです。当時、海外に出る中国人や韓国人はまだそれほど多くなかったせいかもしれませんが、彼らは堂々していたのです。それに引き替え、日本人の方は姿勢が悪く、だいたいが連れ立って行動しているので、すぐわかってしまいます。

せっかく海外の大学に来たというのに、日本人同士で固まって行動していることが多いように見えました。海外赴任の大人もそうだといわれていますから、学生だけを責めることはできないのですが、閉鎖的だという点で彼らが目立っていたことを思い出します。

いま思えば、当時の日本はすでに大学の大衆化の時代を迎えていて留学はエリートのものではなくなっていたからかもしれません。せっかく留学しているのに、気概とかミッションというようなものが感じられず、仲間と付和雷同的に行動しているだけのように見えたのは彼らがエリートではなかったからかもしれません。

一方、当時、中国人や韓国人の留学生はエリートでした。その気概があり、それなりのミッションを抱いていたからこそ、毅然とした態度だったのではないかといま、思います。

■変化してきた大学の社会的役割

文科省はグローバル人材育成のための支援事業を強化しようとしています。それは、グローバル化の波が大学にまで押し寄せているからなのでしょうし、なによりも、知識経済の時代になって、大学の知的活力が経済の源泉であり、推進力にもなることがはっきりしてきたからでしょう。大学こそが国際競争力をもち、新たな発見、メカニズムの解明を推進できる能力を発揮しなければ、社会が沈潜してしまいかねなくなっているのです。それほど大学の果たす役割が大きなものになってきています。

大学はもはや若者のレジャーランドではなくなってるのです。知的交流の場であり、知的実践の場であり、さらには知的競争の場でもなければならなくなっています。もちろん、知的蓄積の場でもあります。とはいえ、すべての大学がそのような役割を担うことは困難です。

■大学に押し寄せるグローバル化の波

大学全入の時代になって以来、学力もない学生を大学生として受け入れている大学は多数あります。そのような学生を教育し、一人前の社会人として就職できるようにしていくのも大学の役割です。基礎学力、コミュニケーション能力、英語力、ICT技能を大学教育の中で確実に身につけさせてから、学生を社会に送り出していくのです。実はこれこそ、大学の重要な役割なのかもしれません。

このように考えると、高等教育機関として大学をひとまとめにしてしまうのではなく、いくつかに分類する必要があるのではないかという気がします。一つはトップ校として世界的競争力を持つ大学、もう一つは社会に出て仕事をするのに必要な基礎学力、等々を学生に徹底的に身につけさせる大学、そして、クリエイティブな領域、あるいはスポーツなどで能力を培い、世界的競争力を持つ大学、等々です。エリート教育と大衆教育、そして、クリエイティブな能力を涵養し、マネジメントし、世界に流通させる力を持つ大学、等々です。

グローバル化の波が中間層をなくし、二極化を進めているといわれています。大学に押し寄せたグローバル化の波もまた、どこにでもあるようなメニューを並べた4年制大学の衰退を生み出していくでしょう。

大学が社会に存続していこうとするなら、①科学技術、社会文化など専門に特化し、それで国際競争力を持つような大学、あるいは、ごく少数の、クリエイティブな領域やスポーツなどで能力を発揮し、世界的競争力を持つような大学、②社会に必要なスキルを身につけさせる義務教育を高度化したような大学、この二種類に再編されていくのではないかという気がします。

つまり、ひたひたと押し寄せるグローバル化の波によって、大学もまた、二極化の方向で再編を迫られていくことになるのではないでしょうか。(2014/5/21 香取淳子)

 

KADOKAWAとドワンゴの統合、日本コンテンツのプラットフォームになりうるか?

■コンテンツ企業とネット配信企業の統合

2014年5月14日、KADOKAWA とドワンゴが記者会見を開催し、今年10月に経営統合すると正式に発表しました。コンテンツ企業とネット配信企業が新たな持ち株会社「KADOKAWA/DOWANGO」を10月1日に設立し、両社はその傘下に入るというのです。記者会見の席上、KADOKAWAの佐藤相談役は、「両社の強みを持ち寄り、世界に類を見ないコンテンツのプラットフォーマーにしていく」と語りました(2014/5/15 日経新聞)。

一方、DOWANGOの川上会長は「(ソフトや顧客を)囲い込むのではなく、基本的にオープンな統合を目指す」と述べています(2014/5/15 毎日新聞)。統合することで両社ともパワーアップできると勢い込んでいる様子が伝わってきますが、はたしてどうなのでしょうか。

詳細はこちら。http://info.dwango.co.jp/pdf/news/service/2014/140514.pdf

■海外での日本の存在感のなさ

海外に行ってホテルでテレビを見るたびに思っていたことがあります。何十チャンネルもの放送局から数多くの番組が放送されているのに、日本の番組はといえば、NHKぐらいです。それもたいていの場合、テンポが遅く、画面が暗く、他のチャンネルに比べて見劣りがしました。なんとか見る気になったのはニュースですが、これもテンポが遅く、キャスターが自分の意見をいい過ぎなので、思わずチャンネルを変えてしまうことが多いのです。日本で見ているときはそれほど気にならなかったのですが、海外で見ていると、キャスターのコメントのつけ過ぎ、キャスター同士の卑近な会話が気になってしまうのです。無意識のうちに他の国のニュース報道のスタイルと比較して見ているからでしょう。

一方、タイ、ベトナム、中国などアジアの国々に行ってホテルのテレビを見ると、必ず韓国ドラマのチャンネルがあります。歴史ドラマ、都会風の恋愛ドラマがテンポよく、カラフルに表現されています。おもわずチャンネルを止めて見てしまいます。そして、ホテルを一歩出ると、今度は韓国ドラマで見た女優や男優があでやかに笑って商品を宣伝しているポスターや広告板をあちこちで見かけるといった具合です。ホテルでテレビを見ていると、あまりにも日本の存在感がなく、街に出ると、宣伝力のある日本人(女優、男優、タレント、歌手)の姿をポスターや広告板などで見かけることがないのでがっかりしてしまったことを思い出します。

■多言語対応

ドワンゴはニコニコ動画を英語や中国語に翻訳することで海外対応を急いでいるといいます。ようやくスタートしたのかと思いました。ネットで動画を配信すれば、世界に流通できますが、コンテンツが流通するだけでは意味がありません。そのコンテンツが理解できるよう多くの人々が理解できる言語に翻訳する必要があるのです。とりあえず、英語と中国語に対応しようとしているのは世界でこの二か国語を使用する人口が圧倒的に多いからでしょう。

NHKの国際放送は英語に対応しているだけです。いまや世界が英語と現地語を基本に、多言語対応をしようとしているというのに、日本のテレビは英語に対応しているだけなのです。ラジオの国際放送は18か国語に対応しているといいますが、基幹メディアであるテレビが多言語対応をしていかなければならないのではないでしょうか。すくなくとも英語の字幕を付与すべきではないかと思います。

■ネットとリアルが融合して生み出す、新たな流れ

ネットとリアルが融合して生み出す新しい流れとはどういうものなのでしょうか。日経新聞の説明によると、以下のようになります。

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たとえば、KADOKAWAのアニメ制作者とドワンゴの技術者が共同で映像作品をつくることで、新しいサービスが生まれる可能性があり。従来は既存の作品を動画サイトで流すだけだったが、視聴者の反応でストーリーが変化したり、登場人物と会話できたりする作品が考えられる。

ドワンゴの動画サービスに投稿された作品をもとに、KADOKAWAが出版物や音楽作品を販売することも検討する。「ニコニコ動画」では一般の利用者が自作の楽曲やキャラクターを発表している。こうした作品をKADOKAWAの編集者が商業製品に加工する考えだ。アニメや漫画などの「クールジャパン」のコンテンツを世界に発信する基盤づくりも狙う。

*******    日経新聞(2014/5/15)より

意欲的な取り組みが考えられているようです。ただ、せっかく新しい形式のコンテンツを考えたとしてもネットで配信する限り、すぐに複製されてしまう可能性が考えられます。あるいは、仕組みは整備されたとしても、コンテンツに魅力がなく、この種の取り組み自体が消滅してしまう可能性もあります。グローバルな競争の中でどのように活路を開いていくか、注意深く戦略を練る必要があるのではないでしょうか。

■ネット時代の競争力

ネットでコンテンツを配信するサービスではすでに、アマゾンが成功を収めています。また、豊富なコンテンツを抱えるディズニーはネット配信のアップルと関係があります。仕組みの面だけ見ても、強力な競合相手がすでにいくつも存在しているのです。実際、米AOLとタイムワーナーの統合は失敗しました。今回の旗揚げは日本にとって非常に意義深いのですが、どうすれば成功するかというモデルもないなか、進んでいかなければなりません。

ネット時代の競争力としては、豊富なコンテンツ、ネット配信の安全で精緻な仕組み、そして、地球規模の利用者に理解してもらうための翻訳が前提条件となるでしょう。その上で、どれだけ魅力的なコンテンツを安価でユーザーフレンドリーに配信できるかということが競争力の要点となるのではないでしょうか。

KADOKAWAの角川社長は「日本のプラットフォームができる」とアピールしているようです。その意気込みは素晴らしいと思いますが、ネット時代の競争力として必要な要件を踏まえ、取り組む必要があるでしょう。KADOKAWAとDWANGOの統合によって、ようやく日本はネット娯楽の発信者としてのスタートラインに立てたという気がします。(2014/5/15 香取淳子)

 

アリババの選択:パソコンからスマホ時代到来の象徴か?

■中国アリババ、米株式市場への上場を申請

中国アリババが米株式市場への上場を申請しました。5月6日のことです。よほどのビッグニュースだったのでしょう。海外メディアが一斉に取り上げていました。CNN等の報道によると、アリババの上場は米史上最大級の新規株式公開(IPO)になると専門家からは見られているようです。アリババの実際の株式公開は今夏以降だとされていますが、2012年にIPOで資金調達したフェイスブックをしのぐとさえいわれています。

中国のネット企業としては4月にもウェイボがナスダックに上場して2億8600万ドルの資金を調達したばかりです。相次いで中国ネット企業が米株式市場に上場していますが、なにか理由があるのでしょうか。最近、中国経済失速のニュースが絶えません。しかも各地で不穏な動きもあります。信州大学教授の真壁昭夫氏は、中国や香港など中国市場で株式公開を行うと、中国の規制によって現経営陣の支配力が低下することを懸念したからだと推察しています。

■ウォール街の興奮

ウォールストリートジャーナルは、「アリババの新規株式公開(IPO)によって米国はテクノロジー企業の上場先としての支配的な地位を占めるだろう」とアナリストが非公式に語ったことを伝えています。(THE WALL STREET JOURNAL, 2014/3/25) アリババの業績が堅調で、ビジネスモデルも確立した大企業だからです。この記事を書いたFrancesco Guerreraは、アリババやウェイボが米株式市場に上場を申請したことの理由を以下のように分析しています。

1.専門的投資亜やアナリストに加え、競合企業の大半がいる米市場には魅力がある、2.米国の技術は魅力的で、新規上場によって費やしたコスト以上の結果が得られる、等々です。中国のネット企業にとって米市場はその種の魅力があるのでしょうし、米市場にとって中国ネット企業の参入は規模の面で、興奮せざるを得ないほどの魅力があるのでしょう。

ちなみにロイターは以下のように、ネット関連企業の対比をグラフにしています。

ネット企業比較

 

出所:2014/5/5、ロイター作成

上記のグラフを見ると、アリババは売上高成長率、株価売上高倍率できわめて高い比率を示しています。このグラフを見る限り、アリババは今後ますます大きく成長していくことが予測されます。

■米ヤフーとの決別か?

日経産業新聞(2014/5/8付)は、この件について興味深い記事を載せています。上海の菅原透記者によるもので、彼は「待望の米上場に踏み切った裏には、発展期を支えた大株主の米ヤフーとの関係を事実上、断ち切る狙いがある」と分析しているのです。実際、アリババ関係者は「過去との決別」と語っているようです。アリババは2005年にヤフーから10億ドルの出資を得て、大きく成長しました。ところが、2011年ごろから両者の関係がまずくなったといいます。

アリババの創業者のジャック・マー氏、ヤフーの共同総合者のジェリー・ヤン氏、ソフトバンクの孫正義氏は創業以来、親交深く、ともに支えあいながら成長してきた起業家たちです。この三者はお互いに支えあってきましたが、ヤン氏が2009年にヤフーを退任した時点で、アリババと米ヤフーとの関係は終わっていたと関係者は語っているようです。アリババの米上場の報道に際し、孫正義氏が、「アリババは戦略的パートナー」といい「株式の売却は考えない」と語った(ロイター、2014/5/7)のも実はそのあたりの事情を配慮したからなのでしょう。

菅原記者は、アリババが米ヤフーと決別を狙っている理由として、アリババグループが2004年に設立したオンライン決済会社のアリペイの存在を挙げています。アリペイがマー氏が所有する中国企業に売却され、マー氏の所有になっていたことを米ヤフーが怒りました。アリババのマー氏はヤフーに間接的に収益の一部が渡るようにして折り合いをつけましたが、ヤン氏の退任を機に決別を企図したというのです。

■ネット時代の変化の兆しか?

米ヤフーは業績悪化に苦しんできました。たとえば、今年1月28日に発表された決算を見ると、4四半期連続の減収でした。オンラインディスプレイ広告と検索広告の料金が下がったからだといいます(ロイター、2014/1/28)。ところが、4月16日発表された決算をみると、アリババの好業績の影響を受けて、収益を向上させているようです。

詳細はこちら。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N43A0P6KLVS101.html

とはいえ、中核事業は依然として停滞しているようです。

詳細はこちら。http://japan.cnet.com/news/business/35046618/

検索大手として一時代を築いたヤフーに変化の兆しが見られるようになりました。ネットへの入り口がパソコンではなく、スマホに代表されるモバイル端末に移りつつあるからでしょう。ですから、アリババにとって、ソフトバンクはこれからも提携価値がありますが、検索だけの米ヤフーはその役割を終えつつあるとみなしたのかもしれません。

一方、アリババは4月28日、中国の動画配信サイト最大手の優酷土豆に出資すると発表しました。これでアリババの出資比率は16.5%になります(日経新聞、2014/4/29)。これによってアリババは自社のネット通販利用者の囲い込みを行い、娯楽事業を強化することになります。

アリババの最近の動きを見ると、ネットの主戦場がモバイル端末であり、ネット通販であり、動画サイトを通した娯楽だということになります。今後、アリババの動きも見逃すことができなくなりそうです。(2014/5/15 香取淳子)

 

再び、メディア・プロパガンダの時代到来か?

■外務省の内部文書

2014年5月4日、産経新聞は外務省の内部文書に基づき、中韓が「官民一体」で重層的に情報戦略を行っていると報じています。中国は国際機関や主要メディアを積極的に活用し、韓国は地方から展開するといった特徴がみられると分析しているのです。中国にしても韓国にしても政権が交代してからとくに、歴史問題を盾に日本の評価を低下させるような情報戦略が激しくなっています。

外務省の内部文書では、「中韓は官民一体での一致団結した活動を完璧に行っている」としているのに対し、「日本の場合、官民一体には程遠い」という現状認識を示しています。ですから、この記事が第1面で取り上げられたことの背景には、これまでのような日本の対応でいいのかどうか、各方面から疑問が持ち上がってきているからではないかと考えられます。

安倍政権は、26年度の内閣府の広報関連予算や外務省の領土保全対策費を増額しました。日本の対外情報戦略をこのまま放置するのではなく、なんらかの対策を講じようとする姿勢を打ち出しているのです。ただ、予算を増額しただけで、この問題に対応できるのかどうか、疑問です。外務省の内部文書が指摘しているように、中国はメディア戦略、韓国はヒト戦略によって、内外ともに強烈な日本攻撃を展開しているからです。

韓国はヒト戦略によって、慰安婦像を各地で建立させています。米豪欧に移住した韓国人が各地で積極的なロビー活動を展開し、地方政治を動かしているからです。また、中国は内外のメディア戦略によって反日感情あるいは歴史認識の修正を迫ろうとしています。その結果、中国に進出した日本企業が大きな被害を受けたのはまだ記憶に新しいところです。

■中国のメディア戦略

外務省内部文書は、中国が「国際機関や主要メディアを積極的に活用」していると指摘しているといいます。国連総会や首脳会談といった国際会議のを活用、海外メディアやシンクタンクを通じてプロパガンダを展開、といった具合です。さらに、欧米などには、「政府よりも学者、有識者、記者による発信」を積極的に利用した結果、「中国の発信に刺激を受けた報道がある」といいます。そして、国営中国中央テレビ(CCTV)の多言語チャンネルや世界120カ国で1086校に及ぶ中国語・文化教育拠点「孔子学院」が「独自の主張を重層的に発信している」ともいいます。いってみれば、メディアと言語・文化教育によって自国の主張を広めようとしているのです。

CCTV本社ビル

上記はCCTV新本社ビルです。

■今後、日本が取るべき戦略は?

この記事を執筆した是永桂一氏は、外務省幹部の意見として、「政府が前面に出る情報発信は先進民主国として世界の共感が得られない。相手の土俵に乗らないことだ」という見解を紹介しています。たしかに、官民一体で情報戦略を推進する韓国、政府主導の堅固な情報戦略を内外で展開する中国を見ていると、日本が同じ土俵で勝負しても勝ち目はないと思います。

逆に、日本が誠実な態度を固持し続け、それを見える形で内外に情報発信し続ければ、やがては日本に対する内外からの信頼や尊敬が醸成されるようになるでしょう。そうなると、中国や韓国の中から、政府の態度はどうであれ、過去は過去、現在は現在と割り切って考える人々が出てくるに違いありません。つまり、中韓が展開する反日的な情報戦略に惑わされず、日本が誠実に対応をし続けていれば、中韓の人々はやがて自分の政府を疑いはじめるようになるのではないでしょうか。

実際、日本を激しく攻撃していた韓国の大統領はいま、公共交通機関の相次ぐ事故で信頼は失墜し、国民から謝罪要求までされています。ネット世論を見ていると、政府の態度とは別に、中国、韓国とも反日的な態度のヒトばかりではないことがよくわかります。ですから、日本は相手国を直接貶めるような情報戦略はすべきではないと思います。

■適切な対外広報戦略を

中国や韓国の国家主導型の情報戦略は強烈で、即効性に富んでいます。ですから、日本の対外広報戦略がお話にならないほど下手に見えてしまいますし、日本はこれまで必要な広報さえしてこなかったのではないかと思えてしまいます。ですから、今後、対外広報戦略を改善し、充実させていくことは重要です。

国が豊かになればなったで、諸外国からの嫉妬を回避する上で対外情報戦略は必要ですし、超高齢社会になればなったで、今度はそれでも日本に対する関心を失ってもらわないための対外情報戦略は必要です。その点で中国のメディア戦略は秀逸だと思います。学べる点はたくさんあると思います。

たとえば、CCTVが展開している多言語チャンネル。日本では国際対応といえば、英語放送しか思い浮かべませんが、中国は英語、スペイン語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、アラビア語、等々、使用人口の高い言語にはすべて対応し、それぞれの言語で中国のニュース、文化、等々の情報を毎日発信しています。

また、孔子学院を各地の大学に併設し、語学・文化の浸透を図っていますが、これは、フランスが日仏学院、イギリスがブリティッシュ・カウンシル、アメリカがアメリカンセンターを設置したのと同様、対外文化戦略の一つなのです。経済的に豊かであったとき、日本はそれをしませんでした。そう考えると、日本がこれまで対外情報戦略をしてこなかったせいで、不要なトラブルを引き起こしてきた可能性が高かったのではないかと思えてなりません。

安倍政権は成長戦略の一つとして、アニメや日本食を取り上げ、クールジャパン戦略を展開しようとしていますが、もっと根幹的なところで日本文化・日本語を世界に広めるという情報戦略があってもいいのではないかと思います。

中韓の情報戦略を知るにつけ、日本の情報戦略の下手さ加減、あるいは、適切な情報戦略をしてこなかったことのツケの大きさが思い知らされます。再び訪れようとしているメディア・プロパガンダの時代に日本はすでに乗り遅れてしまっているのではないか・・・。産経新聞の記事を読み終えたいま、そのことの恐さをひしひしと感じています。(2014/5/4/ 香取淳子)

 

MS社、IE修正プログラムの配布を開始。

IE修正プログラムの配布

2014年5月2日付日経新聞の電子版によると、米マイクロソフト社は5月1日、IEの欠陥を修正するプログラムの配布を開始したと報じています。マイクロソフト社からも同様のメールが私のところに来ていました。

■電子版と紙版

同日付の日経新聞には「マイクロソフト「IE」に欠陥」と題した記事が掲載されているだけです。IEとは何かに始まって、攻撃を受けるとどうなるのか、対策はどうなのか、といった内容です。この問題をわかりやすく整理したもので新しい情報としては、専門家のコメント程度です。改めて、電子版との違いを感じさせられました。

紙版のメリットはすでに報道されたニュース項目について要点をまとめたり、わかりやすく整理したり、これまでの経緯を説明したりするのに向いています。日経新聞は以下のように図示し、利用者にとってこの問題がどのような意味を持つのか、どうすればいいのかをわかりやすく整理しています。

IEユーザーはどうすればいいのか

資料:日経新聞(2014/5/2朝刊)

この新聞記事で興味深かったのは、セキュリティ大手の米FireEye日本法人の最高技術責任者の三輪信雄氏が「米国土安全保障省が攻撃の恐れがあると発表したのは異例。攻撃者グループは攻撃の痕跡を巧みに消し、非常に洗練されているとみている」と述べていることです。

たしかに米国土安全保障省がこの警告を発したとき、私もおかしいと思いました。対策として、IEではなく他の閲覧ソフトを使用することが推奨されていたからです。結果として、グーグルやファイア・フォックスなどを利することになりますから、何か裏があるのではと勘繰ったほどでした。

実際はマイクロソフトが26日に未修整の欠陥がみつかったと発表し、その後、米政府が警告を発していたようです。危険性が高いと政府が判断したからでしょう。ですから、三輪氏が指摘するように、今回の攻撃は、「攻撃の痕跡を巧みに消す」ほど洗練されている可能性があります。

■修正プログラム

マイクロソフト社からのメールを見ると、影響を受けるソフトウエアとして、システムやサービスパックなど多数が列記されていました。また、脆弱性の影響としては、リモートでコードが実行されるというものでした。ですから、放置すれば、遠隔からの操作を招く恐れがあるのです。つまり、外部からの操作で個人や企業のパソコンが操作されたり、パスワードなどの情報が盗まれたりする可能性があるのです。

修正プログラムの配布が開始されていますが、私は自分ではこのプログラムの修正をしないでしょう。仕組みがよくわからないので、不安なのです。ですから、自動的に修正されるのを待つか、そのまま他の検索エンジンを使うようになると思います。

興味深いのは、当初、修正プログラムの配布は5月14日と報じられていたのに、早々と5月1日には米国で修正プログラムが配布されはじめたことです。できるだけ他社の閲覧ソフトを使用する期間を短くしようとしたのでしょう。このことからは、マイクロソフト社が利用者離れを恐れていることがわかります。

IEは日本では長年、ネット閲覧ソフトとして親しまれています。往時ほどの勢いはないものの、現在でも53%のシェアを占めており、いまだにトップです。とはいえ、今回の件でIEを使用する利用者の減少は避けられないでしょう。

修正プログラムができたとはいいながら、IEを使用するには不安が残る、あるいは、別の閲覧ソフトに慣れてしまった、といったような事態は十分に考えられます。ですから、修正プログラムが配布されたからといって、これまでの利用者が再びIEを使うかどうかはわからないのです。

■攻撃者優位のサイバー空間

時事通信解説委員の鈴木美勝氏は、『外交』(Vol.24)誌上で、「サイバー戦争で狙われやすいのは、脆弱な生活インフラ、経済インフラだ。電気、水道、ガスの統御システム、道路、鉄道、航空、海上の交通統御システム、金融、医療等々は、通常考えられている以上に脆弱な標的だ」と書いています。

セキュリティに関する最近の事象はまさに鈴木氏のこの指摘に当てはまります。ネットでつながり、便利で快適になった反面、このような不安に常に脅かされていなければならないのが現代の生活なのでしょう。

ネット空間から抜け出すことができない私たちは、見えない敵に怯え、対処し、見えない敵からの防御を想定して生きていかなければならなくなりました。便利さ、気軽さ、効率、快適、等々と引き換えに、私たちはこの種の不安を抱え込まざるをえなくなったのです。(2014/5/2 香取淳子)

 

ビル管理システムにサイバー攻撃の可能性?

■ビル管理システムへの不審な通信

読売新聞(2014/5/1朝刊)は、「無防備ビルが狙われる」という見出しの記事を掲載しています。編集委員の若江雅子氏によって書かれた記事で、リード部分は以下の通りです。

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ビル管理システムの「穴」を探すようなインターネット上の不審な通信が3月以降、警視庁で検知されている。何者かがサイバー攻撃の「下見」をしている可能性があるという。ビルへの攻撃は社会を混乱に陥れるテロにもなりうるが、業界の対応は遅れている。

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この記事に限らず、最近、ネットのセキュリティに関するニュースが相次いでいますが、いったい、何があったのでしょうか。今回はそのことを考えていきたいと思います。

そもそも警視庁では不正アクセスの傾向を調べるため、全国の警察施設のインターネット接続点にセンサーを設置しています。ところが、そのセンサーが3月中旬から4月にかけて不審な通信をキャッチしたというのです。ビル管理で使われているシステムにターゲットを絞って通信を試みるような動きだったのだそうです。

そのため、警視庁は4月4日、ホームページ上で注意喚起を行っています。

詳細はこちら。https://www.npa.go.jp/cyberpolice/detect/pdf/20140404.pdf

警視庁の定点観測システムでは、宛先ポート 47808/UDP に対するアクセスを検知したといいます。しかも、この47808/UDP は、ビル管理システムで使用される通信プロトコル用標準規格「BACnet」で定義されているポートなのだそうです。ですから、このアクセスは、BACnet に基づいて
構成されたシステム(BACnet システム)を探索している可能性があるというのです。

さらに、この文書によりますと、適切な対策を施さずにビル管理システムをインターネットに接続していると、攻撃者に進入され、システムを任意に操作される恐れがあるといいます。大変な事態を引き起こしかねないのです。ですから、警視庁は4月4日、ビルの管理者に注意喚起を促し、以下のような対策を実施することを推奨したのです。

(1) 使用製品の最新セキュリティ情報の確認

(2) インターネットへの不要な公開の停止

(3) ネットワークセキュリティの確認

■マンションでの経験

昨年12月、火の気もないのに突然、マンションの火災報知器が鳴りだし、止めようとしても止まらず鳴り続けたので、困ったことがあります。報知器が誤作動を起こしたのですが、これまでに一度もこのような経験をしたことがなく、茫然としてしまいました。セキュリティ会社から警備員が飛んできましたが、その警備員もなすすべもなく、結局は強制的に電源を落とすことによって、ようやく警報音を消し止めることができました。その後、火災報知器のメーカーの技術者が来て検査しましたが、機器に異常は認められず、原因はわからないままです。

このような経験をして初めて、私の住んでいるマンションがセキュリティ会社によって遠隔管理されていることを知りました。火災報知器が鳴ると自動的にセキュリティ会社に連絡が行くようになっており、対応するというシステムです。

■多摩地区で起こった停電

そういえば、4月27日夜8時ごろ、東京都八王子市、多摩市、町田市、日野市で停電が発生しました。約31万軒が停電の被害に遭いました。交差点では信号が消え、電車は停まりました。発電所でトラブルが発生した可能性があるといい、東京電力が原因を調べているといいますが、発電所へのサイバー攻撃だった可能性はないのでしょうか。とても気になります。

事件の詳細はこちら。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140427/dst14042721210012-n1.htm

■経産省がCSSCの演習を実施

経済産業省は2014年1月17日、電力・ガス・ビル・化学分野のサイバーセキュリティ演習を順次実施することを発表しました。CSSCとはControl System Security Centerの略で、「技術研究組合制御システムセキュリティセンター」のことを指しています。

以上の写真はCSSC本部

経産省は1月21から計5回、CSSC本部で演習を実施すると発表しました。なぜ、このような演習をするのかといえば、近年、重要なインフラや工場プラントの制御システムを狙ったサイバー攻撃が、世界的に多数出現しているからでした。

CSSC本部

CSSCについて詳細はこちら。http://www.rbbtoday.com/article/2014/01/17/115937.html

■ビル管理システム等が危険に晒される可能性

読売新聞編集委員の若江雅子氏は5月1日の紙面で、「ビル、電気、ガス、工場などの制御システムはかつては外部のネットワークから隔離して運営されることが多く、サイバー攻撃は想定されてこなかった。その後、保守や生産管理を効率的に行うために外部とつなぐケースは増えたが、関係者の意識は変化になかなか追いつかないのが現状だ」と書いています。

インフラの保守、管理業務はこれまでネットワークにつながずに行われてきました。ところが、効率的に業務を遂行するため、近年はネットワークにつなぐケースが増えているといいます。そうすると管理システムそのものがサイバー攻撃される可能性が出てくるのです。ところが、若江氏によると、実際に業務に関わる人々にはその危険性に対する認識が低いようなのです。

経産省が2014年初から数回にわたって実施したCSSCの演習はまさに、そのような実態への警告の意味があったのかもしれません。

若江編集委員はさらに記事の中で、「そもそもビル管理システムを導入しているビルが国内にどのぐらいあり、どのような管理がされているのか、国内のいずれの機関でも把握はされていない」と書いています。経産省が先導して作ったCSSCもその現状を把握できていないようです。

米国のセキュリティ会社が日本のビルシステムへの接続を試みたところ、わずか数時間の作業で40件以上ものビルシステムに接続できたといいます。その最高責任者は、「接続できれば、照明でも温度でも何でも好きなように操れる。いつ攻撃者に狙われてもおかしくない」と指摘したといいます。日本のビル管理システムがあまりにも無防備であることが明らかになったのです。

■生活インフラのセキュリテイは?

このような事態に際し、CSSCは早々にビル管理業界にも保守点検などで外部に接続する際のルール作りを求めるといっているそうです。ルール作りも当然ですが、セキュリティ部門の強化を図り、さまざまな観点からサイバー攻撃からの防御を図る必要があるのではないかと私は思います。とくに生活インフラに関しては最新のセキュリティを施してもらいたいと思います。

たとえば、日本各地でスマートシティの実現に向けた取り組みが行われています。オバマ大統領がグリーン・ニューディル政策を打ち上げて以来、日本でも積極的にプロジェクトが推進されはじめています。資源を有効活用し、環境に配慮した街づくりの理念は素晴らしいと思います。次世代に向けたプロジェクトとして大変有意義なのですが、これがITによるコントロール下に置かれているのです。

スマートシティの概念図は以下のようなものです。

スマートシティ概念図

出所:http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/service/newsletter/i_02_71_1.html

図に示されたように、スマートシティの概念は、電力や交通などをはじめ、都市の生活インフラの最適化をITで制御するというものです。この考え自体は環境に優しい画期的なものですが、生活の中にITによる制御システムが入り込むことになります。ですから、いつ外部からの侵略を受け、インフラが誤作動を起こさないとも限りません。その安全性を確実なものにしていくための対策を講じる必要があります。

ITを活用し、さまざまな生活サービスが事業として展開されています。その最たるものが、生活インフラの効率化に関わるものだといえます。精巧に組み立てられたシステムはいざ誤作動を起こすと、大変なことになります。仕組みがわからず、対処の仕方も知らされていないので、そこで生活しているヒトは何もできないのです。

そのような事態が外部の何者かに故意に引き起こされたのものだとしたら・・・・?私のささやかな経験からしても、ビル管理システムへのサイバー攻撃は、ヒトを限りなく不安に陥れることは確かだと思います。ですから、外部の何者かが日本社会を攪乱させようとする場合、もっとも低コストで効果的な方法がビル管理システムへの攻撃だということがわかります。早急に全国規模で安全対策を講じる必要があります。(2014/5/1 香取淳子)

 

スマートシニアが消費市場を変える?

■スマートシニアが急増している?

4月30日夕刊の日経新聞で、スマートシニアが急増しているという興味深い記事を読みました。シニア層のインターネット利用率が急増しているというのです。

東北大学特任教授の村田裕之氏はネット時代の高齢者像として15年前からスマートシニアという概念を提唱していたそうです。スマートシニアとは、ネットを通して多様な情報に接し、スマートな(賢い)シニアのことを指すのだそうですが、それが近年、急増しているというのです。

■総務省の通信利用動向調査

総務省の通信利用動向調査によると、シニア層のネット利用率は2001年から2012年までの11年間で、60~64歳が19.2%から71.8%、65~69歳が12.3%から62.7%、70~79歳が5.8%から48.7%に急上昇しています。とくに増加率の大きいのが60歳代で、70歳代になるとやや落ちています。

シニアのネット利用率

 

出所:日経新聞(2014/4/30夕刊)

さらに、いまネットを活用している60歳以下の世代がこれからどんどん高齢者になっていきますから、この傾向は今後ますます強まるでしょう。つまり、これからの高齢者はネットを自在に活用するスマートシニアが中心になっていくことを想定しておく必要があるのです。

■消費行動の変化

村田氏は、「私の研究の基づく予測では、2025年には83歳で要介護者とそうでない人が半々で、ネット利用率は45%に達する。10年後には後期高齢者でも日常的にネットを利用することが当たり前になると思われる」とし、「今後、高齢者の消費パワーへの注目が高まるにつれ、流通業にとってスマートシニアへの対応は重要性を増すだろう」と結んでいます。

若い世代と同様、高齢者も価格に敏感になり、ネットで商品を比較しながら購買行動を取るようになるでしょう。ネット通販を利用することも増えるに違いありません。

少子高齢化の進行にともない、今後、高齢者の単身世帯の増加、限界集落の増加が必至と予測されています。日常の買い物にも不自由するようになれば、高齢者もネット通販での購入が不可避になるでしょう。

■テレビ通販からネット通販へ

14年ほど前に私は吉田秀雄記念事業財団の助成を得て、高齢者の消費行動について調査をしたことがありました。調査の結果、高齢者はテレビで視聴したことを信じやすく、テレビを通してモノを購入することが多いことが判明しました。興味深かったのは、通常のTVCMは高齢者にはあまり効果がみられなかったことでした。15秒や30秒では短かすぎてよく認識できていなかったのでしょう。高齢者が好んでいたのは、商品を手に取って説明する、効能を詳しく説明する、タレントや権威ある人が勧める、といったような方法で商品情報を提供するスタイルのCMでした。イメージ情報ではなくしっかりと商品情報を伝える形式のCMが高齢者に訴求力を持っていました。

■スマートシニアの消費行動

調査の結果、わかったことは、高齢者は全般に商品について実用的な情報を欲していたということです。このような志向性を考えると、高齢者がネットを利用できるようになると、すぐに消費行動にネットを活かすようになるでしょう。ネットでは詳細な商品情報を入手できますし、価格を比較し、商品の評判を知ることもできます。ほとんどの高齢者が限られた収入しかない年金生活者です。合理的な消費行動によって節約も可能になることがわかれば、ネットを利用した消費行動は今後ますます増大するでしょう。

■スマートシニアが消費市場を変える?

今後、ボリュームゾーンになっていくのが、高齢者層です。スマートシニアといわれる高齢者が増えれば、市場も大きく様変わりするに違いありません。メーカーにとっては商品の質的向上、合理的な価格設定が必至となりそうです。(2014/5/1 香取淳子)